3 「まとめて処理すれば安くなる」という間違い

3 「まとめて処理すれば安くなる」という間違い
【補足説明】
まとめ処理をすると、モノの流れが停滞する。本当のコストの増大と在庫
の増加を招く。
【対策のポイント】
小ロット化とリードタイム短縮がモノの流れを加速して、本当のコストと
在庫を減らし、短納期による売上拡大をもたらす。
大量仕入、大量生産、大量運搬すると原価は安くなり、会計上の利益は増えます。大量に仕入れ
ると仕入単価が下がるため材料費は減少します。大量ロット生産すると加工費が下がり、大量運搬
では運送経費が減少します。しかし、それは会社を窮地に追い込むことになります。大量まとめ処
理は過剰な原材料、仕掛品、製品の在庫を抱え、資金を長期間眠らせます。1980 年代の前半に、米
国のGMは日本車の競争力は安い人件費にあると考え、600 億ドルの自動化投資を実施して、作業
者をロボットに置き換えたが成果は上がらなかった。競争力の源泉は、もはや一人当たり付加価値
向上を図る労働生産性ではなく、時間生産性に移行していることに気付かなかったのです。
まとめ処理の問題は、時間の浪費にあります。スケールメリットを求めたコスト削減活動や部分
最適(※1)を追いかける生産性向上活動は、モノの流れを止め、各工程や部門に在庫を滞留させま
す。長くなったリードタイムは、納期遅れを起こし受注減少につながる。この結果、収益は悪化し
て、さらなるコスト削減と生産性向上に圧力がかかり、悪のサイクルに会社を落とし込みます。
この悪循環を断ち切るには、実需に応じた小ロット多頻度生産(すなわち平準化生産(※2))が
解決策になります。設備や人員、そしてスペースが限られる会社は、小ロット生産を選択せざるを
得ません。小ロット化とコストはトレードオフの関係にあります。コスト高となる段取り替え時間
は、それを短縮するための改善を継続して解決を図ることになります。製品が多様化して、製品寿
命も短縮化している今日、顧客ニーズに即応した多品種・小ロット生産は避けられない状況です。
そのためには段取り替え時間を徹底的に見直し短縮することが求められます。
小ロット化とリードタイム短縮は在庫を減少させ、投下資金量を飛躍的に削減し、本当のコスト
削減につながります。事業で発生する人件費等の固定費は時間に比例して大きくなり、スピードに
反比例して小さくなります。小まめにモノを仕入れ、小まめに作り、そして小まめに運ぶことでモ
ノの流れるスピードが上がれば、キャッシュを生むスピードも上がります。会社にモノが入ってか
ら製品となって会社から出ていく時間のスピードが競争力の差となり、儲けを生み出す尺度になり
ます。スピードを妨げるネックの管理が利益倍増をもたらすポイントとなります。
(1)小ロット化
JIT生産方式(※3)は、スーパーマーケットの商品の流れと同じように、売れる製品を売れる
タイミングでモノが流れるようにつくる生産方式です。月末追い込み型生産から平準化生産への移
行は、山を低く谷を浅くすることで余分な人や設備を不要とするだけでなく、コスト面でも過大な
負荷を軽減します。
小ロット化は売れるスピードに同期化して、処理ロットを小分けすることで停滞する在庫を減ら
し、リードタイムを短縮します。結果として、収益力が増強します。まとめ購入・まとめ生産・ま
とめ運搬と小口購入・小口生産・小口運搬の違いは、図表 3-1 において単純化された図表の三角形
で示されるように、縦軸投入資金と横軸時間との面積の差になります。4 週単位で原材料を調達す
るNS社は、週次で調達するND社の 4 倍の資金量を使用している。まとめると安くなるのでなく、
高くつくのが判ります。
図表 3-1
ND社の場合
投入
資金
1
2
3
4
5
6
7
8
週
週
週
週
週
週
週
週
1週間の生産に必要な原材料を仕
入れて製造販売し、1週間後に再び
仕入れる。投入資金は1週間分でよい。
NS社の場合
4週間の生産に必要な原材料を一
投
括で仕入れて製造販売し、4週間
入
後に再び仕入れる。投入資金は
資
4週間分が必要になる。ロットで
金
まとめて動かない分だけ、待ち時間が
1
2
3
4
5
6
7
8
週
週
週
週
週
週
週
週
増え、流れが悪くなる。
小ロット生産は、原材料投入額×回収時間からなる面積の縦軸である投資額を減らして、少ない
資金を小口で高頻度に回転させるコスト低減法です。小ロット化の推進には、生産工程での段取り
時間の短縮がキーになります。外段取り化(※4)の促進、シングル段取り、ワンタッチ段取り、段
取り替え不要とステップアップすることが重要です。
需要に合わせた多品種小ロット生産と速やかな段取り替えを行うことで、小さい波の川が流れる
ような柔軟な平準化生産が可能になります。ロット生産はロットの中の一個が加工処理されている
間、残りのロットが未加工か加工済みで停滞している状態、いわゆるロット待ち時間をつくります。
段取り時間短縮で小ロット化を進め、一個流しにしてロット待ちゼロにするのが目標です。
(2)リードタイム短縮
小ロット化は少額の投入資金、すなわち少量の投入原材料を高頻度で投入して生産を平準化し、
コストを削減するのに対し、リードタイムの短縮は面積の横軸である時間の削減です。作業スキル、
作業方法の改善や稼働率の向上で社内処理速度そのものをスピードアップして原材料滞留時間を短
縮化し、販売によって資金を速く回収するコスト低減法です。
生産現場における工程間の生産能力アンバランスやタイミング・ギャップは、ロット全体が次の
加工や検査・運搬作業等へ移動するために停滞している状態、いわゆる工程待ち時間をつくります。
ネック工程の生産能力に他の工程の稼動を合わせる同期化とともに、ネック工程の能力を重点的に
高めるネック管理が必須になります。
図表 3-2 は、同一資金(同一原材料量)を投入した場合でのリードタイムの違いを示しています。
ND社は1週間で製品を販売して資金を回収するのに対し、NS社は回収に4週間を要する。コス
トは投入資金×時間であるため、NS社はND社に比べて4倍のコストが掛かる。それは4倍の棚
卸資産が滞留して資金が寝ることを意味します。
図表 3-2
ND社の場合
1週間分の製品の販売に必要な原材料を
1週
2週
仕入れて、1週間で製造・販売して代金を
回収し繰返す。
3週
4週
NS社の場合
4週間かけて原材料仕入・製造・販売を行
4週
って1週間分の代金を回収する。2週目に
5週
は次の原材料仕入れを開始する。ND社に
6週
7週
比べて 4 倍の在庫が常時滞留し、4 倍の資
金を必要とする。
購入した原材料は、仕掛品、製品と形を変えて社内を通過し、顧客に納入されて代金を回収して
儲けとしてのスループットを得ることになります。棚卸資産を回すことでお金を稼ぐのです。JI
T生産方式の売れるタイミングでつくることは、顧客要求に合わせた短いリードタイムで生産する
ことであり、短いリードタイムは使われる資金量の減少をもたらし、コスト削減につながります。
リードタイム短縮のためには、原材料投入から製品出荷までのプロセスにおける付加価値を生まな
い停滞時間を排除する管理技術の向上が重要です。
(3)リードタイム短縮の方法
リードタイム短縮を進めるには、製品別に現状を調査した上で改善策を検討する方法をとります。
①現状の調査
図表 3-3 は、購入した原材料を 3 日間倉庫に在庫した後、製造に 2 日をかけ、製品倉庫に1日滞
留させて出荷している会社の棚卸資産の流れを単純化して表しています。合計で 6 日間を投入資金
の回収に要していることが判ります。このように製品別、あるいは受注別に仕入れから販売までの
原材料の流れを調査する必要があります。キャッシュの投入額×滞留時間からなる本当のコストは
原材料倉庫、生産工程、製品倉庫の三つの面積を加えたものになります。
図表 3-3
6日
改善前
5日
4日
3日
原材料倉庫
2日
1日
0
製品
生産工程
倉庫
②改善策の検討
下の図表 3-4 は、図表 3-3 の会社が作業の見直しを実施して生産工程を1日短縮した改善後の
流れを示しています。6 日から 5 日へのリードタイム短縮は 17%のコスト削減になります。
図表 3-4
6日
改善後
5日
4日
3日
原材料倉庫
2日
1日
0
生産工
製品倉
程
庫
しかし、図表 3-4 の流れ図を見ると、リードタイム短縮を生産工程にこだわる必要がないことに
気づきます。原材料倉庫の 3 日を 2 日に縮められないか、さらに製品倉庫に 1 日在庫するのでなく、
製造したその日に出荷できないか等を検討して改善することが必要です。リードタイム 6 日から 3
日への短縮は、コスト半減となります。
生産工程における停滞時間は、正味加工時間の 10 倍以上といわれます。モノの流れを妨げるボト
ルネックを見つけ出し、注力してトータルのリードタイムを短縮することは局所的原価低減に優先
します。スピードが利益を生む。利益を生む改善と利益を生まない改善を見極め、即効性が高く、
かつ実施が容易な改善から取り掛かるのが重要です。
ICパッケージを製造する新光電気工業は、社長主導の下に自社の生産工程を 20 メートルの模造
紙に書き込み、リードタイムの見直しを実施しました。その結果、材料投入から出荷までの期間を
以前の 17 日から 10 年度には 1.3 日に短縮する成果を上げ、過去最高の棚卸資産回転率で競争力を
高めています。生産リードタイムの短縮や人材配置の流動化が収益増加に寄与しています。
小ロット化とリードタイム短縮に取り組むと運転資金は画期的に減少します。図表 3-1 と図表 3
-2 に示すように、投入資金の 4 分の 1 削減とリードタイムの 4 分の 1 短縮を同時に行えば 16 分の
1 のコスト削減効果と 16 分の 1 の在庫低減効果、そして納期を 16 分の 1 短縮できます。それだけ
ではなく、余剰資源の活用が可能になります。
JIT生産によるリードタイム短縮に取り組むと、人が余り、機械が余力を持ち、スペースが空
く、すなわち経営資源の余剰が顕在化します。余力は新たな費用の発生を伴わない、原価ゼロを意
味します。まず、外製購入品の内製化や外部委託業務の自社業務化により支出を削減する。次には
余力を使った既存市場・製品の受注拡大、さらには新市場の開拓や新製品の開発による拡販で収入
の増加が可能になります。コストは変動費のみを考慮すればよいため、圧倒的競争優位をもたらし
ます。前述したように会社の儲けは、収入を増やすか、支出を減らすかで生まれます。JITの進
展と並行して推進する余力の活用は、どれだけ収入を増やすか、あるいは、どれだけ支出を減らす
かで効果が測定されます。余力活用の管理は、改善活動を始める前に計画して実行する必要があり
ます。
下の図表 3-5 の流動数曲線(※5)を利用すると生産工程短縮、仕掛品在庫削減、およびコスト
減少の関係が理解できます。受入累計線ABCLと払出累計線DEGMの各期間の縦軸の差(黒塗
りの部分)は在庫数量となり、在庫変動線AJKNで表されます。従って、前月初めの在庫ADと
当月初めのBEは同じ在庫量であり、それは在庫変動線AJを水平に保ちます。払出累計線は、日々
一定数量を払い出すため直線になっています。受入累計線は、当月初めから受け入れ数量を減らし
ているため、在庫量がBEからCGに半減し、在庫変動線もJからKに下降しているのが判ります。
翌月は受入数量を払出数量と同数量に戻したため、当月末の在庫量を維持し、在庫変動線KNは水
平に戻っています。当月の在庫半減活動により、在庫期間はBHからCIに 1/2 の短縮となり、コ
ストもABEDからCLMGの面積からなる投下資金量に変わるため前月に比べ翌月は 1/2 に減
少するのが判ります。
図表 3-5 流動数曲線
数量
L
H
A
F
J
D
E
P
A- D = B- E = J- P = 在庫量
払出累計線
C
B
受入累計線
I
M
A- F = B- H = 在庫期間
G
K
N
Q
R
前月初め
当月初め
当月末
翌月末
(0 日)
(30 日)
(60 日)
(90 日)
C- G = L- M = K- Q = N- R
在庫変動線
期間
C- G = C - I = 1
B-E
B- H
2
CLMG = 1
ABED
2
用語解説
※1 部分最適・・・自部門や自分が属している事業部のことだけを考えて、会社全体ではどうなの
かという視点で考えないこと。 すべての部門が部分最適を追求すると会社全体のバランスが崩れて
収益悪化を招く。
※2 平準化生産・・・需要の変動に対して生産を適応させるために生産品種と生産量を平準化した
生産方式をいう。基本的にはロットを小さくする努力と平準化していく努力を組み合わせて効率化
を図る。
※3 JIT生産方式・・・
「必要な物を, 必要な時に, 必要なだけ生産する」という理念のもとで部
品、仕掛品、製品等の在庫をできるだけ減らし、現場での無駄を減らすことを目的とした生産方式
のこと。後工程引き取り・後補充生産方式とも呼ばれる。
※4 外段取り・・・外段取りとは設備を止めなくても行える段取り作業であり、設備を停止して行
う内段取りに較べ、段取り替え時間を短縮できる。シングル段取りは一桁の分数で行う段取りで、
これをさらに進めて秒単位、つまり 59 秒以内で行なうのがワンタッチ段取りとなる。
※5 流動数曲線・・・受入れの累計線と払出しの累計線を同じグラフ上で日時を追って示したもの。
入庫と出庫によって在庫量が変化するような対象に対して、仕掛量と仕掛期間の評価、工程間での
停滞発生状況、およびボトルネック工程の発見等の分析が可能になる。