第133回講演会(2015年11月6日,11月7日) 日本航海学会講演予稿集 3巻2号 2015年9月30日 船舶を利用した災害時の 重傷病者搬送方法に関する基礎的研究 正会員○増田 光弘(東京海洋大学) 正会員 南 清和(東京海洋大学) 要旨 現在懸念されている首都直下型地震に備えて、船舶を利用した傷病者搬送や災害時医療支援船、災害時医 療支援浮体が検討されている。これら災害時医療活動の実現を考えた場合、あらかじめ傷病者の搬送方法や 搬送に伴う注意事項を明確にし、傷病者搬送方法に関する訓練方法や手引きについて検討しておく必要があ ると考えられる。本研究では、自力で歩行困難な重傷病者を対象に、船舶を利用した傷病者搬送方法につい て本学所有の練習船汐路丸を用いて実験的に検討を行った。 キーワード:救命、災害時医療支援船、傷病者搬送、二船間移乗、実海域実験 1.緒言 歳の男性(Case 3)とする。土嚢によって人体を模 近年、関東地方を中心とした首都直下型地震の発 擬し、頭部、脚部、重心位置に設置した加速度セン 生に伴う大規模な人的・物的被害に備えて、災害時 サーによって、x, y, z の三軸方向の加速度を計測 医療支援船 1),2)や災害時医療支援浮体などの海上か する。加速度センサーの計測範囲は±3G、分解能は らの災害時医療支援が検討されている。このような 0.025G、収集間隔は 0.01 秒である。設置の様子およ 海上での災害時医療活動においては、あらかじめ傷 び座標系を Fig. 1 に示す。 病者の搬送方法や船舶間の移乗の方法、搬送に伴う 本実験では、クレーンを用いての移乗実験を実施 注意事項を明確にし、傷病者の搬送方法に関する訓 する。まず汐路丸 2 号を汐路丸左舷側から接近させ、 練方法や手引きを作成しておく必要がある。 その後、汐路丸左舷に横付けして固定する。 その後、 本研究では、既存の研究 1),2) では検討が行われて バスケットストレッチャーをクレーンに接続し、移 いなかった自力で歩行困難な重傷病者搬送に関する 乗を行う。この時、触れ回り防止のために補助ロー 訓練方法の検討および、 手引きの作成を目的とする。 プを結び付け、補助を行う。クレーンを用いた二船 本報では、重傷病者を対象とした船舶を利用した傷 間移乗実験の様子を Fig. 2(左)に示す。 病者搬送について、本学所有の練習船汐路丸を用い クレーンを用いた二船間移乗実験における海象 て搬送方法に関する基礎的な実海域実験を行い、そ 現象の影響を検討することを目的として、東京海洋 の有用性や課題点について検討および考察を行う。 大学所有の回流水槽の高低差およびクレーンを利用 した陸上移乗実験を実施する。本実験水槽の床面か 2.実験概要 ら手すりまでの高さは 4.7m である。 汐路丸と汐路丸 本実験では、対象傷病者を自力歩行困難な重傷病 2 号の高低差は 5m 程度であり、ほぼ同じ高さである。 者とし、東京海洋大学の練習船汐路丸(総トン数 425t, 海上での実験と同様に補助ロープによる補助を行う。 全長 49.93m,水線間長 46m,型幅 10m,型深さ 3.8m, 陸上移乗実験の様子を Fig. 2(右)に示す。 計画満載喫水 3m,速力 14.61 ノット,最大搭載人数 z 62 名)および小型搭載艇汐路丸 2 号を用いた二船間 移乗実験および比較対象実験として東京海洋大学所 y 有の回流水槽を利用した陸上実験を実施する。実験 当日の天候は晴天、風速は 10knot、波高 0.6m、波周 期 1.5sec である。実験要員は最大 8 名で実施する。 搬送には 14kg のバスケットストレッチャーを用い Leg る。被搬送者は 122cm/24kg/7 歳の男児(Case 1) 、 160cm/50kg/17 歳の女子(Case 2)、172cm/68kg/20 Fig. 1 171 x Head Experimental setup on basket Stretcher 第133回講演会(2015年11月6日,11月7日) 日本航海学会講演予稿集 3巻2号 2015年9月30日 順や各作業要員の役割の確認という点においては不 安定な海上より、実用的な訓練方法となりうると考 えられる。そのため、陸上での訓練によって、手順 や役割を確認してから実海域訓練を行うことが重要 であるといえる。 Fig. 2 Transfer between two ships by crane Table 1 (Left: actual sea experiment, Right: land experiment). Phase of transfer between two ships by crane. Phase 1 2 上げ 移乗手順 (汐路丸~) 3.主要な結論 クレーンを用いた二船間移乗実験の移乗手順を 3 は Case 1 の場合の頭部にかかる三軸加速度である。 映像解析および実験時間測定から、計測された三軸 加速度を Table 1 にしたがってフェーズ分けした。 G Table 1 のようなフェーズに分けて考察を行う。Fig. 2 1 0 -1 -2 1 0 横移動 3 降下 4 5 6 7 汐路丸2号上 上げ (汐路丸2号~) 横移動 降下 X 3 2 Y 5 4 50 Z 6 7 100 150 Time [sec] Fig. 4 は Table 1 に示す各フェーズにおける 1G~3G Fig. 3 の加速度の発生回数をまとめたグラフである。Fig. 5 の引き上げ時の加速度を示したグラフである。 4 Number 5 は陸上移乗実験より、Case 1 の場合のクレーンで Fig. 3、Fig. 4 から、フェーズ 3、フェーズ 4 の バスケットストレッチャー降下から汐路丸 2 号上で Acceleration on Case 1 in actual sea experiment. 1G 2G 3 3G 2 1 の作業時に大きな加速度が発生するとともに、加速 0 度の発生回数も多いことが確認できる。70 秒~80 1 2 3 4 5 6 7 Phase 秒の間で発生している 2G の加速度は、汐路丸 2 号甲 Fig. 4 Number of occurrences of acceleration. 板上に置かれたバスケットストレッチャーにワイヤ ーを取り付ける作業を行っている際、海面の変動に 1 G 伴い、汐路丸 2 号が大きく動揺し、バスケットスト X Y Z 0 レッチャーが甲板上に衝突した際に生じたものであ -1 る。このような加速度が発生する状況は、被搬送者 にとって危険な状況であるとともに、搬送者も転倒、 落水の危険がある。必ずしも経験豊富な人間が搬送 0 Fig. 5 を行うわけではない可能性がある有事の際は小型艇 50 Time[sec] 100 Acceleration at the time of rise on Case 1 in land experiment. の波による揺れが与える影響について十分に理解し 4.謝辞 ておく必要があると考えられる。ただし、本実験は 計 12 回実施したが、計測回数を重ねるごとに 1G の 実験の実施および実験結果の整理に協力して頂 加速度の発生頻度が少なくなっており、練度の向上 いた村田莉奈氏(研究当時、卒業研究生)をはじめ によって被搬送者への負荷を軽減することができる とした H26 年度研究室所属学生、汐路丸乗組員の皆 可能性があることが確認されている。そこで、実海 様に心より感謝いたします。 域実験より実施しやすいと考えられる陸上での繰り 返し訓練で練度の向上が見込めるかについて検討す 5.参考文献 る。Fig. 5 は Table 1 のフェーズ 3 の工程に相当す (1) 日本透析医会:災害時医療支援船事業 2005~ るが、Fig. 3 と比較してもわかるように、加速度に 2007,日本透析医会 日本財団助成事業 記録 大きな変化は見られず、また海上と異なり、床面が DVD,2008. (2) 井上欣三:「災害時医療支援船構想」プロジェ 動くこともないことから、海上での訓練に代わる訓 クト成果報告書,2009. 練方法とはならないと考えられる。ただし、移乗手 172
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