(論文要旨)医博甲384上野 幹二

学 位 論 文 の 要 旨
り
が
名
整 理番 号
な
ふ氏
※
うえの
上 野
カ ん じ
幹
Neurophysiological basis of creativity in healthy elderly peoplei a
学位 論 文題 目 multiscale entropy approach(健 常高齢者 にお け る創 造性 の神 経 生理 学
的基盤 :マ ル チ ス ケ ール エ ン トロ ピー 解析 を用 い た検 討 )
研究 の 目的】
【
創造性 とは、多様 な脳機能 を用 いて既存 の情報を統合 し、価値あるもの を産生す る能力
を指 し、一般 の知能検査では計測が困難 な “
応用力 。生産力・ 空想力"に よって特徴付
けられ る。 また創造的活動 は、老年期精神障害 の発症予防法 として幅広 く用 い られてい
る。 一方、創造性 の神経生理学的基盤 として、脳 内ネ ッ トワー クの活性化 が様 々な脳機
能研究で明 らか となってい る。 しか しこれ らの研究 の多 くが若年者 を対象 としてお り、
高齢者 における創造性 と脳生理機能 の 関連性 を検討 した研究は、未だ希少 であるのが現
状 である。
脳活動は、無数 の神経細胞が シナプス を介 して連絡 し合 った複雑な神経ネ ッ トワー クの
く
夏雑な非線形的変動 を包含す る。従 って、
中で行 われ、そ の出力 である脳波活動は極めて†
非線形理論 に基づ く脳波 の複雑性解析 は、神経ネ ッ トワー ク機構 の解明 にお いて重要な
役割 を果たす。 マル チ スケールエ ン トロピー (multiscale entropy:MSE)解 析は複数
の時間軸 (周 波数帯域 )に おける複雑性 の解析 を可能にす ることか ら、幅広い神 経ネ ッ
トワー ク機構 の把握 を可能に し、またノイ ズ に強健であることか ら実践的な解析 法 とし
て注 目されてい る時系列デ ー タ解析法 である。本解析法 の脳波解析 へ の適用については、
様 々な脳 内ネ ッ トワー ク研究においてそ の有用性 が確認 されてい る。
本研究 の 目的は、高齢者における創造性 が脳生理機能に与 える影響 を、脳波 の MSE解
析 を用 いて脳 内ネ ッ トワー クの観 ,点 か ら評価す る ことで、健常高齢者 における創造性 の
神経生理学的基盤 を解 明す ることにある。
方法】
【
紺象 │:認 知機能 の低下を有 さない健常高齢者 20名 (71.5± 4.8歳 )を 対象 とした。 内
科的疾患や頭部外傷や てんかんの既往 、またアル コールや薬物へ の依存 の既往 がある者
は姑象 か ら除外 した。
'
創造性指標 : S‐ A創 造性検査 C版 を用 い、応用力 (身 近な物 をどの よ うに利用、応用
できるかを考 える能力)、 生産力 (身 近な物 の改善点を発見 し、より良 く改良す る能力)、
空想力 (起 こ り得 ない事態が起 きた ら、 どんなことが起 こるかを考える能力)を それぞ
れ評価 し、それ らの総合点 を各被検者 における創造性 の指標 とした。
知的機能 :WAIS‐ Ⅲ (Wechsler Adult lntelligence Scale‐ Ⅲ)を 用 い、各被検者 の知的
機能 を評価 した。
脳波 :国 際 10‐ 20法 に従 って安静閉眼時脳波を計測 し、アーチフ ァク トを含まない連続
す る 20秒 間を解析 区間 とした。各電極 における MSE値 を、スケール フ ァクター (低 い
ス ケ ール フ ァ クター は高周 波数 帯域 に 、高 い ス ケ ール フ ァ クター は低周 波数 帯域 に対応 )
ご とに 算 出 した。 また 同解 析 区間 にお け る周 波数解 析 を、高速 フー リエ 変換 を用 いて行
い 、 δ帯域
域
(30‐
(2‐
8Hz)、 α帯域 (8‐ 13Hz)、 β帯域 (13‐ 30Hz)、
5帯 域 にお け る相 対 パ ワー 値 をそれ ぞれ算 出 した 。
4Hz)、
46Hz)の
θ帯域
(4‐
γ帯
統 計 :創 造性 指標 と MSE値 の 関連 を検討 す るた め 、MSE値 に対 して共 分散分析 (被
造性 の 高 い群 (10名 )、
検者 内 囚子 :20(ス ケ ール フ ァ ク ター )、 被 検者 間因子 :2群 備じ
創 造性 の低 い 群 (10名 ))、 共変 量 :年 齢 )を 行 っ た 。 さ らに創 造性 指標 と MSE値 の 関
連 を さ らに詳 しく検討 す るた め 、高 い ス ケ ール フ ァ クター (低 周 波数 帯域 )に お け る
MSE値 の 平均値 と創 造性 指標 間 にお け る ピア ゾンの積 率相 関係 数 を算 出 した。
結果】
【
共分散分析結果 :創 造性 の高い群 では、前頭都、中心部、頭頂部お よび側頭部 における
低周波数帯域 での MSE値 が高値 を示 したが、相封パ ワー値 においては有意差 がみ られ
なか った。一方、知的機能 の高 さに関 しては、MSE値 お よび相姑パ ワー値 ともに有意差
はみ られなか つた。
相関解析結果 :前 頭部、中心部、頭頂部お よび側頭部 にお いて、創造性指標 と低周波数
帯域 における MSE値 の間 に正 の相関関係 がみ られた。 一方、創造性は脳波 の相対パ ワ
ー値 と関連せず、知的機能 も MSE値 および相対パ ワー値 と関連 しなかった。
考察】
【
本研究 では、高齢者における創造性 の神経生理的基盤 として、低周波数帯域 における脳
波 の複雑性 の増加が 関連す ることを明 らかに した。一般的 に低周波数帯域 における脳波
活動は、広汎 な脳 内ネ ッ トワー クの活性化 と関連す るとされてい る。従 って、高い創造
性 は、広汎 な脳 内ネ ッ トワー ク活動 の活性化 と関連 している可能性 が考 え られ る。一方、
加齢 に伴 う生理学的情報 の複雑性 の低下"が 多 くの文
近年注 目され ている仮説 である “
献に よつて支持 されてい る。従 って、高い創造性 に伴 う脳波 の複雑性 の増加は、加齢 の
予防効果 を反映 し、老年期精神疾患 の発症予防 と関連す る可能性が示唆 され る。
結論 】
【
本研究 で用 いた MSE解 析 は、既存 の非線形解析法 では困難 であつた幅広 い脳内ネ ッ ト
ワー ク機構 の理解 を可能にす ることか ら、健常高齢者 における創造性 の神経生理学基盤
をより詳細に解 明できる可能性 が示唆 された。本解析 を用 いて、創造性 が脳生理機能 に
及 ばす影響 を明 らかにす る試みは、高齢者 の精神衛 生 の向上において重要な役割を果 た
す もの と考え られ る。
備考
1
2
※ 印 の欄 は、記入 しない こ と。
学位論 文 の 要 旨は、和 文 に よ り研 究 の 目的、方法、結果 、考察、結論等 の順 に記 載 し、
2,000字 程度 で タイ プ等 で 印字す る こ と。
3
図表 は、挿入 しない こ と。