Investment Research 投資リサーチ 集中型投資についての考察 Juan Mier, CFA, Vice President 資産配分者が最近よく議論するのは過剰分散ポートフォリオについてです。分散化は依然として投資理 論の核となりますが、アクティブなポートフォリオが付加価値よりもむしろ分散目的で銘柄を保有する と、パフォーマンスを弱めかねないともいわれます。さらに、集中型投資にすれば優れたパフォーマン スが得られると捉える向きもあります。 分散と集中に関する議論をご理解いただく一環として、集中型株式戦略に関する学界や運用者、専門家 の実証研究を検証しました。研究内容の時期、集中の定義、方法などは多岐にわたります。本稿は研究 内容に応じて 3 章の構成になります。第 1 章は概念的な枠組み、第 2 章は集中型の潜在的メリットの評 価、そして第 3 章は分散型ポートフォリオの高い確信度(最も強気な)保有銘柄のパフォーマンスを検 証しました。 検証の結果、集中投資には概して潜在的メリットが多いことがわかりました。状況が適切ならば、集 中型投資は資産配分者にとって価値あるツールになります。 2 米国最古の投資信託マサチューセッツ・インベスター 運用者は ややもすると 何十(または何百)もの銘柄で ズ・トラスト(現在も運用中)は 1924 年の設定時 構成されるポートフォリオを組成し、パフォーマンス でした。 1 イギリスの経済学者ジョ のパターンを指数に似通わせる必要がありつつも、付 ン・メイナード・ケインズは 1921 年から 1946 年ま 加価値の付与をねらうという本質的に矛盾する目的を でケンブリッジ大学のキングスカレッジの基金を運 抱えました。 の 保有銘柄数は 45 用していましたが、ポートフォリオの平均保有銘柄数 は 46 でしたが、その集中度は平均して 17 銘柄の均等 加重ポートフォリオに相当しました。 2 1983 年以降、米大型株投信の平均銘柄保有数は徐々に 増加しています。インデックス・ファンドを除外して も(図表1の左図)、含めても(図表1の右図)同様で 20 世紀初頭の投資家でバリュー投資の父と呼ばれるベ す。この検証対象を、例えば小型株や米国以外の株式 ンジャミン・グレアムはやや分散投資をしていました。 ユニバースに広げると、投資機会が広がり、保有銘柄 投資運用会社グレアム・ニューマン会社の 1946 年から 数はさらに増えるでしょう。 1956 年までの保有銘柄数は平均で 76 です。 3 これらの銘 柄保有数が、現在、類似の米大型株ポートフォリオの 平均を下回ることは注目されます。 米国の経済学者ハリー・マーコビッツのポートフォリ オ理論研究に基づいた分散投資の概念が示すのは、相 関性のない資産を加えてリターンを下げずにリスク ア ク テ ィ ブ 運 用 者 の 保 有 銘 柄 数 が 増 え 始 め た の は、 軽減を図る手法です。 4 これは現在でも金融理論の中 1970 年代に米国でインデックス・ファンドが設定され 心的な見解です。 てからと言えます。インデックス・ファンドの誕生以来、 広範なマーケットのベンチマークを投資対象とし、イ ンデックス化する戦略がうまれ、相対パフォーマンス が新たに重視されました。 けれども、過剰な銘柄保有を正当化するために、分散 投資の概念を利用する運用者もいるようです。計算上 は、20-40 銘柄を追加すれば最大のリスク軽減メリット (標準偏差の観点から)が得られると示されています。 運 用 者 は ト ラ ッ キ ン グ・ エ ラ ー な ど の 指 標 を 用 い て、 リスクの急減は初期に起こるため、ある時点以降には アクティブなリターン・パターンが指数を追従してい 保有数を増やしても、リスク軽減メリットはわずかに る度合いを評価しました。 なります。 図 表1米 大 型 株 投 資 信 託 の 平均 保 有 銘 柄 数 インデックス・ファンドを除外 インデックス・ファンドを含む 180 180 120 120 60 60 0 Number of Funds 0 1983 1988 1993 1998 2003 2008 2014 1983 1988 1993 1998 2003 2008 2014 6 69 146 323 592 824 1122 6 71 162 352 655 898 1221 2014年12月時点 統計データに含まれるのは、モーニングスター社の米大型株区分の株式投資信託で、2014年12月31日より前に設立されたもので、ファンド・オブ・ファンズは 除外しています。 Source: Morningstar 3 運用者や資産クラスの数を増やす分散化は依然として 期待リターンとの相関係数であり、ブレスは独立した 理に適いますが、個別ポートフォリオ内の過剰分散は、 意思決定回数になります。言い換えれば、IC は運用者 特に銘柄選択の場合にはあまり支持されません。 のスキル部分で、ブレスは運用者のベット(賭け)の 集中型株式戦略の人気が高まっているため、多くの運 回数です。 用者はこの点を認識しているようです。集中型ポート 当法則はこれらの変動要因の興味深い相互作用を示し フォリオは直感的には理に適います。運用者は強気な ています。すなわち、スキルがある運用者はブレスが ポジション以外も保有するポートフォリオをなぜ組成 少なくても、スキルが劣りブレスが多い運用者と同一 するのでしょうか。さらに、ベータのエクスポージャー の IR を生み出せます。 はパッシブなインデックス・ファンドを使えば安く手 に入るため、投資家が今こそアクティブの個々の運用 者に求めるのは、真のアルファの機会です。 例えば 1 の IR を得るのに、IC が 0.15 ならブレスは 44 と な り、IC が 0.05 な ら 同 じ 1 の IR を 得 るのにブレス は 400 となります。これは、極めて少ない保有銘柄数 しかし、それはうまくいっているでしょうか。集中型 で上手くポートフォリオを運用するには極めて高レベ と分散型の直接のパフォーマンス比較をした研究は多 ルのスキルが必要であることを示唆し、集中型の運用 数あります。(分散型ポートフォリオ内の)運用者の高 者には直接的な含蓄があります。 い確信度のポジションの運用成績の比較研究もありま す。集中型ポートフォリオは、その定義からも運用者 の最高の投資アイディアを表しているため好成績をも たらすと主張する複数の研究結果があります。 2014 年 の ラ ザ ー ド と ブ ラ ン デ ス の 共 同 研 究「 ポ ー ト フ ォ リ オ の 特 徴 の 予 測 力 -The Predictive Power of Portfolio Characteristics」 は、 運 用 者 の ラ ン ク 付 け ツールに当基本法則を適用しました。アクティブ・シェ 本稿は 3 章に分かれます。研究の内容別の各章の終わ アと集中係数(詳細は後述)を、スキルとブレスの代 りには検証結果を評価しています。第 1 章では、集中 替として提唱しました。 型の研究について議論するに当たって、ファンダメン タルな概念を検証します。(付録に、論文の検索基準を 開示しています。) 1.背景と関 連 する 概 念 この研究のポイントは、高水準なアクティブ・シェア が維持されるか増加傾向である限り、集中投資の運用 者は高ランク付けされる点です。このランク付け手法 は、一定の予測力を表しました。 前述しましたが、アクティブ運用の付加価値に関する 1989 年にリチャード・グリノルドは、アクティブ運 調査は、アクティブ戦略群というユニバースの総合結 用の基本法則(以下、当法則)を紹介しました。こ 果が中心です。しかし個々のアクティブ運用者をさら の概念は、アクティブ運用者が付加価値を付与する に調べると、興味深い事実が出てきました。 技量を判断する枠組みを提供しました。 ク レ マ ー ス と ペ タ ジ ス ト の 2009 年 の 論 文 と ペ タ ジ ス 情報レシオで計測しスキルと戦略のブレス(取引回数 ト の 2010 年 の 論 文 が 紹 介 し た ア ク テ ィ ブ・ シ ェ ア は、 や対象銘柄数)の二次元で表します6(数式は別表を参 ポートフォリオの保有銘柄とそのベンチマークとの乖 照。) 情報レシオ(以下 IR)はリスク調整後のリターンを表 離を計測しました。 し、ポートフォリオとベンチマークのリターンとの差 アクティブ・シェアは 0%(ベンチマーク・インデック (超過リターン)をトラッキングエラー(超過リター ス と 全 く 同 一 の ポ ー ト フ ォ リ オ ) か ら 100 %( ベ ン チ ン の 標 準 偏 差 ) で 割 っ て 算 出 し ま す。IR は 情 報 係 数 マーク・インデックスとは完全に異なるポートフォリ (IC)とブレスに分解されます。IC は実現リターンと オ)までの間になります。 4 両研究者は、高アクティブ・シェアのポートフォリオ しいものの、高い確信度を持つ運用者は自らのスキル は米株式投信ユニバースの中でアウトパフォームして を示すことが出来ます。 いることを突き止めました。ファンド群をアクティブ・ シェアで五分割し、さらにトラッキング・エラーで分 けました。この 2 つの面からファンド群を 5 タイプの アクティブ運用に分類しました。 何百、何千もの銘柄についての深い知識を得ることは 経験的に不可能であるため、少数銘柄についての確信 を持てる運用者の専門性は、付加価値を生み出す良い 前触れかもしれません。高い確信度を持つ運用者への アクティブ・シェアの分類で最上位で、且つトラッキ 洞察に加えて、シーゲルとスカンランは分散投資運用 ング・エラーが 1 から 4 までのファンドは「ストック・ 者について面白い結論を導いています。 ピッカー」と名付けられ、好調なアウトパフォームと なりました。 すなわち分散型運用者は、なかでも豊富なリソースを 持ち、効率的に情報収集できる運用者は付加価値を付 対照的にインデックスに類似する「隠れパッシブ」と 与できるものの、投資家の観点からすると、分散運用 名付けられた低アクティブ・シェアファンドの運用成 者のポートフォリオ組成が意味するのは、アクティブ・ 績は不振でした。ペタジスト(2013 年)のファンド分 ベット(集中型ポートフォリオのアクティブ・ベット 類別のサンプルでは、「ストック・ピッカー」分類の平 より小規模)が互いに打ち消し合う可能性が高いこと 均銘柄数は 66 で、「隠れパッシブ」分類の平均銘柄数 です。 は 161 となりました。 さらに、基本法則に関する議論に話を戻すと、分散型 最近、一部運用者たちはアクティブ・シェアとパフォー 運用者のブレスは、その投資ユニバースからすると見 マンスの連動性について、アクティブ・シェアの高低 かけより小さくなります。 の比較は、小型株対大型株の比較のようだと異議を申 し立てていることもここで記しておきます。 なぜならば、当法則のブレスが意味するのは個々に独 立したベットのことであり、銘柄ユニバースのスクリー 当社がそれに付け加えたいのは、ベンチマークをアウ ニングの手っ取り早い方法(例えば、時価総額ベース トパフォームする唯一の方法は違いを持たせることで で一部銘柄群を切ること)は個々に独立していない場 あり、その違いは、正確で健全な判断を反映する必要 合が多くあるためです。 がある点です。 シーゲルとスカンランの論文(「コミットメントを恐れ 次章では、集中型ポートフォリオの組成と、投資家に もたらす恩恵について検証します。 るな-高い確信度のアクティブ運用」、2014 年)は、集 中型(すなわち高い確信度)運用者の評価に重要な考 え方を深く掘り下げています。投資家は運用者たちの 構成を決めるにあたり、ベータ(運用資産クラス)と アルファ(ベンチマークをいかに上回るか)に関する 決定は、別であるべきと同論文は指摘します。 ベータの決定は、目標リターンに合う資産クラスの組 み 合 わ せ を み つ け る こ と を 重 視 す べ き で、 そ の 一 方、 アルファの決定は、ベンチマークを上回るスキルのあ 2.集 中 型 の 特 徴と潜 在 的 恩 恵 銘柄数がいくつなら集中型ポートフォリオと定義づけ るか、コンセンサスはありません。 実践的に見積もると、米国株のポートフォリオなら 30銘柄以下とか、 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ・グローバル ポートフォリオなら40 銘柄以下とかが大雑把なガイド ラインになります。 るアクティブ運用者に注目すべきと言います。 とはいえ、この方法では個別銘柄のウェイトについて 将来、アウトパフォームする運用者の特定は極めて難 ベースにする測定方法もありますが、それでも全体的 は全くわかりません。上位 10 - 20 銘柄のウェイトを 5 な集中度はわかりません。 集中型の厳格な定義がないため、運用成績の比較はや やこしくなります。しかしエコノミストや規制当局者 は、ハーフィンダール指数のような広く知られた統計 のポートフォリオの CC は 3.8 となり、こちらの 50 銘 柄から成るポートフォリオ(1 銘柄に 51% と 49% 銘柄 に 1%)は、4 銘柄を加重平均したポートフォリオに相 当します。 指標を当てにして、産業や市場シェアの占有率を評価 研究者たちは 1992 年から 2003 年の個々の口座データ しています。そして、M&A による独占的な慣行の査定 に基づいて、ユニバースをグループ分けしました。米 にさえ活用しています。 大型株バリュー、米大型株グロース、米小型株バリュー、 そ の 点 に 留 意 し た う え で、 次 に 論 じ る 調 査 の 大 半 は、 異なる尺度(ハーフィンダール指数からの派生版を含 む)を当てにしています。検証結果をより正確に解釈 するには、尺度の理解が重要です。 米 小 型 株 グ ロ ー ス、 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル で す。 次 に、 相対リターン、トラッキング・エラー、情報レシオに 相対する CC の関係を評価しましたが、関係性は概ね フラットとなり、決定的な線形的な関係は出ませんで した。 集中係数 その結果、集中度はパフォーマンスの改善(あるいは 集中とパフォーマンスについて論じた初期の論文のひ 全体のユニバースと各グループ内で行われ、次に、各 とつが、ブランデス・インスティテュートによる「集 グループ内を集中度に応じて分けて、CC が 60 未満の 中型ポートフォリオ-その特徴と効果の検証」(2004) グ ル ー プ 群 の パ フ ォ ー マ ン ス・ メ ト リ ッ ク ス と CC の で す。 有 効 な 指 標 で あ る 集 中 係 数(CC) を 導 入 し て、 関係もフラットでした。論文の著者たちはデータの限 集中を定義する課題に対処しています。CC は全銘柄の 界を詳しく説明しています。 2 乗加重の和の逆数と定義されます(ハーフィンダール 改悪)につながるとは示せませんでした。この分析は 指数の逆数)。 それは同じ戦略内の分散型と集中型の比較分析を限定 CC は、銘柄数などの簡易計測法では足りない部分に対 中された保有銘柄をポートフォリオのそれ以外の保有 処し、集中についての直感的な解釈も提供します。ポー 部分やベンチマークと比較するようなものです。) 的とするひとつの理由になります(すなわち、最も集 ト フ ォ リ オ の CC は、 集 中 度 が 同 水 準 の 加 重 平 均 ポ ー トフォリオの銘柄数に相当します。CC が低いほど、高 い集中度を表します。例えば、50 銘柄を保有する 2 つ のポートフォリオがあるとします。 その内の一つは均等加重(集中度が最低で、分散度が 最高)で、もう一つは 1 銘柄がポートフォリオの 51% を 占 め て、 そ れ 以 外 の 49 銘 柄 は 1% ず つ に な り ま す。 業 種の 集 中 集中の他の尺度を紹介した論文に、「アクティブ運用株 式投信の業種集中について」(カクパーチック他、2005 年)があります。この論文は、米株式投信の一部サンプ ルのパフォーマンスと業種集中の関係を検証しています。 こ の 両 方 の ポ ー ト フ ォ リ オ を 保 有 銘 柄 数 で み る な ら、 業 種 は 産 業 分 類 コ ー ド(SIC) を 用 い て 定 義 し、 著 者 両方の集中度は同じになりますが、実際には後者のポー たちが選んだ 10 の主要業種グループにまとめています。 トフォリオの方が集中度が高まります。 これは現在、投資ベンチマークとして広く使われてい 一 方、 両 方 の 比 較 に CC を 用 い る と、 実 際 の 集 中 度 が る世界産業分類(GICS)に似通っています。 はるかに明らかになります。前者のポートフォリオの 著者たちは集中度を計測する業種集中指数(ICI)を開 CC は 50(各 50 銘柄が 2% ずつ)となり、50 銘柄の均 発しました。ICI は、株式市場全体の業種ウェイトに対 等加重ポートフォリオとも言えます。対照的に、後者 する投信の業種別集中度合いを測ります。 6 ICI がゼロならポートフォリオはマーケットと同一の業 種構成となり、ICI の値が増えるほどポートフォリオの 集中度は高まります。ICI の公式は、マーケットの業種 ウェイトに対する、投信の 10 業種それぞれの差を 2 乗 した値の合計です。 図 表 2 業種の集中をベースにしたパフォーマンス (1984年 -1999年) 4つのファクター・アルファ、四半期ベース(%) 0.75 0.50 ここで検証されたサンプルの投信群には、アクティブ運 0.25 用の米国株式ファンドのみが含まれます(債券、バラン 0.00 ス型、インデックス、セクターファンドは除外)。 -0.25 Decile 運 用 成 績 の 検 証 期 間 は 1984 年 か ら 1999 年 ま で で す。 サンプルの投信群は ICI に基づき十分位に分類され、十 分位数で 1 が最も分散型で、10 は最も集中型となります。 市場連動性、EPR、企業規模、モメンタムの 4 つのファ 報酬控除前 報酬控除後 1 2 3 4 5 6 7 8 9 集中度 低 10 高 上記は過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果について 保証するものではありません。上記のデータは、ラザードのいかなる商品や戦略 をも示すものではありません。調査対象のファンド数は1,771です。 Source: Kacperczyk, et al. (2005); Table II クターからなるアルファのパフォーマンスに基づく と、最も集中型のファンドは、分散型の 5 番目までよ り、費用控除前と控除後とも運用成績は上回ります(図 保有銘柄数 表 2)。最も集中型の費用控除前リターンは統計的に有 集中度を測る簡単な尺度は、単純に保有銘柄数を数え 意性があります。 ることです。サップとイャンは、「銘柄集中とアクティ ブ・ファンド運用―集中型ファンドは優れたパフォー 分散型と集中型のパフォーマンスの差は費用控除後で マンスをあげるか?」(2008 年)という論文でこの手法 は縮まるのは、このサンプルにおいて集中型ファンド を用いました。 の費用の方が高かったためと論文には記されています。 1984 年 か ら 2002 年 ま で の 米 株 式 投 信 デ ー タ を 用 い て、 上記の結果を踏まえ、著者たちは運用成績に影響する 銘柄数別の五分位のパフォーマンスを評価しましたが、 他の要因をおさえるための分析をしました。ファンド 集中型ファンドの運用成績が上回る証拠は見つかりま の資産規模、手法、取引に関する分析などです。 せんでした。 時価総額とスタイル(バリュー-グロース)の組み合 フ ァ ン ド の パ フ ォ ー マ ン ス は 手 数 料 込 み の グ ロ ス と、 わせに沿って、ファンドのサイズで分類した場合、ICI 控除したネットで検証されました。グロスリターンで に基づく集中型ファンドは分散型ファンドのパフォー は、最も分散型の五分位と集中型の五分位のパフォー マンスを上回りました。 マンスは同等でした。 例外は大型バリューのポートフォリオでした。ICI ベー しかし、手数料を考慮すると、集中型ファンドの方が スの集中型運用者の「情報アドバンテージ」に注目し 手数料が高いため、ギャップは広がりました。カクパー たもう一つの重要な調整は、業種調整後のパフォーマ チックたちの検証結果(2005 年)と一致します。重要 ンスを伝えることです。 なことにグロスリターンは、集中型の五分位の 3 つか 4 つまり、集中型運用者は業種内の好調な銘柄を選択し ていて、好調な業種だけを選んでいるのではないこと つのファクターのアルファも、サンプルの他と比べて 最低(または最低でタイ)となりました。 を確かめるためです。この調整された尺度でも、結果 このようなリターンを説明するため、著者たちはファ は上々でした。 ンドの特徴(保有銘柄数、資産規模、ファンドの年数、 7 費用レシオ等)に対するパフォーマンスの回帰を検証 カクパーチックたちの研究では、集中型運用者は小型 しました。保有銘柄数の係数はプラスで、統計的に有 グロース株を重視していたようです。 意でした。 おそらく運用成績が反映しているのは集中度ではなく、 つまり、その他がすべて同等であれば、銘柄数が少な 株価を決定するファクターにとって好調な時期であっ いほどパフォーマンスは劣ります。これを実践的な考 た点が重要です。集中度を分離すると、解きほぐすの 慮 に 結 び 付 け る た め に、 同 論 文 が 提 唱 す る の は、 集 が大変になります。 中型ファンドは(ファンドへの資金の流れは非対称で、 好成績後の流入額は、不振な成績後の流出額より多い という想定のもと)リスクを多く取っているか、低流 動性の銘柄を保有しているかもしれないことです。 検 証 結 果について 最初のグループの検証では、集中度の優位性について 結果はまちまちでした。ブランデス・インスティテュー トの集中係数(CC)などの尺度とパフォーマンスの連 動性は、追加保有銘柄が足を引っ張ることを当然、反 映 し て い ま す。 言 い 換 え る な ら、CC ベ ー ス の 集 中 型 ポートフォリオであっても、保有銘柄数がまだ多いの かもしれません。 CC が 20 であっても 100 銘柄の保有とかもありえます。 この仮想シナリオでは、高い確信度のポジションがあ るにしても、ウェイトが小さい銘柄がパフォーマンス に影響を与えることが可能です。 そして、最大ウェイトの銘柄のみを保有しているポー トフォリオと結果は違ってきます。ICI の尺度でも同様 のことが言えます。しかしカクパーチックの検証結果 取 り 上 げ た 研 究 の 比 較 可 能 性 に つ い て は、 検 証 期 間 (1984 年 か ら 2003 年 ま で の 期 間 に 重 な り ) は 同 様 で すが、ブランデス・インスティテュートの対象が機関 投資家の個別口座のデータであるのに対し、他の 2 つ の研究対象は投信です。これも結論をぼやかしている かもしれません。 第 2 章の研究は、何らかの集中度の尺度で分けたポー トフォリオ全体のパフォーマンス評価でした。次章で は、高い確信度のポジションとそのパフォーマンスを 検証します。そこでは、集中度の尺度で高いスコアに なるはずだったポートフォリオが、小さいポジション によってパフォーマンスが希薄化された点もとりあげ ます。 3.最 大ウェイトと、高 い 確 信 度 の 保 有 銘柄に注目 ビッグ・ベット 前述しましたが、ハーフィンダール指数のような統計 データは均等比重からの乖離の度合いを測るため、経済 では、集中型が分散型より好調でした。 や産業分析で占有率を計算するのに活用します。バック カクパーチックたちやサップとイャンの場合、投信の するファンド・マネジャー:スキルがあるか、過剰な自 ベンチマークに対する相対パフォーマンス、それは投 信か」という研究論文では、集中度を測る 4 つの統計指 資家が究極的に気にするリターンですが、その評価は 標を活用して、投信のパフォーマンスを検証しました。 投資家などに恩恵を与えます。ファクター・モデルに 対するアルファが良くても、ベンチマークを上回ると ス、ブッセ、グリーンは 2006 年の「ビッグ・ベットを この論文の一つの章は、ポートフォリオの最大保有銘 は限りません。 柄 の パ フ ォ ー マ ン ス の み を 分 析 し た 初 期 の 論 文 で す。 しかし、要因分析はポートフォリオがとっているエク た よ う に、 ポ ー ト フ ォ リ オ の 集 中 度 は 高 ラ ン ク で も、 スポージャーについての重要な詳細をさらけ出し、そ 小さいウェイトの保有銘柄がパフォーマンスに影響を れ は フ ァ ク タ ー ロ ー デ ィ ン グ と 呼 ば れ ま す。 例 え ば、 与えることがあるからです。 これは注目に値する進歩と考えます。なぜなら前述し 8 活用された 4 つの指標は、ハーフィンダール指数、標 準化したハーフィンダール指数、ジニ係数、変動係数 です。どの指標も抜きんではいなく、各々、いろいろ 活用されていると著者たちは言います。 図 表3 4つの異なる集中 型 投 資の 統 計データで並べ替 えた投 資信 託 のリターン(1979年 - 2003年) 平均月間リターン-保有株式部分のみのパフォーマンス(%) ゴールは集中度合いによるファンド群のランク付けで 1.4 あり、論文を引用するなら、「ビッグ・ベット」をする 1.2 フ ァ ン ド の ラ ン ク 付 け で す。4 つ の 指 標 は す べ て、 似 1.0 通ったランキング結果ですが、保有銘柄数が少ないグ 0.8 ループについてはランキング結果は異なりました。集 CV G H* H 0.6 中度の説明の曖昧さが浮き彫りになります。 Decile 1 その点を留意しても、4 つの異なる集中度の統計データ 平均月間リターン-ファンド全体のパフォーマンス(%) の活用は、堅実なリターン評価結果を引き出すのに役 1.4 立 ち ま す。 検 証 デ ー タ の 対 象 は、1979 年 か ら 2003 年 1.2 までの米株式投信です。各統計データごとに十分位に 1.0 ファンドは区分されました。 0.8 リ タ ー ン は 2 つ の 手 法 で 算 出 さ れ ま し た。 第 一 に は、 四半期ごとのファンドの保有状況をベースにした各 ファンドの株式部分のみのリターンを算出します。取 引 コ ス ト と 手 数 料 は 考 慮 さ れ ま せ ん。 第 二 の 手 法 は、 2 3 4 5 6 7 8 9 集中度 低 10 高 CV G H* H 0.6 Decile 1 2 3 4 5 6 7 8 9 集中度 低 10 高 集中度の評価尺度: H: ハーフィンダール指数; H*:標準化したハーフィンダ ール指数; G: ジニ係数; CV: 変動係数。上記は過去のパフォーマンスです。 実際の投信の、買い付け手数料(ロード)を除外した 過去のパフォーマンスは将来の結果について保証するものではありません。 取引コストと手数料の控除後の運用成績で算出します。 ん。調査対象のファンド数は2,080です。十分位の10-1の統計上の有意 上記のデータは、ラザードのいかなる商品や戦略をも示すものではありませ 性:上図―H*の優位性は10%水準、CVの優位性は5%水準。下図―H*の こ の リ タ ー ン は、 株 式 の み の リ タ ー ン と 異 な り ま す。 コストに加えて、四半期内の取引や、株式以外の保有 優位性は5%水準。 Source: Baks, Busse, and Green (2006); Tables 3 and 4 部分(現金や未確認の証券など)のパフォーマンスも 加味されているからです。 結果(図表 3)を見ると、株式部分のみのリターンにつ いては、4 つの尺度とも「ベスト・ベット」のファンド は、分散型より好成績なことを示しました。 イ ト の 高 い 株 式 の パ フ ォ ー マ ン ス だ と 考 え ま す。 ポートフォリオのウェイトの十分位によりファンドの 保有銘柄を分類し、4 つの尺度で比較しました。 つまり、分散型ファンドのウェイトで上位 10% の銘柄 ファンド全体のリターンで見ると、4 つの内 3 つの指標 と、ベスト・ベットのファンドのウェイトで上位 10% は、最も集中した分は、最も集中度の低かった分をア の銘柄の比較です(図表 4 ページ9)。その結果もまた、 ウトパフォームしました。当社の見解は、株式のみの 集中型運用者の銘柄選択の能力は、広く分散したポー リターンは集中型運用者の銘柄選択の能力の強さを表 トフォリオより価値を生み出すようだとなりました。 しているものの、投資家が最終的に気にする実際のファ ンドのリターンでは、あまり決定的な結果は出なかっ たことです(図表 3、下図)。 集中型ポートフォリオの議論で重要なのは、最もウェ 次に、ポートフォリオ内の上位と下位の保有銘柄を比 較したところ、やや意外ながら、下位の銘柄がアウト パフォームしました。けれどもベスト・ベットのファ ンドの場合は、この差異は統計的に有意ではありませ 9 図 表4 首位銘柄のパフォーマンスの違い-ベス ト・ベット対分散型(1979年 - 2003年) 平均月間リターン(%) この手法は、各運用者は、ポートフォリオのシャープ・ レシオを最大化するように株式のウェイトを決めると 想定します。これにより、ベスト・アイディアは推定 1.5 アルファが最大の株式と、定義づけが簡略化されます。 1.0 他の想定にならい、推定アルファの定義も、銘柄に特 定の差異と、マーケットポートフォリオに対するアク 0.5 0.0 ティブ・ウェイト(論文では「ティルト」と呼ぶ)だ H H* G CV 集中度の評価尺度: H: ハーフィンダール指数; H*:標準化したハーフィンダ ール指数; G: ジニ係数; CV: 変動係数。上記は過去のパフォーマンスです。 過去のパフォーマンスは将来の結果について保証するものではありません。 上記のデータは、ラザードのいかなる商品や戦略をも示すものではありませ ん。調査対象のファンド数は2,080です。十分位の10-1の統計上の有意 性:上図―H*の優位性は10%水準、CVの優位性は5%水準。下図―H*の けを必要とするように簡略化されました。 こ れ は「 マ ー ケ ッ ト・ ア ル フ ァ」 と 名 付 け ら れ ま す。 推定アルファの第 2 の尺度は、時価総額加重ポートフォ リオに対する運用者の保有銘柄のアクティブ・ウェイ 優位性は5%水準。 トを用い、「ポートフォリオ・アルファ」と名付けられ Source: Baks, Busse, and Green (2006); Table 6 ます。次には、ベスト・アイディアを探すために、ファ ンド・ユニバースをスキャンします。 んでした。x 分散型ファンドの下位と上位の保有銘柄の パフォーマンスの乖離は大きく、銘柄選択が不振であ ることが示されます。 下 位 の 保 有 銘 柄 の 全 般 的 な ア ウ ト パ フ ォ ー マ ン ス は、 小型の低流動性銘柄が好まれる時期であったためかも しれず、高い確信度のウェイトは、高流動性の大型株 を保有する制約を受けがちで、大型株より小型株が好 まれる相場であったかもしれないというのが論文の著 者たちの見解です。 運用者によってはベスト・アイディアには、極小のティ ルトがあり、高い確信度を示さず、「隠れパッシブ」の きらいがあるものもあり得ます。この問題を排除する ために、ファンドサンプルの内、ベスト・アイディア の 上 位 25% の み を 考 察 し ま し た。( こ の 制 限 は 後 に 緩 和され、興味深い結果が得られました。) 検証結果の最初のポイントは、プロの投資家はベスト・ アイディアの分布を見て「注目株」を追い求めるとい うイメージは誤りであることがわかりました。 ベスト・アイディア どの時点であっても、運用者の数ほど多数のベスト・ア 論文「ベスト・アイディア」(コーエン、ポルク、シリ、 (非現実的ですが、全員が同じ銘柄をベスト・アイディ 2010 年)は運用者の高い確信度ポジションの運用成績 アにすること)も考えられます。期間全体を通して、ベ の評価をさらに探求しています。 スト・アイディアの重なりは少ないことがわかりました。 著 者 た ち は、 運 用 者 の ポ ー ト フ ォ リ オ 組 成 手 法 が つまり、運用者たちはかなり異なる見方をしているの CAPM アルファを示唆する点に基づき、運用者のベス です。6 割程度のベスト・アイディアは運用者 1 名しか ト・アイディアを定義する方法を開発しました。 保有していず、同時期に運用者 2 名がベスト・アイディ 推定アルファが最も高い銘柄を「ベスト・アイディア」 イディアがあったり、あまりに少なく一つであること アとしているのは 18% 弱でした。 とし、ベスト・アイディアのポートフォリオの個別銘 運用成績については、ベスト・アイディアは好成績で 柄をグループ分けして運用成績を検証しました。他の し た。 ベ ス ト・ ア イ デ ィ ア は 4 と 6 の フ ァ ク タ ー・ ア 実 証 研 究 と 同 様、 運 用 者 の サ ン プ ル は、1984 年 か ら ルファでプラスとなり、大半の場合、これは統計的に 2007 年までの米国株投信で構成されます。 有意です。研究者たちは当初はベスト・アイディアの 10 図 表 5 ベスト・アイディアのパフォーマンス (1985年1月 から 2007年12月) 4つのファクター・アルファ、月間(%) ファンド群の集中度を分類した結果、4と6のファク ター・アルファで、集中型ポートフォリオのベスト・ アイディアの方が運用成績は上回りました。著者たち 0.8 はこの洞察をうまくまとめて、以下のように結んでい 0.6 ます。「投資で集中できる運用者は、メンタルな意味で 0.4 も集中できるのかもしれない。ベスト・アイディアの 選択に一層、力を尽くせるのかと思われる。」 0.2 0.0 Top Top Top Top Top Top Top Top 100% 100% 50% 50% 25% 25% 5% 5% Market Portfolio Market Portfolio Market Portfolio Market Portfolio Alpha Alpha Alpha Alpha Alpha Alpha Alpha Alpha 集 中 型 ポートフォリオのリスクは 大きいか? マーケットアルファはマーケットポートフォリオに対するベスト・アイディ 「分散投資対集中投資、どちらが勝つか?」( イェン他、 ア。ポートフォリオアルファのランク付けは、各運用者のポートフォリオに 2012 年 ) という研究論文は、様々な投資手法や運用資 対して行なう。上記は過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは 将来の結果について保証するものではありません。上記のデータは、ラザー ドのいかなる商品や戦略をも示すものではありません。調査対象の2007年 のファンド数は1,348。全期間を通し、特異なファンド数は示されませんで した。統計上の有意性:マーケットアルファ上位5%は10%水準、ポートフ ォリオアルファ上位100%は10%水準、上位50%は5%水準、上位25%は 1%水準、上位5%は1%水準。 Source: Cohen, Polk, and Silli (2010); Tables 2 and 3 産 額、 投 資 家 ベ ー ス の 米 国 の 株 式 投 信( 銘 柄 数 40 以 上 ) を 検 証 し ま し た。1999 - 2009 年 の 四 半 期 デ ー タ を用い、各分散型投信(銘柄数 40 以上)のアクティブ なウェイトを測り、そのウェイト別に並び替え、集中 型ポートフォリオを作りました。 次に、運用者の確信度の高い銘柄と著者たちが解釈し 上 位 25% し か 考 察 し ま せ ん で し た が、100% か ら 上 位 5% ま で を も 検 証 し ま し た( 前 述 で 定 義 し た 最 大 ア ル ファのティルトは、高い確信度のポジションを示唆し ます)。 全てのベスト・アイディアは、たとえティルトが小さ た最大のアクティブ・ウェイトを使い、集中型ポート フォリオを構築しました。それは 5 銘柄(トップ 5 の アクティブ・ウェイト)から 30 銘柄(トップ 30 のア クティブ・ウェイト)までの幅があり、ポジションの 規模は確信度合いの加重になりました(アクティブ・ ウェイトの大きさで加重される)。 くても良好な結果となり、特に上位 5% は好成績でした (図表 5)。 この論文はまた、各運用者のベスト・アイディアをポー 図 表 6 集中型ポートフォリオは元となる分散型ポ ートフォリオをアウトパフォーム トータルリターン トフォリオのその他の部分と比較し、「ベスト-それ以 ポートフォリオ 外」のスプレッドも出しています。さらに 3 つのベス Top 5 10.77 26.33 0.28 ト・アイディアとその他、5 つのベスト・アイディアと Top 10 9.39 23.40 0.26 その他の比較もしました。 Top 15 8.67 21.83 0.24 Top 20 8.12 20.65 0.23 パフォーマンスは好調なものの、次点のアイディアが Top 25 7.78 19.79 0.22 Top 30 7.44 19.13 0.21 All Funds 6.30 19.51 0.17 Own Index 5.05 19.96 0.08 追加されるにつれ、低下します。これは上位のアイディ アをランク付けする良い方法で、ティルトの規模は運 用者の確信度を反映するという観察結果を裏付けます。 (年率:%) 標準偏差 (年率 : % ) シャープレシオ 1999年から2009年までの期間 上記は過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果につい 当然出てくる次の疑問は、集中型ファンドのベスト・ アイディアの方が効果を発揮するかどうかです。この 論文では、標準化したハーフィンダール指数を使って て保証するものではありません。上記のデータは、ラザードのいかなる商品や 戦略をも示すものではありません。調査対象のファンド数は4,723です。 Source: Yeung et al. (2012) 11 確信度に基づいた加重手法の結果(図表 6)から、集中 型ポートフォリオの絶対リターンは、派生の元となっ た分散型ファンド、並びに対応するベンチマークをア ウトパフォームしたことがわかりました。また、集中 型ポートフォリオの運用成績は、集中の度合いが増す につれて改善しました。 さらに、集中型ポートフォリオの保有銘柄数が減るに つれ、標準偏差は高まり、対応するシャープ・レシオ も高まる、つまりリスク調整後の結果が改善すること まとめ 考察した大半の研究は、集中投資の効果を表していま すが、集中型ポートフォリオの実際の結果は一様では あ り ま せ ん。 集 中 投 資 の 主 張 は 無 効 で は な い も の の、 全ての投資戦略はどんな場合もうまく働くわけではな いとの戒めになります。 実証研究から集めたデータの検証では予期しましたが、 集中戦略に関しては、投資家は考慮すべき点は多くあ が読み取れました。 ります。データの源泉、期間、投資ユニバース、手法 他に興味深い点は、ポートフォリオの集中度合いが増 る最良の尺度についてコンセンサスはないことが重要 すにつれて標準偏差は高まりますが、25 から 30 の銘柄 なのかもしれません。そのため、複数の手法を使うこ 数の標準偏差は、分散型ポートフォリオの標準偏差に とは有益です。 極めて近い水準にとどまることです。 検 証 結 果について イェンたちの研究は、異なる時期の米国株投信の高い 確信度のポジションの運用成績を評価しました。これ らのケースでは、高い確信度のポジションの運用成績 は銘柄選択のスキルを示し、ポートフォリオによって は高い確信度の株のみを保有すれば成績が向上するこ とを示唆しています。 イ ェ ン た ち(2012 年 ) は、 集 中 型 ポ ー ト フ ォ リ オ の ボラティリティを直接説明しますが、他のリスクの側 面の考察も重要です。集中型と分散型のファンド間で、 ある時期の総合ボラティリティは同等かもしれません が、資金流出などの考慮は極めて重要かもしれません。 資金流出が起きると、投資家が戦略を見捨てて、長期 投資計画に影響を与える可能性もあります。今回、検 証した論文ではこのような議論はありませんでしたが、 今後の調査で取り上げると面白そうです。リスク管理 については、各運用会社の銘柄選択活動を支えるリス ク管理の枠組みの理解は、投資家には欠かせません。 は研究ごとにかなり異なります。集中度合いを査定す 200 銘柄よりも 20 銘柄の深い調査をする方が明らかに 楽に見えるかもしれませんが、集中投資は豊富なリソー スを必要とし、特に細心のリスク管理が欠かせない点 を強調させてください。 投資は複雑なプロセスであり、単純明快な解決はめっ たにありません。その点を念頭に入れると、集中戦略は、 アクティブな株式投資の唯一の手法ではないかもしれ ませんが、資産配分にあたって極めて価値のあるツー ルになりえ ると考えられ ます。 12 その 他の 研究 本稿は本題「集中型投資」に関する主要研究をおさえていると考 付録 公式 アクティブ運用の基本法則 えますが、関連論文は他にもあり、ここでご紹介します。以下の 論文の大半が用いる手法は、本稿で検証した手法とかなり類似し 集中係数 ています。いくつかの論文は、体系的な要因(業種セクターなど) へのエクスポージャーの集中度を使っていたため、トラッキング・ エラーを通じての集中度を測っています。本稿はポートフォリオの 保有銘柄やウェイトの意味合いでの集中度を追求しましたが、 「集 ハーフィンダール指数 中」という言葉の他の解釈を議論することも重要です。 • ブランズ、ブラウン、ギャラガー(2005年):1995年から2001 業界集中指数 年までのオーストラリアの株式ファンドの集中度を扱った論文。集中 型ファンドは好成績となり、集中度は相対ベンチマーク・リターン、 並びに1つと4つのファクター・アルファ尺度でプラスの相関性があ りました。 • 標準化したハーフィンダ ール指数 エリ(2014年):機関投資家投資データサービスのeVestment社 の、保有銘柄数をベースにした機関投資家データを比較。米株式と国 際株式のユニバースで集中型の運用者のパフォーマンスが上回りまし た。 • ジニ係数 ハライとダーウォール(2011年) :グローバル株式ファンドの検証。 トラッ キング・エラーの高さで集中度を定義(保有銘柄やウェイトよりエクスポー ジャーに注目)。 トラッキング・エラーが高いファンドが低いファンドをアウト 変動係数 パフォーム。スタイルや国の要因に関するポジショニングでブレスが大き いファンドの成績は強化されました。 • イヴコヴィッチ他(2004年):個人投資家のパフォーマンスを証券 会社の口座をベースに検証。集中型のポートフォリオを保有する世帯 の方が、保有銘柄数が多い世帯より、銘柄選択が優れている証拠を示 しました。 • J.P.モルガン(2014年):1980年から2014年までのラッセル 「集中ポートフォリオ」と「ポートフォリオの集中」という表現で以下のソース からの検索も行いました。なお、各検索は初期設定の結果以外はあまり関連性の ある結果ではなかったため、最初の結果だけを当てにしました。 The Journal of Finance • Journal of Financial Economics • The Review of Financial Studies • Journal of Financial and Quantitative Analysis グ・エラーが高いファンドは低いファンドをアウトパームしたことが • Financial Analysts Journal 検証されました。 • SSRN セバスチャンとアタリューリ(2014年):高い確信度戦略は、スキ • Google Scholar ルが高いことを見い出し、高い確信度関連の論文の要約表をつけてい • Institutional Investor Journals • Factiva 証。4割の銘柄が、ピークから7割以上下落し、戻りは最小という「 壊滅的な」下落を経験したことがわかりました。この検証結果から、 ある程度の分散化と細心のリスク管理の重要さがわかります。 • 論文の主要ソースは、引用した論文の参考文献セクションです。しかし、当社は • 3000指数の構成銘柄となった全社の個別株式パフォーマンスを検 • 検索の基準 ニールセン他(2012年):グローバル株式ファンドでトラッキン ます。興味深いことに、この論文は投資家の高い確信度も集めていま す。(アクティブ戦略を求める資産配分者は、真のアクティブ戦略を 探すべきです。) • ヴァーマーズ(2003年):対ベンチマークのリスクの高さで測った ビッグ・ベットをとる投信は概ね、ベットを取る分は埋め合わされる ことを示しました。 *本稿に記載された研究論文の題名は、英語の題名を便宜上、和訳したものであり、正式な邦題というわけではありません。 13 分 散と 銘 柄 数 ポートフォリオの標準偏差は、1 番から 10 番の銘柄まで は大きく下がり、その後のリスク軽減率はかなりなだらか に下がります。この計算は仮想上であることをご留意くだ さい。ポートフォリオの標準偏差については理論上の計算 に基づき、標準偏差と相関性は仮定を用いて、取引費用は 考慮していません。 仮想ポートフォリオのリスク軽減率 銘柄数 ポートフォリオの標準偏差(%) 1 49.2 2 36.2 3 30.6 4 27.4 5 25.3 6 23.8 7 22.6 8 21.7 9 21.0 10 20.4 20 17.5 30 16.4 40 15.8 50 15.4 計算の仮定は、一銘柄の標準偏差は49.2%で、個別銘柄 間の平均相関性は0.08、かつポートフォリオは均等加重 です。この仮定はスタットマン(2004年)により、スタ ットマンは各種論文から引き出しています。 Source: Lazard 14 References Baks, Klass P., Jeffrey A. 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Notes 1 MFS. “America’s First Mutual Fund: A guide for long-term investors.” October 2014 2 Chambers and Dimson (2012) 3 We counted the number of common stocks shown in annual letters. Source: http://www.hedgefundletters.com/graham-newman/ 4 See Markowitz (1952) 5 See the Appendix for a brief explanation on these results. 6 Important practical portfolio constraints on the results of the Law are discussed in Clarke, de Silva, and Thorley (2002). 7 To get a sense of the practical values that can be attained for IC, Siegel and Scanlan (2014), mention that based on history an IC of 0.05 would be reached by the very best managers, with most falling below this value. 8 The five groups are: closet indexers, moderately active, factor bets, concentrated, and stock pickers. Importantly, “concentrated” in the study’s context was applied to funds in the highest tracking error quintile that were also in the highest active share quintile, and not in the context related to the number of holdings. These funds are thought to be stock pickers which concentrate in one particular industry, thus the higher tracking error. 9 See AQR “Deactivating Active Share.” 10To complement their four-factor analysis, the authors conducted the characteristic and timing-based attribution described in “DGTW.” (DGTW = Daniel, Grinblatt, Titman, and Wermers, 1997) 11Simplifying assumptions include: the aggregate market risk aversion and each manager’s risk aversion is the same, and each fund has a beta of 1. 12The six-factor model used by the authors adds a high versus low volatility factor and a short-term reversal factor to the traditional four-factor model. We present only four-factor results, as the six-factor model is not widely used. 13This study is discussed in greater detail in our Investment Focus, Less Is More: A Case for Concentrated Portfolios. Important Information Published on 27 August 2015. Information and opinions presented have been obtained or derived from sources believed by Lazard to be reliable. Lazard makes no representation as to their accuracy or completeness. All opinions expressed herein are as of 25 August 2015 and are subject to change. This document reflects the views of Lazard Asset Management LLC or its affiliates (“Lazard”) and sources believed to be reliable as of the publication date. There is no guarantee that any projection, forecast, or opinion in this material will be realized. Past performance does not guarantee future results. This document is for informational purposes only and does not constitute an investment agreement or investment advice. References to specific strategies or securities are provided solely in the context of this document and are not to be considered recommendations by Lazard. Investments in securities and derivatives involve risk, will fluctuate in price, and may result in losses. Certain securities and derivatives in Lazard’s investment strategies, and alternative strategies in particular, can include high degrees of risk and volatility, when compared to other securities or strategies. Similarly, certain securities in Lazard’s investment portfolios may trade in less liquid or efficient markets, which can affect investment performance. LR25683 2015年8月 ご留意事項 本資料は、「集中型投資についての考察」 を説明することを目的として、ラザード・アセット・マネージメント・エ ルエルシー が上記時点に作成した資料を、ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント株式会社が、翻訳・編 集したものです。本資料における統計等は、信頼できると思われる外部情報等に基づいて作成しておりますが、そ の正確性や完全性を保証するものではありません。本資料中の数値、図表、見解や予測などは本資料作成時点での ものであり、予告なく変更する場合があります。尚、本資料中の過去の実績に関する数値、図表、見解や予測など を含むいかなる内容も将来の運用成績を保証するものではありません。また、本資料で言及する個別銘柄について、 いかなる勧誘・推奨をするものではありません。本資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その 他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。 ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 469 号 加入協会:一 般 社 団 法 人 日 本 投 資 顧 問 業 協 会 重要事 項 会 社 概 要 商号 ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント株式会社 住所 〒107-0052 東京都港区赤坂二丁目11番7号 赤坂ツインタワー(ATT)新館 電話 03-4550-2700 登録番号等 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第469号 加入協会 一般社団法人 日本投資顧問業協会 設立 1987年8月14日 資本金 3億円 主要株主 ラザード・アセット・マネージメント・エルエルシー 100% リスク情報 本資料に記載された運用戦略では、主に値動きのある株式等の有価証券を投資対象としているため、組入れ証券 の価格下落や、組入れ証券の発行会社・発行体の倒産や財務状況の悪化により影響を受けます。また、外貨建資 産に投資しますので、為替の変動、投資国の政治・経済情勢、為替規制、資本規制等による影響を受けます。し たがって、投資家の皆様の投資元本は保証されるものではなく、損失を生じることがあります。 投資顧問報酬について 投資一任契約に係る投資顧問報酬は組入資産の内容と投資形態により、当社規定の料率を提示させていただき ますが、最終的にはお客様との個別協議に基づき決定いたします。また有価証券売買手数料、外貨建資産の保管 費用や消費税等は別途諸費用として発生いたしますが、運用状況により変動するものであり、事前にその総額を 表示することはできません。 *投資一任締結契約のお申込みにあたっては、必ず契約締結前交付書面をご確認ください 個人情報 の 利 用 目 的 に つ い て 当 社 は、 お 客 様 の 同 意 を 得 た 場 合 及 び 法 令 等 に よ り 例 外 と し て 取 り 扱 わ れ る 場 合 を 除 き、 以 下 の 目 的 の 達 成 に 必要な範囲内においてのみ個人情報利用いたします。 ① 投資助言業務および投資一任契約に関する業務のため ② 商品情報およびサービス提供業務のため(今後法令等により取扱いが認められる業務を含みます。) ③ 社内における管理、例えば新規または既存のお客様とのお取引等を管理するため ④ 投資行動に関する情報の提供等を含むお客様へのサービス提供のため ⑤ 事務処理、新規顧客獲得を含むマーケティング活動のため ⑥ 適合性の原則等に照らした商品サービスのご提供を判断するため ⑦ その他、お客様とのお取引の適切かつ円滑な履行のため また、当社は以下の目的で、当社の関係会社に対して、お客様の個人情報を共同して利用する場合があります。 ① 関係会社間で情報を共同して利用することで、より効率的且つ確実なサービスをお客様に提供するため ② リスク管理、コンプライアンス・チェック等に利用することによって、会社内の法令遵守体制及び関係会社間 における内部管理体制の向上を図るため ③ お客様との投資一任契約に基づくお取引に関する事務処理・審査のため ④ 国際的なデータベースに記録を集約し一元的に保管、管理するため
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