HYDRUS-3D を用いた FOEAS 設置圃場における除塩の評価 Evaluation of the Desalinization Effect of FOEAS using HYDRUS-3D 池田和弥 1・坂井勝 1・取出伸夫 1・原口暢朗 2・宮本輝仁 2 三重大学大学院生物資源学研究科・2(独)農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所 1 要旨 津波によって塩害が危惧されている透水性が悪い圃場では,地下水位制御システムの導入による 除塩が期待されている.そこで 3 次元土中水分・溶質移動シミュレーションを行うことで幹線パ イプが除塩に与える影響を定量的に評価することを目的とした.計算の結果,下端からの塩分溶 脱に比べ,降雨後の幹線パイプからは大きな排出が生じ,作土層の溶質量が減少した. テーマ:土壌物理研究の最前線 Trend in Soil Physics キーワード:塩分移動,除塩,FOEAS,HYDRUS-3D Key words: solute transport,desalinization,FOEAS,HYDRUS-3D 1.はじめに 東日本大震災で津波被害を受けた農地では, 土層は縦 900 cm,横 100 cm,深さ 80 cm とし た(図 2) . 除塩による早期復旧が望まれ,また残存塩分の 計算には HYDRUS-3D を用い,2014 年 8 月 上昇による塩害が懸念されている.特に透水性 を計算期間とした.計算に用いた水分特性曲線 が悪い難除塩地区の農地では,地下水位制御シ を図 3 に示す.土層の 0~15 cm 深を作土層(飽 ステム「FOEAS」の塩分濃度低下効果と塩分上 和透水係数 Ks = 10 cm/day),15 cm 深以下を心 昇抑制効果が期待されており,現場観測が進め 土層とし(Ks = 0.01 cm/day),幹線パイプと暗 られている. 渠には高い透水性を与えた (Ks = 10000 cm/day). FOEAS の地下潅漑や排水の役割を評価する 土層の水分境界条件は,側面部には幹線パイプ には,土中水分・溶質移動シミュレーションが 出口を除き全てゼロフラックスを,下端には 有効であるが,弾丸暗渠と幹線パイプが直行す 60 cm 深の地下水位として 20 cm の一定圧力を るため,3 次元の数値計算が必要である.そこ 与えた.上端には 2014 年 8 月の亘理町の気象 で本研究では,現場観測が行われている宮城県 データを用い,降雨と Hargreaves 式で求めた可 亘理町の FOEAS 設置圃場を対象に 3 次元土中 能蒸発速度を与えた(図 4).側面の幹線パイプ 水分・溶質移動シミュレーションを行い,幹線 出口部は,幹線パイプからの排水ありの条件と パイプからの排水が除塩に与える影響を定量 排水なしの条件を想定し,それぞれ浸出面とゼ 的に評価することを目的とした. ロフラックスを与えた.下端の塩分境界条件に 2.計算方法 は,濃度 1 mg/cm3 の地下水を想定しフラック 宮 城 県 亘 理 町 の 圃 場 ( 30 m× 100 m) の ス境界条件を与えた.圧力初期条件は下端 20 FOEAS 区には,深さ 55 cm に幹線パイプと支 cm の水理学的平衡分布を,塩分初期条件は圃 線パイプ(管径 10 cm)が 9 m 間隔で,深さ 26 場の実測値を与えた. cm に弾丸暗渠(管径 8 cm)が幹線パイプと直 計算土層のメッシュ間隔は 10 cm とし,上端 交するように 1 m 間隔で施工されている(図 や下端,幹線パイプは 5 cm とした.数値計算 1) .圃場内の水分移動の対称性を考慮し,計算 を安定化するため,比較的大きな分散長 (Disp.L = Disp.T = 10 cm)と拡散係数(2 1m 幹線パイプ 暗渠 給水口 排水口 計算土層 2 cm /day)を与えた. 3.結果と考察 図 5 に幹線パイプ及び下端からの積算塩 1m 9m 9m 30m 分排出量を示す.いずれも 8/7 の降雨以降に 排出が生じ,特に幹線パイプ開放条件の幹線 パイプからは 8/8~13 で多量の塩分が排出 された.8/31 までの総排出量は,下端からは 100m 図 1. FOEAS 設置圃場概略図 幹線パイプ開放条件で 9 g,閉鎖条件で 23 g であったのに対し,幹線パイプからはおよそ 100 cm 300 g であった.これは,透水性の低い心土 層を通る地下水への溶脱よりも,透水性の高 幹線パイプ い弾丸暗渠,疎水材を通る幹線パイプからの 排出が大きいことを示している.図 6 に作土 層の土単位体積あたりの溶質量を示す.両条 55 cm 15 cm 26 cm 件とも降雨後の 8/7 日から溶質量が減少し, 65 cm 暗渠 8/10 日頃に幹線パイプ開放条件の溶質量が 閉鎖条件に比べ減少した.このことから,土 図 2. 計算土層と幹線パイプ,暗渠の配置 の透水性が悪い圃場における FOEAS 幹線パ イプを用いた除塩の効果が示された. Evaporation Rate (cm/day) 幹線パイプ 弾丸暗渠 心土層 疎水材 0 作土層 1 10 100 1000 Pressure Head (cm) 30 100 10 0 8/10 8/20 8/15 8/25 8/30 Date 2 8/5 8/10 8/20 8/15 8/25 8/30 0 Date 20 8/5 0.2 図 4. 2014 年 8 月亘理町蒸発量及び降雨量 200 0 4 0 Cumulative Bottom Solute Flux (g) Cumulative Solute Flux from Main pipe (g) Main pipe Precipitation 0.4 10000 図 3. 水分特性曲線 300 6 Evaporation 図 5. 幹線パイプ及び下端からの積算溶質排出量 Solute Concentration (mg/cm3soil) 0.5 0.6 0.5 Open Close 0 8/5 8/10 8/20 8/15 8/25 8/30 Date 図 6. 作土層の土単位体積あたりの溶質量 Precipitation (cm/day) Volumetric Water Content (cm3/cm3) 1
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