「20万床削減」で病院界が募らす「猫の目行政」への不信、を読んで。 日本医師会会長 横倉 義武 先生 「2025年」に向け、地域医療構想によって病床の機能分化を進 めることは必要な施策である。また、地域包括ケアシステムの下、 高齢者がなるべく住み慣れた地域で日常生活を営めるよう、在宅 療養も積極的に推進していかなければならない。 しかし、国や都道府県が目標値を定めて一律に推し進めること は適切ではない。記事で引用の筆者発言の通り「必要な病床数は 地域の事情によってさまざま」だからである。地域医療構想では、 慢性期の病床機能は在宅医療等と一体的に将来需要を推計するとされており、その必要病 床数や在宅患者数も、人口の集中・散在、在宅の基盤整備の進捗具合等地域の実情に応じ て算定されなければならない。その結果、ある構想区域では慢性期の必要病床数の方が多 く、別の区域では在宅の方が多いということにもなる。在宅一辺倒ではなく、「施設も、 在宅も」という考え方が大切である。 そもそも、今でさえ在宅の受皿が十分整備されているとはいえないのに、約30万人の在 宅患者を追加的に受け入れるキャパシティが10年後までに準備できるのであろうか。やは り「机上の空論」と言わざるを得ない。 また、内閣官房による今回の公表は事前報道も含め、厳しい経営環境下にある医療機関 経営者、さらには患者・家族にも深刻な不安、混乱をもたらした。国には医療の現場や患 者の目線に立った丁寧な政策指針の提示・説明が求められる。とはいえ、病床削減と在宅 移行は、病床区分の明確化とともに国の方針であり続けてきた。先般、療養病床のあり方 を議論する厚生労働省検討会が設置されたが、在宅医療や新たな施設類型も検討対象とさ れている。 日本医師会としては、各医療機関の自主的な病床機能選択によって各地の機能が次第に 収れんされていくとする地域医療構想を進めるとともに、入院や在宅で長期の療養を必要 とする患者のために地域包括ケアシステムの構築を支援していく方針である。あわせて、 記事で病床削減の最大の目的は「国の持ち出し」を抑えることにあると断じているが、日 本医師会は、健康寿命の延伸と過不足のない医療提供体制の構築こそが、本来あるべき医 療費適正化であると主張している。 最後に記事中、先進国でも日本の人口当たり病床数は「飛び抜けて多い」とあった。国 により病床の定義が異なり単純比較はすべきではなく、また日本の医療はきちんと実績を 示してきたことを改めて指摘させていただく。
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