報告原稿全文

第2分科会 大学図書館/利用教育
学習支援の次なる Step
―ラーニング・コモンズと情報リテラシーの
おいしい関係―
概要説明 イントロダクション
岡部幸祐(東京大学附属図書館)
講 演 学修支援と情報リテラシー―新しい学びの基盤づくりに向けて―
野末俊比古(青山学院大学)
講 演 ラーニング・コモンズ 2.0―実質化に向けた次のステップ―
小山憲司(日本大学)
講 演 「ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 実践事例普遍化小委員会報告」の読
み方
内島秀樹(神戸大学附属図書館)
事例報告 お茶の水女子大学附属図書館における『高等教育のための情報リテラシー基準』の活
用事例
餌取直子(お茶の水女子大学附属図書館)
事例報告 筑波大学附属図書館における『高等教育のための情報リテラシー基準』活用事例報告
村尾真由子(筑波大学附属図書館)
トークセッション「ラーニング・コモンズと情報リテラシーのおいしい関係」
岡部幸祐・野末俊比古・小山憲司・内島秀樹・餌取直子・村尾真由子
中等教育から生涯学習に至るまで,問題解決を志向する
分科会概要
主体的な学びには欠かせない。他館種と経験・蓄積も共
大学図書館における学習(学修)支援の中心的テーマ
有し合いながら,図書館界としての枠組みづくりが求め
となっているのが,ラーニング・コモンズと情報リテラ
られている。
シー教育である。通常,この二つは別々に語られること
国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会が作
が多いが,本当は赤ワインとチーズのようにとても相性
成した「高等教育のための情報リテラシー基準 2015
が良い。アクティブラーニング(主体的な学び)には,
年版」「ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 汎用的技能としての情報リテラシーが欠かせないよう
実践事例普遍化小委員会報告」を踏まえて,情報リテラ
に。
シー基準とはどういう意味を持つものなのか,ラーニン
「課題を認識し,その解決のために必要な情報を探索
グ・コモンズと呼ばれる図書館における学習スペースは
し,入手し,得られた情報を分析・評価,整理・管理し,
どのように活用されるべきなのか,学習(学修)支援の
批判的に検討し,自らの知識を再構造化し,発信する」
実質化に向けた次のステップとして,図書館が「学び」
能力。情報リテラシーは,高等教育にとどまらず,初等・
にどう関わるのかを考えたい。
― 1 ―
※本第 2 分科会は第 21 分科会と合同開催となりました。
ラーニング・コモンズを,大学の使命を実現するための
全学的なサービスとしていかに機能させるかについて,
(谷口豊:日本体育大学図書館)
図書館サービスという視点から検討した。併せて,海外
の 2 大学の事例を取り上げ,人的支援の具体例を紹介す
概要説明
るとともに,場という機能によって生み出される研究や
教育,学習のあたらしいかたちについても言及した。
イントロダクション
岡部幸祐(東京大学附属図書館)
講演要旨
「ラーニング・コモンズの
在り方に関する提言 実践事例普遍化
小委員会報告」の読み方
第 2 分科会では,
『高等教育のための情報リテラシー
基準 2015 年版』及び『ラーニング・コモンズの在り方
に関する提言 実践事例普遍化小員会報告』をもとに,
情報リテラシー教育とラーニング・コモンズの活用を総
内島秀樹(神戸大学附属図書館)
合的に捉えて,図書館が「学び」にどう関わっていくの
かを考える。
ここでは,この分科会の全体のながれと『高等教育の
国立大学図書館協会は平成 24 年度から教育学習支援
ための情報リテラシー基準 2015 年版』の概要について
検討特別委員会を設置している。特別委員会を構成する
説明する。
2 つの小委員会のうち,実践事例普遍化検討小委員会は,
「ラーニング・コモンズの学習環境デザインについての
事例研究及び普遍化」について調査・研究を行い,その
講演要旨
検討結果を踏まえて「ラーニング・コモンズの在り方に
学修支援と情報リテラシー
―新しい学びの基盤づくりに向けて―
関する提言」を公開した。この提言内容について解説を
行う。
野末俊比古(青山学院大学教育人間科学部)
事例報告要旨
お茶の水女子大学附属図書館における
『高等教育のための情報リテラシー
基準』の活用事例
大学図書館における学修支援について,情報リテラ
シー教育を中心に,論点の整理を試みる。まず,学修支
援としての図書館サービスについて,図書館資源に着目
して検討する。ついで,学修支援における柱である情報
餌取直子(お茶の水女子大学附属図書館)
リテラシー教育について検討する。最後にアクティブ
ラーニングにも言及する。
お茶の水女子大学附属図書館では,担当を越えたメン
バーが情報リテラシー教育に取り組んでいる。
講演要旨
講習会の内容については,試行錯誤しながら,より大
ラーニング・コモンズ 2.0
―実質化に向けた次のステップ―
学の学びに相応しい内容となるよう修正を加えている。
しかしながら,本当に講習会が役立っているかどうかの
検証も難しく,内容について不安も抱えていた。
小山憲司(日本大学)
この事例報告では,
『情報リテラシー基準』をどのよ
うに内容の見直しに役立て,活用しているかを報告する。
文部科学省の調査によれば,2014 年 5 月 1 日現在,
アクティブ・ラーニング・スペースを設置する大学は,
338 校
(43.4%)
であった。一般にこうした学習空間はラー
ニング・コモンズと呼ばれ,急速にその整備が進んでい
る。本稿では,施設・設備の整備に注目が集まりがちな
― 2 ―
事例報告要旨
筑波大学附属図書館における『高等教
育のための情報リテラシー基準』
活用事例報告
村尾真由子(筑波大学附属図書館)
筑波大学附属図書館における『高等教育のための情報
リテラシー基準』の活用事例として,①本基準「参考
活用体系表(例)
」のカスタマイズによる「筑波大学附
属図書館 学習・研究支援体系図 2015」の作成,②広報
への活用,③実施プログラムの振り返りへの活用につい
て報告する。
― 3 ―
1.課題を認識する。
概要説明
2.情報探索を計画する。
イントロダクション
3.情報を入手する。
岡部幸祐(東京大学附属図書館)
4.情報を分析・評価し,整理・管理する。
5.情報を批判的に検討し,知識を再構造化する。
○『高等教育のための情報リテラシー基準
2015
2-0
本文 年版』と『ラーニング・コモンズ
岡部
の在り方に関する提言 実践事例普遍化
小員会報告』について
○『高等教育のための情報リテラシー基準 2015 年版』
国立大学図書館協会では,平成
24 年度に「大学図書
と『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言
実践
館における教育学習支援機能充実のための諸方策につい
事例普遍化小員会報告』について
ての調査研究を行う」ことを目的に,教育学習支援検討
国立大学図書館協会では,平成 24 年度に「大学図書
6.情報を活用・発信し,プロセスを省察する。
学習者は,これら 6 つの場面を必要に応じて前の場面
に戻ったりしながら課題解決を進めていくことになる。
に戻ったりしながら課題解決を進めていくことになる。
大切なのは,その過程でプロセスを振り返り,自己の情
大切なのは,その過程でプロセスを振り返り,自己の情
報活用行動を適切に調整していくことを学ぶことであ
報活用行動を適切に調整していくことを学ぶことである。
る。そして,この作業を積み重ねて,基礎的なレベルか
そして,この作業を積み重ねて,基礎的なレベルから次
ら次第に高いレベルの能力を身に付けることになる。
第に高いレベルの能力を身に付けることになる。
特別委員会が設置された。委員会では,
「教育課程と連
館における教育学習支援機能充実のための諸方策につい
携した教育学習支援」
,
「先行大学における実践事例とそ
ての調査研究を行う」ことを目的に,教育学習支援検討
の普遍化」という観点から活動が進められ,
「情報リテ
特別委員会が設置された。委員会では,
「教育課程と連携
ラシー教育」と「ラーニング
・コモンズ」に焦点をあて,
した教育学習支援」,「先行大学における実践事例とその
普遍化」
という観点から活動が進められ,
「情報リテラシ
平成
26 年度まで検討が行われた。その成果が,上記の
ー教育」と「ラーニング・コモンズ」に焦点をあて,平
基準と報告書として,平成
27 年 3 月に取りまとめられ
1)
た成
。26 年度まで検討が行われた。その成果が,上記の基
準と報告書として,平成 27 年 3 月に取りまとめられた
1)。
○『高等教育のための情報リテラシー基準
2015 年版』の概要
○『高等教育のための情報リテラシー基準
2015 年版』
の概要
『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 実践
『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 実践
事例普遍化小員会報告』については,内島氏の講演にお
事例普遍化小員会報告』については,内島氏の講演にお
いて解説されるので,ここでは『高等教育のための情報
いて解説されるので,ここでは『高等教育のための情報
リテラシー基準 2015 年版』
(以下,
「情報リテラシー基準」
リテラシー基準 2015 年版』(以下,「情報リテラシー基
とする)の概要を説明する。
準」とする)の概要を説明する。
この「情報リテラシー基準」は,本体となる基準の理
この「情報リテラシー基準」は,本体となる基準の理
解を深めるため,全体を 5 章に分けて,第 1 章でこの基
解を深めるため,全体を 5 章に分けて,第 1 章でこの基
準を策定する経緯,意義及びこの基準の対象となる者を
準を策定する経緯,意義及びこの基準の対象となる者を
明らかにした上で,第 2 章で検討の基本姿勢を示し,第
明らかにした上で,第 2 章で検討の基本姿勢を示し,第
3 章では情報リテラシーの定義を試みている。続く第 4
3 章では情報リテラシーの定義を試みている。続く第 4
章で,この基準をどのように使ってもらいたいのかとい
章で,この基準をどのように使ってもらいたいのかとい
う使い方を記述し,最後には,より具体的な参考資料と
う使い方を記述し,最後には,より具体的な参考資料と
1.課題を認識する。
1.課題を認識する。
行動指標①
行動指標①
課題を認識し,その解決に必要な情報の範囲を定める。
課題を認識し,その解決に必要な情報の範囲を定
(構成要素)
める。
1.1 自 分が取り組むべき課題を識別し,その本質を
(構成要素)
して,活用体系表も添えられている。今回策定された基
して,活用体系表も添えられている。今回策定された基
準自体は第
5 章で紹介している。
準自体は第
5 章で紹介している。
把握する。
1.1 自分が取り組むべき課題を識別し,その本質
1.2 課 題を解決するために必要となる情報を把握す
を把握する。
情報活用行動プロセスの場面とレベル
情報活用行動プロセスの場面とレベル
各場面で学習者が取るべき行動は,行動指標として示
各場面で学習者が取るべき行動は,行動指標として示
され,それぞれの達成度を評価する目安となる具体的な
され,それぞれの達成度を評価する目安となる具体的な
行動が構成要素として記述されている。
行動が構成要素として記述されている。
る。
1.2 課題を解決するために必要となる情報を把
1.3 必 要となる情報と現時点で持っている情報を比
握する。
○情報活用行動プロセスの 6 つの場面
○情報活用行動プロセスの 6 つの場面
この基準では,課題解決のための情報活用行動プロセ
較し,新たに収集すべき情報の範囲を定める。
1.3 必要となる情報と現時点で持っている情報
この基準では,課題解決のための情報活用行動プロセ
スを 6 つの場面に分け,学習者のあるべき姿を提示して
を比較し,新たに収集すべき情報の範囲を定
いる。
スを
6 つの場面に分け,学習者のあるべき姿を提示して
める。
詳細は,「情報リテラシー基準」をご覧いただきたい。
いる。
1.課題を認識する。
詳細は,
「情報リテラシー基準」をご覧いただきたい。
2.情報探索を計画する。
3.情報を入手する。
4.情報を分析・評価し,整理・管理する。
― 4 ―○この基準の使い方
この基準は次のような使い方が想定されている。
○この基準の使い方
○「情報リテラシー基準」及び「提言」の活用
この基準は次のような使い方が想定されている。
事例報告した 2 つの図書館における試みも参考に,分
・図書館職員が学生への体系的な情報リテラシー教育を
科会参加者のみなさまにも「情報リテラシー基準」及び
企画・実施し,その成果を評価する手がかりとして利
「提言」を是非活用していただき,教育学習支援検討特
用する。
別委員会へそのフィードバックをお願いしたい。その中
・図書館職員が情報リテラシー教育を行う際の学習目標
の設定に利用する。
から図書館員同士のつながりが生まれ,図書館における
学習支援の活動を支えるコミュニティが作られることを
・教員との連携において情報リテラシー教育の学習目標
期待している。
の共有を図るために利用する。
・部署を超えた学内職員との連携による人的支援や図書
注
館の持つコンテンツの活用など,図書館を含む学習支
1)国立大学図書館協会のサイトにて公開されている。
援部門の持つ機能をさらに活かすために利用する。
http://www.janul.jp/
委員会>教育学習支援検討特別委員会
図書館が独自に行う講習会に活用するだけでなく,図
書館は教育支援として何ができるのか,図書館のパ
フォーマンスを提示するものとして,是非,教員との連
講 演
携,学内他部署との連携においても活用していただきた
学修支援と情報リテラシー
―新しい学びの基盤づくりに向けて―
い。
野末俊比古(青山学院大学)
○分科会のながれ
この分科会は,3 つの講演と 2 つの事例報告で構成さ
はじめに
れている。
大学図書館における学修支援について,情報リテラ
講演では,野末俊比古氏による「新しい学びと情報リ
シー(IL)教育を中心に,あらためて論点の整理を試み
テラシー -図書館における基盤づくりに向けて-」と
る。分科会における本講演の位置づけを踏まえ,結論を
小山憲司氏による「ラーニング・コモンズ 2.0 -実質化
提示するよりも今後の議論における材料を提供すること
に向けた次のステップ-」で学習支援の 2 大テーマであ
をめざす。
る,
「情報リテラシー」と「ラーニング・コモンズ」に
ついて現状を踏まえて今後のあり方を考察する。
続いて,
内島秀樹氏による「『ラーニング・コモンズの在り方に
1. 学修支援と図書館サービス
関する提言』の読み方,使い方」では,この報告の実際
いわゆる全入時代を迎え,大学教育はいま,「質保証」
的な活用方法についての解説を行う。
に向けた改革を迫られている。研究への(過度な)偏重
事例報告としては,特に「情報リテラシー基準」の活
を改め,教育をも重視しようという趣旨であろう。大学
用事例に焦点をあて,筑波大学附属図書館とお茶の水女
図書館においても,教育の支援,すなわち学修支援が重
子大学附属図書館での事例報告を行う。これは,基準自
視されている(本講演では,教育の支援のうち,学生を
体を理解してもらうだけでは,実際に活用することにす
対象としたものをもっぱら取り上げるため,「学修支援」
ぐには繋がりにくいと思いわれるためである。
と呼ぶこととする)
。大学の基本的な役割が研究と教育
最後に,トークセッションとして野末俊比古氏と小山
である以上,研究支援と学修支援は図書館にとって本来
憲司氏によるまとめとして,大学図書館における学習支
的な機能であるが,後者が強調されるようになったのは,
援の総括をお願いする。
これまで前者を(しばしば暗黙に)重視し(過ぎ)てい
たことのあらわれでもあろう。
学修支援の具体的な方策として,(しばしば「図書館
の使い方」を指導するという意味での)IL 教育が挙げ
られることが多いが,学修支援の機能は本来,図書館サー
― 5 ―
ビス全体によって果たされるものである。大学における
態様に対応しながら,三つの資源を有機的・連動的に活
学修の中心は学部・学科などのカリキュラムに基づく学
用したサービスの展開が求められる。
びであり,一連の授業科目について効果的・効率的な目
以下では,学修支援としてのサービスの柱である IL
標の達成に資する(図書館のみでなく学内各部署によっ
教育を取り上げて,いくつかの論点を挙げながら検討を
て実施される)あらゆる取り組みによって支援されるも
加えてみたい(注 2)。なお,ここでいう IL 教育は,デー
のである。
タベース講習会のような集合・対面によるものだけでな
図書館が(学習支援ではなく)学修支援を推進するこ
く,IL の修得・維持・向上を支援する意図的・計画的
とは,サービス全体を,学びにいかに資するかという観
な営みを広くカバーしており,パスファインダなどの
点から再定義・再構築することにほかならない。次項で
ツールを利用した間接的な方法によるものまでを含む。
検討してみるが,ここでは,サービスの基礎となる図書
館の資源に着目し,情報資源,空間(物的)資源,人的
資源の三つに区分して,
主たる論点のみを挙げる(注 1)。
4. 学修支援としての情報リテラシー教育
IL は,教育(学修)の目標,すなわち「学士力」や「社
会人基礎力」に象徴されるような,卒業時(まで)に修
2. 図書館における三つの資源
得すべき能力(のひとつ)と受け止められる。IL が大
情報資源をめぐっては,学修コレクション,すなわち
学における教育(学修)の目標として必須であることに
カリキュラム(授業)と連携した資料(情報)の選択や
異論はないであろう。しかし,各大学(図書館)におい
組織化,提供などはどうあるべきかが中心的な議論とな
て目標の「中身」が具体的に明示・共有されてきたとは
ろう。例えば,(授業ごとの指定・推薦図書を別置した
必ずしもいえない。
として)初学者である新入生と高度で専門的な研究を行
IL は,一方で,いわゆるアカデミックスキルとして
う教員とが同一の資料群を利用することの是非などにつ
の位置づけも有している。カリキュラム(授業)に沿っ
いてどう考えるか,ということである。なお,学修コレ
て学修を進めるのに必要な能力であり,学修の手段とし
クションがどう構成されるかは,要求される IL の内容
て不可欠なものである。データベースの利用法がわから
にも関わる問題でもある。
ず,文献を入手できないと学修が進められない場合もあ
空間資源をめぐっては,カリキュラム(授業)に基づ
ろう。しかし,手段として必要な IL の「中身」は,や
く授業時間外の(学修のための)学習に対応するには,
はり具体的に明示・共有されてきたは必ずしもいえない。
各種機器・備品を含め,どのような空間的(物的)なし
いま必要なのは,IL の「中身」,すなわち目標・内容
つらえが必要なのかがもっぱら議論になろう。会話を伴
を一覧・俯瞰できる「体系表」を(本来は大学全体とし
うグループによる学習を可能にしたラーニングコモンズ
て持つべきであるが,まずは図書館として)策定するこ
(LC)あるいはそれに準じるスペースの設置によって
とである。さらに,体系表に基づいて,入学時から卒業
ニーズを充分に満たせるかどうか,といった点が問われ
時までのどの段階でどの事項をどの機会で指導・修得す
よう。
るのかというプログラム,いわば IL 教育のカリキュラ
人的資源をめぐっては,図書館員(TA などを含めて
ムにあたるものも策定しておきたい。
考えてもよい)が相談時に助言したり講習会などで指導
体系表・プログラムによって,カリキュラム(授業)
したりする場合に学修(授業)の「中身」にどこまで「踏
と切り離して IL の目標が設定されたり授業に必要な知
み込む」かが大きな議論となろう。大学が教育を役割と
識・技能が逐次的・部分的に指導されるに留まったりと
する以上,「教授」でなくとも教育に携わる「先生」と
いった事態を軽減できる。なお,目標としての IL はディ
して助言・指導することが期待されるとすれば,詰まる
プロマポリシーや教育目標など,手段としての IL はカ
ところ,
図書館(員)がどこまで「中身」に関わるのか,
リキュラムポリシーやシラバスなどに照らして設定され
いわば教員との役割分担をどうするのか,という問題で
ることになる。
ある。
目標あるいは手段としての IL は,明確に区分される
今後,大学内における「図書館ならでは」の学修支援
ものではなく,後者の積み重ねが前者につながり,ある
の理念・方針と具体的な方策をより明確にしていく必要
いは前者を達成するために後者が設定されるものであ
があろう。図書館資源をカリキュラム(授業)と連携・
る。IL は大学における学修に必要な,そして卒業後も
連動した「学修資源」と位置づけ,学習(情報)行動の
活用できる「学び方」であると位置づけ(注 3)
,総体
― 6 ―
としてとらえていくことが重要である。
ひとつは,授業(時間)において AL が取り入れられ
なお,上記のような,いわば IL 教育のデザインにあ
ることによって図書館の役割が重要化する点である。
「教
たっては,
教育学(教職)の基礎的な知識が有用である。
育の質保証」に向けた「単位の実質化」にあたっては,
NII の「学術情報リテラシー教育担当者研修」などをは
授業時間以外の学習が不可欠である。授業時間外の学習
じめ,知識の修得・向上の機会はある。教員も FD など
環境を提供する図書館は重要な役割を果たすが,AL は
を通して研鑽を進めているものの,大学に教育(学)の
授業時間内の「中身」を減らすことでワークなどの時間
専門家がいるとは限らないなか,IL 教育について図書
を確保する場合があり,減らした分を担う授業時間外の
館(員)が一定のイニシアティブを発揮することには,
学習を支援する図書館の役割はいっそう重要になる。
IL が学部・学科横断的な性質を持つことや図書館(員)
この意味において,特に LC が注目されることになる。
が学修資源(特に情報資源)を専門家としてマネジメン
単なる「話ができる場所」でなくするためには,空間資
トしていることを踏まえれば,相応の意義がある。
源のみでなく,情報資源・人的資源をも活用し,
「学修
のための学習」を引き出す積極的・意図的な「しかけ」
が必要である。なお,授業時間外の学習も含めて授業を
5. 図書館界としての枠組みづくり
設計することが,AL を取り入れる本来的な趣旨である
IL 教育は図書館だけで完結するものではない。体系
ことは補記しておきたい。
表・プログラムは,学内他部署による学修支援の状況を
いまひとつは,図書館が実施する IL 教育において
見据え,適切な分担に基づいたものであることが求めら
AL の導入が有効であるという点である。例えば,講習
れる。最終的には,大学全体として体系表・プログラム
会を効果的・効率的に進める手法として,AL は有効な
を策定・共有することが期待される。
選択のひとつであろう。
一方,学外に目を向け,生涯学習の視点を持つことも
学修支援としての IL 教育,ひいては図書館サービス
重要である。学生は,入学時までに高校などにおいて,
を展開していくにあたって,AL に象徴される学びの変
卒業後には企業や地域・家庭などにおいて IL について
化に対応していくことは重要である。ただし,「新しい」
学ぶ。在学中にも,大学以外の場でも IL について学ぶ。
学びとして注目されている AL であるが,あくまで手法
体系表・プログラムは,こうしたタテとヨコのつながり
に過ぎず,ねらいは「主体的な学び」の実現にある。大
を意識したものであることが期待される。大学図書館の
人数の講義形式の場合でも,教授・学習方法の工夫によっ
みでなく,学校図書館や公共図書館などと連携・分担し
ても,主体性を育成することはできる。かかる分脈にお
た IL 教育の枠組みを考える必要性につながっている。
いても,図書館員が教育学の基礎的な知識・技能を修得・
なお,JLA の図書館利用教育委員会がかかる枠組みづ
向上していくことは有用である。
くりに向けて取り組みを始めている。
個々の大学図書館
(あるいは大学)
が IL 教育の体系表・
プログラムをゼロからつくりあげるのは,必ずしも効率
おわりに
的・効果的ではない。大学図書館界(あるいは大学界)
大学における研究と教育は本来,
「学問」として一体化
としてガイドラインやモデルケースなどを策定・共有す
したものであるが,ユニバーサル段階を迎え,両者をいっ
ることが有効であろう。ここでいうガイドラインやモデ
たん切り分け,
高校までのような「勉強型」の教育(学修)
ルケースは,個々の大学図書館(大学)が各々の状況に
を展開する必要性が高まった。
「勉強型」を入口にする有
応じてカスタマイズできるものを想定している。本年 3
効性は認めつつ,出口では(学術的・専門的な意味では
月に発表された国大図協による「高等教育のための情報
なく,手法・姿勢という意味において)
「研究型」の学修
リテラシー基準」などを活用していきたい。なお,個々
(教育)に導いていくことが理想であろう。図書館が「新
の大学(図書館)における実践事例(教材などを含む)
しい学び」の基盤となることは,
「学問」の府としての大
の共有も有効であることを付言しておきたい。
学の存在意義を再認識・再構築することになる。
6. アクティブラーニングと図書館
注
ここでアクティブラーニング(AL)に触れておく。
(1)野末俊比古「
『単位の実質化』と学修資源・環境を
図書館としては,主にふたつの点に留意しておきたい。
― 7 ―
めぐる現状と課題:大学図書館の機能を中心に」
『日
本教育情報学会年会論文集』(29), 2013.11.9, 478-479.
イトボードなどの施設・設備,PC や無線 LAN などの
(2)一部の論点は次の文献で言及している。野末俊比古
情報環境,教職員や図書館員,学生・院生などによる学
「情報リテラシー教育の『これまで』と『これから』
:
習支援といった特徴を備えた学習空間が普及しつつある
図書館におけるいくつかの論点」
『情報の化学と技術』
ことは確認できる。
64(1), 2014.1, 2-7.
大学生の学習支援を主たる目的とするラーニングコモ
(3)茂出木理子
「学習支援としての情報リテラシー教育:
ンズは,学習空間(施設・設備)
,人的支援,そしてコ
これまでとこれから」
『 大 学 図 書 館 研 究 』(100),
ンテンツの 3 つの要素から構成される。一人で静かに学
2014.3, 53-64.
習する場所というイメージを持つ図書館において,グ
ループで話しながら学習できるラーニングコモンズの出
現は,施設・設備の整備に注目が集まりがちである。そ
講 演
うしたなか,ラーニングコモンズを単なる学習場所の整
ラーニング・コモンズ 2.0
―実質化に向けた次のステップ―
備に終わらせないために,各大学ではさまざまな取り組
みが行われている。特に学生の学習を人的に支援する活
動は,図書館にとって重要な課題の 1 つであり,その一
小山憲司(日本大学)
方でこれまで重要と考えられながらも効果的な対応がで
きなかったものの 1 つでもある。図書館員がどこまで大
はじめに
学教育に関わることができるのか,という大きな壁がそ
こにはあったからである。
文部科学省の『平成 26 年度学術情報基盤実態調査結
ラーニングコモンズが国内の大学で当たり前になりつ
果報告』によれば,2014 年 5 月 1 日現在,アクティブ・
つある現在,それが図書館による図書館内のサービスと
ラーニング・スペースを設置する大学は,国立大学で 6
なるのか,あるいは大学の使命を実現するための全学的
校,公立大学で 20 校,私立大学で 253 校,合計 338 校
なサービスとして機能するのか,その岐路に立たされて
注 1)
であった
。その割合はそれぞれ 75.6%,23.3%,41.7%
いるといっても過言ではないかもしれない。そこで本発
で,全体では 43.4% の大学でアクティブ・ラーニング・
表では,図書館サービスという視点からラーニングコモ
スペースが整備されている。
ンズの次のステップについて検討したい。
同報告では,設置年も併せて紹介されている(図 1)
。
これによれば,2009 年度以前に 89 大学ですでに設置さ
れていた一方で,最近 5 年で急速にその整備が進んでい
るようすが窺える。
特に 2014 年度には 94 大学がアクティ
注 2)
ブ・ラーニング・スペースを開設している
。
教育や学習,研究を支援してきた。このコンテンツを保
90
存し,快適に利用できる場所としても図書館は機能して
80
きた。そして図書館員は,この施設・設備を拠点としな
70
60
私立
23
30
20
0
がら,多様なサービスを展開してきた。
76
74
40
10
伝統的に図書館は,学外で流通している学術コンテン
ツを収集,整理,保存し,利用に供することで,学内の
100
50
1. 従来の図書館サービスを超えて
3
12
12
0
9
19
5
2
6
16
49
公立
国立
4
10
そのサービスのありように大きな転換を促したのは,
オープンアクセスの展開とそれに伴う機関リポジトリの
普及であろう。機関リポジトリは学内の研究成果を収集,
6
整理,保存し,学内外の利用者に向けて発信するサービ
12
スである。竹内も指摘するように,従来の図書館が担っ
てきた機能とは真逆であり,まさに学術情報流通の一端
図1 アクティブ・ラーニング・スペースの設置年
を担うことが期待されている注 3)。同時に,このサービ
ここでいうアクティブ・ラーニング・スペースがいわ
スは,図書館がサービス対象者である学内の教員や研究
ゆるラーニングコモンズと呼ばれる機能,あるいはサー
者にあらためて目を向けるきっかけともなった。機関リ
ビスを十全に提供しているかどうかの判断は難しい。し
ポジトリの運営だけで研究支援を展開しているとまでは
かしながら,グループ学習用の可動式の机やいす,ホワ
言えないが,その契機となったことも事実であろう。
― 8 ―
では,教育・学習支援サービスにおけるビジネスモデ
開講している科目を中心に学習支援を実施している。学
ルを考えたとき,どのような構造の変革が考えられるで
生チューターになるには,当該主題分野の科目で一定レ
あろうか。一部例外はあるものの,教育・学習は学内者
ベ ル の 成 績 を 修 め て い る こ と に 加 え,“LEARN 10 :
による学内者向けの活動である。その文脈にもとづきな
Introduction to Tutoring & Mentoring” という科目を受
がら図書館はなにができるかを考えなければならない。
講し,学習支援にあたって必要な知識や技術を習得する
特に,教育・学習支援サービスを主体的に提供する人は
必要がある。
だれで,そのサービスを受ける人はだれかを考慮した
国内でも学生ワークスタディをはじめ,学生や大学院
サービス設計が必要となる。
生 を チ ュ ー タ ー と し て 雇 用 す る こ と も 少 な く な い。
たとえば,
表 1 は学内の主たる構成員をそれぞれ,サー
CCSF の事例は図書館による活動ではないが,その学生
ビスの提供者および対象者に配置し,ラーニングコモン
らにチューターとしてのトレーニングを適切に実施する
ズで展開されるであろう主な教育・学習支援を示したも
ことの重要性は指摘できよう。人的支援を展開するため
のである。もちろん,ここに提示できていないものも多
に,単に人を配置すればよいだけでなく,学習支援をす
数存在するであろう。しかしながら,ここで指摘したい
る側も受ける側も,ともに成長できるような制度が必要
のは,教育・学習支援は大学全体の活動であって,図書
である。
館単独では達成し得ないということである。また,大学
(2) ワシントン大学のリサーチコモンズ
における学びにあっては,教育の主たる対象者であった
ワ シ ン ト ン 大 学(University of Washington) は,
学生がその提供者として活躍できる場が数多く残されて
1861 年創立の州立大学であり,研究大学である。学習
いることなど,まだ行われていないさまざまな気づきも
支援の拠点としてのオデガード学習図書館(Odegaard
得られる。
表のすべてを埋める必要はないが,
次のステッ
Undergraduate Library)は,日本でも著名である。
プを検討するきっかけになると考えられる。
2010 年 6 月に開設されたリサーチコモンズ(Research
Commons)は,大学院生を主な対象としたサービスで
表1 ラ
ラーニングコモンズにおける教育・学習支援の例
ングコモンズにおける教育 学習支援の例
対象者
提供者
図書館員
教員
職員
あり,学習空間である。リサーチコモンズでは,定期的
学生
図書館員
スタッフディベロッ
スタ
フデ ベロ
教育支援(教材開
発など)
プメント(SD)
ファカルティディベ
ロップメント(FD)
SD
レファレンスサービス
レファレンスサ
ビス
情報リテラシー教育
教員
SD
SD
指導・助言(オフィス
アワーなど)
授業・ゼミ
ライティング支援
キャリア教育
職員
SD
FD
研究交流
教育支援(教材開
発など
発など)
ファカルティディベ
ロップメント(FD)
SD
学生
ICT支援
語学・留学支援
語学
留学支援
資格取得支援
就活支援
なガイダンスやワークショップのほか,学内外の人と人
を結びつけるコラボレーションやコネクションにも力を
入れている。
たとえば,Scholars’ Studio は,学際的なテーマを設
定し,学内の多様な主題背景を持つ大学院生が集まって
ライトニングトークをしたり,ディスカッションしたり
することで,研究の幅を広げたり深めたり,あるいは他
ピアサポート
ピアサポ
ト
ライティング支援
学生交流
の学問分野の大学院生とのつながりをつくったりするこ
とを目的として行われるイベントである。同じ大学に在
2.「場」を生かした取り組みを実質化するた
めの事例
籍している大学院生間のつながりをつくることで,これ
本章では,2015 年 3 月に筆者が訪問したアメリカの 2
る。図書館員はイベントの開催だけでなく,ライトニン
つの大学の事例を紹介する。
グトークに参加する学生に,事前にプレゼンテーション
(1) シティカレッジオブサンフランシスコのチュートリ
の方法や内容について助言するなどの支援も行ってい
アルセンター
からの研究に役立ててもらおうというのがその趣旨であ
る。
シティカレッジオブサンフランシスコ(City College
of San Francisco,以下 CCSF)は,1935 年創立のコミュ
ニティカレッジである。図書館と同じ建物に所在する
3. まとめ
ラーニングアシスタンスセンター(Learning Assistance
図書館,あるいは図書館員が教育や学習,研究に関わ
Center)は,コンピュータラボ,ライティング支援の
る場面は多様である。直接的に関わるものもあれば,間
ほか,チュートリアルセンター(Tutorial Center)と呼
接的に関わるものもある。図書館が図書館ならではの視
ばれる学習支援サービスを展開している。
点で,その強みを生かしつつサービスを展開することも
チュートリアルセンターは,学生チューターが大学で
重要であるが,1 章で見たように図書館単独でできるこ
― 9 ―
とは限られている。逆に,機関リポジトリで経験したよ
ションコモンズ(Communicative Commons)への展開
うに,ラーニングコモンズという場を生かした,従来の
を訴えている。Birdsall, William F. “Learning Commons
図書館サービスとは異なったビジネスモデルを構築する
to Communicative Commons: Transforming the
ことも考えられる。たとえば,2(2) で紹介したワシント
Academic Library”. College and Undergraduate
ン大学のリサーチコモンズが目指した「コラボレーショ
Libraries. 2010, no. 17, p. 234-247.
ンとコネクション」はその一例である。図書館は図書館
員がサービスを提供し,利用者がそれを利用するという
一方通行のサービス構造を用意するだけでなく,利用者
講 演
自身がさまざまなサービスを提供する提供者となり,そ
「ラーニング・コモンズの
在り方に関する提言
実践事例普遍化小委員会報告」の読み方
の果実をみなが享受できる場としても機能させることが
できる(図 2)注 4)。
内島秀樹(神戸大学附属図書館)
図書館
(ラーニングコモンズ)
教
員
学習者
(学生)
はじめに
国立大学図書館協会は,大学図書館における教育学習
職
員
支援機能充実のための調査・研究を目的として,平成
24 年度に教育学習支援検討特別委員会を設置した。特
別委員会は実践事例普遍化検討小委員会(以下普遍化小
図書館員
委員会)と情報リテラシー教育検討小委員会の 2 つの小
委員会から構成されている。
普遍化小委員会は,「ラーニング・コモンズの学習環
図 利用者によるラーニングコモンズの活用
図2
利用者 よる
グ
ズ 活用
ラーニングコモンズの運営にかかるヒントは,それぞ
境デザインについての事例調査及び普遍化」を実施・検
れの大学のなかにある。数多くの克服すべき課題やあら
討するため,北大,東北大,千葉大,筑波大,新潟大,
たな問題が出てくるであろうが,学内外で協働,情報交
お茶の水女子大,金沢大,静岡大,名古屋大,大阪大,
換をつうじて,
次のステップを着実に踏み出してほしい。
広島大,九州大,国際基督教大,同志社大学の合計 14
そのときに,本発表で紹介した内容が少しでも検討の材
大学の学習支援活動及びラーニング・コモンズについて,
料になれば幸いである。
アンケート及びインタビューによる事例調査を行った。
この事例調査により,各大学の取り組みの共通要素を
注・引用文献
検討するとともに,中央教育審議会答申(平成 24 年度)
1) 文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付 . 平成
や科学技術・学術審議会の「審議のまとめ」(平成 22 年
26 年度学術情報基盤実態調査結果報告 . 文部科学省 .
度)などの公的文書,更には内外の識者による論考等も
2015, p.85-88.
踏まえながら,現状で想定できる LC の最大公約数的な
2) 同書 .
姿を素描したものが,「ラーニング・コモンズの在り方
3) 竹内比呂也 . 図書館活動全体からみた IR. 平成 19 年
に関する提言」である。
度 CSI 委 託 事 業 報 告 交 流 会( コ ン テ ン ツ 系 ). 東 京 ,
情報リテラシー基準と異なり,ラーニング・コモンズ
2008-06-12/13. 国 立 情 報 学 研 究 所 . https://www.nii.
は定式化できるようなスキルの集合体ではなく,不定形
ac.jp/irp/event/2008/debrief/pdf/5-01_chibadai.pdf, ( 参
な実践と施設の集合体であるため,当初から「標準」を
照 2015-08-23).
定義することを目指してはいない。あくまでも,LC と
4) 類似の考えかたとして,バーゾールは,情報通信技
いう新たな図書館事業の最終目的地を意識するために,
術の進展により生み出された情報社会では,知識の生産
共有できる理念と各大学で導入する際の,融通性のある
と伝達は一方向ではなく,双方向となっており,図書館
概括的な枠組みを示したものである。
もまたそうしたシステムに対応した機能を有するべきと
いう見解から,ラーニングコモンズからコミュニケー
― 10 ―
べている。このため,LC は教育過程の一部となること
1.「報告」の構成と各パーツの使い方
が必要と考えている。
「報告」の構成は以下の通りである。
4 では養成すべき学生のスキルを述べた。学士として
1. はじめに
必須のスキルとして,情報リテラシー能力やそれをコ
2. 北米におけるラーニング・コモンズ導入事情
アーとしたより広いアカデミックスキル,さらに共同学
3. 国内のラーニング・コモンズ導入状況とその背景
習に必要なコミュニケーション能力等を提示している。
4. ラーニング・コモンズの在り方について
5 ~ 6,9 では,LC が,場所,コンテンツ,人的支援
5. ラーニング・コモンズの在り方
の 3 点の要素から構成されるものとし,それぞれについ
6. チェックリストによる自己点検適用事例
てどのような整備対象がありうるか列挙している。
1 ~ 3 は LC の国内外の現状や由来についての参考情
7 ~ 8 では,LC を担う組織や単位,建物が上記の 3
報を提供している。
点の構成要素という観点からどのように考えられるか,
5 は LC の在り方に関する提言の本体であり,4 はそ
また,LC の目的・定義からどのような進化のビジョン
の解説である。5 の LC の在り方の理念に従い,LC の
を持つべきかについて記述している。
整備状況を自己点検し,事業の現状について自己点検す
LC は 3 つの不可欠の要素から構成されるので,コン
るためのチェックシートのひな形が付けられている。6
テンツを提供し,かつ全学的な共有施設(コモンズ)で
はこのチェックシートを複数の大学に適用した事例集で
ある図書館を設置場所として想定しているが,図書館以
ある。
外に設置する場合も,LC としての構成要素から,図書
4,5 を読むことにより,LC についての理念を理解・
館と設置組織の連携を必須としている。また,LC は学
共有し,6 を参照してチェックシートを埋めてみること
士力の養成に関与する点から,教育や授業の変化・改革
で LC の現状と最終目的(理念)との隔たりを自己点検
と密接な連携を前提として,その不可欠の部分として創
することができる。
造的な進化を遂げるべきことに言及している。
10 は LC を設置する場合に提示すべき必須の要素と
2.「ラーニング・コモンズ(LC)の在り方(共
通理解のために)
」の読み方
して,LC の目的や運用方針を記述した方針(ポリシー)
について述べている。利用者に対して,期待されている
活動についての理念と,実際に「可能な」活動の指針を
「ラーニング・コモンズの在り方(共通理解のために)」
示し,従来型の図書館と異なるタイプの利用を促すこと
は以下の構成となっている。
が必要だからである。最後に 11 では,LC を通して,大
1. 前提
学図書館のミッションを教育的機能に拡大することを提
2. LC とは何か
言している。
3. LC の目的
末尾にラーニング・コモンズの在り方の記述に従い,
4. 自立的な学習のために必要な学生のスキル
LC の現状を点検するための実践的なチェックリストが
5. LC で想定される代表的な学習活動及び学習支援
付けられている。
6. LC を構成する要素
リストの内,(1)「LC の基本構成」は LC の基本的な
7. LC を整備する建物(場所)及び組織の単位
構成要素を網羅し,(2)「LC の進化の方向性」は上記の
8. LC の拡張と進化
構成要素を,段階を踏まえて最終的な目的に向けて整備
9. LC の具体的な構成要素
していく際のチェック用のテンプレートを提供してい
10. LC の方針
る。
11. 今後の大学図書館サービスについて
整備の段階は,学士力養成(=教育)を最終目的とす
る理念と,そのためには図書館による教育関連組織や教
1 ~ 3 において,LC の目的と定義を試みた。LC は場
員組織との連携が必要であることを踏まえて,①図書館
所の整備を趣旨とするものではなく,場所の整備を出発
単独の整備→②単独の整備の深化→③他組織との連携→
点として,学生の主体的な学習を誘発する仕組みの総体
④教育の一環となる,の 4 つのステップを想定している。
であり,不可欠の要素として人的支援が求められる。図
これらのステップで,場所,コンテンツ,人的支援の 3
書館はこうした仕組みの整備を通して,主体的な学習ス
つの構成要素をどのように提供しているのか自己点検
タイルを持った学生の養成を事業の目的とすることを述
し,最終目的となる「教育を担う」地点への達成度を意
― 11 ―
識する仕組みとなっている。
ラフト 2.3)
』の活用体系表を使った内容
の見直し(平成 26 年 8 月)
事例報告
平成 26 年 7 月の『高等教育のための情報リテラシー
お茶の水女子大学附属図書館における
『高等教育のための情報リテラシー基準』
の活用事例
基準(ドラフト 2.3)
』への意見提出依頼を受け,学部 1
餌取直子(お茶の水女子大学附属図書館)
年生必修の情報処理演習授業内で実施する「情報探索基
礎講習」のテキストを基準に照らし合わせてみることと
した。
基準との照合に際し,
「できていなかったこと」だけ
に焦点を当てるのではなく,
「今のテキストで充分でき
ていること」,「もう少し発展させられること」という観
はじめに
点で見直しを行った。
お茶の水女子大学附属図書館では,担当を越えて課題
見直しは,グループメンバーで集まり,ワーク形式で
に取り組む課内プロジェクトグループの 1 つに「情報リ
行った。使用テキストのスライド全ページを 1 枚ずつ
テラシー教育グループ」を置き,今年度は課長以下情課
A3 にプリントアウトし,それぞれがどのフェーズに当
長以下 9 名(うち非常勤職員 5 名)でリテラシー教育に
たるもので,初級,中級,上級のどの部分をカバーして
取り組んでいる。
いるのかをディスカッションしながら割り振っていっ
本学で実施している主な講習会は下記のとおりである。
た。
・学部 1 年生必修の情報処理演習授業内で実施する「情
その後,体系表とテキストを再度照合し,各スライド
報探索基礎講習」
(6 月に実施。平成 27 年度は全 13
に足りない部分を確認しあった。
クラス)
この結果を,翌年の講習会内容に反映した。
・授業やゼミ,学生グループなどの依頼を受けて実施す
る「オーダーメイド講習会」
(通年。平成 26 年度は
24 回)
・
「RefWorks 講習会」
(前期/後期,各 3 回)
いずれの講習会においても基本的にはテキスト及び配
○『高等教育のための情報リテラシー基準
2015 年版』の活用体系表を使った内容
の見直し(平成 27 年 8 月)
布資料は PPT で作成し,スクリーンにスライドを表示
平成 28 年度から実施する新型 AO 入試(新フンボル
しながら,適宜実習を交えて実施している。
ト入試)のプレゼミナールとして,平成 27 年 8 月 25 日
また,アンケートで満足度,難易度,分からなかった
に,高校生を対象とした「図書館情報検索演習」を実施
点や感想を尋ね,寄せられた意見を元に内容の修正を加
することとなった。演習で使うテキストは,上記の「情
えている。
報探索基礎講習」を土台とし,高校生向けにアレンジを
加えた。
『高等教育のための情報リテラシー基準 2015
年版』の活用体系表は,入試担当教員と内容を打ち合わ
○課題
せる際に,どこまでを図書館のレクチャーに含め,どの
アンケート結果をテキストに反映し,次の講習会に活
部分を教員による説明に含めるのかを決定する際の基準
かすようにしているが,全体を見直す余裕はなく,部分
として活用した。
的な修正に留まっていた。アンケートの満足度は比較的
高いものの,講習会全体が本当に学生の学びに役立つ内
容であるのかの検証が難しく,また,講習会が通常の授
○まとめ(担当者の感想)
業から浮いてしまっていないかという不安も消しきれな
『リテラシー教育基準』と講習会内容を照合すること
いため,絶対の自信を持って講習会を実施しているとは
で,これまで実施してきた講習会を客観的に捉えられる
いえない状況であった。
ようになった。このことにより,足りない箇所を補うこ
とができただけではなく,充分に実施できていたことに
○『高等教育のための情報リテラシー基準(ド
ついては以前よりも自信を持って説明できるようにな
り,担当者の心の余裕につながった。
― 12 ―
また,教員との話し合いの場で活用体系表を用いるこ
とする)が多様化した。これにより,従来から行なわれ
とにより,図書館が講習会を実施する意味,メリットを
てきたレファレンス担当による図書館オリエンテーショ
教員に理解してもらいやすくなった。図書館が実施する
ンや各種データベース講習会,利用案内に係る Web コ
講習会は,大学の学びという大枠においてどの部分を担
ンテンツなどと併せて,図書館が提供する学習・研究支
いたいのかを説明する際にも役立つものであると感じ
援プログラム全体の体系的な把握が必要となった。
た。
体系化のために行なったことは以下の 3 点である。
1)本基準 p.15 の「参考 活用体系表(例)」をベースに,
当館で実施されているマスサポートプログラムを分類・
事例報告
配置し,「筑波大学附属図書館 学習・研究支援体系図
筑波大学附属図書館における『高等教
育のための情報リテラシー基準』
活用事例報告
2015」(以下,
「体系図」とする)を作成した。体系図は,
その作成目的から,本基準の対象である情報リテラシー
教育の枠に留まらず,学習・研究支援というより大きな
枠組みで整理された。
村尾真由子(筑波大学附属図書館)
2)「学習・研究支援マスサポートプログラム一覧」を作
成した。各プログラムには,内容と難易度により分類番
号を付与し,1)の体系図と連携させた。
1.はじめに
3)体系図の目的や今後の展望を文書としてまとめた。
2015 年 3 月,国立大学図書館協会教育学習支援検討
これらの作業から得られた主な効果として,第 1 に,
特別委員会から『高等教育のための情報リテラシー基準
附属図書館が提供するマスサポートプログラムの全貌を
注 1)
2015 年版』
(以下,
「本基準」とする)
が発行された。
一元的に把握・可視化できたことにより,マスサポート
本基準をご覧になった図書館関係者のなかには,
「これっ
プログラムの過不足の発見,更には新規プログラムの検
ていったいどうやって使うの?」という疑問を持たれた
討へとつながった。第 2 に,他部局との新たな連携の提
方や,「なんだかハードルが高い」と感じられた方も多
案に際し,体系図を活用することにより,附属図書館の
いのではないだろうか。
取り組みと提案プログラムの位置づけをスムーズに提示
報告者は,国立大学図書館協会教育学習支援特別検討
することができた。第 3 に,特に学習支援について,学
委員会情報リテラシー教育検討小委員会の委員として本
生の情報活用行動プロセスを意識し,教育的な効果にも
基準の作成に携わった。情報リテラシー教育の現場で役
配慮された広報・情報発信を検討する契機となった。第
に立つものを作ることを念頭に置き,同小委員会の検討
4 に,体系図をひとつのマイルストーンとして,学習支
作業と職場での実践との間で相互にフィードバックを行
援における当面の展望を部内で共有することができた。
なった。そのため,本報告では,2013 年度に作成され
た「高等教育のための情報リテラシー基準 ドラフト 2.3」
(以下,「当基準ドラフト 2.3」とする)の活用事例も含
んでいる注 2)。
3.広報への活用
本基準は図書館職員向けに作成されているため,やや
硬い文章で記載事項が多く,必ずしも学生・教職員にとっ
2.本基準 活用体系表のカスタマイズによる
「筑波大学附属図書館 学習・研究支援体系
図 2015」の作成
て馴染みやすい体裁にはなっていない。これをわかりや
すく興味をひく形に変換してプログラムの対象者へ届け
る必要があると考えた。
筑波大学附属図書館では,2012 年 4 月,当館のラー
ニング・コモンズである「ラーニング・スクエア」が開
設された。この新たな学習空間における学習支援を推進
するため係横断的なワーキンググループが設置され,
様々な取り組みが行われるようになった。中でも,学習・
研究を支援する活動のうち,複数の学習者または研究者
を対象としたもの(以下,
「マスサポートプログラム」
― 13 ―
本しおりは,学習者自身の振り返りの一助となること
はもちろん,附属図書館にとっても,自己評価やコメン
ト欄の受講前後の変化を見ることにより,セミナープロ
グラムの評価に役立った。
5.おわりに
今回の報告事項は,ごく単純なアイデアを提供する程
度のものであるが,具体的な活用イメージを共有するこ
とにより,ご来場の皆様の中から一人でも多くの方が,
まずは使ってみようと一歩踏み出していただけたら幸い
に思う。
注
1)国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会 “ 高
等教育のための情報リテラシー基準 2015 年版 ”. 国立大
学 図 書 館 協 会 教 育 学 習 支 援 検 討 特 別 委 員 会 .2015.3.
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf,( 参
照 2015/08/20)
2)当基準ドラフト 2.3 は,平成 25 年度情報リテラシー
図1 ライティング支援連続セミナーのポスター
(2014 年度秋学期)
教育検討小委員会において作成され,平成 26 年度に国
図 1 は,ラーニング・スクエアで 2012 年度から開催
教育学・教育工学などの専門家に対し意見照会が行われ
されているライティング支援連続セミナー
注 3)
公私立大学の図書館協会加盟各館および図書館情報学・
の 2014
た。
年度秋学期のポスターである。当基準ドラフト 2.3 にヒ
3)ライティング支援連続セミナーは,当時全 7 回の正
ントを得て,
ポスターデザインを一新した。
「情報ニーズ・
課外のセミナーで,1 回から参加可能であるが,連続し
課題を認識する」から「情報を創造的に活用し発信する」
て受講すればより効果的というものであった。過去の実
までの情報活用行動プロセスと,各セミナーの情報とを
施記録は次の web ページに掲載されている。
併せて配置することにより,7 つのセミナーの位置づけ
筑波大学附属図書館 “ 過去のライティング支援セミ
や連続性を示すこと,及び学習者がレポートライティン
ナー ”.
グに必要なプロセスの全体像を把握したうえで受講すべ
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/w5lib/?page_id=2820,
きセミナーを選択しやすくすることを意図した。
(参照 2015/08/20)
4.振り返りへの活用
2.で示したポスターに加え,
2014 年度秋学期には「リ
ピーターのしおり」の作成・配布という新たな試みも行
われた。しおりには,ポスターに記載しきれなかった各
回のねらいや達成目標が全回分記載され,学習者が受講
の前後に達成度のセルフチェックをできるように工夫さ
れた。
本しおりの作成過程には,当基準ドラフト 2.3 の活用
体系表が使われた。各セミナーで身につけられる項目を
活用体系表から抜き出し,学生がセルフチェックできる
よう平易なことばに置きかえ作成された。
― 14 ―
トークセッション
ラーニング・コモンズと情報リテラシー
のおいしい関係
岡部幸祐(東京大学附属図書館)
野末俊比古(青山学院大学)
小山憲司(日本大学)
内島秀樹(神戸大学附属図書館)
餌取直子(お茶の水女子大学附属図書館)
村尾真由子(筑波大学附属図書館)
第 101 回 全国図書館大会 東京大会
ホームページ掲載原稿
2015 年 9 月 30 日現在 ― 15 ―