h eV

原子核物理
X 線の発見
1895 年南ドイツ、ヴェルツブルク大学のレントゲン(Roentogen)が陰極線の実験中に陽極から未知の放射線がで
ていることに気づいた。レントゲンはクルックス管を箱で包んでみたところ、写真乾板が感光しているのに気づいた
のである。そこでレントゲンは写真乾板の上に手をおき(一説には彼の奥さんの手)そこに謎の放射線をあてて、現
像したところ、本来見えないはずの手の骨の写真が浮かび上がったのである。ちなみに、クルックス管からでた放射
線が感光作用を起こすという現象をクルックス本人も体験しているが彼は写真屋が不良品を納めたと思いこみ、写真
乾板を返品してしまった。
レントゲンはこの未知の放射線を X 線と名付け、論文をドイツの物理学会誌に送ったが、却下されてしまった。そ
こで彼は地元ヴェルツブルクの物理学・医学会報にその論文を掲載した。その翌年には 1000 を越す論文が提出され
た。それは彼の論文が医学会報に掲載されたことで医学の診断に使えるという判断がなされたからである。
(ドイツ
の物理学会誌
(Annalen Der Physik)
は彼が論文を発表した 3 年後に彼の論文を転載した。
)
そしてレントゲンは 1900
年第 1 回ノーベル物理学賞を受賞した。
X 線の発生
X 線の発見から X 線はクルックス管から発生させるこ
とができる。陰極から飛び出した電子が極板にかかる電
圧で得たエネルギーの一部が X 線となるわけだ。電子の
質量を m [kg]電荷を-e [C]、極板間の電圧を V [V]、発
生する X 線の振動数をν[Hz]、陽極に衝突したあとの電
子の速さを v [m/s]とする。このときプランク定数を h
[Js]として電子のエネルギー保存則を考えると
1
eV mv
2
=
2
数~数 10 [kV] V [V]
電子
冷却水
X 線 ν [Hz]
真空管
X線発生装置
 h
となる。実際には陽極に衝突したあとの電子の持つエネルギーのほとんどは熱になってしまう。よって陽極には冷却
用の水を通す細管が埋め込まれている。
電子が極板間で得たエネルギーの全てが x 線に変わったとき、その x 線のエネルギーは振動数νに比例するから、
このときの X 線の振動数をν0 [Hz]はエネルギー保存則より
eV
h
 =
となり、これを 限界振動数 という。これより振動数が小さい X 線は放射されない。
X 線の種類
発生させたX 線の強度と波長と強度の関係をグラフに
すると、ある波長λ0 [m]より長い波長の X 線は全く出な
い。この波長を 限界波長 という。X 線はλ0 からなめら
かな曲線を描いている。これを 連続 X 線 という。それ
と所々鋭いピークがある。このピークは 特性 X 線 また
は 固有 X 線 と呼ばれていて、陽極の材質によって変わ
る。
これを応用して、高速の電子を物体にあて、放射され
る電磁波の特性放射線の波長や強度を調べることによっ
て、物体の構成物質やその組成比がわかる。これは実際
に事件の科学捜査にも使われている。
X 線の強度
特性 X 線
連続 X 線
0
λ0
限界波長
波長λ [m]
レントゲン(Willhelm Konrad Roentogen 1845-1923)
やや偶然に X 線を発見した(1895 年)ことで有名。彼の行った X 線の性質に対する徹底した研究は、科
学的手法の 1 つのモデルである。この発見がベクレル(Becquerel)をそれ以外の放射線の研究に向かわせ
た契機となり、ひいては放射能のの発見にもつながった。
このほかにも彼は、円偏向の研究や結晶の熱伝導の研究を行った。1888 年には、電気分極の運動によって
通常の電流と同じように磁気効果が見られる事を示した。
No.4
電磁気学的な解釈
マクスウウェルの電磁気学によれば、荷電粒子が加速度運動すると、電磁場が変化するため、電磁波が発生する。
静止した電子のまわりに生じる電場は、静電場であるから電磁波は発生しない。また、電子が等速度で運動している
と、電場だけでなく磁場も発生する(電流のまわりにできる磁場)が、いずれも変動しないため、電磁波は発生しな
い。ところが、電子が加速度運動する際には、電子に対して仕事がなされるために電磁場が変動し、電子から電磁波
の形でエネルギーが放出される。
荷電子の加速度運動に伴って放射される電磁波は、連続スペクトルを呈し、その波長は、荷電粒子の加速度の大き
さによって異なるが、電波から X 線まで及ぶ。電磁波を放射する荷電粒子の加速度運動には次の 5 つがある。
①荷電粒子の力学的な振動
②荷電粒子の熱運動(熱振動)
③荷電粒子の電気振動
④荷電粒子が磁場で曲げられるとき
⑤荷電粒子が電場で曲げられ、減速されるとき
①ヘルツ振動
図のように-q [C]の電荷を原点に固定し+q [C]の電
荷を上下(左右)に振動すると、電磁波が放出される。
②熱放射
物質中のイオンと電子の熱振動によって主に、赤外線が
放射される。物質が高温になると、熱振動の激しさが増
すため、可視光や紫外線も放射される。鉄を熱すると赤
く光り出し、温度が高くなると青白く輝くのは熱放射に
よるものである。
ヘルツ振動
③電磁波
交流回路の電磁波の発生でやったように電気振動により
電磁波が発生する。その振動数は L と C の値による制約
から、おおよそ 1012 [Hz]以下に限られる。
④シンクロトロン放射
荷電粒子が磁場中でローレンツ力によって曲げられなが
ら円運動する際に放射される。円運動は絶えず進行方向
が変化しており、軌道の接線方向は常に制動されている
と考えられ、その回転数に等しい振動数の電磁波が放射
され、その波長は赤外線から X 線まで分布する。シンク
ロトロン放射は極めて鋭い指向性をもつパルス波で観測
されるため放射の標準とされる。
シンクロトロン放射
X 線(長波長)
電子の軌道
⑤制動放射
荷電粒子が電場によって進路が曲げられたり、急に減速
(制動)される際に放射される。制動放射は荷電粒子の
中でも質量の軽い電子に顕著に現れる。X 線の発生で放
射される連続X 線は加速された電子が陽極に衝突する際、
陽極を構成する原子内の電場によって加速電子が制動さ
れるために発生する。
原子
X線
(短波長)
制動 X 線