みんなの「働きたい」を応援します【第1話】 一般事業所で働く自信がないA

●みんなの「働きたい」を応援します【第1話】
一般事業所で働く自信がないAさん
Aさんは28歳、女性。高等学校を卒業して、美容師になりたいと都
会の専門学校に進学。学校の授業は楽しかったのですが、なかなか友達
ができず、やっとできた友達にちょっとしたことで裏切られたことをき
っかけに学校に行くことができなくなりました。その後、アパートに引
きこもるようになり、いつしか、どこからか自分を責める声が聴こえる
(幻聴)ようになりました。
自分が病気だとは思わなかったので、医療機関には受診しませんでし
た。しかしAさんは、しだいに自殺を考えるようになりました。家への
連絡がまったく途絶えていたため、心配した家族がアパートを訪れて、
初めて何が起きていたのかが明らかになりました。
その後、家族に連れられ家に帰ることになったAさんでしたが、すぐ
に家族と心療内科を受診。そのまま、しばらく入院することとなりまし
た。
退院したのは6か月後。少し様子の落ち着いたAさんでしたが、統合
失調症の診断で、服薬を欠かすことができなくなりました。もちろん、
憧れていた美容師にもなれず、まるで人生の目標を失ってしまったかの
ようでした。退院後は、ただベッドで過ごす毎日。気が向くと、昔読ん
でいた雑誌や本をめくってみるのですが、集中力が低下していて、ほん
の10分、15分くらいしか文字を読むことができなくなりました。ま
すます自信を失っていくAさんでした。
その後、通院の回数が2週間に1回から月一回へと変わっていきまし
た。集中力は相変わらずでしたが、幻聴はもう無くなりました。たまに
は家の外に出て、庭の草取りを手伝ったりすることもできるようになっ
たAさん。心療内科の先生から、そろそろ仕事を探してみないかと提案
がありました。
Aさんは、とても驚きました。自分はもう一生、人と同じ人生なんて
送れないと、あきらめていたからです。学校は中退。集中力はなくなる
し、友達もいなくなって、おまけに毎日薬まで飲み続けなければならな
いのです。自分が働けるなんて、とてもそんな風には思っていませんで
した。
先生は言いました。
「毎日じゃなくてもいいんだよ、自分のできる範囲で働くことが大事
だよ。そんな働き方に慣れたら、もっと働きたくなるかもしれないしね。
その時には、また相談すればいいんだよ。」
「相談できる」。Aさんにとって、一番必要なアドバイスだったかも
知れません。相談できる友達もいないし、だからと言って家族には心配
をかけたくない。誰にも相談できなくなっていたAさんに、「相談して
もいい」と言ってくれる人ができたのです。先生は、
「ぼくは就職の相談には詳しくないから、専門の機関を紹介するね。」
といって、ハローワークや障害者就業・生活支援センターに連絡を取っ
てくれました。
それからは、ほんとに一歩ずつでした。いきなり働くのではなく、ま
ずは施設に通所。そこに毎日通えるようになると、就労体験を週に一回
程度。その後、短時間のアルバイトを紹介してもらい、週8時間(週4
日・一日2時間)、スーパーのバックヤードで勤務。その頃には、職場
に自分のことを理解してくれる人もできて、話しかけてくれたり、話し
相手になってくれる人もできました。
まだまだ、Aさんの人生は再スタートしたばかりです。でも、Aさん
には目標ができました。今の職場で週30時間以上働けるようになるこ
とと、できれば新しい仕事も覚えたいということ。人との会話は相変わ
らず得意ではありませんが、それでも以前よりは自信がついたような気
がします。何より、自分を支えてくれている人がいると思うと、がんば
ろうという気持ちになれるのです。いつかきっと、心配してくれている
家族に喜んでもらいたいと思いながら、今日も朝から、自転車に乗って
職場に出かけるAさんでした。
(このお話のご本人は、実在する方ではありません。たくさんの方のお話を参考に、創作いたしました。)