事例2 - 海洋環境創生

課題名:大型藻類(アカモク)の多角的利用を目的とした事業モデルの可能性検討
実施機関 一般社団法人 海洋環境創生機構
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海洋環境創生機構が平成24年度に行った藻類資源活用
はじめに
研究において関連した京都府宮津市の他、岩手県宮古市
ほぼ日本全域に生息する海藻「アカモク」
(褐藻類:
(山田町)、愛知県常滑市、福岡県北部沿岸地域における
ヒバマタ目ホンダワラ科 Fig.1)は、一部の地域によっ
地域事業および関連機関等とした。調査より、現在の地
ては食用利用がなされているが、全国的には利用の進ん
域事業における特色としては以下のような点を指摘する
でいない海藻である。近年、そのアカモクをはじめとす
ことが出来る。
る藻類からの有用物質の抽出や有用成分から高付加価値
① 地域資源である「アカモク」関連の地域事業は、地
製品を生産する事業への期待が高まってきている。
域あるいは事業者によって多少の違いがあるものの、採
取・食材加工・販売と地域分業的六次産業化はされてい
ると言える。
「生産(採取)」は別の漁業者(漁師)が分担
し、
「加工」は、一次的な加工(選別・湯がき・パック詰
めが主、一部で乾燥・粉末化等)に留まり、二次的な加
工(お茶漬けの素、佃煮等の商品化)は、別の食品加工業
者が担うケースが見られる。
「流通(販売)」においては、
前述との関連から、
「湯がきアカモク(生もの、冷凍)」
は地域での小売(スーパー、産直販売所を含む)が主とな
り、「乾燥アカモク・アカモク粉末」においては、県域
内の食品製造会社等への卸売が主となっている。
② 事業規模としては、
年間収穫量は 10~40t.wet 程度、
年間売上高数百万円から一千万円程度であり、従事者数
Fig.1 アカモク(注:
「海藻海草図鑑 Weblio 辞書」より)
は10名以内で成り立っている。漁業従事者の副業とし
て、アカモクが採取される数ヶ月間だけを操業している
アカモクに含まれる「フコイダン」は、「ぬめり」部
ケースが多く、
年間操業のための冷凍庫や加工設備(乾燥、
分に含まれる細胞間粘質多糖であり、L-フコースを主要
粉末化等)への投資は、
負担が大きく新たな投資は難しい。
構成糖とし、
他の多糖類と違って硫酸化多糖類(硫酸化フ
③ 海藻は収穫が安定しているとの意見もあるが、海水
カン)を多く含有することを特徴としている。
温等の環境の変化がアカモクに与える影響(間接的影響)
フコイダンについては、近年、その生理機能について、
は大きく、年によって収穫高が変動する危険性がある。
様々な研究が進められており、これまで報告された事例
養殖技術は、
ほぼ確立されているが実証的な段階であり、
として、①抗凝固、抗血栓作用、②抗炎症作用、③抗ウ
アカモク関連事業として実用化されている段階ではない。
イルス作用、④抗腫瘍作用、⑤免疫調整作用、⑥繊維化
④ アカモクにフコイダン等の有用物質が含まれている
抑制作用などがある。
ことは認識されているが、上記の事業規模においては、
本調査は、フコイダン等の有用物質を含めアカモクを
有用物質抽出のための設備投資費用や人材・ノウハウが
多角的に利用する事業モデルの可能性を明らかにし、地
得られないため、有用物質の抽出、有用物質の利活用へ
域資源「アカモク」を活用する事業(以下、
「地域事業」
の早期展開は困難である。将来的には実現したいとする
と言う)の六次産業化による活性化や新規産業の創出に
事業者もいるが、一方では現状維持で充分とする事業者
展開できるスキームの構築に寄与することを目的とした。
もみられる。
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⑤ 地場事業では、新たな商品開発や販路の確保につい
アカモク関連の地域事業の現状
てのノウハウが乏しく、独自の六次産業化は難しい。少
近年、報道等において「アカモク」が地域資源のひと
なくとも県域レベルでのネットワークが必要である。
つとして取り上げられることも多いが、その現状はあま
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り知られていない。
「アカモク」の多角的利用を目的とした事業モデルを
アカモクに含まれる有用物質の抽出
アカモクの多角的な利用を進めていく一つの手法と
検討する前提として、
「アカモク」に関連する地域事業の
して、アカモク(原料)から多種の有用物質をカスケード
現状について調査を行った。調査の対象としては、一社)
的に抽出することの可能性を検証するために抽出試験を
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行った。本抽出試験においては、岩手県産(山田湾)の乾
今回の抽出試験においては、京都府産養殖アカモクの食
燥アカモク(粉砕されていないものと粉砕されたもの(粉
品加工残渣より、
フコイダンが抽出された(ラミナランは
末))と、京都府(宮津湾)で採取され、冷凍保存されていた
抽出されなかった)ことから、
残渣も抽出原料として使用
アカモクを入手し、産地及び保存状態が異なる2種類の
できる可能性が示唆された。なお、最終的な残渣につい
アカモクを試料とした。
ては、肥料としての再利用が合理的と考えられる。
抽出試験の結果、抽出方法については、まだまだ改良
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の余地が残されているとは思われるが、塩化セチルピリ
アカモクの多角的利用事業モデルの提案
ジニウム(CPC)法(四級アンモニウム塩である CPC はフ
以上のことから、アカモクを「湯がき」や「粉末」等
コイダンと結合して水に不溶性の複合体を形成して沈殿
だけではなく、調味料等の機能性食品や有用物質をカス
する。この沈殿は高濃度の塩化カルシウム溶液によって
ケード的に効率よく抽出・生産する産業への展開を多角
複合体が分解されて再溶解する。この性質を利用して分
的利用事業モデルとして提案する。この事業モデルの狙
離する方法)により、基本的な方法は確立した。また、有
いは以下の点にある。
機溶剤抽出物から、極微量ではあるがフコキサンチンが
・アカモク関連の地域事業と漁師(漁協)や地域(県域)内
検出されたこと、さらにアラキドン酸やエイコサペンタ
の食品製造・販売事業との連携により、地域産業を形成
エン酸などの高度不飽和脂肪酸、植物ステロールの一種
し、地域経済に寄与する。(地域での六次産業化)
であるフコステロールという有用物質が確認されたこと
・地域内の醸造事業等とのタイアップにより、アカモク
は一つの成果であった。ただ、酢酸抽出物質からラミナ
による発酵調味料素材の開発に取り組み、新たな地域ブ
ランの効率的な抽出法が確立できなかったこと。また、
ランド商品を創り出す。
一義的ではないが目的物質として掲げたムチンの抽出に
・フコイダン等の有用物質の抽出事業を地域内に誘致し、
ついては、全く着手できなかったことが、
今後の課題とし
新たな地域事業とし、アカモク産業のすそ野の拡大を図
て残されている。
る。ただし、抽出事業の設立には地元資本とともに、地
域外からの資本を導入する必要があろう。ただし、その
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アカモクの多角的利用方法
実現には様々な課題も存在し、最大の課題はアカモクの
①調味料等への展開
安定した供給の可否にある。今年(2014 年)春に京都府の
地域経済の活性化を促進するひとつの方法として、
「地
宮津において見られたようなアカモクの不漁への対応策、
域ブランド商品」の開発があるが、現在は「湯がきアカ
また環境への負荷を与えない大量採取の方策としての人
モク」が主であり、
「佃煮」
「お茶漬けの素」及び「アカ
工培養・養殖技術の確立が不可欠である。
モク煉り込み麺」等においては産地が明記されるにとど
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まっている。
今後に向けて
アカモクの特徴である多種の有用成分を含有している
本調査では、地域資源である「アカモク」による地域
ことを活用して機能性食品等の商品開発により、地域ブ
事業を発展させ、地域産業を形成することによって地域
ランド商品のラインアップの充実を図ることが必要であ
経済を大きくするためには、アカモクの多角的な利用を
る。例えば、醤油や味噌等の発酵調味料素材が開発され
進めることが必要であるとの観点から、
「アカモクの多角
れば、話題性も高く、一定規模の市場も確保できるもの
的利用による事業モデル」を提案した。
今後は、この提案の実現に向けて、地域事業者ととも
と思われる。(参考:
「海藻を発酵させる技術とその応用」
2011.02 日本醸造協会誌 p.71-80 内田基晴)
に地域産業との連携や、県域あるいは全国的なネットワ
②有用物質の利活用
ークとの連携の可能性を探って行きたい。
現在もフコイダンの抽出原料として「アカモク粉末」
「アカモク」の将来的な利用においては、アカモクに
が販売されているが、アカモクにはフコイダン以外の有
含まれるアルギン酸を利用してバイオエタノールを創り
用物質も含まれている。本調査事業では、前述したよう
出す研究もおこなわれている。研究室レベルでは成果が
に有用物質をカスケード的に抽出する試験を行い、
確認されていることから、バイオエネルギー原料として
CPC(塩化セチルピリジニウム)法により、アルギン酸、フ
利用することも予想されるが、現状では製品価値の高い
コイダン、ラミナラン、フコキサンチン等を順次抽出す
もの(有用物質生産)から事業化を目指し、最終的に大規
ることに成功した。この方法を工業化できれば、抽出有
模市場であるエネルギー分野へと拡大していくシナリオ
用物質から健康食品、サプリメントだけではなく、化粧
となろう。
品や医薬品等の原材料としてアカモクの付加価値をさら
【お問い合わせ】
一般社団法人 海洋環境創生機構
に増大させることができる。
プロジェクト推進部長・春木 隆
③残渣の活用
アカモクの加工残渣は、一部では廃棄処分されたり、
TEL03-5532-8565
また 一部では畑の肥料として使用されたりしているが、
e-mail [email protected]
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