今回のゲスト ホスピタリティのヒント

2015.11.26 第 4 号
■ 今回のゲスト
【 株式会社 JR 東日本テクノハート TESSEI 】
おもてなし創造部 部長
岡部 正氏
おもてなし創造部 次長
平野 健太郎氏
今回は、東京都にある新幹線の車両清掃会社、JR 東日本テクノハート TESSEI(以下、TESSEI)
のおもてなし創造部、部長の岡部正氏と次長の平野健太郎氏にお話を伺って参りました。現在
TESSEI は、国内だけではなく多くの海外メディアからも「世界一の清掃現場」として注目され
ています。また、車両を清掃するだけではなく、ホームで困っているお客さまがいれば積極的に
声がけをする、新幹線に一礼をするなど非常に親切で礼儀正しい行動も話題を呼んでいます。
TESSEI は、経済産業省が主催する「平成 24 年度おもてなし経営企業選」
、公益社団法人企
業情報化協会が主催する「平成 26 年度サービス・ホスピタリティ・アワード特別賞」に選ばれ
るなど数々の功績を残しています。清掃会社がなぜそこまでお客さまに尽くせるのか、組織改革
で変わったお客さまへのサービス精神、清掃会社が取り組むホスピタリティなどについて、医療
機関や介護事業所においても参考になるホスピタリティのヒントをお届けします。
■ ホスピタリティのヒント
皆が頑張っているから
私も頑張ろう!
ちゃんと自分を
お客さまの
ために
見ていてくれて嬉しい!
おもてなし
次はもっと良いサービスを
お客さまに提供しよう!
↑エンジェルリポート(イニシャル版)
エンジェルリポートは、スタッフ同士が言動に対して良いなと思ったことを書いて褒める
リポートです。リポートに名前がよく挙がるスタッフと、よく褒めているリポーターは表
彰されます。この賞賛制度がスタッフの意欲を掻き立て、お客さまに対してもっともっと
良いサービスを提供したい、という想いを生み出していきます。
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魅せる清掃、温かい対応
― まず、会社概要と業務内容をお聞かせ頂けますか。
当社は、新幹線車両の清掃を専門とした会社です。
駅のホームやコンコース(通路が交差する場、中央広
場など)も清掃にあたり、車両以外でもお客さまに快
適な空間で過ごして頂けるように努めています。
その中でも、東京駅で行う車両の清掃は速くて丁寧
な自信あるサービスのひとつです。新幹線が東京駅に
到着し、その新幹線が折り返し発車するまでの 12 分
間のうち 5 分間はお客さまが乗降する時間となるため
残りの 7 分間で清掃します。基本的に普通車の場合は
1 人 1 両を担当しますが、22 人で 1 チームを組み連
携しながらテーブルの拭き掃除、モタレカバーの交換(普通車は汚れているもののみ)、
ゴミの回収など 1 席ずつ速く且つ丁寧に清掃していきます。トイレや洗面所も連携し
ながら確実に 7 分間で清掃を終了させます。私達が行っているこの時間を魅せる清掃
として“7 minutes miracle”(新幹線劇場)と呼ばれています。
― 清掃業はもちろん、サービスの部分でも注目されていますが、どのような取り組み
をされていますか。
お客さまが駅や車内で気持ちよく過ごせるように、清掃はもちろん、挨拶や礼を大事
にしています。例えば、スタッフは東京駅に新幹線が到着する 3 分前に整列し、新幹
線がホームに入ると一礼をしてお客さまを迎えます。そして、降車するお客さまに対し
て「お疲れ様でした、ありがとうございます」と声をかけながら笑顔でゴミを回収し、
車両の清掃に入ります。ホームやコンコースにおいても、お客さまから声をかけられれ
ばすぐ対応し、困っているお客さまを見かければ積極的に声をかけてご案内をするなど、
全て CS(顧客満足)行動規範「さわやか・あんしん・あったか」に基づいて行動して
います。
また、車両基地でも車両清掃を行っています。車両
基地に新幹線が入ってくると、お客さまがいらっしゃ
らない所でも安全面を考えて一礼をし、お疲れ様です
という意味を込めてお出迎えをします。上野駅も同様
に、必ずスタッフは整列して一礼をしてから現場に入
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ります。清掃が終わった後も、整列して一礼をしてから現場を去っていきます。さらに、
東京駅ではグランクラス(普通車やグリーン車よりも乗客 1 人あたりの占有面積も広
く、専用アテンダントによる車内サービスがある特別車両)専門の清掃担当チーム「コ
メットスーパーバイザー」をつくり、よりお客さまに満足して頂ける車両空間の提供に
努めております。
私達は、現場でしか気付けないことがたくさ
んあると考えておりますので、お客さまの意見
や要望にも耳を傾け、その意見や要望を必要に
より JR 東日本に伝えています。東京駅のコン
コースにあるベビー休憩室はまさにお客さまの
要望から作られたもので、お客さまからの評判
も良く、私達も嬉しい限りです。
― 実際に現場を拝見させて頂きましたが、速くて丁寧な清掃に驚きました。お客さま
へのサービスが充実してきたきっかけが、何かあるのでしょうか。
簡単に言えば、お客さまからのご質問が多くあったこ
とがきっかけです。当社はもともと、1952 年に鉄道
整備会社として創立し、今年で 63 年目になりますが、
ここ最近の 10 年間でお客さまに対する意識や姿勢が
変わってきました。清掃会社なので、綺麗な車内空間を
提供することでお客さまに喜んで頂くことが本望だっ
たのですが、それだけではダメだということに気付いた
のです。10 年前などは、ホームでお客さまから駅のご
案内や新幹線の時間など、多くの質問を受けても答えら
れなかったことがあり、私達も恥をかいた時期がありました。そこで、清掃の技術を上
げるのはもちろん、お客さまに満足して頂くためサービスにも力を入れ、清掃会社の新
しいトータルサービスを創っていかなければいけないと思ったのです。まずは、CS だ
けではなく、ES(従業員満足)にも力を入れていこうと、スタッフに目を向けました。
それから、だんだんとスタッフの仕事に対する考え方も変わってきたのではないかと思
っています。その結果、お客さまにも良い影響を与えることができたのではないでしょ
うか。
― 具体的にはスタッフの意欲向上のために、どのような取り組みをされたのですか。
代表的な取り組みとしては、本社が指名したエンジェルリポーターがスタッフの言動
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について、良いなと思ったことを書いて褒める「エンジェルリポート」です。スタッフ
が大勢いると、何かと目立つ人に目を向けてしまいがちですが、地道にコツコツと頑張
っている人にも目を向けて褒めようという目的で始まった制度です。リポートに名前が
よく挙がるスタッフは表彰されています。また、よく褒めてくれているリポーターも表
彰される制度があり、リポーターに対しても賞賛は忘れません。このような賞賛制度が
スタッフの意欲を掻き立て、お客さまに対してもっともっと良いサービスを提供したい、
という想いを生み出していき、それが、お客さまへのホスピタリティに繋がっていきま
した。
また、制服もサービス業の考えから、お客さまにご案内するのにふさわしいレストラ
ン仕様の制服に変え、いつ声をかけられてもいいように、スタッフはお客様のことを意
識するようになっていきました。帽子にも季節の花を飾り付け、少しでもお客さまに季
節を楽しんでもらえるように工夫をしたりしています。
― スタッフの意欲が向上しても、やはり清掃業は大変なこともあると思います。どの
ようにスタッフをサポートしていますか。
はい、大変なことも多いと思います。7 分間で
清掃するためには相当な覚悟が必要です。ただ清
掃をがむしゃらにすれば良いというわけではなく
様々な車両の構造や清掃の手順を覚えるなど、付
随する準備も怠らずに行わなければいけません。
そのため、思っていた以上に大変で、3 ヶ月以内
で辞めてしまう方も少なくありません。それでも
お客さまのために頑張りたいと、いま約 870 人のスタッフがやりがいを持って働いて
います。私達は、スタッフ同士でコミュニケーションをとって楽しく仕事ができるよう
に、様々な車両、チーム、役割を担当させ、なるべく色々な人と関われるようにスタッ
フの配置を考えています。
― 実際にお客さまから喜ばれていると実感したことはありますか。
そうですね。実際に SNS などで、良い噂が口コミ
で拡がっていることなどを目にしています。また、お
客さまから直接「コンコースのトイレはいつも綺麗で
すね」と、大変ありがたいお言葉を頂戴したこともあ
ります。お客さまの言葉で嬉しいことはもちろん、私
達が一番嬉しかったのはスタッフの言葉です。視察に
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来たある企業の方が「仕事のやりがいは何ですか」と 3 人のスタッフに質問したとこ
ろ、3 人とも「お客さまに喜んでもらうため」と同じことを口にしました。当社のお客
さまに対する考えが、スタッフにも浸透してきているのだと実感しました。また、多く
の企業の方からは「清掃会社でこんなにスタッフが明るいのは驚きました」と言って頂
けけることが嬉しいですね。
― 医療、介護業界でも人的サービスは非常に重要になってきました。医療機関や介護
事業所の人的サービスについてアドバイス等があればお願いします。
知人が介護業界で働いていますが、懸命に仕事をし
ています。清掃会社もそうですが、体力的にもきつい
と聞いております。私達が言えることではありません
が、そこでやりがいが見つけられると意欲が向上する
のではないでしょうか。以前、介護施設の方が仕事の
やりがいになるヒントを見つけるために当社に視察に
来たこともあります。お役に立てていれば良いのです
が、やはり医療や介護業界でもやりがいを見つけられ
ることで、良いサービスに繋がっていくのかなと思い
ます。医療や介護業界は人材確保も厳しいとい思うの
で、一人ひとりが業務をこなすだけで精いっぱいになってしまうと思います。その中で
懸命に医療や介護と向き合っている方々は素晴らしいです。
― 今後、どのような会社を目指していきますか。今後の展望を教えて下さい。
これまで培ってきたものを維持するというのは基本的なスタイルかもしれませんが、
お客さまにより良いサービスを提供していくために、清掃技術をさらに向上しなければ
ならないと思っています。私達は今が最高の状態だとは思っていません。新幹線劇場の
中で、もっとできることがあると思っています。もっと早く、丁寧に、お客さまのため
に、さらに高品質な清掃を目指して行きます。それに加え、温かいサービスを提供でき
るおもてなしの心もさらに育んでいきたいですね。
また、2020 年には東京オリンピックがあり、
外国人の方も新幹線を利用する機会が多くなるの
で、当社は清掃を通して、日本のおもてなしを提
供していきたいと思っています。お客さまが安全
に快適に新幹線を利用して頂くために、清掃とお
もてなしのプロを目指してまいります。
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■ プロフィール
株式会社 JR 東日本テクノハート TESSEI
1952 年:鉄道整備株式会社として設立
(左):岡部 正氏(右):平野 健太郎氏
1987 年:東日本旅客鉄道株式会社発足
2012 年:株式会社JR東日本テクノハート TESSEI に社名を変更
2012 年:東日本旅客鉄道株式会社の完全子会社化
2013 年:経済産業省主催「おもてなし経営企業選」選出
2014 年:公益社団法人企業情報化協会主催「サービス・ホスピタリティアワード」特別賞
受賞
株式会社 JR 東日本テクノハート TESSEI(本社)
住所:〒 103-0028
東京都中央区八重洲 1-5-15
田中八重洲ビル
TEL: 03-3278-9681
URL: http://www.tessei.co.jp/index.html
この記事が、皆さんのホスピタリティにおける一助となれば幸いです。
岡部さん、平野さん、TESSEI の皆様、ご協力頂きありがとうございました。
インタビュアー
藤原梨沙
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