修士論文要旨

修士論文要旨
論文タイトル:
「日系企業の中国市場キャピタルフライト法務戦略行動に関する研究-合弁
会社解散・清算と労使紛争の解決メカニズム-」
学籍番号:AM12020
氏
名:婁 云
指導教授:范
云涛教授
【論文の構成】
はじめに
第 1 章 問題意識の提起と研究の目的
第 2 章 既存研究文献に対するレビューリサーチ
第 3 章 労務紛争処理の方法
第 4 章 事例研究と仮説提起
第 5 章 合弁企業における労働紛争の予防対策
おわりに
【論文の内容】
1.問題意識と研究の目的
2012 年尖閣問題の煽りを受け中国各地で発生した反日デモや一部で発生した日本製品の不買運動の
影響を受け、2013 年、日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば 1~6 月に日本の対中投資額は前年同期
比 31%減の 49 億ドル(約 4800 億円)であった。対照的に対東南アジア投資額は 55%増の 102 億ドル
に急増した。日系企業が東南アジア地域への投資を加速する。または、中国の賃金上昇による労務コス
トの引き上げで、日本企業の多くがリスク分散のために「チャイナプラスワン」の戦略をとり始めてい
る。ここ数年、日本企業にはすでに東南アジアへのシフトを強める傾向が始まっている。日本貿易振興
機構によれば、日本の中小企業も豊富な労働力を擁するミャンマーやベトナムを新しい生産拠点や潜在
力のある消費市場とみなしているということである。
経営コストの増加、人民元切り上げ、ストライキなど大型労働争議の多発、金融危機の後、日本の東
日本大震災や欧州債務危機、デモなどの影響による国際貿易収支の赤字などに起因し、日本企業は中国
からぬけ出して、東南アジアへの資本移転が加速する現象が、2012 年以降目立ってきている。この現象
については、本稿では、記述の便宜上、中国市場からの日本資本によるキャピタルフライトと呼ぶこと
とする。日系企業はスムーズに中国市場からキャピタルフライトを果たそうとする傾向が今後も続くも
のと考えられる。しかし、日系企業、特に合弁会社の場合、なかなかうまくそれが実現できなかった。
外資企業のキャピタルフライト方法は主に企業の再編、持分譲渡、解散・清算がある。本稿は合弁企業
の解散・清算を視点とし、詳しく論じたいと考える。合弁企業が清算するときの障害には二つのポイン
トが挙げられる。ひとつは中国側の合弁パートナーは解散・清算に対して強い抵抗感を持つ傾向がある。
もう一つは従業員の処遇に関する問題である。したがって、本研究の目的は,日系中国合弁会社におい
て、労働紛争発生のリスクを極力低くすることがキャピタルフライト時におけるスムーズな企業の清算
に不可欠な課題であることを明らかにし、そのための方法論を検討することにある。
2.研究方法
私の論文としては、先行研究をまず逐一精査・分析検討を行い、その上で、現地調査リサーチ作業、
事例分析と従業員にインタビュー調査を通じて、外資系企業の解散・清算過程において、労使紛争トラ
ブルの解決メカニズムをリスクマネージメントの観点から問題点を洗い出し、仮説を提出する。最後、
事例を通じて、仮説を検証する。
3.研究結果
先行研究を通じて、日系企業の決定的な弊害として後手の事後処理主義というものが顕著に見られた
のである。日系企業はキャピタルフライト段階での労務紛争に関しては、往々にしてトラブルが発生後
にあわててその処理に追われる破目になる。すなわち、紛争の原因を事前に察知して未然に防ごうとす
る危機管理体制を構築できていないのが、リスクの拡大とエスカレートを招いていると言ってもよい。
合弁企業において、日系企業側が中国市場キャピタルフライトを図ろうとする場合に、スムーズに清
算の段階に進むことが重要であろう。清算段階において、円滑に労働関係を処理する方法についても、
本稿では、その労務紛争の解決メカニズムにつき、可能性を考察してきた。
合弁企業を設立するとき、合弁企業の清算と合弁契約の解除の要項をあらかじめ合弁契約及び会社の
定款に明確的に取決めを盛り込む規定すると、さらにまたは、董事会の運営規則と董事会の機能・権限
を定款に明確に規定すれば、合弁企業がスムーズに清算段階に進められる。特別清算と破産のリスクが
回避できる。清算において、従業員との労働契約の解除に伴い、労働紛争がよく発生する。清算すると
きの中国側従業員の再就職の斡旋を中国パートナーの義務を合弁契約に明確に記入すると、または、合
弁企業の就業規則と従業員の労働契約の条項に関してはもっとプロアクティブな配慮を施せば、キャピ
タルフライトを予想した場合のシミュレーションに基づき、あらゆるリスクに対応できる回避措置を盛
り込んだ労働関係規程集を確立しておけば、のちのちの労働紛争がほとんど回避できるようになる。
4.研究課題
今回の考察を通じて、日系中国合弁会社において労働紛争発生のリスクを極力低くすることがキャピ
タルフライト時におけるスムーズな企業の清算に不可欠であることが明らかになった。さらに、そのた
めには調停、仲裁などの公的紛争処理の仕組みを活用すると共に、労働組合との協調、従業員との労働
契約や就業規則などの整備が大きな効果があることがわかった。
結論的にいえば、事前に予防対策を織り込んだ危機管理体制の強化は、コスト無しでも清算時の労務
紛争の芽をあらかじめつぶししまうことが可能であり、結果的には、日系企業の中国市場キャピタルフ
ライトまたは対中経営戦略のスムーズな見直しに寄与できる重要な手だてとなることは、十分予見でき
よう。本研究は中国に進出したい外資企業(日系企業含め)や中国市場からキャピタルフライト、東南
アジアに進出する日系企業にある程度参考になると思われる。
【主要参考文献】
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11. 劉新宇(2009)
「中国における外資系企業の撤退に関する実務-会社解散・清算を中心として(下)」
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12. 董保華、立花聡(2010)『実務解説中国労働契約法』中央経済社.