世界経済動向

【視点・論点】
世界経済動向
1.全体的動向
世界経済全体では生産活動が減少している。これは米国経済において優遇税制の終了等による設備投資
意欲の減速等から1−3月期を中心に輸入減少し、企業の景況感が全般的に悪化したことを反映している。
アジア地域の対米輸出も減速し、今後、アジア地域の生産活動の減少が明確化する。こうした動向を受け
て、製造部門を中心に生産調整が本格化し始めており、世界経済全体の景気指標は悪化傾向を強めている。
一方で、世界的に在庫管理に対する企業の対応は敏速化しており、過剰在庫、意図せざる在庫の規模は
それほど大きくなく、原油を中心としたエネルギー価格も落ち着きを見せ始め、主要国の個人消費や雇用
が比較的良好で内需が力強いことなどから、世界経済の減速が深刻化する段階にはないと考えられる。
2.米国経済
米国経済は、2004年末の設備投資減税措置の終了等によりトラック等の輸送機器を中心に設備投資
の減速が明確となっている。この減速は、減税措置終了前の前倒し投資による反動減の性格が強く、雇用
統計等の堅調な状況から減速が長期化する危険性は小さい。
米国経済の動向を左右する最も大きな要因は、個人消費である。足下で個人消費は、原油価格の上昇に
もかかわらず増加している。これは堅調な雇用情勢に支えられたものである。今後の個人消費動向につい
ても、原油価格は低下傾向を強めガソリン価格等の引き下げが実質所得の拡大をもたらすこと、雇用情勢
は引き続き堅調であり所得の高い伸びが続くものと見込まれること、住宅ローン金利は比較的低水準で推
移しており住宅投資の伸びが続いていること、などから実質的に大きく減速することはないと考えられる。
3.ユーロ経済
ユーロ経済も米国経済の輸入減と地域内需要の減少から全体として低迷状況が続いている。とくにイタ
リア経済の減速が大きい状況にある。イタリア経済の減速原因は、構造改革の遅れによる競争力の低下に
ある。生産性等の低下は、アジア等新興諸国経済の競争力向上の前にイタリア経済の世界経済に占める比
率を大きく引き下げることとなっている。とくに、設備投資の更新、労働生産性改善に向けた雇用賃金体
系の改革等は、いずれも大きく出遅れる結果となっている。そのことは、ユーロ地域内でのイタリア経済
の位置づけをも低下させている。
4.アジア経済
アジア経済も米国経済の輸入減等によって全体として生産活動が減速する傾向にある。ただし、中国、
日本等の内需が依然堅調であり、アジア地域全体の経済活動の下支えとなっている。一方、韓国経済の個
人消費等内需も遅ればせながら回復し始め、外需依存型経済からの脱却が緩やかながら進みつつある。
アジア経済にとって今後の一番の問題は、「中国元」の引き上げ問題である。引き上げ幅は、当初、小
幅に止まる可能性があるものの、長期的にはアジア経済の金融的基盤に大きな影響を与えるとともに、為
替動向、各国の金融政策にも大きな影響を与えざるを得ない。
「PHP 政策研究レポート」(Vol.8 No.92)2005 年 5 月
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