彦論404_p.92-93 出原健一

リレー・エッセイ
「私 の 教育実践」
大学や社会に関する興味深いテーマを取り上げ、多くの方がリレーで参加して
様々な考えや意見が集える場にしたいと思います。最初のテーマは「私の教育
実践」です。
「大学 における外国語教授法 ワークショップ」
について
出原健一 Ken-ichi Idehara
滋賀大学経済学部 / 准教授
(同ワークショップ代表者)
大学で英語を教えて、この3月(2015年)で20 年とな
立大学教授)
「「 インパクト」を与える話し方の学習:
りました。定年退職まであと20 年 あるので、ちょうど
オーストラリア国立大学日本語授業における「デジタ
折り返し地点といったところですが、これだけ教壇に
ルストーリーテリング」」
立っていても、いまだに「どうすればもっと良い授業が
2月21日(金)西山教行(京都大学大学院人間・環
できるのか」と悩む毎日です。学生の多くは
「英語でコ
境学研究科教授)
「英語以外 の外国語を教えること
ミュニケーションをとれるようになりたい」と願ってお
は何を意味するか」
り、もちろんその目標を達成できるよう導くのが語学
話スクールとは違う、
「大学での英語 の 授業」でしか
2014 年度
7月25日
(金)川村和宏(岩手大学人文社会科学部
准教授)
「ICT連携教科書による初修外国語授業の
学べないことを学生に伝えなければならないとも思っ
実勢について」
ています。
「学生の学びたいこと」と
「教員が教えたい・
10月30日(木)及川茜(神田外語大学アジア言語
教えるべきこと」のズレはどの講義でも多かれ 少なか
学科講師)
「語学教育における文学研究者の役割を
れあるでしょうが、どちらかを完全に切り捨 てれば済
考える―専攻語二年次の授業における試行―」
むという問題 ではありません。経済学用語 を 使って
3月17日
(火)富岡真理子(滋賀県立虎姫高等学校
言えば、
「学生の学びたいこと」に合わせることがナッ
教諭)
「International Baccalaureate(IB)教育が日本
シュ均衡になるかもしれませんが、それがパレート効
の教育を変える?」
教員の 役目の一 つではあるのですが、一般的な英会
率的とは限らない、といったところでしょうか。
こういった様々な語学教育の問題を考える場を設
どれもとても興味深い講演で、すべて詳しくご紹介
けたいと思い、2013 年3月に、語学を担当されている
したいところですが、詳細は経済経営研究所のHPの
先生方にワークショップの立ち上げについてご相談し
「経済学部ワークショップ」をご覧いただくとして、ここ
たところ、ご賛同いただき、経済経営研究所の協力の
では
「理念」と
「実践」という観点からまとめてみます。
もと、
「大学における外国語教授法ワークショップ」を
「大学で語学教育を行う意義」という理念 の問題
立ち上げました。これまでの2年間に7回、外部の語学
について特に中心的にお話しいただいたのは西山先
の先生に講演をお願いし、ワークショップを開催して
生です。特に第二外国語という、学生の学びたいこと
います。
と教員の教えたいことの齟齬が大きいこともある科目
これまで行われたワークショップ
(敬称略)
語を批判視する姿勢が大事だと説かれました。そのよ
2013年度
7月9日(火)河原清志(金城学院大学文学部准教
うな教師の姿勢 を学生に示 すことで、言語を学 ぶこ
においては、教師が言語 の複層性を認識し、対象言
とからクリティカル思考を身につけることができること
授)
「複言語主義時代の外国語教育―社会的理念と
を学生も自覚しやすくなるのではと思います。また河
実践的教育法」
原先生の「複言語主義時代の外国語教育」において
7月26日(金)黒田航(杏林大学医学部英語学教
も教育理念 の問題 が 議論されました。様々なレベル
室講師)
「大学生に実践的に英語を教える:TEDと
の「国際化」を考えた上で、完全 ではなくとも複数の
QuickReaderを使って」
9月26日(木)Dr. Carol Hayes(オーストラリア国
言語を学生が運用できるように大学では語学教育を
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行うべきだという、ヨーロッパでは中心的な考え方で
彦根論叢
2015 summer / No.404
ある複言語主義について考察する場となりましたが、
マートフォンと連動させたドイツ語教科書を作成され
全面的に取り入れるべきかは難しい問題としても、日
たというお話をされましたが、両先生の「学生目線 か
本 の語学教育ではこれまでそれほど重視されていな
らの教材作り」という観点は今後ますます重要になっ
かったが 今後考慮していかなくてはいけない視点で
ていくと思 われます。またHayes 先生 はオーストラリ
あることは間違いないでしょう。しかし、当然 ながら、
アで日本語を教えられていますが、
「マルチメディアを
及川先生が 提起されたように、文学テキストを用いる
使って個人の 経験 や感情 から生まれた自分 にとって
ことでネイティブスピーカーが当然知っているような
大事なことを一人称の立場から語る」という
「デジタル
文化的知識・背景を学ばせるということも、まさしく大
ストーリング」を学生に作成させるという、いわゆる発
学 でしかなかなかできないことで、決して軽 んじられ
信型の授業の紹介をされました。日本では、外国語を
てはいけないかと思います。また、必ずしも語学教育
用いて自分 の意見を言う訓練 はまだまだ少ないのか
に限った話ではありませんが、富岡先生が紹介下さっ
もしれません。
た国際 バカロレアに関しても、今後 の大学教育・入
このような刺激的なお話を聞いて、そのまま真似る
試制度を考える上で非常に示唆的でした。
のではなく、自分なりに咀嚼して、少しずつですが、授
「実践」面に関しても、興味深い議論 がなされまし
業改善をしています。その成果なのか、一つの指標と
た。黒田先生は、
「英語を好きでない学生が有意義に
言える「学生の満足度」も以前より上昇しました。この
感じる授業設計」をすることを前提とされ、
「教師 が
ような効果 は私 だけでなく、参加くださっている先生
教えたいこと」よりも、
「『これくらいの能力』を身につ
方からも、
「視聴覚教材の 新しい 使用法 に刺激を受
けさせるために教師は何をすべきか」、
「学生に興味を
けています」、
「異 なる環境での 色々な実践例を伺う
持たせて課題をやらせるためにはどうすべきか」を重
ことで、自分 の環境下でもなにか新しい手段を模索し
視して、どのような教材作りをされているかを具体的
ようという気持ちが参加するたびに強まっています」、
に示してくださりました。その中で特に独創的と感じ
「他大学 の教員と問題を共有し、ちょっとした悩み 相
たのは、学生に英文の意味理解を求めず、とにかく一
談 ができるのも良かった」、
「同じ組織内では見えにく
定 の 速度 で英文を目で追 わす課題を与えることでパ
い問題点が浮き彫りになる」など、好意的な感想をい
ターン 認識力を高めさせるという手法です。多くの語
ただいています。このワークショップは今後も引き続き
学教員はこのような手法を否定的に見るかもしれませ
開催していく予定ですが、学内だけにとどまらず、県内
んが、工夫された教材を用いることで、英語が苦手な
の他の教育機関(大学のみならず中学・高校も含む)
学生も英文に対 する抵抗感 が減るなど、良い効果 が
とも連携して、滋賀県全体 の語学教育向上につなが
出ているそうです。川村先生も、学生に少しでも楽し
ればよいと考えています。
んで取り組んでもらえるよう心掛けて、携帯電話 やス
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