強相関電子系における磁性・超伝導の理論研究

新潟大学産学地域人材育成センター
研究紹介
【強相関電子系における磁気・軌道・超伝導の理論研究】
研究者氏名:山田 武見
~鉄系超伝導体における構造相転移と超伝導機構の理論的解明~
鉄系超伝導体は2008年に発見された新しい高温超伝導体です。銅酸化物高温超伝導体に次ぐ高い転移温度(Tc=55K)を持ち、既存の
超伝導体と異なる多軌道性や反強磁性秩序と構造相転移(軌道秩序)の共存などの複雑多彩な物理が超伝導と密接に関連するため、新し
い超伝導機構の解明とより高い Tc を示す物質開発を目指した研究が精力的に行われています。本研究ではこうした新奇な強相関電子状
態や磁気・軌道秩序及び超伝導機構に対して、主に数値計算を駆使した理論研究を行い、微視的機構の解明と新奇物性の予測を目指して
います。
≪研究成果と新規性・優位性≫
鉄系超伝導体の有効模型として、Fe の d-d 電子間クーロン相互作
用に加えて、従来考慮されていなかった Fe と As の新しい d-p 電子間
クーロン相互作用(d-p 軌道分極相互作用)を含む現実的な 16 軌道 d-p
模型を導出し、その電子状態や磁気・軌道揺らぎと超伝導について調
べました。その結果、実験的に観測される両揺らぎの増大が、本模型
における現実的なパラメータで記述可能となり、さらに両揺らぎを同時
に利用することで、協力して超伝導転移温度を上昇させるメカニズムを
見出すことに成功しました。この超伝導機構においては、従来理論に
比べてより自然な理論的取り扱いのもとで両揺らぎと超伝導を記述可
能な点で優位であるといえます。また本研究で主要な役割を担うサイト
間 d-p 電子間相互作用は、模型の簡単化のために従来無視されてき
た効果で、実際には様々な遷移金属・希土類化合物の磁性・超伝導に
おいても重要な役割を果たすと期待され、この意味で本研究は強相関
d-p 軌道分極相互作用 V'の模式図[1]。Fe の d 軌道と As の p 軌
電子系の磁気・軌道揺らぎ超伝導機構に新たな視点を提示したといえ
道の間の相対的な向きにより決定される。
ます。
≪その他の研究テーマ≫
■A15 型化合物超伝導体における構造相転移と軌道揺らぎ超伝導の研究
■重い電子系における磁気・多極子秩序と超伝導
≪キーワード≫
鉄系超伝導体
■ 強相関電子系に対する理論手法の開発
強相関電子系
磁気・軌道秩序
動的平均場理論
第一原理計算
≪関連する知的財産≫
■T. Yamada, J. Ishizuka and Y. Ōno, “A High-Tc Mechanism of Iron Pnictide Super Conductivity due to Cooperation of
Ferro-orbital and Antiferromagnetic Fluctuations”, Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ), Vol. 83, No.4, pp.
043704 (2014).
■T. Yamada, J. Ishizuka and Y. Ōno, “Metal-insulator Transition and Superconductivity in the Two-orbital Hubbard-Holstein
Model for Iron-based Superconductors”, JPSJ, Vol. 83, No. 4, pp. 044711 (2014).
■J. Ishizuka, T. Yamada,Y. Yanagi and Y. Ōno, “Local correlation effects on the s±-and s++-wave superconductivities
mediated by magnetic and orbital fluctuations in the 5-orbital Hubbard model for iron pnictides”, JPSJ, Vol. 82, pp. 123712
(2013).
≪研究員からのメッセージ≫
直接的には数値計算を主とした物性理論を専門に研究しています。強相関理論手法に近年の第一原理計算パッケージなどを組み合わ
せた現実的物質構造における物性予測などに興味があり、貢献できるかもしれません。
H26.4.17