千葉大学大学院 薬学研究院

アイソトープにより生体内の分子の動き、
生理活性の動きを視覚化し、
がんの診断・
治療、
治療効果の確認に貢献する研究
千葉大学大学院 薬学研究院
分子画像薬品学研究室
薬学博士 荒野 泰 教授
生体内の様子を視覚化できる、
アイソトープを使った技術
生体が活動する中で、
分子がどう動き働い
ているか、
また生理活性物質の発現の状況を
リアルタイムで視認できることは生体機能を
解明するうえで重要だ。
生命の基本的原理を
追究する分子イメージングという研究分野が
注目されている。
分子イメージングの1つである核医学検査
は、
物質を放射性核種で標識して生体に投与。
その体内動態を視覚化する。
小動物を使った
イメージングは、
生体の機能解明に関する情
報収集に欠かせない。
と
千葉大学大学院薬学研究科の荒野教授は、 ための薬剤設計の基盤作りを進めています」
荒野先生に紹介いただいた。
がんの早期診断やがん治療、
治療効果の早期
判定をテーマに研究を進める。
高度な実験をサポートする、
「イメージングには蛍光イメージングという
高性能の分析装置を設置
方法もあります。
臓器などの表面を見るには優
れた技術です。
蛍光イメージングは、
内視鏡と
分子イメージング研究の進展は、
分析機器
組み合わせて使用することで大きな効果が得
の性能向上が支えている。
本研究室は亥鼻
られると考えます。
しかし身体の深部に存在す
る臓器での生理活性物質の動きを視認するこ キャンパスと西千葉キャンパスにアイソトー
てとらえることができるプローブ
(薬剤)
の開
発研究を行う。
アイソトープを使ったがんの
イメージング研究をさらに進展させようとい
う研究だ。
今、
iPS細胞技術をベーストする再生医療、
再生医薬の研究が各方面で進んでいるが、
再
生した臓器や組織がもとの組織と一体化して
いるか確認が必要になるだろう。
荒野先生は
「アイソトープで視認できれば手
とはできません。
アイソトープ
は、
手術などの負担をかけずに
生体内を観察できる特徴があ
ります。視覚化するにはいい
術のリスクを負
わず確認できま
す。状況により、
アイソトープが
ツールです。
両者の研究が大
きく進展し、
それらを必要に応
いいか、
MRIなど
の画像機器がい
じて使い分ければ、
生命科学、
創薬そして医療に大きく貢献
できます。
私たちはアイソトー
プを用いて、
身体の中の観たい分子だけを観る
プの研究設備を使用し、
とくに西千葉キャパ
スの放射線施設に設置し
た小動物SPECT装置
(Single Photon
Emission Computed
Tomography)
が生きた動
物の体内分析を可
能にしている(写
真左下)
。
細 胞 内の 生 理
学的、生化学的変
化を外部のカメラ
を通して画像とし
いかなど、判断
が 分かれます
が、機能や予後
の様子を見るのならアイソトープが優れてい
ると考えています」
という。
放射線治療の新たな方法の
基盤作りをめざす研究
放射線は、
臨床でも身体の外から放射線を
照射するがん治療
(放射線外部照射治療)
に
使用され根治医療などに活用されている。
放
射線治療は、
低分子医薬品との組み合わせな
ど効果的な治療法となっているが、
荒野先生
は更なる治療効果の可能性を追究している。
「研究では通常、
エネルギーの低いγ線を用
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研究室では、
有効性と安全性を高め、
様々
ながんに対応できるようにα線を用いたが
いますが、
β線は細胞に対する作用が大きく
なります。
高エネルギーβ線を放出する標識
化合物をがん組織に選択的に送達すること
で、
ほかの方法では治療が困難ながんの治療
が可能になると考えています。
例えば、
手術で
は、
臓器内に細かく転移したがん組織を取り
じるため、
腎臓に障害を与えな
い程度まで投与量が制限され
ます。
その結果、
β線を放出する
標識ペプチドによる治療効果
が期待できなくなります。
その
ため、
腎臓に影響を与えず、腫
瘍だけに標識ペプチドを集め
るためのDD Sの構 築 研 究も
行っています。
腫瘍と速やかに
結合し、
長く留めることをめざして、
様々な性
質をもつ化合物の設計を研究しています。
現
在は、
実験動物を使い、
標識ペプチドが腎臓に
集まるのを減らす技術はほぼ完成に近づいて
んの治療薬剤開発のための基盤技術の開発
を開始した。
います」
と荒野先生。
「分子イメージングの分野は物理学の領域
に分類されますが、
実際の研究は皆さんが想
像する物理学のイメージとは異なります。
研
除くことが困難です。
放射線の外部照射もこ
うしたがんの治療には不向きです。
高エネル
ギーβ線を使うことで小さく方々に転移した
有効で安全な治療を目指した
α線を用いた研究も進める
究室では、
それぞれの学生が、
有機合成から培
養細胞を用いた実験、
動物を丸ごと使った実
験まで行っています。
世界で初めての研究内
がんに対応できるでしょう。
欧米ではβ線を
放出する標識ペプチドが、
がんの治療に使用
されています。
腎臓は、
血液を濾過し、
不要物
を尿として排泄します。
アルブミンより小さい
骨がんは激烈な痛みを伴い、
モルヒネを投
与しても効かない場合もある。
痛みの緩和に
アルコールを神経節に注入する治療も行われ
容ですから、
欲しい化合物があれば自分たち
で作らなければなりません。
自分で考案、
合成
した薬剤をネズミに投与して動態を観察する
のはたいへん面白い研究です」
という。
有機化
ペプチドや抗体などのタンパク質も腎臓で濾
過され、
腎臓内でアミノ酸まで分解されて再
使用されます。
この過程で、
投与した放射能が
腎臓に集まってしまいます。
腎臓の障害が生
るが、
投与を続けると感覚が麻痺していく。
ア
イソトープでカルシウムの同族であるβ線
(ストロンチウム89)
を投与すると、
カル
シウムの変わりにストロンチウム89が
入って、
がんが転移した骨にストロンチ
ウムが取り込まれ、
そこからβ線が出
てがんの痛みを緩和する。
この治療
は日本でも行われている。
またラジウムもカルシウムの同族
で、米国で行われた臨床試験では、
α
線を使った投与群に明らかな改善が
みられた。
その効果は、
がんによる痛み
をなくすだけでなく、
骨転移もなくし
たという。
α線は骨髄への影響が少な
いため日本でも治験が始まっている。
学から生命科学分野まで、
もの作りが活発に
行われている研究室だ。