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【琉球大学教育学部紀要】
【Bulletin of College of Education, University of the Ryukyus】
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中学生の主観的経済観と睡眠障害との関連
笹澤, 吉明; 小林, 稔
琉球大学教育学部紀要=Bulletin of Faculty of Education
University of the Ryukyus(84): 265-271
2014-02
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/123456789/31978
中学生の主観的経済観と睡眠障害との関連
Therelationshipbetweensubjectiveeconomicstatusesandsleepdisorderamongjunior
highschoolstudentsi
nJapan
笹潔吉明 1)、 小 林 稔 2)
1
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2
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SASAZAWAYosiaki ,KOBAYASHIMinoru
1)琉球大学教育学部生涯健康教育コース
2
)京都教育大学教育支援センター
1
) FacultyofEducation,FoundationofHealthPromotion,UniversityoftheRyukyus
2
) EducationSupportCenter,KyotoUniversityofEducation
キーワード:中学生、主観的経済観、睡眠附帯、不 l
眠症、社会疫学
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要旨
思春 J
mである中学生における主観的経済制と不眠症を含む脆眠障害との関連を明らかにするため質問紙調査
5
3
3名である。質問項目は、社会経済学的指標として主観的
を行った。対象は群馬県内の中学 3年生男女1.
経済制、睡眠行動指標として睡眠時間、 6時間未満の短睡眠、睡眠障害指標として不眠症、入眠凶難、中途
覚醒、早朝覚醒、熟眠困難の有病率である。調査の結果、 1
,
2
6
9名より有効回答を得た(有効回答率 8
2
.
8
%
)。
主観的経消観を不良群、普通群、良好群の 3
f
洋に分け脆眠指標の回答の比較を行った。主観的経済観 3群聞
に臨眠時間、短睡眠に蓬は見られなかったものの、男子の主倒的経済観不良群は、不眠症、入 1民困難、早朝
覚醒、熱 l
促困難の有病率が他群に比べ有意に高かった。一方、女子の主観的経済観不良群は、入眠困難、中
途覚醒、早朝覚醒の有病率が他群に比べ有意に高かった。これらの結果は、日本の思春期の社会疫学に新し
い知見を加えた。
Abstract
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一
-265
ーー
琉球大学教育学部紀要
第8
4集
報告はあまりなされていない。 R
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sら“は、
1.緒言
現代では、思春期の不眠症は人種や国家を問わな
近年、社会疫学 (
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) にお
いて、社会経済学的指標と死亡、権病を中心と
い世界の公衆衛生学上の問題であることを指摘し
ている。著者ら 7) も、これまでの研究で、中学
する健康指標との関連が注目されているに特に
生の不 I
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t症に関する報告を行ってきたが、不眠症
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)
米国を中心とした経済指標の不平等(in
とメンタルヘルス(孤独感、社会的支援、自尊感
は人びとの寿命を短くすると報告されている九
情、笠校意欲低下、事I
1うつ気分)の関連を明らか
具体的な、経済指標としては、国家レベルでは
にしたものであり、社会経済学的変数は検討して
国民総生産 (GDP)、園内レベルでは世帯収入
いなかった。
(
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) 等であり、平均寿命や、年
そこで、本研究は、思春期である中学生男女を
齢調整死亡率などが健康指標の結果の変数として
対象に、彼らの主観的経済観と睡眠障害の関連を
mいられることが多い。しかしながら、日本では、
f
食言すした。
世帯収入に代表されるような社会経済学的指標は
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eな問題なだけに、疫学研究で余り取り
上げられてこなかった。つまり、質問紙調査に入
1[.方法
対象は群馬県の 7公立中学校に在籍する 3年生
れにくい項目なのである。
世界経済がグローパル化される中で、先進国を
3
3名である。調査は 2
0
0
6年 3月初旬に行っ
男女1.5
中心に、高度技術化社会あるいは高度情報化社会
た。調査方法は自記式質問紙によった。生徒一人
と呼ばれる時代に突入し、人々は生産性活動や経
ひとりに調査の趣旨をフェイスシートで説明し、
済利益を重視し、睡眠を軽視しても生産性を高め
同意する者のみ記名し問答してもらった。
る傾向が見られるようになった。このような背景
質問紙は、基本的属性、睡眠状況及び睡眠障害、
から、睡眠時間は削られ、慢性的な睡眠不足の状
生活習慣(運動、食事等)および精神保健指標等
態が生じ、心身の不調を訴えたり、睡眠障害の
で構成されている。これらの質問紙を担任の教師
増加が世界的に見られるようになった。 Ohayon
ら3:1)は、これまでの欧米各国で行われた不眠症
が立ち会いの元で、ホームルームの時間に質問紙
の有病率の疫学研究において、不眠症の定義が、
した。
を配付し、生徒に記入してもらったのち密封回収
主観的経済観 3群の群分けは、「あなたの家は
アメリカ精神医学会の定めた精神障害の診断と統
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経済的によいほうだと思いますか、わるいほうだ
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sIV、 略 称 DSM-N )や睡眠障
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害国際分類 (
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s、略称 ICSD) に準拠した臨床的なも
うである、 2
. いくらかわるいほうである、 3
.
だいたいほかの生徒と同じくらい、 4
. よいほう
と思いますか?Jの問に、 fl.かなりわるいほ
のから、頻度や重篤さを考慮しない単純な入限や
. かなりよいほうである Jと回答させ、
である、 5
睡眠維持の困難を聞く主観的なものまで幅広く、
1と2を「不良群 J
、3を「普通群J
、4と5を「良
その定義の暖昧さを批評しているが、一般的に高
好群」とした。
い頻度で発生している睡眠障害であると指摘して
いる。大川は 5)、日本を含むアジアにおいても、
睡眠障害の指標は、入眠困難、中途覚醒、早朝
覚醒、熟眠困難および不眠症である。
特に日本と韓国において、 6時間未満の短時間!睡
入1民困難は、過去 lヵ月の睡眠を振り返って、
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) の割合が、 41%、38%と諸
眠者 (
「寝付けなくて困ることが週 l回以上ある j であ
外国に比し非常に高く、また不眠症の有病率も中
り、中途覚醒は過去 1ヵ月の睡眠を振り返って、
0から 28%であることを報告し、
等度から重症が 1
「夜中に目が覚め、その後寝付けないことが週 1
アジアにおける睡眠学の啓蒙が急務であることを
回以上ある」であり、早朝覚醒は、過去 1ヵ月の
示唆している。しかしながら、これらの知見は成
睡眠を振り返って、「朝早く目を覚ましてしまい
人のデータであり、子どもや中学生等の思春期の
困ることが週 1回以上ある Jであり、熟眠困難は、
一
ー 266-
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に取られなかった!必じのする ことが迎 1
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る」である 。
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いて行.つた。
調査の結果 1
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答 (
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を得た。
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1以
同 lに、主観的続消聞のI!!l科の分布を示した。
1
の生活に支障を生じる (
気
上で、 ③ そのため司 1
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l答した者が
全体で見ると 、「かなりわるい」と I
4
.
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%、「いくらかわるい j と1
1科したぞf
は1
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がてきぱきできない 、つい}
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であった。 リ
j子では 、「かな りわるし 、
Jと回答し
をしてしまう 、勉強 などの IIIJ 迎いが多くなる、 III~
た者が 5
.
29
6、「いくらかわるい」と 1
1答した者は
くてたまらないの 1つ以 I
.
I
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答)の 3条件がみた
されるケースとした 。
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主性の検討は 、主観的経済制 3
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6%であり、女 r
は「かなりわるい Jと回答し
た者が 4
.
5
9
6、「いくらかわるいJと1
1終した者は
13.9% であ っ た 。 それ以外の回答は 1~1 1 に示す通
りである 。
x ~ 検定、主観的経済制 31t下r:n の平均 Ih~ lII(時 111I の
洋、中
上記の紡栄から、 .
:I=.削的経済的」の不良 i
比 l肢には平均値の多重比較 (T
ukeyit~) 、主制的
川I
作
、 良好 I
作の 分布は 、全体でそれぞれ、 1
8
9
6,
経前仰の不良 洋
! とその他の 0/1データを 1
l
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M変数
6
3
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6、引 fでそれぞれ、 1
7
9
6
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9
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子で 1
8
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6であ った。
として 、 11重IIKI結~I~:指慨を説 IYJ 変数とした'l'IJ 日IJ 分析
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全体
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かの生徒と
同じくらい
男子
-よいほうで
ある
女子
-かな りよい
ほうである
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図1.全体および男女別における主観的経済観に関する回答の分布
注)質-問項目「あなたの家は経済的にょうぽうだと思いますか、わるし、ほうだと思いますか ?J
琉球大学教育学部紀要
表 lに主観的経済制 3群の平均臨!眠時間の比較
第8
4集
続服者は 18%であった。
を示した。全体で見ても、男女別で見ても、主観
表 3に主倒的!Hli11
1
民観 3群 の 睡 眠 障 害 指 標 の 分
的 経 済 観 3群間に平均睡眠時間の有志;差は見られ
布を示した。不眠症については、男子の不良群
ず 、 全 て の 群 で 7時間
(
4
2
0分 ) を 下 阿 る 平 均 値
は 39%で あ り 。 普 通 群 、 良 好 群 に 比 べ 有 意 に 高
であった。因みに全体の睡眠時間の平均値と標準
い 割 合 を 示 し て い る 。 女 子 も 危 険 率 が 5%に満た
4
0
6:
:
t9
0
.
7分であった。
表 2には、主観的1
1
垂1
1
民観 3群の 6時間未満!睡眠
い割合であった。入限困難は男女の不良群でそれ
の 短1
1
民者の割合を示した。全体で見ても、男女別
ぞれ、 2
8
.
7
%、2
4.4%と有意に.尚い割合を示した。
で見ても、主観的経済観 3群の短眠者の割合に有
中途覚醒は、男子の経済観 3群
!
日j
には有意差は見
意差は見られなかった。本データにおいて全体で
られなかったが、女子の不良群は
4
.4%と他群に比べ向
なかったものの、不良群が 2
偏差は
1
5
.
1%と有意に
表1.ギ観的解清観 3群の平均E
制民時間の比較
不良群
男子
普通群
412
.
4
:
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.
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3
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.
8
.
0
.
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.・・・有意差なし
表2
. 主観的経済観 3鮮の矧!民者 (
6時間未満)の分布
男子
不良群
普涌群
良好群
1
8
.0%
15.0%
15.5%
γ2
検定
0
.
8
.
女王-…...・H・...・...11J3.%.・・…...・H・-…・..gQ,Q%一……H・H・-…...gg,2弘一……・…・・…H・H・......>>.,~..........
全体
1
8
.
2
%
176%
187%
n
.
皐
n
.
8
.・・・有意差なし
表3
. 主観的経済観 3群の睡閥喧害の分布(%)
不眠症
男
不良群
普通群
阜証盤
3
9
.
0
1
8
.3
2
0
.
5
じ盤底
*
*
...女…・ ...............g1,1.................J.s.._7.… ..........Jg,Q...................p~~M).5.ß.
入眠困難
中途覚醒
早朝覚醒
熟眠困難
男
2
8
.
7
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6
.
7
1
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.
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*
*
*
*
*
中学生の主観的経済観と睡眠障害との関辿
高い割合を示した。早朝覚隈については、男女の
熟眠困難の問題を抱える傾向が見られた。一方、
不良群がそれぞれ 1
l
.9%、1
4
.
3
%と他群に比べ有
経済的に不良と思う女子生徒は、不眠症の傾向が
意に商い割合を示した。熟"民困難は、男子の不良
覚限の問題
ややあり、入眠困難、中途覚醒、早朝j
8
.6%と他群に比べ有意に高い割合を示した
群が 3
を抱える傾向が見られた。
が、女子では経済観 3群 I
lIJに有意差は見られな
かった。
このような、中学生という思春期の社会経済学
的な指標である主観的経済観と睡眠障害の関連を
表 4に男女別の主観的経済制の不良群と他群を
従属変数とし、不眠症以外の隣眠障害指標 4指標
を説明変数とした判別分析の結果を示した。男子
検討した国内の報告は、著者が調べた範囲では見
つからなかった。同様な思春期の社会経済学的変
では、熱"民間難、入眠困難の順でその判別に有意
数と不眠症を検討した研究には、米国の R
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ら 9) の報告がある。彼らは、 1
1歳から 1
7歳の
2
.
9
%で、あった。一
に寄与しており、正判別率は 6
思春期の対象者 4
.
17
5名を 1年間追跡調査した結
方、女子は男子とは異なり、中途覚醒、早朝覚醒
.
13
4名が対象として残り、不眠症の定義に
果
、 3
の順でその判別に有意に寄与しており、正判別率
は若者用の DSM-IVの診断基準 (
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7
.
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%であった。
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) を用いて検討した。
年間に入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難
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3
.
9
%、加
の 1つ以上の症状に,限忠したものは、 1
.
5
%、不眠
えて日中の疲労や眠気を訴えた者は 5
本研究の結果から、日本の中学校 3年生で、自
症と分類された者は 5
.
3
%だ‘った(擢患率)。一方、
分の家庭の経済状態が、かなり惑い、いくらか惑
慢性的な不眠症とされたのは 2
2
.
8
%であった(期
いと認識している者が、約 18%分布しているこ
間有病率)。また、これら不眠症の擢病や慢性的
0
0
6年に行わ
とが明らかとなった。この調査は 2
な有病には、年齢、性、家庭収入は影響していな
れたものなので、現在はこの割合が更に増加して
かったと報告している。同様に、思春期の若者を
いることが推察される。内!剖!仔が発行した平成
対象に、 4年間追跡調査を行った P
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nら 10) も
、
2
4年版子ども・若者白書によると、平成 2
2年の
家庭収入は不眠症のリスク要因ではないと報告し
ている。
国民生活基礎調査での、子どもの相対的貧困率は
1
5
.
7
%であり、近年緩やかに増加している傾向が
見られるへこれら経済的に不良だと,思っている
大人の社会経済学的指標と不眠症の疫学調査に
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目を転じると、 L
者は、睡眠行動の睡眠時間や短│睡眠者の割合には
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0から 7
9歳の 5
.
5
7
8名を調査したところ、不
関連が見られなかったが、眼目民の質と関連する│睡
眠症の有病率は、女性で 14%、男性で 10%であり、
眠障害の指標には負の関連があることが明らかと
未婚者、低学殿、低収入、無職、障害をもっ退職
なった。具体的には、経済的に不良と思う男子生
者ほど、不眠症の者が多かった。しかしながら、
徒は、不眠症の傾向があり、入眠困難、早朝覚醒、
この研究は横断的研究なので、因果関係は言及で
表4
. 男女別の主制句経済観不良群と似洋の醐腕害指標における判別分析
男
入眠困難
-0.260
中途覚醒
0
.
0
1
8
早朝覚醒
0
.
2
0
4
熟眠困難
-0
.
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塑
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女
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琉球大学教育学部紀型
きない。更に、後ろ向きに (
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)解析を
した結果、子ども時代の社会経済的変数は不眠症
都8
4集
V
.謝辞
には影響を与えていないことも報告している。上
調査実施に協力して頂いた 7公立中学校の生徒
記の未婚、低学歴、低収入、無職などの変数は、
諸君ならびに教職員の皆織に感謝申し上げます。
思春期の若者には当てはまらず、その準備期であ
尚、本研究は文部科学省科学研究費若手研究 (
B
)
る。社会経済学的変数は、生活習慣などと異なり、
1
5
7
9
0
2
8
4の援助を受けた
制御が難しい要因である。ましてや、思春期の経
済観は、親から間接的に生ずる思考なので、その
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J御は更に難しいものである。家庭経済は景気な
~.参考文献
あるため、家族収入も把握していないことが予想
1) Berkman L
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されるため、「あなたの家は経済的にょうほうだ
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) 大川医子.アジアにおける睡眠医療の現状と
と思いますか、わるいほうだと思いますか?Jと
展望.保健医療科学 6
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ど、社会全体の問題が影響することから、同家レ
ベルでの取り組みも重要であろう。いずれにして
も、家庭収入の改善は思春期である中学生の不眠
症の予防に寄与する可能性があることが示唆され
る
。
本研究の不眠症の定義は、 DSM-IVに準拠した
ものではあるが、その頻度において、ここ 1ヶ月
間で週に 1日程度、入眠困難や中途覚醒や早朝覚
醒や熟眠困難があると訴えた者を陽性と判断して
いることから、臨床的基準からは少し甘めと捉え
るべきである。従って、有病率は本研究では多め
に見積もっていると解釈すべきである。しかしな
がら、社会経済学的変数との関連を見る上では、
より安定した解析ができるともいえる。また、主
観的経済観の定義であるが、大人の場合、収入を
直接聞くことが多いが、本研究の対象は中学生で
いう聞に留まってしまった限界がある。
また、その他、中学生の不眠症に影響を与える
であろう要因として、学業成績や親・友人・先生
等との人間関係やメンタルヘルスや運動、食事な
7
) 笹津吉明、他. r
中学 3年生の不眠症とメ
どの生活習慣など、不眠症と主観的経済観の関連
7
0
.
ンタルヘルス J琉球大学教育学部紀要 .
を検討する際の交絡要凶の制御がなされていない
.
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8) 子ども・若者白書、内閣府、 3
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のも、本研究の課題点として残った。これらのこ
とを踏まえた縦断的研究が今後望まれるところで
ある。
しかしながら、研究の限界はあるものの、本研
究は、中学生を対象にしたこと、社会経済学的指
標である主観的経済観と睡眠障害との関係を明ら
かにしたことで、日本の社会疫学に新しい知見を
加えることとなった。
一 270 一
∞
中学生の主観的経済観と l
睡眠陣容との関連
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