沖縄県独自のアルカリ骨材反応抑制対策・劣化診断に関する技術開発 研究代表者:琉球大学工学部環境建設工学科 富山潤 共同研究者:沖縄県におけるアルカリ骨材反応に関する研究プロジェクト 1.はじめに 沖縄県の ASR には,膨張性の種類から台湾花蓮産骨材や新川沖産海砂などの遅延膨張性と本部 産の石灰岩砕石・砕砂に混在している可能性のあるヒン岩(安山岩の一種)のような急速膨張性 が混在する.JIS の ASR 骨材試験(化学法,モルタルバー法)は急速膨張性に適した試験法であ り,遅延膨張性には対応できず,遅延膨張性骨材を安全な骨材と判定してしまう.しかし,遅延 膨張性の骨材に起因した劣化事例が実構造物にあることから,遅延膨張性の危険性を検出可能な 試験方法や基準の確立が必要である.ただし,海砂に起因した劣化は限定的でかつ軽微であるた め,ASR が生じたとしても必ずしも構造物の安全性,使用性,機能性などの性能にすぐさま影響 を与えるわけではない.したがって,遅延膨張性を示す骨材の危険性を検出できる試験法の確立 のみではなく,骨材自身の反応性を評価し,さらに ASR 劣化を許容できる範囲での構造物,部材 の重要度を考慮した抑制対策の模索が必要である. そこで本技術開発では,沖縄県独自の ASR 抑制対策および診断技術の体系化を目的としてい る.具体的には以下の 4 テーマに取り組み,最終的には ASR 抑制対策マニュアル,ASR 劣化診断 マニュアルを作成すること目指すものである. ①沖縄県の ASR の現状把握および整理 県内のコンクリート構造物の ASR 劣化事例の情報を収集し,劣化の症状,構造形式,ASR の特 定方法および原因,対策方法などを整理する. ②JIS の ASR 試験(化学法,モルタルバー法)に代わる ASR 判定試験の確立 遅延膨張性骨材の危険性や反応性を評価するための試験法を既存の研究成果を基に開発する. ③フライアッシュの使用マニュアルの整備に向けた取り組み ASR 抑制対策の有効な手段として,フライアッシュの活用が挙げられる.このテーマでは,沖 縄県におけるフライアッシュの供給量,品質確認・確保の確認および抑制効果の検討を行う. ④ASR の抑制対策および劣化診断の方法の体系化と診断技術の高度化の検討 遅延膨張性および急速膨張性の混在にも対応可能な ASR 診断技術の検討および個々の試験法 の高度化を行う. 2.成果概要 本技術開発では,沖縄県独自の ASR 抑制対策および診断技術の体系化を目的としている.具体 的には以下の 4 テーマに取り組んだ.以下にそれぞれの研究テーマで得られた成果概要を述べる. ①沖縄県の ASR の現状把握および整理(報告書第2章) ここでは,沖縄県の ASR 劣化の原因の整理と,ASR 劣化したプレテンション PC 中空床板橋に 対する ASR 診断法の一例を示した.特に,岩石学的評価に基づく ASR 劣化診断について沖縄県 内でも高いレベルの診断が行えることを示した. ②JIS の ASR 試験(化学法,モルタルバー法)に代わる ASR 判定試験の確立(報告書第3章) 遅延膨張性骨材の危険性や反応性を評価するための試験法として,RILEM の AAR-4.1「Detection of potential alkali-reactivity-60℃ test method for aggregate combinations using concrete prisms」を参考 に,遅延膨張性鉱物を含む小型コンクリートプリズムを用いた加速試験方法の適用性を検証した. その結果,この試験が遅延膨張性骨材に対しても適用可能であることがわかった.また,内在ア ルカリ(5.5kg/m3)に起因した ASR の抑制に対してフライアッシュの抑制効果が確認できた. ③フライアッシュの使用マニュアルの整備に向けた取り組み(報告書第4章) フライアッシュの使用マニュアルの整備に向けた取り組みについて,沖縄県,沖縄総合事務局 の現状を調査した.この結果,耐久性の求められる重要なコンクリート構造物に対して,フライ アッシュコンクリートを積極的に利用する方針に進んでおり,さらにフライアッシュコンクリー トを使用できる環境が整備され,実績も増えてきていることが確認できた.今後は,使用指針等 の整備が必要である. ④ASR の抑制対策および劣化診断の方法の体系化と診断技術の高度化の検討(報告書第5章) 遅延膨張性および急速膨張性の混在にも対応可能な ASR 診断技術の検討および個々の試験法 の高度化を行う予定であったが,本報告では,ASR の抑制対策について,先進的な抑制対策とし て,「ASR 診断の現状とあるべき姿研究委員会 報告書,公益社団法人 日本コンクリート工学 会,2014 年 7 月」で提案された方法を紹介し,伊良部大橋下部工のフライアッシュコンクリート を用いた ASR 抑制対策との整合性を評価した.その結果,提案された抑制対策から得られた結果 と伊良部大橋下部工の配合との整合性を確認できた.したがって,提案された抑制対策の考え方 は沖縄県でも使用可能であることがわかった. また,ASR 診断として,岩石学的評価に基づく方法を示し(具体的には報告書第2章),沖縄県 においても高レベルな岩石学的評価に基づく ASR 診断が可能であることを示した.特に沖縄県 は,「遅延膨張性」と「急速膨張性」の ASR があり,それぞれで診断法,対処法が異なることか ら,岩石学的評価に基づく ASR 診断は必須であると考える. 3.抑制対策の紹介(報告書第5章) 「ASR 診断の現状とあるべき姿研究委員会 報告書,公益社団法人 日本コンクリート工学会, 1) 2014 年 7 月」 では,海外の先進的な抑制対策事例をもとに,我が国における合理的かつ実用性 の高い ASR 抑制対策について提案している.その基本構成は,「構造物の使用環境」と「社会的 重要性」に応じた材料設計である. 「社会的重要性」では,重要性に基づいた構造物の抑制対策レ ベル評価(4 段階)が提案され,さらに共用環境(使用環境)に関する評価,さらには,構造物寸 法,骨材の反応性のレベルに応じて抑制対策を決定する.以下にその概要と伊良部大橋下部工の フライアッシュコンクリートの配合との整合性を確認し,沖縄県での適用性について検討する. 表-1 構造物の重大性レベル ASR の受容性 レベル 構造物への影響度 カテゴリー ASR に よ る い く ら ASR が構造物の性能や経済性,環境 S1 S2 S3 S4 表-2 リスクレベル評価 かの劣化は許容でき に与える影響度は小さい,もしくは, 交換できる る 無視できる (e.g.,<30 年) 中程度の ASR の劣 ASR が主要な劣化であれば,構造物 化は許容できる の性能や経済性,環境に影響がある 小規模の ASR の劣 ASR が小規模でも,構造物の性能や 化は許容できる 構造物の重大性 S1 部材を比較的簡単に 経済性,環境に大きな影響がある (e.g.,>100 年) 経済性,環境に深刻な影響がある. >100 年 必要に応じて補修できる または,ASR を許容で リスクレベル 単に交換できる 大半の土木・建築構造物 重要構造物(ダム・原子 一時的な構造 表-3 ASR の抑制レベル 共用環境(使用環境) 低 E E F ASR 抑制対策 コンクリート中のアルカリ総量 Na2O<3.0kg/m3,または表 5-5 の混和材を用いる コンクリート中のアルカリ総量 Na2O<2.4kg/m3,または表 5-5 の混和材を用いる D コンクリート中のアルカリ総量 Na2O<1.8kg/m3,または表 5-5 の混和材を用いる E コンクリート中のアルカリ総量 Na2O<1.2kg/m3,または表 5-5 の混和材を用いる F コンクリート中のアルカリ総量 Na2O<1.2kg/m3,または表 5-5 の混和材を用いる 遅延膨張性 (変成岩系) (堆積岩系) アルカリ供給あり マスコン 1 2 3 4 マスコン 1 2 4 4 マスコン 1 3 4 5 表-5 ASR の抑制対策レベル 高炉スラグ微粉末 D B C 燥 フライアッシュ B 5 B 遅延膨張性 混和材の 4 急速膨張性 2 混和材 D ペシマム配合 2 (凍害・海水・融雪剤) A 急速膨張性 1 アルカリ供給あり C C 非ペシマム配合 1 (淡水・土壌と接する) B A 抑制対策不要 小部材 潤 A A 3 A アルカリ供給なし 湿 A 2 高 乾 アルカリ供給なし 1 抑制レベル 中 構造物寸法 力施設) 表-4 ASR の抑制対策手法 骨材の反応性 無 きない 物,二次製品 (e.g.,30-100 年) い S4 30-100 年 部材を比較的簡 きる ASR 許容できない S3 <30 年 ASR の 必要に応じて補修で ASR は 許 容 で き な ASR が小規模でも,構造物の性能や S2 混和材の最小添加量(wt%) アルカリ量 抑制レベル 抑制レベル 抑制レベル 抑制レベル Na2Oeq(%) B C D E,F <3.0 15 20 25 35 3.0-4.5 20 25 30 40 <1.0 40 45 50 60 表-1:構造物の重大性より,伊良部大橋は「S2 または S3」に 該当する. 表-2:リスクレベルは,海からのアルカリ供給量があるため 「3」と設定できる. 表-3:ASR の抑制レベルは,表-1 の構造物の重大性(S2 また は S3)と表-2 のリスクレベル(3)から, 「C」が選定される. 表-4:表-3 から得られた抑制レベル「C」より, 「コンクリー ト中のアルカリ総量 Na2O<2.4kg/m3,または表-5 の混和 材を用いる」が選定される.混和材(ここでは,フライ アッシュ)を使用する場合は,表-5 より,20wt%となる. 以上の結果より,提案手法から得られたフライアッシュ添 加量 20wt%と伊良部大橋下部工のフライアッシュコンクリ ートの配合(内割 20%)は整合しており, 「ASR 診断の現状 とあるべき姿研究委員会」で提案された ASR 抑制対策は, 沖縄県でも有効であると考えられ,今後適用性を検討する予 定である. 参考文献 1)(社)日本コンクリート工学協会:ASR 診断の現状とあるべ き姿研究委員会報告書,2014.7
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