小児および若年者の脳脊髄液減少 症について 荒尾市民病院脳神経外科 不破 功 1 はじめに • 脳脊髄液減少症の発症年齢は、 30歳~40歳代以降に多く、小児や若 年成人には比較的少ないとされている。 • しかし、20歳未満の若年者の症例を経 験することも少なくはない。 2 • 我々が経験した、20歳以下の小児お よび若年者の低髄液圧症候群症例 は12名であり、全脳脊髄液減少症 の12.9%であった。 • 男性3名、女性9名で女性に多い傾 向であった。受診時年齢は、9~19 歳であり、平均15.9歳であった。 3 検査方法 • 対象症例は、原則として頭部造影MRI、 腰部のMRIミエログラフィー、脳槽シンチ グラフィー(以下RIC)を実施した。 • 一部の症例で、CTミエログラフィーを 実施した。 4 脳槽シンチグラフィー(RIC) • 111In -DTPA 37mBqを、25G腰椎穿針針 を用いて脊髄髄液腔に注入した。 • 注入後1時間、3時間、6時間、24時間 の計4回、経時的に撮像し、腰部クモ 膜下腔および膀胱部のRIカウントを測 定した。 5 CT ミエログラフィー(CTM) • RICとは別の日に実施した。 • 腰椎穿刺にて8~10mlのイオヘキソー ル(51.77%)を髄液腔内に注入した。 • 約1~3時間後に64列ヘリカルCTで全脊 椎を1mm幅で撮影。 • 症例によって、earlyとdelayの2回撮影を 実施した。 6 結果(2) • 全例で頭痛が主訴であり、立位や坐位 など、体の姿勢による頭痛悪化が、全例 で認められた。 • 発症から診断確定までの期間は、1ケ月 ~65ケ月(平均16.7ケ月)であった。 7 外傷歴 • 外傷の病歴が9名でみられた。 • 外傷の内訳は、軽症頭部外傷5名、重 症頭部外傷1名、臀部打撲(尻餅)2名、 鞭打ち損傷が1名であった。 8 造影MRI所見 • 12名中9名で頭部の造影MRIを実施した が、いずれの症例においても、硬膜のび 慢性の造影所見は認められなかった。 9 自己血硬膜外注入療法 (ブラッドパッチ) • ブラッドパッチは11名に行った。 • 実施回数は、1回が7名、2回が2名、 3回1名、4回1名であり、平均1.25 回/人であった。 • 自己血の1回の平均注入量は、男 性で14.0ml、女性で11.4mlであっ た。 10 転帰 • 経過観察期間は、1~53ケ月(平均22.0 ケ月)であった。 • 転帰は著明改善8名、改善3名、不変が 1名であった。 • 脳槽シンチグラフィーを再検した7名中、 5名で髄液漏の 停止を確認した。 11 症例1(脳槽シンチグラフィー) EBP 3回実施後 胸~腰椎に対称性の髄液漏 出とRIの循環不全を認める。 EBP 4回実施後 転帰良好 12 症例2:CTミエログラフィー L2-3 L3-4 造影剤注入1時間後にクモ膜下腔からの漏出 13 症例3 RIC 3時間後 片側限局性の髄液 量出 CTM 3時間後 L4/5で穿刺部に髄液漏出所見があるが、 RICの漏出部位とは異なっている。 低髄液圧症候群患者の年齢について • Schivink らは、 2011年に93名の低髄液圧 症候群の患者を報告し、年齢は14~86歳、 平均43歳であった。守山らは2004年に、57 名の患者を報告しており、17歳~86歳で平 均35.7歳であり、いずれも成人例中心の報 告である。 • 我々が狩猟市得た限りでは、2008年に Uysal らが報告した5歳が最年少であった。 15 外傷の病歴 • 最近では、本邦での学童期の外傷を契機とし て発症した報告例が散見されるようになって いる。我々の症例も同様で、外傷例が75%で あった。 • さほど重度でない外傷により発病する可能性 がある。外傷後の頭痛が長期化する場合に は、本疾患を疑う必要がある。 16 • 我々の症例では、症状発現から診断までに 長期を要した症例も少なくなかった。若年者 の脳脊髄液減少症は、見過ごされている可 能性が否めない。 • 頭部CTやMRIで異常所見がみられないことか ら、片頭痛やストレス性の頭痛とされることも 多いと思われる。 • また、精神疾患や詐病などと誤解され、精神 科や心療内科に紹介されてるケースも考えら れる。 17 • 欧米の文献では、低髄液圧症候群には、先天性の結 合織疾患の合併頻度が高いと言われている。EhlersDanlos症候群、Marfan症候群 JHS (joint hypermobility syndrome)などに合併した 低髄液圧症候群が報告されている。 • ただ、 結合織異常を合併した例での、低髄液圧症候 群の発症年齢は、小児期ではなく成人なってからの 方が多いようである。Schievinらの結合織合併18例の 平均年齢は38歳であり、未成年の症例はなかった。 Mokriらの同様の報告では9例中、未成年は1例のみ であり、11歳であった。 18 • 本邦では、Marfan症候群と低髄液圧症候群 の合併報告があるも成人例であった。 • 全身性の結合組織脆弱性の一環として、脊 髄硬膜の破綻が生じ低髄液圧症候群を発症 する可能性がある。 • 小児や若年の低髄液圧症候群においても、 潜在的な結合織疾患が併存している可能性 があろう。 • 皮膚や関節など過剰な伸展性や可動性など について、注意深い診察が必要である。 19 • 治療については、まずは安静と輸液が原則で あるが、これらの治療で奏効しない場合や慢 性化しているケースでは、ブラッドパッチを適 応すべきと思われる。 • Uysalらは、5歳の症例にブラッドパッチを実施 している。高橋らは、20歳以下の7名(最低年 齢13歳)にブラッドパッチを施行し良好な結果 を得ている。 • 我々の症例では、最低年齢が9歳であったが 、ブラッドパッチの合併症はみられず、比較的 良好な治療効果が得られた。 20 • 未成年者では、進級進学、就職などの、 人生の区切りの時期が迫っていることか ら、早期の診断確定と早期治療が必要 である。 • 少数回のブラッドパッチで治癒可能では あるが、複数回の治療を要する例も少 数ながら認められたことから、全体の治 療期間を短縮する必要もあろう。 21 • ブラッドパッチ療法は有効性の高い治療法で はあるが、小児への自己血硬膜外注入後に 発熱を呈した症例報告もある。成人例では、 神経症状の発生、腰痛、感染の報告もある。 • 長期的合併症についての明確な文献的記載 はない。体格の小さな小児例に対する安全性 については、十分なデータがあるとは言えな いのが現状であろう。 • 適応と手技には慎重さが求められることは言 うまでもない。 22 文献 1)Chan, E. 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