トランスクリプト7

学校Ⅳ 15才 (7)
大助
ど、どうしたの、泣いたりして。どっか、つらいとこあるの?さすってあげよっか。
男2 もらしてしもうたとよ。
大助 え?もらしたって?
男2 なさけなか。しょんべんもらしてしもうたとよ。
大助 あ、ほんとうだ。ぬれてる。どうしようか、おじいさん。まず、布団変えなきゃいけないね。
これ乾かしてさ、新しい布団出して、あ、おじいさん、パンツぬげよ、洗うからさ。
男2 少年、台所行ってな、包丁もってこい。
大助 何するの?
男2 腹かっきって死ぬぞ。バイカルのテツとまでいわれた男がお前、小便たれてまでいきておれ
っか、え?戦友達が‫ט‬えに来る前にな、おいのほうからおしかけてくんじゃい。出刃もって
こい。
大助 わかった。わかったから。僕、今包丁持ってくるから。
男2 もってこいよ。出刃もってこーい。
大助 おじいさん、まずパンツかえよ。そっちが先だよ。だってかっこ悪いだろ、ぬれたまま腹き
るなんてさ。おじいさん、洗濯したパンツどこにあるの?
男2 おい、出刃包丁どうした?
大助 今もってくるから。とにかくパンツぬいで。
男2 バイカルのテツとまで呼ばれた男がな、小便もらしたなんて人に聞かれたらお前、本当にぶ
ち殺すぞ。
大助 いわない。ぜったい‫ؘ‬わないから。さ、ぬいで。
男2 じゃあ、手伝ってくれ。
大助 よいしょ。あー、痛いイタイイタイ。
男2 イタイイタイ。
大助 こっちのほうが痛い。
男2 イテ。
男2 おい、自転車あったか?
大助 はい、ありました。これに乗れってのかよ。
(大助、町にでる)
大助 こんにちは。
道の人 こんにちは。この自転車に乗って大変だね。
(薬局)
薬剤師 あんたも大変ね。
客 大丈夫、ありがとね。
薬剤師 またおいでよ。
客 じゃあね。
薬剤師 はい、おむつ。
大助 すいません。
薬剤師 ひとつでよかと?
大助 これは大人にも使えるんですか?
薬剤師 ञちゃんのだよ、これ。大人が使うとね?
大助 おじいさんなんですけど。
薬剤師 じゃあ、もっと大きかとださんとね。あんた、見かけん顔やけど、どこん人?
大助 縄文杉見にきたんですけど、昨日泊めてもらった家のおじいさんがオムツいるようになった
んで買いにきました。
薬剤師 おじいさんって、どこん人?
大助 おしっこもらしたなんて਑にもいうなっていわれてるんですけど。
薬剤師 大丈夫よ、うち、口はかたいほうやから。਑ね?
大助 名前はよく知らないけど、みんなバイカルのテツっていってます。
薬剤師 テツ?あらー、あの極道じいさん、とうとうオムツの世話になったとね。
大助 おӊいです。਑にも‫ؘ‬わないでください。秘密ですから。
薬剤師 でもね、博多に息子さんいるから知らせなね。
大助 僕もそういったんですけど、おじいさんは「絶対ૣ話なんかするな。あんな奴の顔なんかみ
たくもない。」っていってました。
薬剤師 なあにゆうちょっと。嫌われるような事したのどっちかよ。ほんにわがままで頑固なんやか
ら。あ、みちよさん、こないだどうもすいません。
みちよ どうも。
薬剤師 オムツのあてかたしっちょっと?
大助 僕、子供いないし。
薬剤師 そや、そうやね。まず、両手を壁にあてて立たせるとよ。おじいさんになったつもり。ほん
で、倒れたきたなかもんふき取った後、はい。こげなふうにあててね、はい、はい。こう、
テープを下から上、こう、止める。これでOKよ。簡単やろが。
大助 はい。
薬剤師 おばさんね、博多のみつおさんに、息子のことやけどね、ૣ話してきてもらうから。
大助 いいんですか。
薬剤師 仕方なかとよ。いくらすかんちゅうても親子やもんね。それんしても、他人のあんたには迷
惑かけるね、ごめんね。
大助 おいくらですか?
薬剤師 よかよか、みつおさんにもらうから。よかよ。
大助 失礼します。
薬剤師 どうもありがとう。
大助 さようなら。
薬剤師 さよなら。あれ、大丈夫かね。
大助 なんだよ、歩いたほうが早かったじゃないか。
道の人 がんばれ、がんばれ、がんばれ。がんばって。
(大助のナレーション)
息子さんという人がくるまで、僕はおじいさんのそばにいてあげようと決心した。おしっこ
くさい下着やシーツを洗ったりすることがなぜかそれほど嫌ではなかった。掃除したり、࢓
事を作ったり、けっこう僕は働き者だった。
大助 おいしくないの?
男2 いや、今くいとうなか。ほい、お前࢓え。
うまか?
大助 うん。バナナ࢓えよ。栄養つくからさ。
男2 うん。
(夜、男2が布団にいる)
男2 少年。
大助 なあに。
男2 眠れんのだよ。なんか話をしてくれんか。
大助 どんな話?
男2 なんでもよか。例えばおなごの話とか。
大助 女か。
男2 おい、いくつだ今?
大助 15。
男2 15か。15ならば好きなおなごの一人や二人はおるやろが。
大助 いずみちゃんっていうんだけどね。
男2 いずみちゃんか、かわいか子やろな。心のきれいな。
大助 うん。
男2 で、どうした?
大助 僕が学校行かなくなったんで心配して時々顔出してくれるんだ。
男2 おう。
大助 いつかの日曜日、僕の家にきてこんなこというんだ。「教室の中で大助君の机だけがいっつ
もぽつーんとあいていて、寂しくて仕方ないから、金Թ蜂をおいてあげたの。」
男2 ほー。
大助 「中で小さな金Թが2匹泳いでるんだよ。」いずみちゃんってね、そういう優しい子なんだ。
僕、いずみちゃんの事思うと、ああ、幸せになって欲しいな、そんな思いが胸にあふれて来
て、僕まで幸せになっちゃんだ。
男2 (いびき)
(朝、フェリーを降りるみつお)
みつお お、そうなんだよ。あさってには出社するけ、すまんな、迷惑かけて。
(男2の家、救急車が来る)
みつお とうちゃん、おいや。
男2 みつおか、何しにきた?
みつお 今、町立病院の先生に頼んできたと。時期、病院に入ろう。
男2 おいは病院はすかん。
みつお とうちゃんの具合がわるかっちゅうૣ話もろうたから、おいは仕事のほうやりくりつけて飛
んできたんやど。
男2 おいは何もたのまんと。お前が勝手にきたとじゃ。ほっとけ。おいはな、ここで野垂れ死に
するとじゃい。
みつお いいかげんにせんか。おい達と暮らすのはすかん、病院には行かん、一人で死ぬ、とうちゃ
んはそれでよかばってん、島の人たちはまるでおいたちが父ちゃんをほったらかしとるよう
に思うやろが。これ以上恥をかかせんでくれよ、我々兄弟に。ななえもけんじもおんなじ意
見やど。よかいか?行くな、病院へ。
男2 好きなようにせや。
みつお ほな、頼みます。
救急員 こんにちは、わかりますか?ごめんね。
みつお わ、くさかー。なんやとうちゃん、しょんべんが、
救急員 わしと、
みつお みっともなかね。
救急員 はい、ちょっとごめんな。ほな、これから救急車のるからね。
みつお すまんね、くさかやろ。私、片付けて後でいきますから。
わー、気持ち悪か。しょんべんたらすようになったら人間おしまいやな。あ、君か、薬屋の
おばさんがゆうてたひと。親父が世話になったそうだな。どうもありがとう。わー、気持ち
悪か。悪いけど、この家しめるから荷物まとめて出ってくれんか。すまんな。わー、くさか。
みつお あ、そうや。これ、少ないけど、昼ごはんでも࢓べてくれんか。
大助 いりません。
みつお まあ、そんなこといわんと。世話んなったんやから、な。
大助 おじさん、僕はこんなものが欲しくておじいさんのそばにいたわけじゃないんです。
みつお どうしたんや?
大助 おじいさんはね、おしっこもらしたとき、はずかしいっていって泣いてたんですよ。それを
あんなおっきい声で知らない人の前でくさいなんて‫ؘ‬ったりして。なんだ、自分だって子供
の頃はオムツしてたんだろ。あのおじいさんにだっこされて大きくなったんだろ。その息子
にあんなにひどいこと‫ؘ‬われて、おじいさんがどんなに悲しかったか。大人のくせにそんな
ことが分からないのか。それでも一人前なのか、おじさんは。さよなら。
(フェリー乗り場)
人々 さようなら。また来てね。
(大助のナレーション)
僕の冒؉はこれで終わった。