つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2015) 14, 24 Ⓒ2015 筑波大学生物学類 海洋酸性化に対するバクテリアの応答に関する実験的研究 木村 浩之(筑波大学 生物学類) 指導教員:濱 健夫(筑波大学 生命環境系) 背景・目的 産業革命以降、人類活動による CO2 排出量は年々増加し続け ている。海水中に溶け込む CO2 が増加した結果、海水の pH が 低下している。この現象は海洋酸性化と呼ばれ、産業革命以前と 現代で pH は約 0.1 低下しており、今世紀末までにさらに 0.3~ 0.4 低下すると予測されている。海洋酸性化は主に光合成生物や 炭酸カルシウム殻を持つ生物への影響が懸念されており、 地球温 暖化に対して「もう一つの CO2 問題」とも呼ばれている。近年 微生物の海洋物質循環における役割が知られるようになり、 同時 にバクテリアが海洋酸性化の影響を受けた場合栄養塩サイクル にも影響が及ぶ可能性が考えられるようになった。 海洋酸性化に 対するバクテリアの応答は研究によって矛盾した結果が出てお り、実験手法も確立されていない。また外洋における実験は報告 されているが、沿岸における研究はあまり知られていない。 そこで本研究では沿岸に生息するバクテリア群集の海洋酸性 化に対する応答を調査することを目的とし、 沿岸海水を用いた大 型タンクによる酸性化実験を行った。 結果・考察 1)古川(卒業研究)によると、植物プランクトンのブルームは Day2-4 にかけて生じていた。バクテリアの細胞数は Day 5 まで は大きな変動は認められなかったが、ブルームが終わる Day7 から増加を示した。 2)両条件の間にはバクテリア細胞数に、顕著な差は認められな かった。 バクテリア現存量に対する酸性化の影響に関する研究例 は少ないが、これらの研究によると、バクテリアの種組成や現存 量に対する酸性化の影響は、 それほど大きくないと報告されてい る。今回得られたバクテリア細胞数の変動は、バクテリアに対す る酸性化の影響は限定的であり、 むしろ植物プランクトンの変動 と密接な関係にあるという仮説に矛盾しない結果となった。 3)バクテリアの存在状態としては、GF/F を通過した粒子に付 着する付着性バクテリアよりも、 浮遊性バクテリアが多く認めら れた。バクテリア数の増加が、植物プランクトンのブルームの終 了時から少し遅れて認められたことを含めて、 バクテリア細胞数 の増加には、浮遊性バクテリアが利用する溶存態有機物(DOM) が重要な役割を果たしていることが示唆される。 方法 培養実験 2014 年 7 月 21 日から 8 月 7 日までの 18 日間、筑波大学下田 臨海実験センターにおいて、培養実験を行った。プラスチック製 の培養器を 6 基準備し、あらかじめ大型動物プランクトンを除 いた沿岸海水を満たした。現在海洋表層の pH(約 8.1)、およ び 0.4 程度低下させた pH(7.6)の 2 条件を、培養器 3 基ずつ 設定した。植物プランクトンのブルームを生じさせるため、実験 初日(Day0)に栄養塩(N、P、Si)を添加し、以降、随時各培 養器から試料を採取した。 本実験は和田茂樹助教と水圏生態学研究室の古川により実施 されたもので、 実験の際に本研究で用いた試料のサンプリングを 依頼した。 バクテリア細胞数の測定 サンプリングした海水を孔径 0.7 μm ガラス繊維ろ紙(GF/F) でろ過し、 ろ液をグルタルアルデヒドで固定したものを試料とし た。DAPI で蛍光染色した後、孔径 0.2 μm のメンブレンフィ ルターでさらにろ過を行い、 フィルター上に捕集されたバクテリ アの細胞数を蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX53)を用いて測定し た。測定は試料 1 つにつきランダムで 20 視野を計数し、その平 均値を細胞数の計算に用いた。 24
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