橡 - 奈良女子大学

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Title
Studies on Environment Design of Living Space for Food Intake and Sleep
in Terms of Environmental Physiology : Abstract of the Dissertation and
the Summary of the Examination Results
Author(s)
近藤, 雅之; 保, 智己; 久保, 博子; 森本, 恵子; 大石, 正
Citation
博士学位論文 内容の要旨及び審査の結果の要旨, Vol.25, pp.197-201
Issue Date
2008-08
Description
博士(理学),博論第143号,平成19年11月29日授与
URL
http://hdl.handle.net/10935/1372
Textversion
publisher
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http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace
氏 名(本
籍) 近 藤 雅 之 (愛 知 県)
学 位 の 種 類 博 士(理
学)
学 位 記 番 号 博 論 第143号
学 位 授 与 年 月 日 平 成19年11月29日
学 位 授 与 の 要 件 学 位 規 則 第4条 第2項
該当
人 問 文 化 研 究 科
論
文
題
目
Studies on Environment Design of Living Space for
Food Intake and Sleep in Terms of Environmental
Physiology
(食空 間 お よ び 睡 眠 空 間 の 生 理 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る
環 境 設 計 に 関 す る研 究)
論 文 審 査 委 員 (委員長)准
教授
保 智
教授 森 本 恵
久
保 博 子
子 名誉教授 大
己 准教授
石 正
(奈良女子大学)
論 文 内 容 の 要 旨
第1章 総 合 序 論
エ ネ ル ギ ー技 術 の発 展 、 あ る い は近 年 の イ ンタ ー ネ ッ トの 普 及 や24時 間社 会 化 な ど に よ り、 人 の生
活 の時 間 帯 は地 球 の公 転 ・自転 に よ る 自然 界 の サ イ クル とか け離 れ た 。一 定温 度 に保 た れ た空 調 、夜
で も明 る く、 ス イ ッチ の オ ンオ フで切 り替 え られ る照 明、 の よ う な居住 環 境 の 中で生 活 す る ことに は、
人 間 に と って ど の よ うな影 響 が あ る のだ ろ うか 。
本 研 究 で は、 照 度 に お け る オ ンオ フ型 と段 階 的 な変 動 、 室 温 の 恒 温 条 件 と段 階 的 な変 動 に 関す る影
響 を調 べ た。 そ れ らの生 理 学 的 な研 究 成 果 を もと に食 空 間 お よ び睡 眠 空 間 にお け る生理 学 的 に良 質 な
居住 環 境 の設 計 条 件 を提 案 す る。
第2章
と第3章
で は唾液 分 泌 を指 標 と して消 化 機 能 と光 環 境 に関 す る研 究 成 果 を 述 べ て い る。 第2
章 で は 日中 お よ び夕 刻 の 明 るさ を変 え て場 合 に っ い て調 べ た。 日中 お よ び夕 刻 の 高 照 明光 ・低 照度 光
の 曝 露 が 、 唾 液分 泌 量 、 あ るい は 自律 神 経 や概 日 リズ ム に与 え る影 響 を調 べ 、 唾 液 分 泌 が促 進 され る
照 度 光 曝 露 時刻 の条 件 を検 討 した。 そ の結 果 、 午 前 中 に高 照 度 光 に曝 露 した場 合 は午前 中 に低 照度 光
に曝 露 した場 合 と比較 して、 あ るい は夕 刻 に低 照 度 光 に 曝露 した場 合 は夕 刻 に高 照 度光 に曝 露 した場
合 と比 較 して 、 副 交 感 神経 が優 位 にな り耳 下 腺 か らの 唾液 分 泌 が有 意 に増 加 す る こ とが 明 らか にな っ
た。 第3章 で は夕 刻 の室 内照 明 の色 温 度 の違 いが ヒ トの 唾 液 分 泌 と足 背 温 に与 え る影 響 を検 討 した。
実験 結 果 よ り、18時 か ら24時 にか けて 低 色 温 度 光 に曝 露 した場 合 、 高 色 温 度 光 に曝 露 した 場 合 と比 較
して、副 交 感 神 経 が優 位 に な り耳下 腺 か らの唾 液 分 泌 が有 意 に増 加 す る こ とが 明 らか に な った。 ま た、
18時 か ら24時 の 間 に足 背 温 が有 意 に高 くな った。
第4章 、 第5章
と第6章
で は睡 眠 へ の温 熱 環 境 ・光 環 境 に 関す る影 響 にっ いて 検 討 した。 睡 眠 は、
概 日 リズ ム と社 会 的 因子 に左 右 され て い る。 概 日 リズ ム を支 配 す る主 時 計 は、 高 照 度 光 を最 も強 い同
調 因子 と して 、 深 部 体 温 リズ ム、 メ ラ トニ ンな どの 内分 泌 リズ ム、 お よ び レム睡 眠 の 出現 リズ ム を支
配 して い る。 と ころ が、Wakamura&Tokura(2002)に
よ る、 段 階 的 な 室 温 変 動 が ヒ トの生 物 時
計 に影 響 を 与 え る こ と の 発 見 や 、 季 節 性 感 情 障 害 の 治 療 法 と して知 られ て い るDawn (Tarman,1988)が
Simulation
概 日 リズ ム の位 相 に影 響 を与 え る こ と か ら、 段 階 的 な 環 境 変 動 が ヒ トの 睡 眠 に
影響 を与 え る こ とが推 察 さ れ る。 しか し、 住 環 境 の設 計 条 件 と して 応 用 す る に は、 光 や温 熱 環 境 の段
階 的 な 変動 が概 日 リズ ム に与 え る影 響 につ いて 生 理 学 的 現 象 を解 明 した研 究 は多 くな い。 そ こで 、実
験 に よ り下 記 の検 討 を行 った。
第4章 で は直腸 温、 皮 膚 温 お よ び メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の概 日 リズ ム や眠 気 感 に影 響 を及 ぼす 、 夕刻
お よ び明 け方 の 段 階 的 な 室温 変 動 の生 理 学 的意 義 に っ い て検 討 した。
実 験 結 果 か ら、 室 温 を 夕 刻 か ら翌朝 に か けて段 階 的 に温 度 変 動 さ せ た場 合 、 室 温 が コ ンス タ ン トな
場 合 と比 べ て 有 意 に深 部 体 温 の 位 相 前 進 や 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 濃度 増 加 を促 進 さ せ た。 ま た、起
床 時 の 眠気 感 が有 意 に低 か った。 第5章 で は夕 刻 お よび 明 け方 の 段 階 的 に 変動 す る光 が 日中 の深 部体
温 の変 動 、 位 相 、 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 、 睡 眠 お よ び 目覚 め 感 に及 ぼ す 影響 に っ い て述 べ る。 実 験
結 果 か ら、17時 か ら19時 にか けて 曝 露 す る光 の顔 面 照 度 を30001xか ら1001xま で漸 次 的 に低 減 させ 、
翌 朝5時
か ら起 床 時 刻 の7時 に か けて 曝 露 す る顔 面 照 度 を 暗 黒 か ら30001xま で 漸 次 的 に増 加 させ る
段 階 的 な照 度 変 動 を させ た場 合 、18時 に30001xか ら1001xま で 瞬 時 に 切 り替 え 、 翌 朝 起 床 時 刻 の7時
に瞬 時 に 暗 黒 か ら30001xに 切 り替 え た 直 線 的 な照 度 変 動 を させ た場 合 と比 較 して、 深 部 体 温 の位 相
前 進 や 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の濃 度 増 加 が有 意 に促 進 さ れ た。 ま た、 起 床 時 の眠 気 感 が 低 い傾 向が
見 られ た。
第6章 で は夕 刻 お よ び明 け方 の 室温 と照 度 の変 動 の違 い が、 深 部 体 温 、 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産物 の
概 日 リズ ム や 目覚 め感 に及 ぼ す 複 合 的影 響 につ い て検 討 した。 そ の結 果 、 段 階 的 な室 温 条 件 と段 階的
な照 度 条 件 を複 合 させ た場 合 、 コ ンス タ ン トな 室 温 条件 と直線 的 な 照度 変 動 を組 み合 わ せ た場 合 と比
較 して、 深 部 体 温 の位 相 前 進 や 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の 濃 度 増加 を 有 意 に促 進 させ た。 ま た、起床
時 の 眠気 感 が有 意 に低 か った。 た だ し、 複 合 させ た場 合 、 室 温 と光 の両 者 の 効 果 を加 算 す る ことに は
な らな か った。
最 後 に第2章 か ら第6章
恒
で述 べ た生 理 学 的 な研 究 成 果 に基 づ い て、 健 康 で 快 適 な居 住 環境 を設計 す
るた め に次 の こ と を提 案 す る。(1)食
空 間 で あ る ダ イ ニ ング にっ い て は、 利 用 時 刻 に合 わ せ た環 境
条 件 を設 定 で き る よ うにす る。(2)睡
眠 空 間 で あ る寝 室 は、 外 部 環 境 の 自然 な 変 動 を参 考 に した温
度 や照 度 を段 階 的 に変 動 させ る環 境 にす る。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
光 環境 は ヒ トを含 む多 くの生 物 に と って重 要 な環 境 因 子 の一 っ で あ る。 多 様 な 光 の 働 きの 中 の 一 っ
に体 内 時 計 が形 成 す る概 日 リズ ム の 同調 が あ る。 ヒ トに お いて も他 の動 物 同 様 に生 体 リズ ム は様 々 な
生 理 現 象 に影響 を及 ぼ して い る。 概 日 リズ ム の分 子 メ カ ニ ズ ム や調 節 機 構 にっ いて はか な り明 らか に
され て きて い る。 また、 ヒ トの概 日 リズ ム に関 す る研 究 も進 み、 そ の成 果 は生 体 リズ ムの 障 害 な どの
治 療 に役 立 って い る。 ま た、 最 近 で は我 々 の生 活 環 境 に お い て も生 体 リズ ム を考 慮 す る必 要 性 が 認 め
られて きて い る。 概 日 リズ ム に対 して最 も強 い環 境 因子 は光 で あ る。 そ の た め生 体 リズ ム に関 す る研
究 で は様 々 な明 暗 サ イ クル に よ る実 験 が行 わ れ て い る。 この よ うな実 験 で は これ まで 光 照 射 は オ ンオ
フ で切 り替 え られ 、 瞬 時 に暗 か ら最 大 光 量 に達 す るよ うな光 条 件 で あ った。 しか し、 自然 界 で は朝 に
な る と徐 々 に照 度 を増 し、 夕方 に は徐 々 に暗 くな って い る。 本 論 文 で は人 工 的 な光 環 境 とよ り自然 に
近 い光 環 境 で は ど の よ う な影 響 が あ るの か を 、 時 間生 物 学 的 お よび環 境 生 理 学 的視 点 か ら ヒ トの睡 眠
と消 化 機 能 にっ い て述 べ て い る。 さ らに、 照射 す る光 の強 度 や 色 温度 の違 い にっ いて も検 討 して い る。
ま た、 温 度 が睡 眠 に影 響 す る と い う報 告 が あ る こ とか ら、論 文 で は温 度 環 境 にっ い て も恒 温 条 件 と朝
と夕刻 に段 階 的 な変 動 を与 え た場 合 とで 比 較 して い る。 加 え て 、 本 論 文 で は これ ら研 究 成 果 を人 の生
活 に応 用 す るべ く、 人 が健 康 に生 活 して い く上 で適 した生 活 環 境 を 得 る ため の住 宅 にっ い て も総 合 考
察 で 提 案 して い る。
本 論 文 は8章 か ら構i成さ れ、 第1章
察 を 行 って お り、 第8章
第2章
は総 合 序 論 、 第2章
か ら第6章 が 本 論 で 、 第7章
は総 合 的 な考
は全 体 を要 約 して い る。
と第3章 で は光 環 境 と消 化 機 能 との 関連 を検 討 す る た め に、 消 化 液 の一 っ で あ り、 測 定 が比
較 的 容 易 な 唾液 を用 いて い る。 ま た、 唾 液分 泌 は 自律 神 経 によ り調 節 され て い る ことが 知 られ て い る。
第2章 で は 日中 お よ び 夕刻 の 高 照度 光 ・低 照 度 光 の 曝露 が、 唾液 分 泌 量 、 あ る い は 自律 神 経 や 概 日
リズ ム に与 え る影 響 を調 べ、 唾 液 分 泌 が 促 進 さ れ る照 度 光 曝 露 時刻 の条 件 を検 討 して い る。 その結 果 、
午 前 中で は よ り高 照 度 光 に曝 露 した場 合 が、 夕 刻 に お い て は よ り低 照 度 光 に曝 露 した場 合 が 、 副 交 感
神 経 が優 位 に な り耳 下 腺 か らの 唾 液 分 泌 が有 意 に増 加 す る こ とを 明 らか に して い る。 第3章
で は夕刻
に曝 露 す る照 明 光 の 色 温 度 が 、 唾 液 分 泌 や 自律 神 経 、概 日 リズ ム に与 え る影 響 を調 べ 、 唾 液 分 泌 が 促
進 さ れ る照 明 の色 温 度 条 件 を 検 討 して い る。 そ の 結 果 、 夕 刻 に 低 色 温度 光 に 曝露 した場 合 、 高 色 温 度
光 に 曝露 した場 合 と比 較 して 、 耳 下 腺 か らの 唾 液 分 泌 が 有意 に 増 加 し、 さ らに足 背 温 が有 意 に高 くな
る こ とを示 し、 夕 刻 の室 内照 明 の波 長 の違 いが 副 交 感 神 経 へ 作 用 す る こ とを 示 唆 して い る。 自律 神 経
が 光環 境 に影 響 さ れ る こと は これ まで に も知 られ て い たが 、 光 強 度 と照 射 時 刻 、 色 温度 の違 い が唾 液
分 泌 に与 え る影 響 にっ いて の報 告 は本 研 究 が 初 め て で あ る。
第4章 、 第5章
と第6章 で は睡 眠 に着 目 し、 睡 眠 へ の室 温 と光 環 境 の 関連 にっ いて 検 討 して い る。
睡 眠 に は概 日 リズ ムが 大 き く関 与 して い る こ と は よ く知 られ て い る。 そ こで、 光 や温 熱 環 境 の段 階 的
な変 動 が 概 日 リズ ムや 睡 眠 に あ たえ る影 響 につ いて検 討 して い る。
第4章
で は夕 刻 お よ び明 け方 の 段 階 的 な 室 温 変 動 の 直腸 温 、 皮 膚 温 お よ び メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の概
日 リズ ムへ 及 ぼす 影 響 につ いて 調 べ て い る。 そ の 結 果 、 段 階 的 に温 度 変 動 させ た場 合 、 室 温 が 一 定 な
場 合 と比 べ て有 意 に深 部 体 温 の位 相 前 進 や 尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 濃度 増 加 を促 進 させ て い る。 さ ら
に眠 気 感 へ の影 響 にっ いて も調 べ て い る。 そ の 結 果 、起 床 時 の 眠気 感 が段 階 的 な変 動 に お いて 有 意 に
低 くな る こ と を示 した。
第5章
で は夕 刻 や 明 け方 の 段 階 的 な光 強 度 の 変動 と急 激 な変 動 の場 合 で の深 部 体 温 お よ び メ ラ トニ
ン代 謝 産 物 の概 日 リズ ムへ 及 ぼ す 影 響 にっ いて 検 討 して い る。 そ の結 果 、 段 階 的 に照 度 変 動 を させ た
場 合 、 瞬 時 に変 動 を させ た場 合 と比 較 して 、 深 部体 温 の位 相 前 進 や尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の濃 度 増
加 が 有 意 に促 進 され た。 室 温 と同 様 に眠 気 感 にっ い て も調 べ て お り、 起 床 時 の眠 気 感 にっ いて は低 く
な る傾 向が 見 られ た。
第6章
で は第4章
と第5章 で 述 べ られ た 夕 刻 お よ び明 け方 の段 階 的 な室 温 と明 るさ の深 部 体 温 、 尿
中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の 概 日 リズ ム や眠 気 感 に及 ぼ す複 合 的 影 響 につ い て述 べ て い る。実 験 結 果 よ り、
段 階 的 な室 温 条 件 と段 階 的 な照 度 条 件 を複 合 させ た場 合、 コ ンス タ ン トな室 温 条 件 とオ ンオ フ型 の照
度 変 動 を組 み合 わ せ た場 合 と比 較 して 、 深 部 体 温 の 位相 前 進 や尿 中 メ ラ トニ ン代 謝 産 物 の濃 度 増 加 を
有 意 に促 進 させ た。 ま た、 起 床 時 の眠 気 感 が 有 意 に低 か った 。
第7章
で は総 合 討 論 と して 、 食 や 睡 眠 へ の 光 環 境 や 温 度 環 境 の 影 響 に関 す る生 理 学 的 な研 究 成 果 を
実 際 の居 住 環 境 設 計 に応 用 す る場 合 に考 慮 す べ き事 項 と して 提 案 して い る。
本 論 文 の 成 果 は、 英 文 学 術 雑誌 に4編 の論 文 と して掲 載 さ れて お り、本 論 文 は奈 良 女子 大 学(理 学)
の学 位 を授 与 さ れ る に十 分 な内 容 を備 え て い る と判 断 され る。