鋼製ディスクとアンカーボルトを併用した耐震改修用接合部材

23019
日本建築学会大会学術講演梗概集
(北海道) 2013 年 8 月
鋼製ディスクとアンカーボルトを併用した耐震改修用接合部材の開発
その 13 実施工へ柔軟に適用するための検証
耐震改修
シヤキー
間接接合部
支圧強度
あと施工アンカー
1. はじめに
著者らは,高いせん断耐力とせん断剛性を持つ鋼製シ
ヤキー(以下,ディスク型シヤキーまたは本接合要素と
呼ぶ)を開発したが,これを実際の耐震補強工事で柔軟
に使用できるようにするために,適用性を高める必要が
あり,本報告で幾つかの検証実験を実施する。本報告で
用いるディスク型シヤキーは内付け用とする。
2. 検証項目と試験体パラメータ
2.1 概要
本報告の検討事項は,①へりあき,②鋼製ディスクのサ
イズ (Rd=64mm),③表面補修,④アンカーボルトの埋め
込み深さ,⑤ふかし梁への適用である。載荷方法は,本接
合要素単体の直接せん断実験 1),2)(単体基礎実験と呼ぶ)と,
間接接合部を模擬した部材実験 1)(接合部実験と呼ぶ)と
し,その詳細は既報 1) と同じとする。表 1 に実験パラメー
タと実験結果の一覧を示し,以下の節において,各検証項
目の概要および試験体パラメータについて記述する。また
図 1 に,代表的な試験体の例を掲げる。
2.2 へりあき
過去の実験で使用した試験体は,接合部側のへりあき
を 100mm,つまり一般的な接合部幅 200mm の中央にディ
スク型シヤキーを配置することを前提として製作されて
いるが,実施工においては設計通りの位置に本接合要素
を配置できないケースがある。そこで,本実験では,接
合部側のへりあき e を片方 90mm(反対側は 110mm)と
した場合,さらにはこれに付随して,既存側のへりあき e
正会員
同
同
同
同
○長塚
尾中
佐藤
池田
阿部
典和 *
敦義 ***
貴志 **
隆明 ****
隆英 ****
非会員
正会員
同
同
同
八木沢 康衛 **
田代 和広 ****
板谷 秀彦 ***
久保田 雅春 ****
高瀬 裕也 ****
も 100mm 以下とした場合の性能について検証する。
2.3 鋼製ディスクの径
これまで使用した鋼製ディスクの径 Rd は,90mm であ
る。しかし,既存建物の条件によっては,1 個当たりの耐
力が低下し,設置個数が増えたとしても,径が小さい方
が都合が良いケースもある。本報告では,Rd=64mm の鋼
製ディスクを用いて検証する。
2.4 既存躯体の表面の補修
本接合要素の主なせん断抵抗機構は,コンクリートへ
の支圧抵抗であり,施工性および十分な支圧耐力を発揮
させるには,平滑な設置面が望まれる。そのため既存建
物の不陸,または仕上げ材撤去に伴う躯体表面の損傷が
ある場合には,平滑に補修する必要がある。そこで凹凸
の深さに,15mm 程度と 25mm 以上(鋼製ディスクの埋め
込み深さ 19mm を超える深さを意図)の 2 種類を,補修
材にポリマーセメント系とエポキシ系の 2 種類をパラメー
タとして,適切な補修材を検討する。
2.5 アンカーボルトの埋め込み深さ
過去の試験体,アンカーボルトの最短の埋め込み深さ
L e は,L e =3D a ( D a はアンカーボルト径)であったが,鉄
骨鉄筋コンクリート造建物に施工する場合,内蔵鉄骨接
続部のボルトまたはナットに,本接合要素が干渉すると,
3D a (=60mm) の埋め込み深さでも,施工できないケース
がある。そこで本実験では,60mm よりも若干短くした
Le=50mm として,どれだけ性能を発揮するか検証する。
2.6 増し打ち補強梁
既存架構の上下の既存梁の軸が異なる場合,または既
表 1 実験パラメータと実験結果の一覧
検証項目
へりあき
鋼製ディスク径
表面補修
埋め込み深さ
ふかし梁
EC
sB
(N/mm2) (kN/mm2)
20.7
25.9
試験
体名
Eg-1
加力
方法
接
試験体条件の詳細
Eg-2
単
既存躯体側 e=95mm
Eg-3
単
既存躯体側 e=90mm
Sz-1
Sz-2
Sz-3
Rp-1
Rp-2
Rp-3
Em-1
Eb-1
Eb-2
接
単
単
接
単
単
接
単
単
Da=20mm,Le=3Da
Da=20mm,Le=4.5Da
既存躯体側 e=125mm
凹凸深さ 15mm,ポリマー系
凹凸深さ 25mm,ポリマー系
凹凸深さ 25mm,エポキシ系
Da=20mm,Le=50mm
既存躯体側 e=180mm
既存躯体側 e=250mm
接合部側 e=90mm
Q2mm
(kN)
249
qjd
(kN)
173
安全率
Q2mm/qjd
1.44
23.9
83.2
50.0
1.66
15.7
26.3
72.6
51.7
1.40
19.8
14.5
15.7
18.3
18.1
18.1
19.8
18.1
18.1
26.3
23.9
26.3
25.3
27.3
27.3
27.4
27.3
27.3
176
80.1
86.6
223
138
145
234
122
120
132
67.4
71.9
170
113
113
189
113
113
1.49
1.19
1.20
1.31
1.22
1.28
1.23
1.08
1.06
14.5
sB: コンクリート圧縮強度,EC:コンクリートヤング係数,Q2mm:ズレ変位 2mm までの最大耐力,qjd:設計耐力
Development of Joint Member Using Steel Disk and Anchor
Bolt for Seismic Retrofit - Pt.13 Discussion of Application to
Construction Flexibly-
NAGATSUKA Norikazu, YAGISAWA Yasue, ONAKA Atsuyoshi,
TASHIRO Kazuhiro, SATOH Takashi, ITADANI Hidehiko, IKEDA
Takaaki, KUBOTA Masaharu, ABE Takahide, TAKASE Yuya
― 51 ―
接合部実験
断面
接合部実験 , 平面
(b) 鋼製ディスク径
(d) 埋め込み深さ
接合部実験 , 断面
(
単体基礎実験 , 平面
)
接合部実験 , 平面
単体基礎実験,平面
(a) 直付け工法
(c) 補修試験体
(e) 増し打ち補強梁
図 1 代表的な試験体におけるディスク型シヤキーの配置例
300
Q 2mm (kN)
存梁のへりあきが,ディスク型シヤキーの施工条件を満
たさない場合には,既存梁を増し打ち補強することがあ
る。そこで,増し打ち補強梁への適用性について検証する。
3. 実験結果と耐力評価
ディスク型シヤキー 1 個当たりのせん断耐力 q jd は,以
下の式 (1) および式 (2) で表わされる。
qdisk    K1  K 2  K 3  AB  EC   B
(1)
ここに,a は実験係数で接合部実験の評価には 0.24 を
単体基礎実験の評価には 0.15 を用いる。また,K 1 はへり
あきによる補正係数,K 2 は埋め込み深さによる補正係数,
K 3 はコンクリートの種類による補正係数,A B は受圧面積
であり,それぞれ次のように表される。
AB    Rd  hd / 4
K 2  1.0
e / e
K1   e
 1.0
1.0
K3  
0.9
(e  ee )
(ee  e)
(3)
(普通コンクリート)
(軽量コンクリート)
ここに R d はディスク径,e はへりあき,e e は有効へり
あき ( =2×R d ) である。K 2 は単体基礎実験の結果を基に定
式化されている 2)。本実験で Le が標準の 4.5Da より短くな
るのは,Em-1,Sz-1 試験体であるが,両者とも載荷方法
が接合部実験であり,L e による影響は小さい可能性があ
る。そこで,まずは K2 を 1.0 として耐力を算定する。
前掲の表 1 には,ズレ変位 2mm までに発揮する最大耐
力 Q 2mm と,計算耐力 q jd および,Q 2mm と q jd の比を示して
ある。また図 2 に q jd と Q 2mm の比較結果を示しているが,
これらの結果より,全ての試験体で Q 2mm が計算耐力を上
回っており,本実験で設定した使用範囲においては,問
題無く適用可能であると判断する。
Eg
Sz
Rp
Em
Eb
100
0
(2)
q jd  0.8  qdisk 200
100
200
q jd (kN)
300
図 2 qjd と Q2mm の比較
以下に,本報告で得られた知見を列記する。
1) 接合部側のへりあきは,片方を 90mm としても,実験
値が設計耐力を超えた。
2) 径 64mm の鋼製ディスクを用いても,提案した耐力評
価式により安全側に耐力を評価できる。
3) ポリマーセメント系またはエポキシ系の補修材で表面
を補修した面に,本接合要素を施工しても,実験値が
設計耐力を超えた。
4) アンカーボルトの埋め込み深さを 50mm まで短くして
も,実験値は K2=1.0 で求めた設計耐力を超えた。
5) 増し打ち補強梁を持つ試験体の実験結果,増し打ち部
分のへりあきを,耐力評価に考慮しても,実験値が設
計耐力を超えた。
今後,更なる検証実験を重ね,より使用性を高めてゆき
たいと考えている。
参考文献
4. 結論
1) 池田隆明,他 9 名:鋼製ディスクとアンカーボルトを併用した耐
震改修用接合部材の開発-その 1 接合部材の開発-,日本建築学
会学術講演梗概集,構造 IV,pp.615-616,2011.
2) 高瀬裕也,他 6 名:コンクリート系構造物の耐震補強に用いる高
いせん断耐力と剛性を持つ新たな接合要素のせん断抵抗性能の基
礎的検証 - 鋼製ディスクとアンカーボルトを併用した耐震補強用
シヤキーに関する研究 -,日本建築学会構造系論文集,No.681 ,
pp.1727-1736,2012.11.
* E & CS
** サンコーテクノ
*** 大本組
**** 飛島建設
*
**
***
****
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E&CS Co., Ltd.
SANKO-TECHNO Co., Ltd.
OHMOTO GUMI Co., Ltd.
TOBISHIMA Corporation