平成27年11月25日 生 活 文 化 局 - 東京都消費者被害救済委員会 報告 - 「イベントチケット買取りを伴うモデル関連サービス契約に係る紛争」 あっせん・調停不調 本日、東京都消費者被害救済委員会(会長 村千鶴子 弁護士・東京経済大学現代法学部教授)から、「イ ベントチケット買取りを伴うモデル関連サービス契約に係る紛争」(平成 27 年 3 月 25 日付託)があっせん・調 停不調により終了したと知事に報告がありましたので、その審議の経過と結果についてお知らせします。 ◆紛争の概要 ○ 申立人 : 20 歳代女性・給与生活者 ○ 契約内容・金額 : イベントチケット買取りを伴うモデル関連サービス契約・計 36 万円 ○ 紛争概要 : 申立人の主張による紛争の概要は、次のとおりである。 申立人は、モデル事務所と所属契約を結んだところ「無料でポージングを教えてくれるか ら、行ってきて。」と勧められ、相手方の事務所へ出向いた。 相手方の担当者から、1年間で一人前のモデルになるために、無料でレッスンが受けられ、 毎月ファッションショー(以下「イベント」という。)に出演できると説明された。そのた めには、申立人が出演するイベントのチケット1年分(計 36 万円)を相手方から買い取る必 要があり、申立人がそのチケットを売れば売っただけ利益になり、買取金額以上で売っても よいと説明されたことから、頭金 12 万円を支払って契約した。 その後、レッスンが始まる前に解約を申し出たところ、相手方は解除手数料(違約金)24 万円を支払うよう求めてきたため、紛争となった。 <相手方事業者> Media Innovation 合同会社(東京都港区六本木三丁目4番 36 号9F) ◆あっせん・調停の結果 ~ 相手方が同意せず、あっせん・調停不調 ※1 ~ (委員会が示した調停案の内容) 本件契約は、特定商取引法の業務提供誘引販売取引※2 に該当すると考えられるが、法定書面 の不交付により、クーリング・オフによる契約解除が可能であり、相手方が申立人に既払金 12 万円を返還する調停案を示した。 (相手方が調停案に同意しなかった理由) 本件契約は「イベントチケットの事前買取り契約」であり、付随して「イベントチケット買 取りに伴うお互いの義務を規定している」契約である。業務提供誘引販売取引には該当しない。 ※1 委員会は、当事者双方の意向を考慮したあっせん案を示したが、相手方が同意しなかったことから上記の調停案を示した。 ※2 業務提供誘引販売取引:事業者から提供される内職等の仕事をすることで、収入が得られると誘い、高額な商品の契約を させる取引 ★消費者へのアドバイス★ 注意するポイント! モデルやタレント事務所に関する相談は、若年層を中心に毎年多数寄せられ ています。知り合いからの紹介であっても、数多くの条文のある複雑な契約書 に署名する場合は、一度持ち帰り、契約する前に周囲の人に相談しましょう。 ★ 困ったときにはまず相談を!! おかしいなと思ったら、最寄りの消費生活センターにご相談ください。 主な審議内容や同種・類似被害の再発 防止については、裏面を参照ください。 【問合せ先】東京都消費生活総合センター活動推進課 電話:03-3235-4155 ◆主な審議内容 1 業務提供誘引販売取引について 本件契約では、申立人に自己が出演するイベントのチケットを買い取ることが義務付け られている。買い取ったチケットは転売ができ、申立人が無料でレッスンを受けるために は、買い取ったチケットを買取金額以上で転売しなければならない。また、相手方は、買 い取ったチケットを定価(額面価格)で転売することで差額は申立人の利益になると誘引 し、契約を締結させている。よって、特定商取引法第 51 条の業務提供誘引販売取引に該当 し、同法の規定する書面の交付がないことから、同法第 58 条によりクーリング・オフが可 能である。 2 消費者契約法第9条第1号について 仮に、業務提供誘引販売取引に該当しない場合であっても、消費者契約解除の場合の損 害賠償額の予定・違約金条項で、事業者に生ずる「平均的な損害」の額を超える部分は無 効である。「平均的な損害」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類 型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という趣旨で、当該契約の解除によっ て実際に生じる損害そのものではない。「平均的な損害」に含まれる損害の内容について、 消費者契約の履行前の段階では、割賦販売法や特定商取引法同様、契約解除に伴う損害賠 償額が原状回復賠償に限定されると考えられるため、本件契約で「平均的な損害」として 認められるのは、申立人が解約を申し出るまでの事務所経費等と実際に決まっていたモデ ルレッスンにかかる費用のみとなる。 3 その他の法的問題点 ・ 消費者にとって魅力的なイベント出演や無料レッスンについては説明し、チケット買取 りやイベント出演が義務付けられていることについては十分に説明されていないことか ら、契約内容を消費者に十分説明していないという説明義務違反や消費者契約法第4条第 2項の不利益事実の不告知にも当たる可能性がある。 ・ 本件契約は準委任契約ないしそれに類似する契約とみることができ、本来いつでも契約 の解除ができるものである。本件では解約にあたり対面での手続を義務付けているが、そ の解約手続負担の加重について合理性があるとは言えないことから、消費者契約法第 10 条の消費者の利益を一方的に害する条項にあたり無効である。 ◆同種・類似被害の再発防止のために 1 事業者に対して ・ 事業者は消費者に対して、契約内容をわかりやすく説明する義務がある。消費者が質問 しないから契約内容を理解したと考えるのではなく、事業者は積極的に理解すべき点につ いて自ら説明を行い、契約に対する理解を確認すべきである。 ・ 解約違約金条項を定める場合には、消費者契約法第9条第1号の趣旨を十分に理解した 上で、無効となる部分を生じさせないよう金額の検討を行わなければならない。 2 消費者に対して ・ 数多くの条文がある複雑な契約書に署名する場合は、一度持ち帰り、周囲の人に相談し たり消費生活センターなどに助言を求めるなど、慎重な対応を心掛けたい。 ・ 無料のサービスであっても、解約する場合などに高額な違約金が設定されている場合は、 事業者に主張されるリスクを考え、契約締結前に十分に検討することが必要である。 3 行政に対して ・ 複雑な契約内容を理解できるように、特に若年の消費者が学ぶ機会を十分に与えること が必要である。モデルやタレントに関連する契約の実態をわかりやすく情報提供し、一方 的に不利益であったり不当に消費者を拘束する契約内容については適切な方法で注意喚起 をするとともに、適時に適切なアドバイスができる体制を取ることを求めたい。
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