3Dプリンターを活用した放射線技術科学教材の開発

○平成26年度奨励研究
3Dプリンターを活用した放射線技術科学教材の開発
放射線技術科学科 准教授 鹿野 直人
放射線技術科学科 嘱託助手 高梨 宇宙
放射線技術科学科 助教 中島 修一
放射線技術科学科 准教授 對間 博之
放射線技術科学科 嘱託助手 草薙 健太郎
放射線技術科学科 教授 阿部 慎司
1.研究目的
平成23年(2011年) 3・11に起きた原子力発電所の事故以来,137Csなど放射能に関する社会的関心が高まり,
新聞やテレビなどでも報道されているように,教育現場でも小学校から高等学校まで広く放射線(放射能)教育
が見直されてきている。現在,社会的問題となっている放射能の問題については,診療放射線技師になるため
の教育で必須な放射化学など幾つかの学問領域が深くかかわる。放射線の専門家である診療放射線技師の養
成校における当該科目の教育的重要度は,このような情勢において増してきている。本研究では,診療放射線
技師の養成に3Dプリンターを活用するための具体的アイデアを洗い出し,熟成させ,試作・評価することを目的
とした。
2.研究方法
本年度は,壊変と放射平衡の原理を理解させる容器型教材の設計・開発を行った。社会的にも問題となって
いるセシウム137等の放射化学的性質(図1)を深く理解させるための教材として,水を放射性同位元素に見立
てて容器に入れ,その底から常に容器中の水の重さ(放射能)に比例した流速で水が流れ出るように設計した
容器を考案し,RI施設がなくてもコールド実験で学生に壊変の様子を演示できる教材を計算・設計・開発するこ
とを計画した。容器を作製するための3Dプリンターは,すでに本学に科研費間接経費により設置されたMaker
Dot Replicator 2Xを活用のほか,県工業技術センター(茨城町長岡)設置の3Dプリンターを利用,検討した。
図1137Csの壊変
3.研究結果
容器の形状(図2)として,側面が容器に入った水の高さhに対してh-1/2を満たす関数で示される曲面をしてい
れば,水を入れた容器の底から常に容器中の水の重さ(あるいは容積V)に比例(比例定数はλ)した流
速で水が流れ出るようになることが計算によりわかった。3Dプリンターでの出力のために,スティーブ
ン・ウルフラムが考案し広く使われている数式処理システムMathematica(マセマティカ)を利用し,
三次元形状を表現するデータを保存するファイルフォーマットStandard Triangulated Language (STL)
形式の関数データを得た。
V
図2. 容器形状
4.考察(結論)
側面が容器に入った水の高さhに対して一定の半径である容器の底から漏れ出る水流は,トリチェリの定
理に従い,容器内の水の重さ(あるいは容器の底からの高さh,あるいは容積V)に対して,それらの平
方根で効いてくると考えられるが,側面が容器の底からの水の高さhに対してh-1/4を満たす関数で容器を作
製することで,容器内の水の重さに比例した流速で水が漏れ出るという計算結果になった。
今後,容器の大きさや各種壁厚を検討し,プリンターの最適出力条件について検討を行い,プリント
アウトし,実際に水を入れて実験する予定である。更に,放射化学や放射線科学実験で用いて教材とし
ての有用性を評価する。本教材の開発成果は,学術雑誌等で公開することにより,国内外の医療系学部
のみならず,理学部,薬学部などでも教えられている放射線関連の学生実験への波及効果が期待される。
大学教育における放射線教育の特色の大きな利点として,高等学校までの教育に比較した場合,2年次
以降の学生が実際に放射性同位元素を実験・実習で扱うことが法的に可能な点にあるため,実際に放射
性同位元素を用いた実験との比較をすることでも学習効果が上がるものと考えられる。
5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
日本放射化学会,放射線技術学科等で発表予定。
6.参考文献
1)福士政広
編 「診療放射線技師 スリム・ベーシック3
放射化学」
メジカルビュー社