THE HAWAIIAN VISIONARIES

「未来を決めるのは
自然の力の生かし方」
HENK B. ROGERS
ヘンク・B・ロジャース
ブループラネット・ファウンデーション 会長
インドネシア系オランダ人。日本在住時
には、国内初のファンタジーコンピュー
ターRPGを製作。ゲームクリエイター、
企業家であり、再生可能エネルギーを推
進する活動家でもある。全米で17番目の
規模のアクセラレーターとして、ハワイで
知的財産を育てる事業も行っている。
PE OPL E
THE HAWAIIAN
VISIONAR IES
これからのハワイをつくる人
歴史的な背景もあり、さまざまな民族による極度の混血が進んだハワイは
世界的にもまれな、民族多様性をもつ地域となっている。
そんな進化した島には、当然人類の未来を見据えるビジョナリーたちが存在する。これから
t e x t by M i h o S au s e r | ph o t o g r a ph s by T e t s u y a M iu r a
のハワイ、いや世界を切り拓くかもしれない、5人の賢者を取材した。
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1 ホノルルを一望する高台の上にある
ロジャース宅は、ソーラーパネルや風
力でエネルギーを100%自給自足して
いる。2 従来の鉛蓄電池に比べ充電
率も寿命も格段に優れたバッテリーを、
ソニーと共同開発するという新たな事
業も自宅で行っている。まもなく発売
予定のこのバッテリーはフル充電で一
般家庭の電力2~3日分が蓄えられる。
3 趣味で宇宙開発にもかかわっている。
ハワイ島に有する広大な牧場敷地内に
ドームを設置し、ハワイ大学、コーネ
ル大学、NASAと共同で火星居住体験
2
のプロジェクトも行っている。
3
目 標 は、ハワイ全 土 で の エ ネ ル ギ ー 1 0 0 %自給自足
ハワイで環境問題に対して意識の高い人なら誰もが必ず知っているのが
自然エネルギーが無尽蔵にある。
「それらを有効活用しないなんてありえな
この人物。かつてゲームクリエイターとして日本に在住した経験もあり、全
い」と、彼は政府や電力会社への憤りを隠さない。実際、彼自身の家は電
世界のテトリスの著作権とライセンスを有するヘンク・B・ロジャースだ。
力会社の電線がコネクトされておらず、エネルギーは100%自給自足。自宅
彼がエネルギー問題に真剣に取り組み始めたのは9 年前のこと。
の屋根にソーラーパネルを設置、最新の電池を備え、クルマは2 台のテス
「当時、私は自分の会社を売って巨大な富を手にしたばかりでした。が、
ラを愛用。自ら再生可能エネルギーへの移行を実践している。
その1カ月後に心臓麻痺に襲われた。救急車の中で思ったのは、まだ全然
「小学校の児童が家庭訪問して30 万個の電球をLEDに換えるというプロ
お金を使ってないのに冗談だろってこと(笑)
。それと自分にはまだ何かす
ジェクトも行いました。電球を変えるだけで大きな節約になるし、子どもが
るべきことがあるはずだ、と。その後、病院で読んだ小さな新聞記事によっ
説明すれば人々も理解しやすい。まずは人々の意識を変えることが大事」
て自分のミッションが決まりました。それは今世紀の終わりまでに世界中の
政治家へのロビー活動にも熱心で、電力会社の行動を監視する役割をも
珊瑚が絶滅するという内容。珊瑚は海洋全体の生態系の3 分の1を左右す
つPUCという政府機関のメンバーの交代などにもかかわった。いまはLNG
る。我々何億もの人間が海からの食べ物に頼って生きているのに、それは
(液化天然ガス)を導入し始めようとしている電力会社に猛烈に抗議をして
許されないこと。気候変動や海抜の上昇などすべての原因になっている化
いるところだ。
「私たちは10 人ほどの組織ですが、エネルギーに関しては、
石燃料を終わらせなければいけないと痛感し、その活動のために非営利団
ハワイでいちばんうるさい10 人なんです(笑)
」
。彼いわく、さまざまな人種
体のブループラネット・ファウンデーションを設立しました」
が多様に混在しマジョリティが存在しないハワイそのものが、ひとつの理想
現在ハワイの原油輸入額は年間 5 億ドル。その40%は電力に使われてい
の未来像だという。だからこそ、より正しい方向に進んでほしいというのが、
るという。が、ハワイには太陽熱、風、地熱、波力など、それこそ無料の
彼の切実な願いなのだ。
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「伝統文化を守り抜く
それが私の仕事」
MAIRE MEYAR
マイレ・メイヤー
ネイティブ・ブックス/ナ・メア・ハワイ 代表
母はハワイアン&チャイニーズ、父はジ
ャーマン&イングリッシュという家庭に育
つ。スタンフォード大学卒業後、UCLA
でアートマネージメントのMBAを取得。
ハワイに戻りビショップ博物館に勤務後、
25年前にネイティブハワイアン関連のブ
ックショップをオープン。
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ハワイアンカルチャーへ の 情
熱が
アクティブな活動の原 動 力 に
アラモアナセンターのすぐ隣に位置する、
ワードウェアハウス内にある
「ナ・
メア・ハワイ」は、メイド・イン・ハワイにこだわった衣類やアート雑貨、
カルチャーグッズの専門店。ハワイや太平洋関係の書籍や音楽 CD、フラ
の道具や衣装、かつてハワイで使われた武器などもあり、ハワイの伝統文
化を知る博物館のような存在としてもよく知られている。代表のマイレ・メ
イヤーは25 年前、小さな子どもを抱えてフルタイムでビショップ博物館に
出勤するのが難しくなったことから自分でビジネスを開始。幼少時より本が
好きだったため、最初はブックショップをオープン。その6 年後には、ネイ
ティブ文化にフォーカスしたプロダクツも扱うようになった。現在は伝統的
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なクラフトのワークショップなども頻繁に行い、忘れられつつあるハワイアン
文化の保存に尽力している。
「このショップはさまざまなクラフトを取り扱うことで、それらを制作するア
ーティストに作品を売る場所を提供しており、現在商品を扱っているアーテ
ィストや職人の数は300 人以上。でもハワイでこういう店はほかにはありま
せん。私は伝統文化の衰退を危惧しています。例えば乾燥させたハラの木
の葉の繊維を編んで帽子やマットをつくる作業は、1日8時間やって完成ま
でに1週間かかる。これをつくる職人の数は激減していて、そんな仕事をし
たいという若者もほとんどいません。カヒリというハワイ王朝のシンボルだっ
た羽飾りづくりも、いまは職人が2~3 人しかいない。それらの技術を残す
ために、ここでワークショップを開いています」
メイド・イン・ハワイを冠した製品はたくさんあるが、多くの場合それら
は利益を得るための道具として使っているにすぎない。ローカル製品を重ん
2
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じることがただのポーズで、それがハワイアン文化を守ることにならなけれ
ば意味がないと彼女は言う。また、彼女はハワイの現代アートにも目を向け
ている。
「ハワイでは、公立の学校でアートを教えるところが少なくなってい
るのも問題です。ホノルル美術館に所属するアートスクールがありますが、
ハワイ出身の現代美術作家はとても少ない。伝統的なものだけでなく、現
代作家の育成も大事なことだと考えています」
。ハワイのミソロジーをモチー
フにした壁画で知られる人気画家のソロモン・エノスの代理人も務めながら、
若い作家の発掘にも積極的だ。
また、ここはホノルルで唯一の独立系ブックショップ。ハワイアンカルチ
ャーに関する本が充実している点も特筆すべき点だ。
「ハワイ大学にハワイアン・スタディという学科がありますが、それ以外に
ハワイの伝統文化を学ぶ専門的な場所はありません。でも最近はハワイ語
を意識的に残そうという動きもあり、いまはハワイ語を話す人が、私が子ど
ものころより増えている。とてもいい傾向だと思います。ここではハワイ語の
本も多く扱っていて、ハワイ語のクラスも開いています」
そしてここ数年、健康や教育など以前はあまり交流のなかった他分野コミ
ュニティとのつながりで、ネイティブ文化を守る新たなプロジェクトが生まれ
つつあることにも、未来への希望を感じると語る。
1 ハワイ語の本やハワイのスピリチュアルマザーと呼ばれているナナ・ベアリー
の本などが人気。2 上質なコアウッドの工芸品、イプやウリウリといった楽器類、
サメの歯や最高級ニイハウ貝でできたアクセサリーなど多種多様な伝統工芸品が
揃う。3 鼻で吹く笛「アノイフ」。ハワイアンにとって口から出る息は神聖なもの
なので鼻で吹くそう。4&5 ウッドカーヴィング、ハワイ語、ハラの葉でつくる帽
子など10種類ほどのワークショップが日替わりで行われる。
「なぜいま、そういう動きが始まっているかといえば、これまで多くの人が
N A MEA HAWA II
西洋の手法を取り入れてきたけど、それがここには効果がないとやっと気づ
き始めたから。健康を害している人、教育を受けられない人、家がない人
など問題はいっぱいある。それらをハワイアンが自らの知恵と文化で解決し
ていこうという動きが高まっています。ハワイアン文化は多様性があり、どん
な人でも受け入れる寛容性がある。だから外から来た人も含めて、ハワイ
の文化を大切にしてくれる人たちと同じ志をもって未来を築いていく。それ
が理想ですね」
有名デザイナーによるフラの衣装な
ども人気が高い。ハワイ関係の書
籍に関しては他店の追随を許さない
充実度。●1050 Ala Moana Blvd.,
Honolulu, HI ☎808-596-8885 営10:00~21:00(日〜18:00) 無
休 www.nameahawaii.com
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「地元の新鮮な食材が
いちばんなのは当たり前」
ED KENNY
エド・ケニー
タウン オーナーシェフ
コロラド大学でビジネス学を専攻。卒業
後ハワイに戻り4年間ホノルルのダウンタ
ウンで不動産業に携わる。その後バック
パッカーとしてアジアを放浪中に料理の
道に進むことを決意。ホノルルのいくつ
かのレストランで修業後、2005年に自ら
の店「タウン」をオープン。
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1 17歳の娘と13歳の息子をもつよき父でもある。2 料理のコンセプトはイタリアンの繊細さを
もった現代的ハワイアン。伝統的な田舎料理ではない新しいハワイの食を創作。3 店内は常
に賑わっている。4 タウンの斜向かいに姉妹店「スプレット」が昨年オープン。サンドイッチ
&デリ専門で地元農場の瓶詰、自家製のピクルスなども購入可能。5 タウンは一軒家レスト
ラン。ワイアラエ・アベニューと9thアベニューの交差点にある。
TOWN
地元の若手アーティストへの積
極的な支援も行っており、店内
の至る所に地元のアーティスト
の作 品が展 示&販 売されてい
る。 ● 3 4 3 5 Waialae Avenue
Honolulu, HI ☎ 8 0 8-7 3 55900 営7:00~14:30/17:30
~ 21:30( 金・ 土 ~ 22:00) 休日 www.townkaimuki.com
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地産 地 消のムーブメントがハワイの食を変える
ワキキキからクルマで約 15 分、オールドハワイの雰囲気を残すカイムキ
で利益率の高いビジネスとしてこの店を成功させた。2011 年のハワイ
地区にある「タウン」は人気のオーガニックレストラン。タロイモのペース
APEC 開催時には、オバマ大統領夫人主催による各国首脳夫人たちの昼
トやローストしたフェンネルやニンジンなど、素材の味を生かしたメニューが
食会のシェフを務めるなど、ハワイのオーガニック料理の第一人者としてそ
多くのフォロワーを生んでいる。料理はその日に入荷した素材でつくられる
の地位も確立している。現在は40 以上の農場や漁業関係者と取引を行い、
ため、メニュー表は毎日新しいものがA4サイズの再生紙にプリントされるほ
共同で新たなプロジェクトを行うプランも立ち上がっているという。
か、前日のメニューに使われた紙は翌日コースターとして再利用するなど、
「ハワイは太平洋に浮かぶ孤島で、食料の85%はアメリカ本土から運ばれ
一貫したエコな姿勢も好評だ。
ている。でも最近では地産地消が見直され、野菜を栽培する農家も増えて
2005 年にこの店をオープンしたエド・ケニーは、バックパッカーとしてア
いる。その代表がオアフ島の『マオ・オーガニック・ファーム』
。野菜がお
ジアを旅しているときにレストラン開業を決め、いまは地産地消の先駆者と
いしいのはもちろんですが、ここは地元の子どもたちを対象に農業指導と奨
してハワイの料理界を牽引する人物のひとり。
学金を支給するプログラムも行っている。約 50 人の学生が授業のないとき
「仕事を辞めて旅に出て、行った先々でいつも知らない人とテーブルを囲
にファームで研修を受け、給料を得ながら大学にも通っている。素晴らしい
み、食事が人々に力をもたらすことを実感しました。それでレストランこそが、 ことです。このファームとは長い付き合いで、数年後に共同でノースショア
自分のやるべきことだと悟ったんです。1 年に1 度しか行かないようなファイ
にファーム付きレストランをオープンする計画があります」
ンダイニングには興味がない。同じ人たちが日常的にいつも通ってくれるよ
彼が提唱する“ローカリシャス”の波は、別の方向へも波及しつつある。
うな店がいい。ここには一日の朝食、ランチ、ディナー全部を食べに来る人
「最初はこんな小さなレストランがどれほどの影響を与えられるのはわからな
もいます」
かった。でもダウンタウンやチャイナタウンで自分と同じような考え方をもつ
旅を終えたのは20 年前。その後ホノルルのいくつかの店で修業をしてい
20 代の若いシェフが店を開いたり、新世代の若いファーマーも出現して、
るころ、料理界は化学調理の方向と、オーガニックな方向に進む者とに分
エキサイティングな状況が訪れています」
かれていて、彼は後者に魅力を感じた。
「地元の新鮮な素材を使うことに大
タウンがオープンしてちょうど10 年目の今年、彼は新たな店を通りの向
した理由はない。それがいちばんおいしいから」
。その当時からオアフ島の
いにオープンする。ハワイならではの素材でつくられる彼のレシピが、地元
農家や漁師などと関係を築き、仲介業者を通さず直接素材を仕入れること
の人々の食に対する意識をさらに高めていくことになる。
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PEOPLE
イ” に
サステイナブ ル な 養 殖アワビを新 た な “ メイド・イン・ ハワ
ハワイ古来の自然、文化、食を見直そうとする動きがある一方で、新た
ようやくハワイ唯一のアワビ生産会社として軌道に乗り始めた。 な“メイド・イン・ハワイ”を創造しようとするパイオニアもいる。ハワイ島コ
さまざまな試行錯誤を経て2010 年に完成したハワイ島の養殖施設は約 4
ナでエゾアワビの養殖業を手がける、新井宏がその人だ。遠洋漁業が衰退
万㎡の広さを誇り世界でも最大級。海底 600mの深海から汲み上げられる
し日本の水産業が輸入メインへと移り変わった50 年前、大手水産会社の
6 度の海水に温かい表層水を混ぜ合わせ、アワビの成育に理想的な温度に
駐在員としてシアトルに赴いた新井は、以来、漁業ビジネスの移り変わりを
調整し、ミネラルを豊富に含みバクテリアもほとんどいない海洋深層水でア
間近に見ながら、捕獲するのではなく自ら育てるサステイナブルな水産に将
ワビの餌となる海藻も育てる。この完璧な環境で生産される「コナ・アバロ
来性を感じるようになったという。そして新たな事業に着手したのが16 年
ニ」は、天然ものと比べてもまったく遜色のないクオリティで、パシフィック・
前、60 歳のときだ。
リムの巨匠アラン・ウォンをはじめ、世界各都市の高級レストランのシェフ
「1980 年代に海洋深層水を汲み上げるプロジェクトがハワイ島で進められ、 たちからも高い評価を受けている。昨年はオアフ島のアラモアナセンターに
それに着目したアメリカのアワビの養殖研究家が会社をつくったのですが、
直営販売店をオープン。多くの人にその味を伝えるべく、ハワイ産アワビの
そのとき一緒にやらないかと誘われたんです。全米一の日射量を誇り、冷た
ブランディング化も試みている。
くきれいな海洋深層水があるハワイには、確かに大きな可能性を感じました。 「実は8 年前に資本提供が実現したときに私は社長になったんですが、創
始者だったアメリカ人や学者連中はみんな辞めてもらったんです。養殖は農
アワビの養殖はどこの国でも盛んですが、地場の生態系を守るため異種の
ものはもち込めないことになっています。でもハワイにアワビはなかった。そ
業と同じ。毎日育っているものを見もせず、コンピューターで計算だけして
れで青森の稚貝をもってきてエゾアワビを養殖することになったのです。三
いてはダメ。いまは南アフリカで養殖業をやっていたバイオロジストの女性
陸とまったく同じ、あるいはそれ以上の自然環境があり、大陸と日本の中間
が生産ディレクターとして工場を仕切っています。彼女はインターネットを
にあるハワイはマーケット的にも有利。これほどいい条件はないと、大きな
見て、この仕事をやりたいと連絡してきたんですが、この人だという直感が
夢をもって始めたのです」
ありました。アワビの養殖に関しては世界一の知識と技術をもっていて、い
しかし養殖は時間と資金が膨大にかかるうえ、技術的な難しさもあるため、 まはアワビのタンクでナマコの養殖も始めています」
通常 9 割は失敗するとされている事業。特に資金繰りは苦労の連続だった
ハワイに自らの未来を賭け、同時にハワイの未来そのものをつくっていこ
という。しかし8 年前、アメリカ最大手の水産会社からの資本提供が実現し、 うとする人の目は、力強い自信に満ち溢れていた。
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K ONA A B A L ONE
アラモアナセンターの1階フー
ドコート内にある直営店。アワ
ビの刺身やグリル、ポキ丼のほ
か、 柔らかな歯ごたえの缶 詰
も 人 気。 ● 1450 Ala Moana
Blvd., Honolulu, HI ☎ 8 0 8941-4120 営9:30 ~21:00(日
1 0:1 0 ~ 1 9:0 0) 不 定 休 www.bigislandabalone.com
1 冷たく純度の高い水の中で育つアワビは磯臭さがまったくない。週3回コナから生で送ら
れ、店内で生姜風味のグリルなどに調理され販売されている。2 生きたままメインランドに送り、
添加物も調味料もまったく入れずに製造する缶詰は、ハワイ州のプロダクトオブザイヤーを受
賞。3 刻んだアワビをご飯にのせたポケ丼が地元の人たちに人気。4 ハワイ島コナの養殖施設。
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技術システムが完成し生産が軌道に乗るまでは約12年かかった。
「世界一のアワビは
ハワイにあります」
HIROSHI AR AI
新井 宏
ビッグアイランド・アバロニ CEO
日本の大手水産会社のシアトル駐在員
生活30余年を経て、1998年よりハワイ
島コナで海洋深層水を使った三陸エゾ
アワビの養殖に着手し成功。現在、常
時400~500万匹のアワビを育て世界各
都市に直送する。昨年アラモアナセンタ
ーに直営販売店をオープン。今年76歳。
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「大地から学ぶのは
生きる喜びです」
KIM JOHNSON
キム・ジョンソン
コクア・ハワイ・ファウンデーション 代表
カリフォルニア州立大学卒業。高校の数
学教師を経て、ハワイ出身のミュージシ
ャン、ジャック・ジョンソンと結婚。11
歳の息子、8歳と5歳の娘がいる。ハワ
イで子どもたちのための環境教育を献身
的に行い、その活動は米国環境保護庁
(EPA)から表彰された。
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環境 教 育をサ ポートし
子供 たちの 未来を育 む
ノースショアの海岸近くにある小学校を訪れると、オーガニックなサーフ
ミュージックで世界的に知られるオアフ出身のミュージシャン、ジャック・ジ
ョンソンとその妻のキムが出迎えてくれた。彼らが学校やコミュニティでの
環境教育をサポートする非営利団体「コクア・ハワイ・ファウンデーション」
を立ち上げたのは2003 年のことだ。
「私は高校で数学の教師をしていて、その後はジャックの音楽活動の手伝
いをしていましたが、彼が音楽の世界で成功したので、次は何か別の意味
があることをしたいと思ったんです。環境問題については以前から関心があ
りました。それで元々教師ということもあって、子どもたちに対して何かでき
1
ないかと考えました。その当時、環境教育を行うグループはまだあまりあり
1&2 プラスチック製品を使用を減らすためのプログラムも頻繁に行われている。ビ
ませんでした。そこで、ネガティブに反対を唱えるのでなく、ポジティブな
姿勢で環境問題に対してアクションを起こそうと思ったんです」とキム。ち
なみに“コクア”とはハワイ語で“助け合い”の意味。人々が助け合って行動
することで、美しいハワイを次世代に引き継いでいきたいという思いが込め
られているという。
彼らの活動は多岐にわたっている。例えば“3R’sスクール・リサイクリン
ーチのプラスチックごみを回収するイベントには1,500人近いボランティアが参加し
た。3 子どもたちに野菜がどのように育つのかを教える「アイナ・イン・スクール」
はオアフ島の3分の2の小学校で行われている。4 キムは、学校の菜園での野菜
づくりを通してハワイ特有の植物や、それにまつわる歴史などについて教えている。
5 ファウンデーションの活動は主にキムがメインで行い、プロモートや資金的なサ
ポートを行うためにジャックは「コクア・フェスティバル」というチャリティーコンサ
ートを毎年行っている。6 今回訪れたのは、
ジャック本人が実際に通っていた小学校。
グ”は、Reducing(無駄を減らす)
、Reusing(再使用)
、Recycling(再
利用)という3つのRを奨励するもの。この3Rを成し遂げた子どもたちへ
のご褒美として、その学校にジャックが行き教室で歌を披露することもある
そうだ。またプラスチックの有害性について説き、その使用量を減らすため
のプログラムもある。06 年から始めた“アイナ・イン・スクール”は、学校
の菜園で子どもたちと一緒にオーガニック野菜を育てたり、給食の残飯を
2
利用しコンポストのつくり方を教えるというもの。現在オアフ島の150 余り
の学校で行われているこのプログラムを始めたきっかけを、キムはこう語った。
「あるとき、私たちはどうやって食べ物を得ているかという話をしていたら、
ある子どもが、ボートが港にやってきて、トラックが店に運んで、それを買
4
って家の電子レンジに入れて温めて食べるって(笑)
。ハワイはほとんどの
食料の供給をメインランドに頼っているから、そう思うのは無理ないかも。
それで農場や酪農場に見学に連れて行ったら、みんな『わ~、バターやク
リームって自分でつくれるの?』ってびっくりしてた。食べ物がどうやって生
産されているか、その流れを子どもたちがきちんと理解することが大事だと
思いました」
アイナはハワイ語で大地、つまり食糧を得る場所。今回の取材中も、土
に触れ、自ら育て収穫して食べるという体験を、子どもたちは目を輝かせな
がら楽しんでいた。このプログラムは、教師をトレーニングするシステムを
3
5
取り入れ、多くの学校で同時に実施できるようにもなっている。
「自分はこの美しいノースショアで生まれ育ち、小さいころから自然に教わ
ってきたことがたくさんある。それと同じ経験を子どもたちにもさせたい。僕
たちの目的は子どもたちが自分自身で学び判断するチャンスを提供すること。
菜園での体験は彼らにとって学んでいるという感覚はないかもしれない。で
も自分がどんな世界に育っているかを感じることはできると思うんだ」とジャ
ック。
03 年に活動を始めたころに学んだ子どもがいまは高校生になり、率先し
て小さな子どもに同じことを教えるという状況も生まれているようで、その成
果は確実に実を結んでいる。
「子どもの目を通して人生の喜びを知ることが
できる。逆に僕たちが学ぶことも多いんだ」と、緑の菜園を眺めながら、夫
妻は満面の笑顔を見せた。
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