日本道経会FAX通信に投稿しました(2015年6月)。

一般社団法人
日本道経会通信
№349
平成 27 年 6 月 15 日発行
〒277-0065
千葉県柏市光ヶ丘 2-1-1
TEL 04-7173-3172
FAX 04-7173-3134
E-mail office@ndk.gr.jp
ダイバーシティと永続
麗澤大学経済学部教授
経済学部長
下田健人
今回の私の課題は、
「日本の中堅中小企業はグローバル化をどのように受け止めるか」です。
私の専門は雇用や労働ですが、過去 10 年間における重要なキーワードの一つは「ダイバー
シティ」です。ダイバーシティとは「多様性」という意味ですから、人の領域でいえば、多様
な人たちが一緒に働くことを指します。しかし、識者によって考えることは異なるかもしれま
せん。例えば、多様性について、正規社員と非正規社員、男性と女性、若者と高齢者、障害者
雇用など、抱くイメージは多様ですが、私が考えるダイバーシティとは、ずばり外国人との共
生です。
廣池千九郎博士が品性ある国際教養人の育成を目指して、昭和 10(1935)年、道徳科学専攻
塾を設立し、その後、現在に至るまで、博士の理念は継承されています。博士が生きた時代と
現代では、世界を結ぶ距離はますます短くなりましたが、平和と幸福の実現への道程はいかが
でしょうか。博士が生きた当時、世界は大きく分断されていたかもしれませんが、博士が描い
た世界のイメージは、現代の我々の意識をはるかに超える壮大さがありました。
「(前略)、而して其人心救済を為した結果、救済者と被救済者とが共々に其胸中に黄金世界
を造り出しましたならば、末遂には世界永遠の平和の完成する日が来るのでありましょう。人
類の安心、幸福は実に世界の平和によりて実現する事であります。
」
『特質』第14章。
皆さんもご承知のとおり、博士の言葉は、個人、家族を超え、団体、社会、国家を超えて、
世界に届きます。最高道徳こそが世界の人々の安心、平和、幸福の実現を可能にします。
5月 20 日、21 日。国際多文化ビジネス会議がオーストリアのシュタイヤーという小さな街
にある大学で開催され、私は発表する機会をいただきました。私が発表したテーマは多文化社
会における企業の人の管理です。特に、日本の中堅中小企業に焦点を当てました。学会発表に
先立って、日本における中堅中小企業の代表的組織である一般社団法人日本道経会事務局の力
を借りて、グローバル化の進む会員企業をインタビューさせていただきました。
しかし、まず驚いたことは、グローバル化が進む企業が少ないことです。特に人の側面につ
いてグローバル化が進む企業を紹介していただきたかったのですが、事務局から紹介いただい
1
日本道経会 FAX 情報№349
た企業でも、問い合わせたところ、確かに海外と取引はある、あるいは海外に拠点をもつもの
の、日本国内で外国人は雇用していないという回答でした。ちなみに、日本と同様、アジアの
先進国であるシンガポールでは、働く人たちの 30%は外国人であり、日本は 1%にすぎません。
オーストリアの学会では、廣池千九郎博士の言葉を引用しながら、まず企業の永続性につい
て説明しました。ご存じのように、世界における 200 年企業にうち、半数強は日本企業だと言
われています。そもそも、企業の経営理念として永続を謳っている企業は、日本以外では少な
いのかもしれません。家族のような経営、宥座の器、熱心な従業員教育、互敬など、永続を支
える要因を紹介しました。
さて、本題に戻れば、果たして、国際競争が進み、人口減少が進み、経済が縮小する中で、
日本の中堅中小企業は、どのように永続を考えるのでしょうか。
中国やアジアでは、優秀な人材は企業間を移動し、一企業に留まるのはパフォーマンスの低
い人だけ、という雇用文化があります。企業への忠誠心はもはや色褪せた感もあります。企業
への忠誠心をもたない能力の高い若者が、世界で活躍しています。ダイバーシティとは企業の
中で多様な人たちが一緒に働いて、高い生産性をあげることを意味しますが、永続性を求める
中堅中小企業にとってダイバーシティをどう受け止めるでしょうか。
ところで、ダイバーシティ先進国シンガポールは、外国人の誰でも入国を認めているわけで
いわゆる
はありません。年収 1000 万円以上を稼ぐなど、所謂「高度人材」のみを受け入れます。日本
も高度人材ポイント制の政策をとっていますが、高度人材受け入れの影が薄いのはなぜでしょ
うか。確かに、政府の声が小さいかもしれませんが、最も大きな要因は、日本の、そして日本
企業の魅力そのものにあるように思えます。今年(2015 年)4月、私の大学の同僚がシンガポ
ールの大学にヘッドハンティングされましたが、給与は日本の 5 倍といいます。お金が全てで
はありませんが、5 倍の給与を魅力と感じない人はいないでしょう。
給与5倍の魅力に勝る魅力があるでしょうか。先の学会に先立って、グローバル化の進む道
経会会員企業2社の経営者のお話を伺いましたが、期せずして、2人のインタビューに共通す
る言葉がありました。それは「至誠」です。国の違いに関わらず誠をつくすことだと言います。
グローバル化に直面して、有能な国際人を採用し、誠を尽くします。年功序列は避けられない
日本の人事制度ですが、当該の人物を信頼すれば、早い昇進で対応します。早い昇進は、早い
昇給を可能にし、大きな責任は人を動機づけます。もちろん、最高道徳が、同社で働く高度外
国人を強く動機づけています。
世界における人心開発救済は広池博士の夢です。日本の中堅中小企業は永続という理念を大
切にします。50 年後、100 年後。企業の永続のために、博士が描いた黄金世界の実現の為に、
ダイバーシティを受け入れることが求められています。
<本文の無断転載・無断コピーはご遠慮ください>
事務局だより
(担当:能勢)
2
日本道経会 FAX 情報№349