京都カナリヤ会 会報 第14号

京都カナリヤ会 会報 第14号
2015年1月
「京都カナリヤ会」はいつでも、誰もが、発症する危機を報知し
有害物質による健康被害者の支援と予防活動を推進する市民の会です。
目 次
1.
活動報告 ............................................................................................................................................5
1.1
実態調査(建築現場周辺の空気質・薬剤散布・建物内受動喫煙等) .................................................5
1.2
要望書提出 ..................................................................................................................................5
1.3
災害時の避難所に於ける化学物質障害者への要配慮基準について .................................................5
2.
特集
蓄積する複合汚染物質と見えない人権侵害――次世代へのリスクを考える ............................6
2.1. 有識者インタビュー1 被害が見えにくい環境問題において、科学はいかなる役割を果たすべきか
「化学物質過敏症の社会的認知」と「不確実性の切り捨て」について
関西学院大学大学院社会学部 准教授 立石裕二 氏 .........................................................................6
2.2. 有識者インタビュー2 空気と水環境の循環による複合汚染について 「空気と水から健康を考える」
東京大学大学院教授 山室真澄 氏 ..................................................................................................10
2.3. 特別寄稿
「受動喫煙問題は緊急事態」~受動喫煙ゼロに向けて
NPO 法人京都禁煙推進研究会 栗岡 成人(医学博士) ....................................................................14
2.4. 特別報告
提訴から 10 年~空気汚染公害 ~ 国の判定と救済措置・裁定基準..............................15
1) 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」発足から 10 年の活動と成果
2)廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会 10 年の訴えは棄却
3.
ネットワーク紹介............................................................................................................................19
3.1. NPO 法人 「化学物質による大気汚染から健康を守る会」 (通称:VOC 研究会)
事務局-理事 津谷裕子.....................................................................................................................19
3.2. にしのみや健康づくり推進員 禁煙グループ
4.
代表 斉藤 芳一 ........................................21
カナリヤの学習録............................................................................................................................23
4.1.
体内の活性酸素発生と免疫力の低下を防ぐ ..................................................................................23
4.2.
セロトニンの働き ..........................................................................................................................23
4.3.
「マクガバン報告」に学ぶ~「アメリカ型食生活の害」と「和食の薦め」 .................................................24
5.
タバコ問題情報 ...............................................................................................................................27
5.1.
NPO 日本タバコフリー学会学術大会参加―取材記録
5.2.
NPO 日本タバコフリー学会顧問 ジェフリー・ワイガンド博士 特別講演(抄録) ..................................28
6.
(事務局 広瀬) .....................................27
会員だより ......................................................................................................................................29
6.1.
乳幼児のそばで携帯電話の使用禁止を ........................................................................................29
6.2.
保育園で使用する殺虫剤、消毒剤 ...............................................................................................29
6.3.
こどもが学校へ行ける日まで .........................................................................................................31
6.4.
VOC 測定バッジで判った~自宅と周辺の空気汚染物質 ................................................................33
6.5.
長年の投薬が原因か...................................................................................................................33
6.6.
臨床環境医学会学術集会に参加しました......................................................................................33
7.
新たなシックハウスの問題 .............................................................................................................34
7.1.
公害と私害について.....................................................................................................................34
7.2.
多種化学物質過敏症の人にどのようにより良く宿泊してもらうか ........................................................34
8.
有害物質 SOS 受信..........................................................................................................................36
9.
化学物質/電磁波/原発 問題 .............................................................................................................36
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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10. 科学と医療・社会問題 ....................................................................................................................36
11. カナリヤの視点 ...............................................................................................................................37
12. 世界で初めて農薬の害を発表し環境汚染に警鐘を鳴らした医学者
著書『生命の医と生命の農を求めて』が伝える実践と活動 ............................................................38
12.1.
梁瀬義亮 医師からの遺言 「愛する子孫のために」
12.2.
研究と実践を継ぐ「慈光会」の活動
13. お知らせ ..........................................................................................................................................42
13.1.
ノートルダム教育修道女会国連 NGO スタッフの活動 (引き続き、当会に支援の寄付金が授与されました)
13.2.
図書の贈呈 『食べていませんかネオニコチノイド』 著者 水野玲子氏より
13.3.
平成 27 年度の総会ほか事業についての意見用紙を同封しています
<4.と 5.と 7.の参考文献>
1) 論文「セロトニンの生理作用」 有田 秀穂 (東邦大学医学部名誉教授)
2) 農林水産省:<安全で健やかな食生活を送るために> 知っておくと便利です 食品に含まれる成分
3) 文部科学省.:「日本食品標準成分表 2010」
4) 厚労省: タバコ成分分析一覧 / 厚労省ヘルスネット:副流煙の発がん性物質とシックハウス要因物質
5) 論文「公害の私法的研究」 澤井 裕 (民法学者・法学博士 関西大学名誉教授)
6) 「公害と健康」 鈴木 武夫
国立社会保障・人口問題研究所 季刊社会保障研究(vol.10 no.2)
7) ja.wikipedia.org/wiki/百科事典
2015 年
新春を迎えご挨拶申し上げます。
会員の皆様、ご支援を戴いています皆様にはお健やかに新年をお迎えのことと存じます。
京都カナリヤ会は、設立から8年目を迎える本年も引き続き、「安全・安心・快適」に暮らせる生活環境
の保全に向けて実態調査を進めながら真実を見極め、提言と啓発に努めてまいります。
本年も一層のご理解、ご協力とご参加をお願いいたします。
皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。
 夢のエネルギー
藻類バイオマスエネルギーの実用化
第三世代バイオマス「藻類」に世界が注目
・藻類のオイルの潜在的生産能力は、油脂植物の数十~数百倍
・生産に要する面積が少ない ・生産に耕作地は不要(休耕地は活用)
・石油の完全代替となる炭化水素を生産する種が存在
藻類バイオマスは、その高い生産効率から次世代エネルギー源として期待され、
バイオマス生産のための屋外大規模培養等の技術開発が求められている。
http://www.algae-biomass-tsukuba.jp/message/index.html
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1. 活動報告
今期の主な活動
1.1 実態調査(建築現場周辺の空気質・薬剤散布・建物内受動喫煙等)
1) 公的施設巡回「建物内喫煙所・パラジクトイレボール」撤去啓発
2) きれいな空気の施設認証事業―発見と啓発
3) 有害物質 SOS 受信-対応-現地調査
4) 研究者への実態紹介と共同研究
1.2 要望書提出
1) 京都府へ受動喫煙防止対策と公的な相談窓口の設置申請
2) 京都市へ災害時の避難所に於ける化学物質障害者への要配慮を申請
3) 京都市の受動喫煙防止対策と被害の現場確認・健康増進法による啓発を要望
1.3
災害時の避難所に於ける化学物質障害者への要配慮基準について
京都市は平成 24 年 10 月に改めて大地震などの災害で避難所を開設し運営する際の基準となる避難所運営マ
ニュアルを定めています。今回、会員の申請した要望により、市の防災担当者との面談に同行して説明しました。
喘息など呼吸器系の発作疾患は自力で避難は出来るが、避難所ではタバコ煙、消毒剤等の使用で呼吸困難を引
き起こす症状もあり、化学物質に過敏な人は整髪料、香料など症状発生源への配慮が必要であると求めました。
▶マニュアルはほぼ完成しており、要配慮の基準も記載しているが、その類の話は今までなかったようだ。災害時避
難所では消毒剤を使用するので、考えられることは、離れた所に別途、避難所を用意することしかない。
▶その要配慮者を受け入れる基準は医師の診断書ですね。京都府下、市内では喘息や受動喫煙症の診断は可能
ですが、化学物質過敏症の診断は東京の北里病院ほか専門医に限定です。市民に事前の準備を広報願います。
▶どれくらいの該当者がいるのかも判らないので、関係先と連携して何らかの手配をしますと誠実な回答を得ました。
◇実態調査:活動内容
▶有害物質 SOS 受信対応にて現場確認が可能な件のみ調査を実施して自治体関連部署にも届けています。
▶遠方より転居予定の会員からの依頼で、周辺環境と建物を調査しました。
▶公的、公共的施設の巡回で察知した建物内喫煙所は早急に撤去を進言。
▶きれいな空気の施設の推薦がなく、自宅が空気汚染で苦痛の人の安息場所を探しました。
▶量販店等商業施設へ受動喫煙防止対策と洗剤はじめ安全な日用品の販売を提言しました。
◇研究者への実態紹介と共同研究
◆化学物質過敏症を研究テーマとする研究者からの取材を受けて、化学物質に過敏とな
るまでの生活環境(空気)と飲食物など体内に取り込む有害物質の量と代謝障害が発症要
因となる実態を説明しました。要望により、化学物質に過敏なこどもの親子との面談インタビューも
実施しました。
◆VOC 研究会からの紹介により、簡易分析バッジを使用して会員有志 4 名が生活環境の VOC
測定を実施しました。測定バッジは、目や鼻、喉が痛い、身近に飛散して粘膜損傷を起こす有害
物質「イソシアネート」と「ヒドラジン」の 2 種の検知シートです。測定後、クール便で送付して、結果は、
4 名の内、1 名が両種とも検知、1 名はイソシアネートが検知されました。
◆別途に、室内の空気ガスを採取して有害物質の有無と濃度を検知する機器を研究者から借用して実験中です。
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2. 特集 蓄積する複合汚染物質と見えない人権侵害――次世代へのリスクを考える
はじめに
増え続ける化学物質と化合物、タバコ、アスベスト、放射性物質、これらの複合物 PM2.5 等の飛散によって大気
も水も、室内の空気さえも汚染され、見えない有害物質による健康被害は治まることなく発生しています。被害を申
告しても因果関係が確定し多数の重症者が確認されなければ対策も救済もされません。この問題の解決には医学
だけでなく、科学と社会の相互作用を見据える研究者の指摘により、今、最も必要とされる科学技術と産業界の秩
序・規範、更に社会の認識を深める総合的な検討が期待されています。
この問題について、大学で環境・社会問題として教授する研究者と現場の臨床医に面談と寄稿をお願いしました。
2.1. 有識者インタビュー1 被害が見えにくい環境問題において、科学はいかなる役割を果たすべき
か 「化学物質過敏症の社会的認知」と「不確実性の切り捨て」について
関西学院大学大学院社会学部 准教授 立石裕二 氏
科学と社会の在り方を問う『環境問題の科学社会学』を出版された社会学研究者の
立石裕二准教授との面談が実現しました。この著書で論じられた「イタイイタイ病」の問題
が、公害発生から 100 年目に当たる一昨年、謝罪、補償で合意解決しました。
また、立石氏は 10 年余り前から「化学物質過敏症」「シックハウス症候群」の発生につ
いても研究テーマとされ「化学物質過敏症の社会的認知」が進む中で、当初の目的から
外れた「不確実性の切り捨て」に向かった問題を提起されています。
専門に従事する人がどういう規範に従っているかという面から、科学社会学が先導し
真実を究明する社会秩序・規範の構築を期待して伺ったインタビューの記録と、戴いた
学生への講義資料から了解を得て一部を紹介します。
関西学院大学大学院社会学部 准教授 立石裕二 氏 <インタビューの記録>
2014.10.14
Q1)社会学とは、社会学では現在の社会や科学のあり方をどのように問われていますか。
A1)社会学についてはさまざまな定義がありますが、社会現象にはさまざまな立場のアクター(固有の役割を担う行
為者)が関わっている点に注目するのが一番の特徴だと私は考えています。
化学物質過敏症については、被害者(患者)や医師のほか、被害者の家族や同僚・知人、行政機関、政治家、
化学物質の排出者(企業/農家等)、NGO、学者など、さまざまなアクターが関わっています。こうしたアクターの
間での考え方や振る舞い方の違い、そこから生じる対立や協力関係などを調べるのが社会学のアプローチです。
私が専門とする科学・技術の社会学は、環境問題や生命倫理をめぐる問題、事故・災害、産業化・情報化など
の社会変動、技術力・国際競争力などを取り上げ、社会のなかでの科学者・技術者の役割を考えることを主な課題
としています。これまで私は、化学物質過敏症のほか、イタイイタイ病や長良川河口堰問題、最近では放射線被曝
の問題や地球温暖化問題などを取り上げて研究してきました。これらの問題は、専門家であっても始めから帰結を
見とおすのはむずかしく、日々の生活や社会のありかたに大きな影響をおよぼすため、専門家まかせにするわけに
はいきません。かといって、私たち全員が十分に知識を身につけて対応していくというのも困難です。それでは、私た
ちはこうした問題とどう向きあっていくべきか。社会として意思決定する際、専門家による判断と民主的な討論はそ
れぞれどうあるべきで、どういう関係を結ぶべきか。こうした問いに取り組むのが私の研究課題です。
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Q2)化学物質過敏症問題への関心はいつ頃から、どのような理由で研究対象とされたのですか。
A2)大学院に入って研究を始めた当初から、環境問題、とくに因果関係がはっきりしない問題において、どのように
意思決定をしていくべきか、そこで科学はどのような役割を果たすべきか(果たすべきでないか)という点に関心を持
ってきました。その中で、現代社会において白黒をつけにくい、結論の出にくい環境問題の典型例として、化学物質
過敏症に注目するようになりました。私が大学院に入った 2002 年頃は、化学物質過敏症の対策を急ごうという機
運がある一方で、その存在を否定する意見も少なからず見られた時期でした。実際はどうなのだろうか、という興味
関心から研究を始めたというのが率直なところです。
Q3)ご自身またはご家族にアレルギーや過敏症の症状は体験されていますか。
A3)私自身も家族も、過敏症の自覚症状はまったくありません。ただ、出身地の千葉県では、わりと近所に石油化
学コンビナートがありましたし、自宅の周りには農地がたくさんあって、農薬の空中散布が行われていたので、化学物
質についての問題意識はありました。
私自身が患者でないことは、社会学的には、必ずしもマイナスばかりではないと思っています。少しでも患者さんや
その周囲の方たちの考えを理解しようと、インタビューをしたり著作を読んだりしますが、それでも理解しづらい部分、
「他者」として違和感をおぼえる部分は残ります。私が問題だと思うのは、患者でない多数派がもつそうした違和感を、
「常識」「正義」として一方的に押しつけることです。患者の声にきちんと耳を傾け、科学的知識のもつ不確実性や多
様性に目を向けられるような議論の場をいかに作るのか。こうした問いを考えていくには、私自身が感じる「違和感」
に向き合うことが出発点だと思っています。
Q4) 『環境問題の科学社会学』の第 7 章で論じられている問題―「不確実性の切り捨て」とは(下記の記述より)
P221 化学物質過敏症やシックハウス症候群の制度化について、1990 年代初頭から始まった北里大グループ
の研究の方向性と運動の目的が不確実性を媒介として一致して 10 年余りで世論が盛りあがり、その後、制度化さ
れるなかで両者のずれが拡大し、問題の焦点は環境運動が当初に提起した「有機リン系農薬」の文脈から離れ、
「室内空気汚染」の文脈で議論と対策が進み、制度化されない部分が切り捨てられる「不確実性の切り捨て」が問
題になった。化学物質過敏症問題は有機リン農薬による被害症状であるとして始まった当初の運動目的の出発点
から外れていると指摘されています。それは、なぜか。問題の目的、争点がすり替えられないために、今後、科学と
社会はどうあるべきか。また、残された重要な問題の中で「不確実性の切り捨て」とはどういうことでしょうか。
A4)当初の問題提起から徐々に議論がずれていくことは、ある面では避けられないことだと思います。研究者は、研
究しやすい形で問題を切り取りますし、メーカーは「環境にやさしい」商品を作りやすい形で問題を切り取ります。市
民団体にしても、世間に訴えやすいよう、行政と市民の対立という構図にしがちです。これは悪いことばかりではあり
ません。シックハウス、室内空気の問題という形でフレーム(枠組み)が設定され、そこに多くの研究者やメーカーが
参入してきたことで、その一環として化学物質過敏症についても認知と対策が進んだ側面があると思います。
その一方で、新築の住宅(とそこで問題となるホルムアルデヒド等)ばかりに議論が集中し、農薬散布などの住宅
周辺の化学物質や、生活の中での化学物質(柔軟剤、香水、タバコなど)について、なかなか認知と対策が進まな
かったことも事実だと思います。行政が動かないという以前に、世間一般でもほとんど認識がないのが今なお現状で
しょう。授業で化学物質過敏症の話をすると、毎年何人かの学生は、自分や家族が悩み、苦しんでいることをコメン
トシートに書いてくれますが、大多数の学生は「そんなことがあるとは知らなかった」という反応です。
もう一点、議論と対策が進む中で、化学物質過敏症を「病気」「医療」として捉える枠組みばかりが強調されてき
たと考えています。もちろん、「患者」として認められたことのメリットは、周囲の理解を得やすくなったことや、治療を
受けられるようになったことなど、とても大きかったと思います。しかし、化学物質過敏症をめぐる運動の中でも繰り返
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し指摘されてきたことですが、「この人は本当に過敏症の患者なのか」「この症状は本当に過敏症によるものなのか」
といった問いの立て方は、大きな危険性をはらんでいます。病気の存在を実体視しすぎると、所定の「診断基準」か
ら外れる人は、救済・対策の対象から「切り捨て」られることになりかねません。改正建築基準法を満たしていれば、
その家からはシックハウス症候群の患者が出るはずはない、といった議論も同様です。私の理解では、化学物質過
敏症をめぐる活動の原点には、「化学物質に対する感受性には大きな個人差があって、一律の基準で線引きはで
きない」、「発ガン性や遺伝毒性さえ低ければ良いのではなく、たとえ一時的でも体調不良につながるなら、その物
質の使用には慎重になるべきだ」という発想があったと思います。こうした本来の問題意識から出発して、たとえ一部
でも不快だと感じる人、とりわけ体調不良を訴える人がいるような化学物質の使い方は極力避けるべきであって、そ
のために社会として何ができるか、といった形での議論を重ねていくことが大事だと思います。
Q5)この問題の解決と発症の予防、既に発症した者への救済に関して、科学と社会そして行政はどうあるべきか。
A5)環境問題においては、被害者本人の訴えは最も重視されるべきものですが、それだけで多くのアクターを巻き
込んで対策が進むかといえば、難しいと思います。さまざまな形での専門家のサポート、科学研究による裏づけが大
事になります。化学物質過敏症の場合、医学はもちろんですが、化学物質の測定など、ほかの専門分野からのアプ
ローチも重要だと思います。ご承知のとおり、化学物質過敏症で問題になるような短期的・局所的な汚染は、サンプ
リングの仕方によって結果が大きく変わる場合があります。当事者の実感に沿った形での測定結果を積み重ねてい
くことは、身の回りの化学物質について行政や企業、学者を巻き込んだ議論を進める際の基盤になりうると思いま
す。
科学研究によって端的に答えることが難しい、不確実な状況を前にしてどのような態度をとるのかは、これまでの公
害・環境問題でも繰り返し問われてきたことです。不確実だから予防的に対策をとろう(救済しよう)というのも一つの
態度ですし、きちんと調査してから結論を出そうというのも一つの態度です。その中で、不確実だから何もしない(新
しい事実が見つかるのを、ただ待つだけ。事実上の先送り)という態度をとることを、「不確実性の切り捨て」と呼んで
います。危険を示す兆候が何もない場合と、事実上同じ対応になっているからです。主体的に「調べる」ことと消極
的に「待つ」ことは、まったく違う意味合いをもちますが、しばしば意図的に混同されてきました。まずは、多様なアクタ
ーを巻きこんだ継続的な議論の場をつくり、議論の結果をもとに調査研究が進む状況をつくることが大事だと思いま
す。
おわりに
当会では、タバコと農薬が室内空気汚染・健康被害の原点であると考え予防啓発に取り組んできました。一般的に
理解されない被曝時の苦痛症状を訴える声にも耳を傾けられる立石先生に感謝しながら、タバコと農薬または同等
成分を含有する製品による中毒症状と、その後遺症としての過敏症が考えられる事例と症状のレベルを紹介しまし
た。測定すれば微量ではない室内への侵入空気汚染の長期曝露による被害の実態と子どもたちに起きている異常
も伝えて、医学だけでは解決・救済されない公害・私害は環境社会学の問題として研究対象にして下さるようお願
いしました。
<立石 裕二 氏 プロフィール>
2008 年 12 月 東京大学大学院人文社会系研究科 博士課程修了 博士(社会学)
2009 年 4 月
関西学院大学社会学部 助教
2012 年 4 月
関西学院大学社会学部 准教授 (現在に至る)
所属学会:日本社会学会、環境社会学会、Society for Social Studies of Science、
科学社会学会、科学技術社会論学会
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
『環境問題の科学社会学』 立石 裕二 著 (2011:世界思想社)
公害、化学物質リスクの問題や生態系保全の問題など今日解決をせまられている環境問題について、著者の 10
年に亘る研究の集大成の書。イタイイタイ病、長良川河口堰問題、化学物質過敏症・シックハウス症候群といった
事例の実証的分析を通して、科学の果たすべき役割、果たすべきではない役割を指摘している。予防原則や環境
リスク論、参加型意思決定などがさかんに議論されているが、そこでは科学と社会の関係の現状分析、とりわけ科
学知の生産される制度的メカニズムの分析が欠落している。科学の自律的な研究活動によって新しい事実を明ら
かにし、原因を特定しなければ効果的な対策は不可能であるとし、環境問題において専門知と民主的手続きをとも
に生かした意思決定が可能になる社会的条件を模索、科学の質を保つための規範についても言及している。
《内容紹介》 http://d.hatena.ne.jp/sumidatomohisa/20110612/1307860402 より
立石准教授の講義内容から
教科書(立石裕二 2011 『科学技術と環境問題』)から 4.の一部を転載
1.化学物質過敏症・シックハウス症候群とリスク社会 2.科学技術の専門家と
その役割 3.専門家ネットワークの形成 4.専門家とどう向き合うか
4-1 テクノクラシーと市民参加型の意思決定
環境問題の意思決定はどのように決めるべきか、その際に科学技術の専門家と市民・住民はどういう役割を果たす
べきか、といった政策決定の在り方について考えよう。(中略)
化学物質リスクについても、どんなリスクを受け入れ、どんなリスクを拒絶するのかは、専門家だけで決めることでは
ないという考え方が出てきている。特に問題となるのは、被害者・環境運動家が訴えてきた被害/リスクが、専門家に
よって「そこに被害 / リスクはない」とされてしまうという「専門知を使った切り捨て」である。(立石 2011)。
化学物質過敏症の診断基準が確立されると、病気として広く認められるようになる一方で、その基準から外れる症
状をもった人たちが出てくる。この人たちは化学物質過敏症の対策によって救済されないことになる。こうした切り捨
てをめぐる対立は、水俣病などの公害病の認定でもしばしば見られた。あるいは、前述した有機リン系農薬による健
康被害のように、環境運動の側では大きな問題と考えているのに、政策論議の場では正面から取り上げられないト
ピックも出てくる。こうした状況で重要なのは、専門家に言われたことを鵜呑みにせず、市民セクターの側で専門家
の主張を批判的に検討することである。それには大きく分けて二つの戦略がある(立石 2011)
第一は、専門知に対して専門知で立ち向かうという戦略である。批判的な立場をとる専門家を集めて、既存の専門
家ネットワークとは別のネットワークを立ち上げたり、被害者・市民が学んで、自らがある種の専門家になって主張を
展開したりする。(中略)自分たちで情報を集めることによって、専門家にいわれたことをそのまま受け入れるのでは
なく、自ら問題を理解して、必要な行動をとることにつなげるのである。
第二は、専門知の限界を指摘し、それ以外の知識の重要性を訴えるという戦略である。住民・市民がもっていて、
専門家がもっていないのは、日常的な経験から得た生活知/現場知である。農業・漁業で生計を立てている人であ
れば、土や川・海・そこで生きる動植物と普段から接している。そのため、科学的調査などを経なくても、環境破壊に
よる地域の異変に気づくことが少なくない。健康被害の問題においても、身体の不調に気づくのは被害を受けた本
人であることが多い。現場で生きる人の生活知/現場知があることで、実態からかけ離れた的外れな議論を避けられ
る。化学物質過敏症の場合、患者自身が体調の悪化を避けるためにさまざまな生活上の工夫をしている。合成洗
剤を使わずに衣服を洗うとか、アルミ箔を使って匂いを避けるといったアドバイスは、医学や化学の専門知からは出
てこない。生活の中で化学物質を避けるといっても、そもそも患者の生活について知らなければ、有効な手は打てな
いのである。
環境問題の政策を決めるときには、専門家だけで決めず、地域住民や患者・被害者のもつ生活知/現場知を生か
すことが重要である。(後略)
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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2.2. 有識者インタビュー2 空気と水環境の循環による複合汚染について
「空気と水から健康を考える」
東京大学大学院教授 山室真澄 氏
空気に次いで命の源である水も有害物質による汚染が懸念されています。汚染された空気が雨に混じって地上
に降り注ぎ川に流れ込んで植物や魚介類、微生物に影響すれば、人類はじめ地球上の生命の循環が損なわれる
事態が考えられます。
前号に寄稿を戴いた陸水学研究者の東京大学大学院教授 山室真澄 氏に、学会で上洛の日に面談を願い、
市民レベルで可能な空気汚染と水環境循環の予防と保全対策を伺いました。
山室教授は、工場や農地、家庭から排出される薬剤などの化学物質が複合汚染物質となって流出し河川や湖
沼の水環境に与える影響について、まず水生生物の反応を観察することで安全評価が可能と指摘されています。
また、昨年度から、イソシアネートほか揮発性有害化学物質を特定してガスを採取し濃度を記録する環境調査を
開始され、室内の VOC(揮発性有機化合物)の特定と濃度測定も可能と教示下さいました。そして、当会の有害
物質 SOS の実態など、自宅外から漏洩・侵入する室内空気汚染問題の対策にも支援を戴けることになりました。
水環境の研究 30 年以上の山室教授は、次世代が健全に生きることができる水環境を伝えるために、NHK テレ
ビ出演や新聞でも提言されています。今回のインタビューで習得した内容は、生活環境と健康保全のために市民が
知っておくべき「空気と水から健康を考える」導入のスライドにまとめて紹介します。
<インタビューの記録>
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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*山室教授のホームページ (https://staff.aist.go.jp/m-yamamuro/) より
地球に生きる生物の一員として、人はどのように生きればいいのでしょう。
陸上に住む人間は、いろんなものを「水に流して」生きています。そのツケが沿岸にたまり、様々な弊害が生じています。
何が生じているのか、どのように生じているのか、そして陸に生きる我々が何をすればそれが解決にむかうのか。
その解答を積み重ねることで、どう生きるかへの知識が少しでも増えればと思っています。
(参考:ブログ 水から環境を考える http://d.hatena.ne.jp/Limnology/)
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
<山室 真澄 氏> プロフィール
(詳細は会報 13 号にて掲載をご覧下さい)
1984 年 3 月 東京大学理学部地理学教室卒業
1991 年 3 月 東京大学理学系研究科地理学専門課程博士課程修了(理学博士)
2007 年 4 月 東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻 教授
研究分野 : 陸水学、沿岸海洋学、生物地球化学
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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2.3. 特別寄稿
「受動喫煙問題は緊急事態」~受動喫煙ゼロに向けて
NPO 法人京都禁煙推進研究会 栗岡 成人(医学博士)
◆受動喫煙問題は緊急事態
今この瞬間にも職場や飲食店あるいは住宅、家庭で受動喫煙により多くの人々の命や健康が脅か
されている。タバコ煙には約 5300 種類以上の化学物質が含まれており、そのうち有害物質は 200 種類以上、発が
ん物質はニトロソアミン類、多環芳香族炭化水素など 70 種類以上が含まれている。無辜の人々、とりわけ、子ども
や妊婦、病弱者が日常的に発がん物質、有害物質に曝されているのは緊急事態といってよい。
◆タバコ規制枠組み条約(FCTC)
世界保健機関(WHO)タバコ規制枠組条約(FCTC)」は、第 8 条において、すべての締約国は屋内の公共の場所
でタバコの煙に曝されることのないように立法上の措置をとるよう定めている。WHO は受動喫煙に安全レベルはな
いという科学的見地から、屋内完全禁煙化対策がグローバルスタンダードであると述べており、既に世界の多くの国
や地域で、屋内を禁煙にする法令が制定されて、人々は受動喫煙の曝露から保護されている。
残念ながら、日本では FCTC 発効 7 年後の現在も、人々は受動喫煙により苦しみ、受動喫煙の被害を被っている。
自分の責任ではないことで健康や生命を脅かされるという不条理は一刻も早く終わらせなければならない。
◆サードハンド・スモーク(残留タバコ煙曝露)
サードハンド・スモークとは、喫煙者の呼気や衣服、喫煙の行われていた室内・車内の構造物の表面に付着してい
たタバコ煙成分が空間に遊離することで生じる健康被害のことである。非喫煙者に対して粘膜刺激症状をもたらす
だけでなく、化学物質過敏症など重篤な疾患を発症させたり増悪させるおそれがある。タバコ臭をガスクロマトグラフ
ィで分析すると、副流煙と同じ有毒成分(ホルムアルデヒド、ベンゼン、スチレンなど)が検出される。タバコの煙がな
くても、タバコ臭がするということは有害化学物質に曝されているということに他ならない。
◆FCTC に従った受動喫煙対策を
サードハンド・スモークを含む受動喫煙防止のためには公共の場所での喫煙規制はもちろんであるが、喫煙者の数
そのものを減らすことも重要である。喫煙大国といわれた中国でも現在、包括的喫煙対策が準備されている。残念
ながら、命や健康より一企業の利益が優先される日本ではタバコ対策が遅々として進んでいない。日本でも世界へ
の約束である FCTC に従って、タバコ対策を行うように世論を喚起し、政治を動かす必要がある。
◆無煙住宅
同時に、今まさに住宅で受動喫煙の被害を蒙っている人々を救うための方策が求められている。全面禁煙マンショ
ン・アパートは受動喫煙に苦しんでいる人にとって、シェルターの役割を果たすものと期待される。栃木県小山市に
ある敷地内全面禁煙のアパート「ヘルシーホーム」はその魁である。ヘルシーホームは、2010 年にスタートして、現
在 4 棟が完成している。禁煙が人気で、ほぼ満室の状態である。
ヘルシーホームの決まりは「敷地内禁煙」で、敷地が広く、周囲からの受動喫煙もなさそうである。
看板には、「お知らせ:ここにお住いの皆様は、特に健康や環境に大変ご理解のある方々です。このため、当敷地内
は屋外でも全面禁煙です。タバコは吸えません。」と明記されている。経営面でも、禁煙なら火災のリスクが少なく、
退去時の清掃も簡単でコストがかからない。入居者、オーナー、建設会社、金融機関など、みんなが幸せになれる
のが無煙住宅といえる。関係者のご理解、ご助力を得て全国に敷地内全面禁煙の住宅が増えることを願っている。
栗岡 成人 氏 プロフィール
1985 年大阪市立大学大学院 医学研究科卒 (医学博士)
1985 年 8 月 城北病院院長 1999 年~禁煙外来開設(現在まで約 650 例) 受動喫煙症診断医 兼務
2014 年 4 月 院長退任(北山武田病院名誉院長・禁煙センター長を経て 10 月退職)
所属学会:内科学会(認定医)・消化器病学会(認定医)・肝臓学会(認定医)・超音波医学会(指導医)
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
・公衆衛生学会・日本禁煙推進医師歯科医師連盟・日本禁煙学会
公
職 ・京都府医師会健康づくり対策委員会委員 ・京都北医師会理事~副会長 ・京都府がん対策推進協議会委
員 ・きょうと健康長寿推進府民会議 受動喫煙防止対策部会委員ほか、多数歴任
・NPO 法人京都禁煙推進研究会理事長(2009 年~2013 年)・京都府がん患者団体等連絡協議会会長
*当会相談役の栗岡先生には受動喫煙症の駆け込みなど、今後も引き続きお世話になります。
2.4. 特別報告
提訴から 10 年~空気汚染公害 ~ 国の判定と救済措置・裁定基準
1) 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」発足から 10 年の活動と成果
大阪・泉南石綿訴訟が終結 国の謝罪・賠償などで合意(2014/12/26)
昨年 11 月、会長の古川和子さんから 10 周年記念の重厚な出版物を戴きました。古川さんとの出会いは 4 年前
の NHK ラジオでした。古川さんが語るアスベスト被害の真相を聴いて深く感動し、すぐに連絡先を調べて取材予約
の上、面談が叶いました。当会の活動にも重なる被害の原点を 3 時間に亘って伺い、会報 8 号に「クボタショックか
ら 6 年」の寄稿を戴きました。また、ご主人の苦しみを看取る中で綴られた闘病記録を基に医師や研究者との出会
いで学ばれ、その記録と共に次々と続く末期症状被害者の心を和ませ励まされています。夫と同じ被害者の発掘と
石綿発生源の発見という市民による疫学の実践と被害者の支援・結束に奔走された古川さんは、2006 年、石綿救
済法制定に至る大きな役割を果たされた功績で公害問題の解決に尽力した人に贈られる「田尻賞」を受賞されて
います。
「アスベストは末必の故意」と憤る古川さんと同志とマスコミの支援が真実を究明した 10 年の軌跡を紹介します。
石綿被害、眠る「救済漏れ」 証拠集めに時間の壁 (2014 年 8 月 5 日朝日新聞 記事より)
「ひとりで悩まないで」 掘り起こしへ支部次々
「患者と家族の会」は、関西電力の火力発電所で働いていた夫を石綿による肺がんで亡
くした古川和子会長(66)らが 04 年に設立。孤独になりがちな被害者やその家族らが支え
合う交流の場となり、被害の相談活動や労災申請の支援を続けてきた。
05 年 6 月に産業機械大手クボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)周辺で、古川さんらが掘り起こした住民の石綿被
害が明らかになり、06 年に労災対象外の患者らを救済する石綿健康被害救済法創設につながった。
医療用のゴム手袋の再生作業や麻袋リサイクル業など、世間では知られていない産業の周辺で発生した被害も発
掘し続けている。会員は約 600 人。今年 4 月に北陸支部が発足し、秋には 14 番目の支部となる東北支部が発足
する。地方に支部を展開するのは、若いころに都市部で働いた際に石綿を吸い込み、老後に故郷に戻って発症す
る人の救済がねらいだ。
古川さんは「国内の石綿使用のピークは 70~80 年代。建設労働者の被害が多いが、様々な産業で使われたため、
思いもよらない職業や業種に被害は眠っている。ひとりで悩まず相談してほしい」と呼びかけている。
■中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の 10 年
2004 年 2 月 患者と家族の会発足
05 年 6 月 クボタ旧神崎工場周辺で住民の中皮腫発症が発覚した「クボタ・ショック」
7 月 建材大手「ニチアス」など石綿を扱った企業の被害が相次いで表面化
同月 厚労省が全国の石綿労災認定事業所を初めて公表
06 年 3 月 石綿健康被害救済法(石綿新法)施行
9 月 石綿製品の使用・製造を原則全面禁止
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12 年 8 月 医療用手袋の再利用作業で山口県の准看護師の中皮腫発症が判明
14 年 4 月 堺市の麻袋リサイクル業で労働者やその家族、周辺住民の被害発覚
■中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会連絡先
関東支部 03・3637・5052
東海支部 052・837・7420
関西支部 06・6943・1528
(*今年は建設アスベスト京都訴訟の結審・判決の年です。昨年の最高裁に次ぐ判決を期待しています)
◆平成 23 年 8 月 30 日、改正石綿健康被害救済法が公布されました。
厚政労働省(http://www.mhlw.go.jp/seisaku/06.html)
この法律により、労災補償の対象とならない周辺住民などに対して救済給付が支給されるとともに、労災補償を受
けずに亡くなった労働者のご遺族の方に対して特別遺族給付金が支給されます。
○ 石綿(アスベスト)とは?
・石綿には、白石綿、青石綿、茶石綿等の種類があり、建築材
料、ビニール床タイル、ペイント塗料等の使用方法があります。
○ 石綿による健康被害とは?
・石綿により、仕事中に接触した労働者だけでなく、労働者が持ち帰った作業着等に付いた石綿を吸い込んだ家族
なども病気になることがあります。
・石綿による病気には、中皮腫や肺がん等があり、非常に長い期間が経ってから発症すること、どのような状況で石
綿を吸い込んだのか明らかにすることが難しいこと等の特徴があります。
◆◆石綿にさらされる作業に従事していたのでは?と心配されている方へ
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/roudousya2/
◆石綿にさらされているかどうかについての相談窓口のご案内
・アスベスト疾患センター http://www.rofuku.go.jp/jigyogaiyo/sisetuitiran4.html
・産業保健推進センター http://www.rofuku.go.jp/jigyogaiyo/sisetuitiran2.html
・都道府県保健所
◆<アスベストの被害発生> 石綿は繊維状の鉱物の総称。(以下は Wikipedia より)
目に見えない細かな粉じんを吸い込み、肺を包む胸膜などにできるがん「中皮腫」や「肺がん」などを引き起こす。
▶中皮腫は低濃度の石綿の吸い込みでも発症するため、石綿関連の職歴のない住民被害がみられる。
▶アスベストは WHO の付属機関 IARC により発癌性がある(Group1)と勧告されている。アスベストは、肺線維症、
肺癌の他、稀な腫瘍である悪性中皮腫の原因になるとされている。
▶国は 06 年に石綿の製造・使用を原則全面禁止したが、過去の吸引により今後も発症者が出続ける恐れがある。
▶環境省では建築物の解体によるアスベストの排出量が 2020 年から 2040 年頃にピークを迎えると予測している。
◆喫煙とアスベストの相乗作用
また、非喫煙者アスベスト暴露で肺がんのリスク 5 倍、喫煙者アスベスト非暴露ならリスク 11 倍であるが、喫煙者ア
スベスト暴露でリスク 54 倍と喫煙による相乗作用も指摘されている。アスベストによる肺がんリスクより、喫煙による
肺がんリスクの方が 2 倍も高いことから、アスベストによる肺がん認定を難しくさせている。
▶残された大きな問題は、建造物の中に大量にアスベストが含まれ、将来解体するときアスベスト粉塵を長期間吸う
労働者に健康被害の発生する懸念である。アスベストは建造物を解体しない限り危険性はないと言われるが、アス
ベスト吹き付け工事直後や解体工事時には多量のアスベストが飛散する恐れがあり、性急に除去工事を行うことは
リスクを増大させる恐れがある。災害で壊れた建物のアスベスト被害が確認されている。学校・病院等公共建造物
ではアスベストの撤去作業を進めているが、学校等の解体作業者が将来 20~40 年後中皮腫になる事についての
懸念が持たれている。
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
2) 廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会 10 年の訴えは棄却
会報 5 号のネットワーク紹介で被害の実態と調査、裁判の経過などを事務局長に寄稿して戴きました。その後、当会から
現地の空気質の確認と裁判の傍聴、公調委の審議も傍聴しました。公調委への申請から 4 年近くかけた調査・審議の結
果、棄却された経緯について、昨年末に届いた守る会からの「裁定についての見解」を転載してお知らせします。
*平成 20 年 1 月 公害等調整委員会発行「ちょうせい 52 号」掲載の「化学物質過敏症に関する情報収集 、解析調
査報告書」の有識者見解・指導(京都大学大学院法学研究科 潮見佳男教授・民法)を期待していましたが残念です。
公調委の裁定について(見解)
廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会
1.公調委の裁定について
2011 年 2 月に廃プラ公害の原因裁定を申請していた公害等調整委員会(公調委)は、2014 年 11 月 19 日付け
で「原因裁定の申請を棄却する」と裁定しました。
公調委の裁定は、「廃プラ施設から特徴的な化学物質が排出しているが、本件各施設から排出された化学物質
は,未同定の化学物質も含め、接地逆転層の発現状況にかかわらず、大気中で十分に 拡散・希釈されているもの
と推認される。」「本件全証拠によっても、本件各施設から排出された化学物質が住宅地に到達し、健康被害を生
じさせていると認めることはできない」とするものです。
公害環境問題の権威である宮本憲一・大阪市大名誉教授は、「公調委の裁定は、疫学による調査の認識に誤りが
あると思います。何よりも住民の健康と生活環境を守るという基本的な立場に欠けている」とコメントされています。
2.支援をいただいた専門家の先生からは
公調委の裁定について、10 年間にわたり、現地調査をして頂いて来た科学者、住民健診をして頂いている医師の
各先生方から次のコメントが寄せられています。
柳沢幸雄・東京大学名誉教授(現在、開成高校・中学校長)からは「悔しさでいっぱいです」。
西川榮一・神戸商船大学名誉教授(現在、日本環境学会会長)は「ひどい決定です。裁判は、訴えを退けましたが、
1 審判決には付帯文があった(注 1)。公害をなくす目的の公調委の裁定とは考えられない。」
真鍋穣医師は「たくさんの住民が健康被害に苦しんでいるのは事実であると意見書を提出したが触れられていない。
廃プラ施設で働いている人たちに健康被害があるのに、全くないとしている 4 市組合は偽証ではないか」
(注 1)平成 20 年、大阪地裁 1 審判決文は、「なお書き」で「被告らは、原告らを含む周辺住民に対し、今後とも、
可能な限り、情報や検査結果を公開するとともに、化学物質の排出を最小限に抑制する努力・工夫を継続し、複
合的な大気汚染が生じることのないよう注意していく必要があるものと言うべきである」と書き添えましたが、大阪高
裁の 2 審判決(確定判決)は、「なお書き」を行っていません。
3.「守る会」の見解
二つの廃プラ施設が計画されたときから 10 年になる。この間、施設の操業により、1000 人規模の健康被害の訴え
が寄せられました。私たち住民は、きれいな空気を取り戻し、健康被害をなくすため村松昭雄弁護士をはじめとする
弁護団、そして化学、疫学、気象、医師をはじめとする専門家の支援を得てがんばってきました。
当初、公調委の姿勢に期待
仮処分、1 審、2 審の判決は専門家の意見書をことごとく不採用にし、却下の判決でした。こうした中、私たちは、公
調委が杉並病の裁定で「原因物質が特定できなくても原因は特定できる」としたことに注目、公調委に公害の認定
を求めて「原因裁定」を 73 名が申請しました。当初、公調委は、事業者側の「裁判で決着済みだから申請を却下す
べし」という主張を退け、化学物質をはじめとする職権調査を実施し、「公害の根絶に向け科学的審査を尽くす」とし、
大きな期待を抱かせました。
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職権調査にあたり住民の意見を聞き入れず
しかしながら、一昨年、裁定委員 3 名全員が交代して以降、公調委の姿勢ががらりと変わりました。職権調査にあた
り、私たちは公害の実態を明らかにするために必要な調査として「住民が吸っている空気を調査すること」「化学物
質調査は 24 時間平均値だけでなく、高濃度のときの短時間測定も行うこと」「住宅地での接地逆転層発生の調査」
などを申し入れましたが、公調委は、「聞き置く」だけで、調査を実施しました。しかしながら、私たちは、公調委が、
「追加調査がありうる」としたことを考慮に入れ、ニオイアンケートなど職権調査に協力しました。
職権調査が明らかにした環境汚染の事実
職権調査結果は、私たちが指摘してきたように、①二つの廃プラ施設から通常空気の 100 倍を超える化学物質
=TVOC(揮発性有機化合物)が排出されており、②400 種類を超える有害化学物質を測定しました。また、③6 日
間の調査期間中の連日、接地逆転層が発生したことが確認されました。④住民 100 名が協力したニオイアンケート
では、53 名からニオイを感じた報告が行われました。また、⑤住宅地での短時間での TVOC 濃度が通常濃度の数
十倍に達する測定値が得られています。⑥とりわけ、健康被害の症状の特徴であるシックハウス症候群の主な原因
物質であるホルムアルデヒドが基準値を超えて測定されました。
原因物質ホルムアルデヒドの追加調査を拒否
しかしながら、公調委は、・TVOC の短時間測定値は簡易測定だから信頼できない・測定された化学物質(VOC
類)の 3 割は未同定(未知)だが、7 割が分かっているから安全と判断できる・ホルムアルデヒド測定は、測定器の具
合が悪く不採用となどとし、再調査、追加調査を拒否しました。
その結果、公調委の裁定は「特徴的な化学物質は排出されているが、拡散希釈されていると『推認』」し、「住民の
住んでいるところには到達していない」と断定しました。
これは、専門家による疫学調査はじめとする科学調査結果や医師の診断結果を道理なく採用しない裁判所の判断
を踏襲するものです。
人権を無視する決定的な誤りー疫学調査結果と予防原則を採用せず
結局、公調委の裁定は、宮本憲一先生が指摘されているように、岡山大学・津田教授による疫学調査結果を否定
し、健康被害に苦しむ住民の人権を否定するものです。
こうした公調委の判断は「原因が明確にならなくても、公害の被害がある、あるいは起こりえると判断されれば、事業
を再検討する」という国連の世界環境会議で宣言された予防原則を無視するものです。
4.今後の取り組みについて
私たちは、廃プラ施設からのニオイ=異臭が漂い、健康被害があるかぎり、きれいな空気を取り戻し健康を守る住民
運動をつづける決意をあらためて固めています。そのために、今後、
①健康の訴えについて、話を聞くとしている寝屋川市・健康増進課に、症状を訴えていきます。市は「元気都市寝
屋川をつくる」(馬場市長)としているように、市民の健康を守る責任があります。市が行政責任を果たすように運動
を強めます。健康の訴えは大阪府保健所などにも行っていきます。
② 10 月から真鍋穣医師による「ハイプラ外来」診察が、小松病院で始まりました。現在、診察は月 1 回ですが、受
診された方から「これまで、何軒もの医者に診てもらったが、治らず困っていた。話をよく聞いていただいただけでも
安心」との声が寄せられています。医師による、定期的な診察を実施し、健康快復の取り組みを強めます。
③廃プラ(ペットボトルを除く)は、環境省が廃プラの熱利用(サーマルリサイクル)として認めているごみ発電(寝屋川
市、交野市・四條畷市が新しく建設する清掃工場で予定)に使うことを求める市民運動を、多くの市民、市民団体と
ともにすすめます。
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
3. ネットワーク紹介
3.1. NPO 法人 「化学物質による大気汚染から健康を守る会」 (通称:VOC 研究会)
事務局-理事 津谷裕子
VOC 研究会では化学物質による大気汚染とそれが市民に与える健康影響の調査・研究を行なっています。
当会は 8 年前から「化学物質による大気汚染を考える会」として非力ながら調査研究を行ってきましたが、全国的
に広がり始めたこの緊急な問題に対応できるよう、 今までの活動を生かしながら、安定して発展的に運営を行うた
めに、 NPO 法人「化学物質による大気汚染から健康を守る会(VOC 研究会)」を新たに設立しました。
近年、各地で従来の燃焼系起源の化学物質に加え、新しく非燃焼系起源の揮発性化学物質(VOC)の大気汚
染により市民が急速に健康を蝕まれる問題に直面しています。 しかし、有機溶剤のような大量生産物や PCB のよ
うな蓄積性有害物とは異なり、その危険性についての現状が認識されず、公の研究も管理体制も対応していません。
また、生活環境を襲う VOC の全貌が不明なので、適切な予防・診断・治療などの対策も困難です。
このような環境汚染の問題に向き合う当会の事業は、被害者の五感に基づく訴えを尊重し、共に歩みながら、物
理、化学、生物学、医学、毒性学、疫学、気象学、材料科学、機械工学、分析化学、環境科学など、 学際的に広
い分野の研究者が自由に集まり、既存の観念に囚われない広い視野で、化学物質による大気汚染とそれが市民に
与える健康影響の調査・研究を行います。
10 年ないし 20 年後を予見するような、大気汚染防止のための知識・技術の向上と普及に関する事業を行うことで、
市民の健康ならびに人間を取り巻く大気環境政策の改善に役立てます。
「主な事業内容」
地域の空気汚染でお困りの方、 化学物質による大気
1.大気汚染による被害状況の把握と広報
汚染とその健康被害の実態調査や原因究明に関心
2.新しい VOC と健康被害に関する調査・研究
のある方、 参加して一緒に活動しませんか?
3.大気中の VOC の測定
4.セミナー、 出版物による調査結果の普及
活動内容は、当会ウェヴサイト(http://www.npovoc.org/)にて
ご覧下さい。
◆健康を守るための環境基礎講座-VOC 研セミナー第 15 回
2014 年 11 月 2 日(日)に開催いたします(PDF 196KB)
「交渉・裁判などの成果実例を学び道を開こう」
◆イソシアネート研究論文の寄稿
「なぜか、このごろ体調不良!もしかしてイソシアネート?」
「イソシアネートがヒトに及ぼす影響」
2014 年 6 月 30 日 茨城県保険医新聞 5 月号及び
茨城県保険医協会ホームページ保険医新聞コーナーに掲載
http://www.ibaho.jp/news/hokeninewspaper_201405_kikou.pdf
*イソシアネート
欧米では 1970 年代からイソシアネートによる健康への影響、医学的・
生物学的並びに疫学的研究が行われているが、日本の医学研究では
長い間ほとんど取り上げられなかった有害材料である。
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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<参考> VOC 研究会理事による翻訳情報
米国 環境保護局 2011 年 4 月
トルエンジイソシアネート(TDI)と関連化合物 活動計画=[RIN 2070-ZA15]
1 概要
この行動計画は、特に住宅や学校を含む建物内部や周辺で消費者および市民に暴露をもたらすことがある製品中
のトルエンジイソシアネート(TDI)およびそれに関連した化合物(付録 1 を参照)の使用に宛てたものである。ジイソ
シアネートは、職場での皮膚と呼吸器の過敏性誘起物としてよく知られており、喘息と肺の障害を引き起こし、ひどい
ケースでは致命的な反応があることが記録されている。この活動計画は、消費者や自営業者が未硬化の(反応して
いない)ジイソシアネートを含む製品(例えば、シール材と塗料噴霧材)を使用中での暴露、または一般市民がその
ような製品が住宅や学校を含む建物の中や周りで使われている間に、不意うちの暴露から引き起こされる可能性
がある健康への影響に焦点を当てている。この TDI 化合物の検討を行うに当たり、米国環境保護庁(EPA)は、有
害物質規制法(TSCA)の(セクション 4、5、6、および 8)の下での取り締まり活動、連邦の他の機関との協力活動、
および自発的活動など、 いろいろな可能性を考えた。
Ⅱ.序論
EPA は、毒性物質規制法(TSCA)*1 での既存の化学薬品プログラムを強化する米国環境保護庁(EPA)の努力
の一部として、広く認められている化学物質〈MDI を含む〉の初歩的なリストに、TDI を含めることを確定した。人の
血液中に化学物質が存在すること;持続性があり、生物内に蓄積し、有毒(PBT)*2 である特徴;消費者が使用する
製品内に含有;生産量;およびその他の類似した要因などに基づいて、化学物質を特定して行動計画を展開するた
めである。この行動計画は、既に可能な TDI の使用,暴露、および危険情報*3 についての EPA の初期レビューに
基づいている。EPA は、毒性物質規制法(TSCA)および他の法規のいろいろな判例を考慮すると、行動計画作成
にて、TDI についての可能性に取り掛かるのは適当であろうと考えた。この行動計画は、最終的な当局の決定また
は他の最終的な当局の行動ではなく、当局が近い将来進める予定の行動方針を記述することが目的である。この
行動計画により示された通常の行動は、市民と利害関係者を含め、法規作成経過の告知と意見を通じる適切な機
会を得ることを含む。同列の行動として、TDI に類似した危険と暴露懸念をもつ化学的に TDI に関連した物質であ
るメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)についての行動計画をも開発中である。
脚注
*1: 15 U.S.C §2601 以下参照。
*2: ポ リ ブ チ レ ン テ レ フ タ レ ー ト ( PBT ) 化 学 薬 品 に つ い て の 情 報 は 米 国 環 境 保 護 庁 ( EPA ) ウ ェ ブ サ イ ト
http://www.epa.gov/pbt/ にある。
*VOC 研究会理事の津谷裕子氏には、これまで 2 度のご寄稿を願い生活環境に放散されている「イソシアネート」の実
態を知らせて戴きました。今回は、その研究成果の案内と、市民が測って身の回りの空気の変化を知ることを伝えるため
に登場願いました。全国に繋がっている研究者や専門家の会員と各地域で相談・交流を期待します。
◆ NPO 法人「緑の家学校」 再開 連続講座の開催案内
会報 12 号のネットワーク紹介で掲載の NPO 法人「緑の家学校」の理事長 芝静代氏も VOC 研究会の理事です。
昨年 11 月、芝理事長から、お知らせと一緒に「杉木材」のパンフレットをお送り下さいました。資料をご入用の方はお
知らせ下さい。(連続講座の次回は 2 月 14 日 テーマは「日本の杉」 セミナー http://midorinoie.org/)
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
平成 24 年に「受動喫煙の防止等に関する条例」が制定された兵庫県で、「タバコのない社会」の実現を目指して保
健所と共に禁煙活動を続ける全国でも稀な西宮市の市民グループ例会に参加させて頂き寄稿をお願いしました。
3.2.
にしのみや健康づくり推進員 禁煙グループ
代表 斉藤 芳一
西宮市では平成 17 年度から市民ボランティア「にしのみや健康づくり推進員」を養成しており、保健所で所定の
講座を 20 時間以上受講した市民に市長から委嘱状が交付されます。現在、約 200 名の推進員が地域の健康づく
り活動を目的に運動、栄養・食生活、健康管理、禁煙などに分かれて活動しています。
その有志で結成した「禁煙グループ」は、西宮を受動喫煙のない街「ス
モークフリーにしのみや」にするため、西宮市保健所と共に活動しています。
「タバコのない社会」を目標に地域の喫煙所など問題解決に向けて毎月
の例会で情報交換と学習をしながら、人の健康を蝕む「タバコの煙」は「が
ん」の最大の要因であり、その害は喫煙者自身に留まらず非喫煙者に受
動喫煙の健康被害を及ぼしていることを広く市民に知らせることが当グル
ープの役割と考えて地道な禁煙活動をしています。
主な活動は、駅の禁煙化、市内路上喫煙防止区域の拡大などの要望と学習・研修活動です。毎月、保健所で
定例学習会を実施しており、今年の 5 月に神戸新聞の世界禁煙デー特集で紹介されました。
年間行事として、毎年、世界禁煙デーに合わせて「禁煙ウオーキング」を計画し、市民有志と保健所、兵庫県タバコ
フリー協会、市内看護学校や女子大の学生らの協力を得て街頭を行進し市民にタバコの健康影響を知らせる活動
を続けて今年で 8 年目になります。
その啓発行程は、WHO 発のテーマほか、10 種類のスローガンを掲げて阪急西宮北口駅前から阪神、JR の各西
宮駅を経て市役所前までの 6km を行進して「タバコの害と禁煙」について大声で市民に呼びかけています。
要望活動では、特に駅の禁煙化、市内路上喫煙防止区域の拡大(甲子園球場周辺)を求めています。
約 6 年前に JR 西日本・阪急電鉄・阪神電鉄の市内各駅の禁煙化を各代表駅長に要望しました。その後 JR 西日
本・阪神電鉄の駅は完全禁煙化されたが、阪急電鉄はフォームに JT マーク入りの喫煙ルームを設置しています。
私は過去 2 回、阪急・阪神 H の株主総会で、駅禁煙化の要請を行
ったが、今後も継続して要請します。また、阪神甲子園駅と甲子園球場
周辺はプロ野球、高校野球で未成年者の入場も多く、禁煙地域化を要
望していきたい。
今後は各種団体や他都市の市民団体と連携して、より積極的な禁煙
活動を展開したいと願っています。
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取材の記録
(2014.12.2 広瀬)
西宮市では市民の禁煙グループが結成され、健康増進課で受動喫煙被害の相談窓口が開設されていることを
事前に電話で伺いました。その後、禁煙グループ代表宛に申込みを経て 12 月の例会に参加させて頂きました。
当日、最寄り駅からの道中で、路上喫煙にも遭いな
がら、たどり着いた西宮市保健所は、やっぱり、禁煙先
進の保健所でした。敷地入り口から禁煙マーク、受動
喫煙防止ののぼり旗が掲げられ、敷地内も建物内も空
気は良好でした。会議には快く迎えて頂き、思いがけな
そ の じゅん
く、薗 潤 保健所長が出席され、私と当会を紹介して下
さり光栄でした。
相互の活動と実態紹介では、メンバーによる「家族の禁煙に効果あり」の話、「バス停前の喫煙所」、「エレベーター
内の残留煙」など身近な受動喫煙から、その対策と今後について、タバコ税、法規制の話まで幅広い学習内容を伺
い、情報・意見交換など和やかな会合に終始参加させて頂きました。
当会の活動はタバコと農薬、その成分でもある多種化学物質による空気汚染の予防啓発と被害者支援であり、
タバコに関しては長時間を過ごす住宅・職場・学校(大学)における受動喫煙防止に取り組んでいること、特に住宅
近隣からの漏洩タバコ煙が難問題で生活妨害と健康被害の困窮実態をお知らせしました。また、発症者の入会時
には了解の上、調査研究対象として生活環境の査察と空気汚染要因を確認し究める事業の事例も紹介しました。
公共施設は今後、禁煙化が進むとしても住宅の受動喫煙問題には何ら規制がなく、公的な相談窓口もないのが現
状で当会の有害物質 SOS にも対策を求める声が届いています。因って京都府と京都市に繰り返し相談窓口の設
置を要望しているという話に、メンバーから「マンションの隣室からタバコ煙の漏洩に困っている」、「香料で鼻・喉アレ
ルギー症状が出る」など同様の問題・課題が出て合点、相互理解を深めることができました。
そして、日本で 2 番目に「受動喫煙防止条例」が制定された兵庫県においても、「タバコのない社会」「受動喫煙
のない社会」の実現は「禁煙」しかないことを、西宮市保健所であらためて理解しました。
帰りに、薗保健所長から、“もう絶版になっているがお土産に”と、ご高著『モク殺モク視せず 病院でタバコと戦う』
を頂戴しました。その内容は、タバコの害の真実を伝え禁煙活動を実践する一人の医師と管理者の意識が社会を
変える大きな力となって、病院や大学、自治体にも禁煙の推進と敷地内禁煙を導入し実現した記録です。
心臓外科医の薗潤氏は保健所長に就任前の神戸市立中央市民病院勤務時の 1990 年代後半、病院全館禁
煙が稀であった時代に、海外の学会に参加しタバコ先進国視察等で学びながら渾身の啓発と禁煙活動を推進し、
「病院全館禁煙」への取り組みが実現した 2000 年までのタバコとの戦いと公衆衛生の重要性が記されています。
この著書が出版された後、同病院は 2005 年に敷地内全面禁煙となったとのこと。現在では日本でも病院の敷地内
禁煙は常識となっています。
その後、薗氏が西宮市保健所長に就任されて以降の9年間に、市役所の全館禁煙化、保健所の敷地内禁煙を
実現され、市民の健康保全と増進に向けて、レストランや公共施設の禁煙導入など、「兵庫県受動喫煙防止条例」
施行の先を行く取組みに大きな力を発揮されていたことを知りました。
そして、薗所長は 2007 年に世界保健機関(WHO)から、禁煙を広く進める活動が評価され
「世界禁煙デー賞」を受賞されています。
西宮市にある兵庫医科大学では、薗所長からの働きかけもあって、昨年度から全職員と
全学生に「禁煙誓約書」の提出を義務づけているが、これは日本の医科大学では最初とのこ
とです。
今後は、当会でも『モク殺モク視せず 集合住宅でタバコと戦う』を実践し、様々な職域や
住宅の受動喫煙問題において対策の方法を学ぶための図書として紹介します。
そ の じゅん
薗 潤 氏 (2005 年~西宮市健康福祉局担当理事 兼 保健所長)
京都大学医学部卒・神戸市立中央市民病院胸部外科医長を経て現職
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
著者: 薗 潤
出版:神戸新聞総合出版センター
発行年月:2001 年 03 月
4. カナリヤの学習録
はじめに
これまで、会員便りや SOS 受信対応の聴き取りと実態調査から、なぜ、このような空気汚染と健康被害が起きるの
かという原因を問う学習をしてきました。今後もこれを理解する数少ない研究者に繋ぎ、広く知らせることが私たちの
役割と考え、社会的認知に向けて会報で発信します。
前号では、これまでの学習記録から、ガンをはじめ心臓病、糖尿病などの慢性疾患、化学物質による未解明の症
候群など増え続ける健康異常の要因を「活性酸素・酸化ストレスが引き起こす疾患」として捉え、痛ましい過去の公
害の歴史と共に学ぶ内容で掲載しました。
その続編で「活性酸素の発生」と「活性酸素を体内に取り込まないための予防」についての詳細を連載します。
空気は選べないが日々摂取する飲食物は選択可能であり、ガンや心臓病ほか慢性疾患の予防ができることを証明
した 40 年前のアメリカの「莫大な医療費急増の事態と大規模疫学調査の結果」に注目、その対策に学びましょう。
4.1. 体内の活性酸素発生と免疫力の低下を防ぐ
私たちはエネルギーを使う際、酸素を利用している。呼吸によって体内に取り込ま
れた酸素の一部は、通常の状態でも不完全に還元され、活性酸素やフリーラジカ
ルになる。摂取した酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられている。これら活
性酸素やフリーラジカルの多くは、さまざまな体の成分と反応し代謝を制御する一
方で、過剰に生じたものは細胞傷害をもたらす。
◆酸化ストレスが高まる要因
紫外線や放射線・大気汚染・タバコ・薬剤・金属などの他に、食品添加物・酸化さ
れた食べ物などを摂ることでも活性酸素が発生する。通常は発生した活性酸素は
速やかに消去されるが、この抗酸化能力以上に酸化ストレスが高まると虚血やスト
レスなどの病的な状態や、さまざまな酸化の損傷が生じる。
▶活性酸素が体内のタンパク質と反応すると、タンパク質が変性したり、酵素が失活することもある。細胞膜の脂質
成分などと反応すると過酸化脂質を生成する。遺伝子と反応すると分解や突然変異が生じる。結果として免疫力の
低下、老化・ガン・動脈硬化・その他多くの疾患をもたらす原因となる。
▶健康を保つためには酸化ストレスを起こす活性酸素を出来る限り取り込まない。⇒免疫力を低下させないこと。
▶食べ物から摂取する抗酸化作用成分の他に、たんぱく質やミネラル(亜鉛、鉄、銅、セレニウム、マンガン)などを
原料にして体内で合成される抗酸化酵素の働きが重要であり、ミネラル不足に気をつけること。
▶空気汚染物質はもとより、防腐剤や殺菌剤などの他、数えきれないほどの添加物を使用している加工食品を摂取
しないことが重要。また、不飽和脂肪酸が活性酸素と反応して生じる「脂肪酸酸化物ラジカル」は「DNA が活性酸
素で切断される発癌の仕組み」への関与も示唆されている(不飽和脂肪酸の中でもオリーブ油は酸化されにくい)。
▶免疫力の慢性的な低下は、感染症、悪性腫瘍などの原因やそれらの疾病の悪化要因になり、免疫力の亢進は、
花粉症、アトピーや慢性炎症の原因となる。
4.2. セロトニンの働き
セロトニン(略称 5-HT)は「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」と並んで三大神経伝達物質の一つ
であり、体内で特に重要な役割を果たしている血管の緊張を調節する物質として主に生体リ
ズム・神経内分泌・睡眠・体温調節などに関与する。また、痛覚を抑制し、海馬における記憶
力や学習効果にも影響を及ぼしており、 咀嚼や呼吸といった反復運動の機能にも作用している。
セロトニンは体内で必須アミノ酸のトリプトファンから合成されてセロトニンになる。人体内には約 10mg 存在し、消化
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管粘膜に 90%、血小板中に 8%、脳内の中枢神経系に 2%存在する。 体内では主に小腸にある細胞が産生し、
腸の蠕動亢進に働く。そのため、消化管のセロトニンが過剰に分泌されると下痢になり、分泌が少ないと便秘になる。
消化管で生成されたセロトニンの一部は血小板中に取り込まれ、血液凝固・血管収縮、疼痛閾値の調節、脳血管
の収縮活動の調節などに働く。
一方、脳内の神経伝達物質として働くセロトニン(以下、脳内セロトニン)は脳幹の縫線核で合成される。
トリプトファンは血液脳関門の通過にあたり、他のアミノ酸(LNAAs*4)と共通の輸送体を使って脳内に入る。そのた
め、高たんぱく食などが多い環境ではトリプトファンは脳へ取り込まれにくくなり、脳内セロトニン合成が少なくなる。
◆脳内セロトニンの働き
セロトニンは交感神経系と連動して、体内時計を調節し、覚醒状態を保つ。また、神経伝達作用を掌るドーパミンや
ノルアドレナリンの作用を制御して、気分や感情のコントロール、衝動行動や依存症の抑制をする。
▶セロトニンを増やす方法=「規則的な生活」「朝陽・太陽の光」「リズム運動」「適切な栄養と食事」などの励行。
◆脳は食事でよみがえる
セロトニンは脳内で、必須アミノ酸のトリプトファンから作られる。毎日の生活でトリプトファンを多く含む食べ物を摂取
するように心がける。脳内セロトニンを増やすためには栄養学的には高炭水化物食(無たんぱく)のトリプトファン摂取
が重要となる(炭水化物=ブドウ糖は唯一脳のエネルギー源でもある)。食物として自然に摂取されたトリプトファンは
脳内に運ばれて、ビタミン B6、ナイアシン、マグネシウムの助けを借りてセロトニンに合成される。
▶トリプトファンを多く含む食材:大豆や大豆加工品の納豆、
豆腐、湯葉、きな粉、味噌、醤油など、ごま、ちりめんじゃこ、
鰹節、わかめ、バナナ、カシューナッツ、ピーナッツ、アボカド、
牛乳、ヨーグルト、チーズ、たまごなど。
▶ビタミン B6 を含む食材: サンマ、イワシ、カツオ、サバ、タイ、
ニシン、マグロなどの魚、玄米、大豆、小麦胚芽、バナナ、
ニンニク、唐辛子、ショウガ、豚モモ、牛レバーなど。
▶ナイアシンを含む食材: イワシ、アジ、サバ、サンマ、スルメ、
肉類、海苔、わかめ、もずく、アオサ、しいたけ、キノコ、落花生、唐辛子、ぜんまい、エゴマ、玄米、小麦、大麦。
▶マグネシウムを含む食材: 海藻、ニガリ、海産物、藻類、豆類や落花生などの種実類、小麦胚芽、ゴボウなど。
▶ナイアシンは体内でトリプトファンから合成されるが、砂糖はナイアシンを奪うので要注意。
■サプリメントよりも自然の食べ物からとること!サプリメントとして安易に摂取するとセロトニン症候群の恐れ、セロトニ
ンの医薬品的投与は過剰投与による副作用などがあり危険。
38 年前の「マクガバン報告」で「日本食が最も理想的」と明記された日本人の食事が、
その後、急速に「欧米化」が進み、食源病たる「ガン」が死因の第 1 位となって、当時
のアメリカと同様に心臓病、ほか多種の慢性疾患が増え続け医療費が増大している。
今こそ「マクガバン報告」の指摘が正しかったことを証明している当時の日本人の食生活に学ぶ時である。
4.3.
「マクガバン報告」に学ぶ~「アメリカ型食生活の害」と「和食の薦め」
(参考図書より)
1970 年代アメリカでは、ガン、肥満、心臓病などの罹患・死亡が増え続け医療費が増大して財政を圧迫していた。
1975 年、フォード大統領は、急増する国民医療費で膨れ上がった財政危機打開のため、病気の原因は何かを究
明に奔走したが、対策として上院議会に「栄養問題特別委員会(直轄諮問機関)」を設置した。
その委員長にジョージ・マクガバン上院議員(当時、民主党の副大統領候補)を任命。関係分野の有能な専門家を
結集させ、国家的大調査を実施した内容は、世界中の国々、しかも、ひとつの国をさらに地域別・人種別・宗教別
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などに細分し、人々の食生活と病気や健康状態との相関関係を分析している。この膨大な報告は 1977 年、「アメリ
カ合衆国上院栄養問題特別委員会報告書」となった。これが「マクガバン報告」である。
【報告書の概要】
アメリカ人の食生活がガンなど生活習慣病を多発させていることを指摘。肉食者の「大腸ガン死」は5倍など、その
元凶は、高脂肪、高タンパク、砂糖、精白加工食品による高カロリーの食事であると警告。これらを改めると、ガンの
発生と死亡は約 20%減らせる。心臓病の発生も死亡も 25%減らせ、糖尿病についても約 50%減らせる。
◆ 現在の我々が摂っている不健康な食事が現代病と言われる様々な病気を生んでいる。
◆ ビタミン・ミネラルの不足が目立つ。特にカルシウム・鉄・ビタミン A・ビタミン B1・ビタミン B6・ビタミン C・ビタミン E
の不足がひどい。「貧しさが原因の病気か」「豊かさが招く病気か」、痛ましく早死にに至るデータである。
◆ 現代の医師は「栄養学」の知識を全く持たず、間違った食事を導き、治癒しないか、回復が遅れたりしている。
◆ ガン・心臓病・脳卒中・糖尿病等の病気は、現代の間違った食生活が原因の食源病である。この食生活を改善
しない限り、どんなに病院や薬が増えても、現代病は現代医学では治らない。今の医学の最大の弱点である。
◆ 現代医学は薬に偏った栄養軽視の医学。病気を治す根本は薬でなく、食べ物に含まれる栄養素である。人体
に備わった修復能力を高めることを第一に考える栄養学知識を持った医学に早急に変えていく必要がある。
◆ 人間の体は、体内のそれぞれの細胞が正常なバランスを取って働く状態を保持すれば健康を保てる。
◆◆「世界で一番に理想的な食生活の国がある」=「それは元禄時代以前の日本人の食事である」
【勧告の内容】
● 動物性脂肪、精製加工食品、糖分を減らす ● 野菜や豆、海草などの植物性食品を多く摂取
● 炭水化物を増やし、それもできるだけ未精白のものを摂る ● 「低カロリー・低脂肪・高炭水化物」
約 500 年前の日本の元禄時代の食事が理想。精白していない穀類を主食とし季節の野菜、海草、小魚を摂る。
◆補足発表『食物・栄養とガン』の要旨
マクガバン議員らの偉業は、1982 年、キャンベル博士らによる『食物・栄養とガン』レポートで継承、その後、国家プ
ロジェクトとして立ち上げ、『マクガバンレポート』を補足する形で発表されたのが『食物・栄養とガン』に関する特別委
員会の中間報告である。この中で特に注目されるのは「動物性タンパク質(肉・乳製品)の摂取量が増えると乳ガン、
子宮内膜ガン、前立腺ガン、結腸・直腸ガン、膵ガン、胃ガンなどの発生率が高まる恐れがある」として、その要因
は「これまでの西洋風な食事では脂肪と動物性タンパク摂取量との相関関係は非常に高い」と述べている。
しかし、プロジェクトは道半ばで頓挫、キャンベル博士らの研究成果も米国食肉協会などからの潰しや中傷に遭い、
政府の食事指針に反映されることなく葬り去られてしまう。
◆「正しい情報はいかにして葬られるのか」「医学は誰の健康を守っているのか」
政治生命が脅かされるかもしれない危険を覚悟の上で、アメリカ国民の健康と長寿を願い正義と勇気あるレポート
を発表した「マクガバン報告」は、既得権業界の圧力に見事に封印された。
その後、1983 年~1988 年にかけて食習慣と病気に関する膨大な調査が行われた(米英中共同研究で約 10 億円
近い巨費が投じられた栄養研究プロジェクト)。対象は中国全土と台湾から 1 万 6 千 700 人を対象にして「食事と健
康状態、ライフスタイル、社会的経済的特徴に関する 1367 項目」を調査する史上最大の疫学調査が行われた。こ
れをまとめた書物の原書名が、『チャイナスタディ』である。
◆『チャイナスタディ』の驚愕的事実―「動物性たんぱく質は、史上最悪の発ガン物質である」
1970 年代末、中国の首相がガンであったこともあり、治療法を解明するため中国政府は 1973 年から 1975 年まで
8 億 8 千万人を対象とした 12 種にわたるガン死亡率に関する調査を行なった。このデータを元にして、中国予防医
学研究所、オックスフォード大(英)、コーネル大(米)が行い、陣頭指揮をとった T・コリン・キャンベル博士(コーネル
大学)は「栄養学のアインシュタイン」と称えられるアメリカ屈指の栄養学者であった。
この中で、「動物性たんぱく質は、史上最悪の発ガン物質である」という事実が立証されている。中国農村の食事と、
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アメリカ人の食事をもとに、米中の栄養比較調査は驚くべき事実を明らかにしている。
●心臓麻痺の死亡率―アメリカ男性は、中国男性の 17 倍も心臓発作で死亡していた。
●女性の乳ガン死亡率―アメリカ女性は 5 倍も乳ガンで死亡していた。
●動物性たんぱく質(牛乳カゼイン)をカロリー比 10%から 20%に増やすだけで、ガンは 11 倍に
増殖する。これを 5%から 20%に増やすと、発ガン率は約 20 倍と爆発的に増えるマウス。
中国には、同じ漢民族でありがなら、多様な食習慣があり、ガンの発生率も地域により 100 倍も
開きがあったので、その結果は、明確に、動物性食品を摂取すればするほど、病気を発症する
ことを示していた。しかも、比較的少量しか食べなくても動物性食品は有害な影響を及ぼしていた。一方、植物性の
食べものを最も多く摂取していた人々は、健康で慢性の病気から免れる傾向が明白に証明された。
「動物タンパク神話」の崩壊
「肉、卵、牛乳などの動物たんぱくは、史上最悪の発ガン物質である」。「人の健康には、動物性タンパク質が必要
だ」という神話が、完全に崩壊してしまうこの調査結果に各業界が震撼した。キャンベル博士の同僚研究者たちは
食品業界からの猛反撃を恐れて、一斉に背を向けた。
●闇に葬られた二大栄養報告 『マクガバン報告』と『チャイナ・スタディ』
アメリカ国民の健康と長寿を願った『マクガバン報告』、「たんぱく質は、史上最悪の発ガン物質である」という驚愕的
事実を立証した『チャイナスタディ』は業界メジャーの不都合な真実であり既得権業界の圧力に見事に封印された。
「身を守るための最も強力な武器」~「正しく食べることこそが、あなたの命を救う」
低動物性タンパク質、低脂肪の野菜・果物、穀類、木の実など未精製のまま丸ごと摂る「プラント
ベースのホールフード」の食事は血中コレステロール値を管理し、心臓病、脳卒中、肥満、糖尿病、自己免疫疾患
など豊かさが招く病気を最小限に留めることができる。
この「不都合な栄養学」として抑圧されたキャンベル博士の主張は、2005 年、『THE CHINA STUDY(ザ・チャイ
ナ・スタディ)』-邦訳-『葬られた「第二のマクガバン報告」』として著された。アメリカで同書が発刊されるや、その衝撃
的な内容に全米で一大センセーションが巻き起こった。
翌年、アメリカ心臓協会による 2006 年版の「食と生活の勧告」が発出され、更に効果の発現が報道されている。
肉や乳製品を必須のように摂ることの弊害、野菜や果物の栄養学的価値について、国民に知らされなかった情報
が、今、あらためて見直されたアメリカで菜食主義者やローフード愛好者が急増しているきっかけともなっている。
37 年前、若者が開いたオーガニック自然食品店が「ホールフーズ・マーケット」の店名で繁盛し優良企業に成長。
そして、プラントベース&ホールフードの栄養を熟知し治療に活かす医師が増えつつあると伝えられている。
<参考図書>
『THE CHINA STUDY』の邦訳版は松田麻美子訳『葬られた「第二のマクガバン報告」』)
2006 年「上巻「動物タンパク神話」の崩壊とチャイナ・プロジェクト」 グスコー出版
2009 年「中巻 あらゆる生活習慣病を改善する「人間と食の原則」
2011 年「下巻 政界・医学会・食品医薬品業界が犯した「情報黙殺」の大罪」
(*ダイオキシンの相乗作用による害の記述もあり)
●「いのちを救う食卓革命」~「フォークス・オーバー・ナイブズ」
2011 年、キャンベル博士らのドキュメンタリー映画 「いのちを救う食卓革命」が上演され、さらにアメリカで肉食離れ
が加速、菜食への傾倒が進んでいる。
(出演:コリン・キャンベル博士、コールドウェル・エセルスティン博士、他)
ストーリー: 食生活と病気の関係を調べてきた栄養学の権威コリン・キャンベル博士と、世界的に著名な外科医コ
ールドウェル・エセルスティン博士は、長年の研究で動物性食品と加工食品を取らない菜食が病気を防ぎ、生活習
慣病の治療も可能だと訴える。菜食で病を克服した例や科学的検証を通じ、肉を食べなければ力が出ないといった
食に対する常識に切り込む。加工食品に偏った手軽な食生活。食品業界の意向が優先される学校での食事プラン。
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肉を食べないと力が出ない、身長が伸びないという思い込みなど、日常に潜む問題点に警鐘を鳴らし、食(フォーク)
はメス(ナイフ)を征する=「食事は手術に勝る」という事実を明らかにする問題作である。
(日本コロムビア http://columbia.jp/prod-info/COBM-6385/)
5. タバコ問題情報
・米国のタバコ訴訟 / 喫煙死亡 2.4 兆円賠償命令
(タバコ問題の新聞報道見出しより)
・「オリンピック前に受動喫煙防止法」 / 五輪に向けた東京都のタバコ対策
・進んでいる世界の受動喫煙対策 / 日本はタバコ対策後進国 / タバコの発がん性物質とシックハウス要因物質
・電子たばこ「健康の脅威」WHO / 「電子たばこ」から発がん性物質
・タバコはドラッグ、タバコを合法ドラッグと言わないのはなぜか
5.1. NPO 日本タバコフリー学会学術大会参加―取材記録
(事務局 広瀬)
会報 12 号のネットワーク紹介で掲載しました NPO 日本タバコフリー学会から、昨年 9 月に学術大会の案内を下記
のとおり頂き、当会から代表 1 名が参加しました。タバコ問題の最新情報を受講した内容をお伝えします。
NPO 法人日本タバコフリー学会第 3 回学術大会を学校法人兵庫医科大学と
の共催で開催します。
◆開催日:10 月 12 日(日)・13 日(祝)
◆会場:兵庫県西宮市の学校法人兵庫医科大学 3 号館(敷地内禁煙)
(兵庫医科大学は全国初の全学生・教職員の禁煙誓約書を義務づけた大学)
◆テーマは「タバコのない社会を目指そう!~今後の日本のタバコ対策~
本会顧問のジェフリー・ワイガンド博士の招請講演や、医師、弁護士、研究者、
マスコミ関係者によるシンポジウムなど充実した多数のプログラムを用意しました。
会員ほか一般の方も事前申し込みにより参加をお待ちしています。
(詳細:http://tobaccofree-adv.main.jp/)
<受講記録>
受付、案内、ラチョンセミナーまで多くの若いスタッフがもてなす会場設営に和む学会でした。充実した内容の初
日は、主催者、医師による講演と研究者、弁護士、マスコミから成るシンポジウム、一般演題の研究発表に於いて、
全国初の禁煙誓約書、タバコは消費者問題、タバコと子宮頸がん、米国タバコ訴訟、電子タバコの危険性など、タ
バコ問題の最新情報と今後の対策について学ぶことができました。
聴講の一部を紹介します。(2 日目は台風接近で参加できなくて残念)
10 月 12 日(日)大会初日の講演録より(要点のみ抜粋)
はじめに、日本タバコフリー学会代表理事の大会長 薗 潤 氏が開会の
挨拶に続いて、「インド初のスモークフリー都市に学ぶ」と題して講演された。
インドの社会運動家が進めたタバコがない社会の実現は、医療職や法律専門家の叡知も結集した「草の根運動」
がマスコミや市民団体、商業サービス産業を巻き込んで世論を喚起し法規制を迫り、国を動かした事例を紹介。
日本の自治体レベルに於いても担当職の認識により禁煙推進は可能であることの実績を示され、国民が知るべ
きタバコの健康被害について知らされていないので、本学会は今後のタバコ対策で果たすべき市民社会の役割を
使命として担っていると下記のように熱く説かれた。
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市民運動には、消費者運動や人権運動などもあるが、タバコの問題は安全安心に関わる消費者問題であり、「情
報(被周知)権の侵害」や憲法 25 条で保障されている生存権の侵害でもあり基本的人権の問題である。
これらに気づいていただくためには、ホームページなどでの発信を強化すると同時に、マスコミの力をお借りして発信
を続けることが重要である。その意味で、今大会のシンポジストをマスコミ関係者 3 人と弁護士 1 人が務めてくださる
意義は大きいと思う。ご参加の皆様と一緒に「今後の日本のタバコ対策」を考えたい。
続いて、大会共催団体である兵庫医科大学の理事長 新家荘平氏が挨拶された中から、10 年をかけたタバコ対
策の先進大学の取り組みに聴き入り、兵庫県で受動喫煙防止条例が制定された基盤となる良識の砦を察知した。
兵庫医科大学と大学病院の敷地内は 11 年前(2003 年)から全面禁煙を徹底しており、2013 年から医科大学では
全国初の「禁煙誓約書」の提出を義務付けている。その目標として「タバコのない医療人の育成」と「タバコのない療
養環境の実現」を目指し、今後は全ての医大・医学部が踏襲することを要望された。ここまでのタバコ対策を推進す
ることができたのは、日本タバコフリー学会代表理事である薗 潤 医師が西宮市保健所長に就任後の 9 年半に亘
る学生への講義や実習、並びに病院指導の尽力によるものと高く評価され、今後の日本のタバコ対策に大きな影
響を与え、タバコのない社会の実現に大きく貢献することを願って共に歩んだ道程を紹介された。
5.2. NPO 日本タバコフリー学会顧問 ジェフリー・ワイガンド博士
特別講演(抄録)
「米国タバコ病集団訴訟(MSA*)から学ぶ今後のタバコ対策」より、
同時通訳ではなく大会長による合間の解説、並びにスライドとテキストの日本語
説明で何とか聴き取った程度でも、国と産業界の圧力にも屈せず「タバコの害の
真実」を知らせ集団訴訟に導いたワイガンド氏の勇敢な行動に敬服し、日本のタバコ対策は 30 年も遅れていると悟
った。
今回の講演では、今日に至るまで米国内の訴訟で歴史上最大の和解額を支払ったタバコ産業が和解金を支払
うために値上げをしたり、新たに無煙タバコ製品や電子タバコで取り返したりして乗り越えている実態と新たな害につ
いて示された。ジェフリー・ワイガンド博士はタバコの健康影響に関する証拠隠滅を内部告発した科学者である。
ジェフリー・ワイガンド氏は 1988 年に全米で大手の大手タバコメーカーのブラウン・アンド・ウィリアムソン社に入社
後、研究開発担当副社長に就任した。1993 年、ワイガンド氏が喫煙の有害効果に関する研究を行なったため、
B&W 社はワイガンド氏を解雇した。その後、CBS ニュースの番組において、B&W 社がニコチンとタバコの健康への
影響の調査データを改ざんしようとした行いを暴露したことで内部告発者になった。
ワイガンド氏の内部告発を契機として、アメリカのほとんどの州がタバコ会社に対し、州政府が
負担したタバコ病の治療費の補償を求める訴訟を起こした。1997 年 6 月、全米 40 州の法務
長官がフィリップ・モリスや、R.J.レイノルズなど大手タバコ会社 5 社を相手取り、喫煙による病
気の治癒に州が支払った医療費の損害賠償を求める訴訟で、メーカー各社は今後 25 年に渡
り総額 3685 億ドル(約 38 兆 85000 億円)の天文学的な和解金を支払うことで合意した。
翌年 11 月のタバコ病集団訴訟は 2460 億ドル(24 兆 6000 億円)で 46 州ほか 5 自治連邦区、特別区と 5 大タバ
コ会社の間で和解に達した。この和解は和解金の支払いに加えてタバコ産業の販売やマーケティングの規制を設
定する内容となった。しかし、和解基金をタバコ規制のために使う州の義務は、この合意の中で成文化されなかった。
その結果、諸州は和解金(基金)の基本的な啓発プログラム、税金軽減やタバコ農家への補助金、基金の証券化
などの用途を優先し、州の一般基金に加えられた。米国疾病対策センター(CDC)は、諸州は基金の最大 14%ま
でを禁煙プログラムに使うことを推奨する声明を出しているが、この目的は達成されていない。
2000 年、ジェフリー・ワイガンド博士がモデルとなった映画 『インサイダー』がすべて実話で制作され、タバコの有
害性とタバコ産業の事実を広く国民に伝えている。ワィガンド博士の内部告発は、その後、全米タバコ訴訟を推し進
め、タバコ会社は巨額の損害賠償に応じる結果となり禁煙運動は前進した。脅迫や悪質な妨害、根拠のない誹謗
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
中傷により彼の日常生活は崩壊したが、真実を語った科学者の内部告発が多くの人の命と健康を守り救うことにな
った。尚、米国では、州政府による医療費の損害賠償訴訟の他に、タバコにより能動喫煙や受動喫煙による肺がん、
ニコチン依存症などになったとして、その後も個人訴訟と集団訴訟が多発している。
<参考> : NPO 日本タバコフリー学会 http://tobaccofree-adv.main.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ (Jeffrey Wigand)
弁護士 谷直樹 事務所 http://medicallaw.exblog.jp/18420832/ 映画 『インサイダー』
厚労省 最新たばこ事情 http://www.health-net.or.jp/tobacco/oversea/ov980000.html
6. 会員だより
6.1. 乳幼児のそばで携帯電話の使用禁止を
2014.12.16
S.K
乳幼児を抱えて携帯電話・スマホを使用している若いお母さんをよく見かけます
声をかけようとしてできなかったことが多く、メモで書いて渡そうとしたこともあります。
せっかく無事に生まれてきた子どもたちの脳への影響が心配です。
手渡し用に小さな可愛いメッセージのカードを作れないかしら。
応答: ありがとうございます。携帯と、タバコも、こどもの近くでは止めるべきですね。
ミニカードの作成は、次年度事業計画で総会議案に出しますので、また、制作案をお願いします。
6.2. 保育園で使用する殺虫剤、消毒剤
2014.7.28
M.T
ご相談したいのですが…メールでお伺いします。
私が働き始めたパート先は保育園です。毎日の衛生管理は色々安全性に気をつけるようになっていると思いますが、
先日、殺虫剤の使用がありました。危ないと感じてすぐに資料を用意してわが子の事など絡めて話しました。
その後、保育室で殺虫剤は使わないようにとなってほっとしましたが、室内に塩素消毒をした空気の中で、眠ってい
る赤ちゃんを見ていると心配です。保健所からの指導がどうなっているのか、少しでも害の少ないもの
があれば提案したいと思っています。
そこでお願いです。保育施設で使用する塩素消毒の危険性などについて、資料をお持ちでしたらお
知らせ頂けませんでしょうか。よろしくお願いします。
応答: ご依頼の件、厚労省発の「施設の消毒剤使用について」保育所版、ほか記事をファックスにて送信します。
こどもたちに目やのどへの痛みの感受性があったとしても表現ができないので、判る保育士の存在は貴重です。
殺虫剤、消毒剤、除菌剤の類は、軽度の過敏者でも目や喉の粘膜損傷痛が出て使えないこともお伝え下さい。
早速にもお知らせ下さいましてありがとうございます。わかりやすくて、薬害情報も出ていてありがたいです。
先に殺虫剤の話である程度は理解してもらえましたので、こちらも納得して頂けると思います。
赤ちゃんの時に呼吸器を悪くする子が多いのも、これが原因の一つでないかとも考えています。
放散した薬剤が室内の空気を汚染する毒性を知らせることで保育園の子ども達が救われれば、私がここに勤めた
意義があり嬉しいです。
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
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参考までに、下記の案内を見つけましたが、いずれも過敏者には目、鼻、喉に痛みや頭痛が生じます。(2014.7.29)
施設の消毒剤使用について
▶厚労省 2012 年改訂版 保育所における感染症対策ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02.pdf
別添 1 保育所における消毒の種類と使い方 (P34)
薬品名
次亜塩素酸ナトリウム: 衣類、歯ブラシ、遊具、哺乳瓶
消毒の濃度・市販の薬液(塩素濃度 6%)を 200~300 倍に希釈(薄めて)して使用
逆性石けん:手指、トイレのドアノブ
濃度:通常 100~300 倍の希釈液
消毒用アルコール:手指、遊具、便器、トイレのドアノブ 濃度:原液(70~80%)
▶公益社団法人日本薬剤師会 学校薬剤師部会
http://www.nichiyaku.or.jp/gakuyaku/?p=1026
学校における化学物質の使用と管理 ―塩素系消毒剤と殺虫剤を例として―
(日薬誌:8 月号より)岐阜薬科大学・教授 永瀬 久光
学校では保健室の医薬品や理科室の薬品は別にして、水泳プール用薬品、給食室の洗浄剤、漂白剤等、殺虫剤、
除草剤等の農薬、防臭剤等、利用目的に合わせて積極的に使用されている。学校において、これらの化学物質は
児童生徒への接触・曝露、学校周辺の環境への放出等により影響を及ぼすことがある。化学物質の使用・管理に
問題があった事例として、消毒剤と殺虫剤の例を挙げ、その注意すべき点について述べる。
▶学校の清潔についての質問
Q,二酸化塩素による除菌等をうたった製品の使用は大丈夫でしょうか?
A,新型インフルエンザの流行にあわせた形で二酸化塩素を利用した商品が一般に出回っていますが,二酸化塩素
は,我が国では消毒薬としては未認可であることから,その使用にあたってはより慎重さが求められると考えられます。
ノロウイルスの培養系は未だ確立されておらず,現状は消毒剤によるノロウイルスの不活化効果を直接試験すること
はできません。このため代替ウイルスとして近縁種のネコカリシウイルスなどを用いた評価により消毒剤の評価がされ
ています。
▶有効な消毒方法として広く認識されているのは 1000ppm~5000ppm の濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いる方
法ですが,この濃度の次亜塩素酸ナトリウムは腐食性が強く,また塩素臭もきついので,実際にノロウイルスによる事故
が起こってしまった時は別として、毎日の衛生管理では使用しにくいという側面もあります。
▶次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤としては,過酢酸アルカリ剤,あるいはエタノールとアルカリ剤と陽イオン界面活
性剤の組み合わせ等が有効であるとの知見が報告されています。ただし,次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤はネ
コカリシウイルスなどを用いた不活化試験で効果があるとされたものを選定することが大切です。
▶二酸化塩素ガスによる環境消毒の是非について (学校などで使用する際の)
http://www.jmedj.co.jp/article/detail.php?article_id=3423
二酸化塩素(ClO2)ガスは次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン、ハイター等)の約 2.5 倍の酸化作用を有し、芽胞を含
むすべての微生物に有効である。しかし、診療所内などの環境消毒に二酸化塩素ガスを使用することは毒性及び
効果などの点において勧められない。なぜなら、本ガスが眼や呼吸器系の粘膜を刺激して、咳嗽や喘息などの原
因となる危険性があるからである。また、汚れが付着した環境に対するガス燻蒸法の消毒効果は弱い。さらに、本ガ
スは金属やプラスチックの劣化作用を示すからである。
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
環境消毒は、消毒薬の清拭で行うのが基本である。対象微生物に応じて、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール(消
毒用エタノール、70%イソプロパノール)又は塩化ベンザルコニウム(オスバン、ザルコニン)などを使い分ける。
また、手が触れる箇所(ドアノブ、便座、おもちゃ等)の消毒も重要で、対象物に応じて 0.1%(1000ppm)次亜塩素
酸ナトリウムやアルコールの清拭を使い分ける。例えば、ドアノブや便座の消毒では、次亜塩素酸ナトリウムの金属腐
食性や臭気などを考慮して、アルコール清拭を選択する。
▶「二酸化塩素」を主成分とする空間除菌商品「クレベリン」などの公的機関による調査と措置命令 (2014.3.27)
国民生活センターが据置芳香剤型の空間除菌をうたった商品(空間除菌グッズ)に対して行った調査では、二酸化
塩素を有効成分とうたっているにも関わらず放出が皆無である製品の存在や臭気が原因とみられる体調不良者の
発生、自社での有効性・安全性確認がなされていない製品がほとんどである実態がみられた。また、同機関が行っ
た首から下げるタイプの除菌用品に対して行った調査では、一部の商品に化学やけどを引き起こす皮膚腐食性や
安全性を過信させる表示が認められるなど、今後の改善が求められる17社に消費者庁が措置命令を出している。
6.3. こどもが学校へ行ける日まで
2014.11.6 M.K
今日、中学校へ話し合いに行ってきました。
これまで何度もお願いしてきましたが、今日は担任教諭と学年主任に校長先生と教頭先生が同席で話を聞いて下
さることになったので、できる限りの資料を集めて出かけました。
他府県のシックスクール関連など各種の資料を持って。京都市でそれらしいのがあればいいんですけど・・・。そして、
子どもにかかわって下さる 4 人の先生との面談で説明しました。
中学入学の直後にノロウィルス感染症で休んだ後、学校に行くと教室の臭いで調子が悪くなり、通学できなくなっ
て転校しましたが、また、同じ状態が続いているこれまでの症状発生の経緯、発症時の状況、現在の体調等につい
て、考えられる原因なども話しました。
回答は、まず、床ワックスは出来る限り塗らない。シックスクール対策のワックスを確認してみ
ると回答して下さいましたので、可能であれば確認のためにサンプルの取り寄せが出来ないか等
お願いしました。
なにぶん古い学校であり、美化的観点からも何かはしないと、ほこりなどでアレルギーを発症する児童が出てくるかも
しれないので、全体を見渡して最良になるように考えます。見た目の綺麗と空気の綺麗は違うので、そのあたりの妥
協点を考えますと言って下さいました。
▲当日の参考資料として提出しました高槻の中学校の保護者への案内(主治医からの参考資料)と、会報 13 号に
掲載された会員のこどもさんの学校で出してもらった保護者への啓発プリントの内容で、かなり理解して頂けたようで
す。これを参考に複数回に渡って啓発お知らせのプリントを作成して配布してもらえることになりました。
校長先生は、他の児童たちにも、日常用品から発生する化学物質によって起きるかも知れない症状発生につい
ての勉強や、自分たちで出来ることはないかと言うことを考え実行してもらえるように働きかけます。
自然のものを大切に、木工品一つとっても、きちんと磨けばニスを塗らなくても綺麗につやが出る等、目先の楽さ
にとらわれないようにと言う教育方針でやっているので理解してもらえるでしょうと、おっしゃって下さいました。
換気も出来る限り対応して下さるそうです。ただ、これから寒くなるのであまり出来そうにないですが・・・。
まずは学校が理解して下さり、啓発して頂けることになりましたが、あとはわが子が通学できるかどうかです。
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参考(学校・住宅・職場で、このような管理者の理解と啓発が広がることを願って教頭先生に転載のご了解を頂きました)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
平成 22 年 7 月 7 日
高槻市立第三中学校
校長 福井 弘
整髪料・制汗剤など香料を含む製品の使用自粛のお願い
梅雨期独特の蒸し暑い日が続く今日このごろ、保護者の皆様におかれましては、ますますご清祥のことと存じま
す。平素は、本校の教育活動にご理解ご協力をいただき、ありがとうございます。
本校ではすべての子供たちが、より良い条件で授業に取り組めるように、各自の教育を受ける権利を大切にしたいと
努力を重ねています。また、それぞれの条件や状況を必要に応じて明らかにしながら、共に学ぶためにどうしたらよ
いかを伝えたり、考えたりしております。
さて、上記のような内容に関係することで、本日は「化学物質過敏症」についてお願いをいたします。一昨年度・
昨年度も同様のお願いをしておりますが、本校には「化学物質過敏症」の生徒がおります。中学校に入学してから、
「化学物質過敏症」という診断を受け、本校でも必要なお知らせをし、クラスや学年を中心に、共に考えて参りました。
この間、協力をしてくれる生徒たちが多く出て、かなり症状が緩和されたと聞いています。
「化学物質」と言いましても、日常生活から離れた特別な薬品・工業用品ではなく、防虫剤・殺虫剤・合成洗剤・
消臭剤・芳香剤・制汗剤・整髪料など日常生活の中で多くの方が当たり前に使っている製品に含まれているもので、
決して特別なものではありません。
表に出る症状としては、倦怠感・呼吸困難・皮膚炎・湿疹・かゆみ・咳・頭痛などさまざまですが、どれも軽い状態
ではなくかなり重い症状になる場合が多いようです。ちょうど、「花粉症」のように、その人の許容量で収まっている間
は発症せず、許容量を越えた時に一気に症状が出てしまいます。やっかいなことに一度症状が出てしまうと、それ
以降はわずかな量にも敏感に反応してしまうようになり、状態はどんどん重くなっているのが実態です。昨年の 10 月
には、健康保険対象のリストに、この「化学物質過敏症」が上げられ、登録されました。それだけ、多くの患者さんが
出てきているということですし、電車やバスの中・店舗の中など、すぐ近くにそのような症状をもつ方がおられても不思
議ではないということなのだと思います。
本校の生徒の場合、特に”香料”に敏感に反応します。「整髪料「制汗剤」「消臭剤などの香料を含む製品が本人
のすぐ近くで使われたり、大量に使われたりすると大変なことになります。とはいえ、この蒸し暑い季節で、自分の風
貌や体臭を気にする思春期の生徒たちにとって、これらの製品を一切使わないで過ごすことはかなり難しいことであ
ろうとも考えます。どちらの生徒の思いも大切にしたいのですが、「化学物質過敏症」の生徒にとっては、かなり苦しみ
を伴うものですので、香料が含まれる製品については出来るだけ使用を控えていただきますよう、お願いいたしま
す。
学校ではこのお願いを全校生徒のご家庭に配布し、ご理解・ご協力を求めるとともに、校内の教室の換気を十分
に行うなど、環境面でも可能なことはどんどん取り組んでいきたいと思います。
いろんな条件・状態・特性のある人たちが共に生活しているのが、社会であり、学校です。誰もが心地よく暮らして
いくためには、“お互いを理解し”・“自分はどうできるか”・“自分がどうするのがいいか”・“これで周りは大丈夫か”という
ことを考えて、“必要ならばどうしてほしいのかを相手に伝える”ことが大切です。
本校で学ぶ機会を得た生徒たちには、自分の事だけを主張するのではなく、相手の事を考え、共に生きていく関
係になっていけるように、今後も指導を続けていきたいと考えております。
保護者の皆様におかれましても、趣旨をご理解の上、一層のご協力をお願いいたします。
なお、「化学物質過敏症」の詳細につきましては、裏面の資料に目を通していただき、さらにご理解を深めていただ
けると幸いでございます。なにとぞ、よろしくお願いいたします。
32
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
6.4. VOC 測定バッジで判った~自宅と周辺の空気汚染物質
2014.11.20 大阪府 T.H
私は自宅のすぐ近くに廃プラ施設のある戸建て住宅に住んでいます。
会報 13 号のお知らせで案内された VOC 簡易測定バッジを申し込んで 10 月に試して
みました。
1 回目は 2 種類の測定バッジを装着して、自宅~買い物~住宅地~廃プラ施設周辺
を自転車で走り、その後は自宅内で過ごしました。24 時間の装着を終えて、クール便で VOC 研究会に送りました。
結果はイソシアネートが 7ppb、ヒドラジンが 15ppb という数値が出たと通知が届いて、これまで実施された廃プラ
施設周辺の空気測定で出なかった物質名を知りました。
そして、2 回目は場所を特定してイソシアネート検知バッジで測定をしてはどうかとの案内を受けて、自宅室内、自宅
の庭、廃プラ施設付近の 3 か所で 24 時間配置の実験をしました。終了後はまたすぐに VOC 研に送りました。
その結果は、高い順に ①自宅の庭 ②廃プラ施設付近 ③自宅室内 でイソシアネートが検知されたと連絡が
届いて驚きました。濃度が廃プラ施設付近よりも自宅の庭が高いのはなぜ?いつもこの施設周辺で独特の臭気が強
く息苦しく感じているので、この辺りが高い濃度で出ると思っていました。
VOC 研究会の津谷理事の説明によると、原因はバッジの位置にあるとのこと。すなわち、イソシアネートは空気より 7
倍も重く、低いところに溜まるのですから、施設を見下ろす坂の上の木に 1 メートルほどの高さの位置で測定バッジを
装着したのであれば、これより低い自宅の庭の方が高い濃度で出たのですということでした。更に、イソシアネートは
臭気もなく毒性が強く、特に呼吸器に影響を及ぼし肺疾患や化学物質過敏症を引き起こしかねないと心配して下さ
いました。
私は 3 年前に化学物質過敏症と診断されています。毎日、におう、臭う、といって廃プラ施設の臭いが有害だと
思ってきましたが、本当の毒物は臭いがなくても強い毒性があることを知りました。
今回の実験で、新たに 2 種類の毒性物質が検出されて、とても残念でなりません。しかし、安心して呼吸ができる命
の源の空気を守るためには、そこで暮らして苦痛を感じ始めた人々が、自宅周辺の空気の内容を測って知ることが
第一、そしてこれに正確な判定ができる研究者が一緒になって予防と改善の方法を探して助言してくれることしかな
いと思い知りました。
6.5. 長年の投薬が原因か
(電話の便り)
K.N
この頃、どうも調子が悪くてね。クラクラめまいがするので車の運転も危ないかなと思って。どこも痛くはないし、何
が原因かと思う。
応答 Q:農薬や除草剤に曝されたとか、何か薬を飲んでいませんか。
A:もう 10 年以上も降圧剤を飲み続けていて、他に薬剤師さん調剤の薬を何種類か一緒に飲んでいます。
Q:薬の副作用で、クラクラするということも考えられますので、なるべく飲まなくて済むように医師に相談して下さい。
血圧が高い人は塩分を控えめにして、ストレスを溜めない生活をすることで改善できるのが一番ですね。
6.6. 臨床環境医学会学術集会に参加しました
(電話の便り) N.T
一般参加も受け付けていたので、参加費は高くても行って聴いてきました。必要であれば資料を送りましょうか。
化学物質過敏症も電磁波も、こんなにいっぱいの人が研究しているのに何年経っても国の対策に変化がないのは
どういうことなんでしょうかと思いますね。
応答:そうですね。一度、資料を見せて下さい。
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
33
7. 新たなシックハウスの問題
7.1. 公害と私害について
会報9号で提起して 3 年目の「新たなシックハウスの問題」は、引き続き有害物質 SOS 受信の対応に於いても状況
を把握しています。自宅要因ではない室内空気汚染による健康被害の申告は、発生源が明白であっても見えない
ので認められず、被害はさらに増幅します。公的な相談窓口である消費者センターも対処できない人権問題です。
今回は、姿のない空気汚染-不法侵入の責任はどこにあるのか、その対象となる法を考えます。
▶日本では、人為による大気汚染公害は環境基本法で対処、通常のシックハウス被害は建築基準法、製造物責任、
損害賠償などで責任を問えます。自宅要因ではないシックハウスはいずれも該当せず移動を余儀なくされます。
▶英米法では、生活妨害(nuisance)という不法行為の範疇に属する制度があり、「不特定多数への妨害・損害を
生じさせる公害 public nuisance」は、公法的な罰則の問題、「特定私人に対してのみ損害を与える行為を私害
private nuisance」として、財産権に対する侵害、安らかな生活権の妨害など、不法行為とする問題としています。
しかし、わが国における環境基本法には侵入室内空気汚染の実情に即した「私害」の概念(英米法上の common
lau における特殊概念)が存在しないのか、等について次号に連載します。
◇新たなシックハウス問題が生活妨害であり、「私害」と考えられる実例として、
▶隣接住戸から容易に侵入するタバコほか燻蒸剤・揮発剤 / 臭気がカーテンにも染みつく侵入室内空気汚染
このシックハウス問題の要因に関連して、経営者と一般の人に向けた啓発記事が届きましたのでお知らせします。
7.2. 多種化学物質過敏症の人にどのようにより良く宿泊してもらうか
グレン・ハセック(Glenn Hasek) Green Lodging News 2014/7/30
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)より転載
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
ジュディ・スミス(仮名)は、最近のある旅行に出かける前に、泊まろうと考えていたモテルに電話をかけて、彼女
が泊まる部屋では、化学物質、空気清浄装置、又は室内脱臭装置を使わないことを求めた。しかし残念ながら客
室係は、清掃用化学物質を使用しないというメッセージだけを受けており、空気清浄装置、又は室内脱臭装置を使
用しないということについては受けていなかった。彼女が 110 ドル(約 13,000 円)の彼女の部屋に入ると直ぐに、人工
的に香りを付けた製品の花の香りが彼女を直撃し、彼女は喉が詰まりそうになったとジュディさんは述べた。”私は声
がかすれ、その部屋を離れ、部屋の空気清浄装置が動いている間、1 時間、あるいはそれ以上、部屋の外で座っ
ていなければならなかった”とスミスさんは述べ、バスルームが彼女の客室の中で唯一安全な場所であったと付け
加えた。
他の数百万人の旅行者と同じように、スミスさんは多種化学物質過敏症(MCS)である。 MCS は溶剤、VOCs
(揮発性有機化合物)、香水、殺虫剤、ガソリン、ディーゼル、煙、一般石油化学物質等の多くの異なる種類の汚染
物質に異常に高い感受性、又はアレルギー様反応を示し、しばしば、カビ、花粉、屋内塵性ダニ、及びペットの毛や
フケも問題を起こす。 ”MCS はアメリカ人口の約 12%に影響を与えているが、人口の 30%以上が香り過敏
(fragrance-sensitive)である”と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のアン・スタインマン博士は述べている。同博
士は今秋からオーストラリアのメルボルン大学の土木工学教授であり、持続可能な都市の議長である。
”MCS の人々は、ホテルが本当にグリーンかどうかを教えてくれるので、偉大なカナリアである。環境には良いか
もしれないが、健康には良くないグリーンなホテルがたくさんある”。MCS は人によって異なる影響を与える。ある人
は香り付き柔軟剤に反応するかもしれず、他の人は放出ガスに反応するかもしれない。”ある人々は、ある種のハッ
カにすら過敏かもしれない”と、化学傷害者のための州ベースのある協会の代表はグリーン・ロッジング・ニュースに
告げた。”MCS は、扁桃痛や胃腸系の問題をもたらし、認識力を損なうことがある。それは筋肉と関節に痛みを引き
起こすことがある。それは穏やかに、または激しく人々に影響を与えることがある”。
34
京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
多くの場所に存在する香り
ホテルでは、香りは一般に洗浄用又は洗濯用製品、空気清浄装置、室内脱臭装置、洗面用品に見られ、ある場
合には換気装置に意図的に注入されている。MCS の人々はまた、塗料、溶剤、接着剤、カビ、喫煙、及び家具か
らのホルムアルデヒドのような有害物質の放出によっても影響を受ける。グリーンな洗浄製品は、MCS の人々にとっ
て必ずしも安全ではない。”柑橘(シトラス)系の製品は大気中のオゾンと反応してホルムアルデヒドを形成することが
ある”と協会代表は述べた。
汚染物質曝露とそれに関連する健康影響に関する専門家として国際的に認められているスタインマン博士は、彼
女は過去数年間に、安全なホテル宿泊設備を見つけるのに苦労している MCS の旅行者らから数百の e-メールを
受けたと述べている。彼らは、MCS の人々を泊めるホテル目録、例えば Safer Travel Directory (安全な旅行
目録)にしばしば頼っている。
スタインマン博士は、その調査で、グリーンとか有機と呼ばれるものを含んで、広範な香り付き製品を分析したとこ
ろ、その全てが有害な汚染物質を放出したことを発見した。しかし事実上、成分が開示されているものはなかった。
スタインマン博士は、洗濯用及び清掃用製品の両方、そして、石けん、ローション、シャンプーのような身体手入れ
用品について、香り付きでないものにすることを勧めている。”香りの化学物質には残留性があり、繊維や表面に付着
する”と彼女は言う。”完全に切り替えて、香りのついていないものにしなさい”。初めから香りなしとするために、(MCS
の人)専用のリネン類及び洗濯機を使用するのが最良であると彼女は述べた。
”空気洗浄装置と脱臭装置は避けなさい”とスタインマン博士は付け加えた。”グリーン・ラベルに頼らないこと。多く
のグリーン製品が香気を含んでいる”。
MCS の旅行者は、旅行中に自身を守るためにどんなこともいとわない。自身の石けんとシャンプー、シーツ、タオ
ル、そしてベッドのカバーやカーペットさえ持参する。”MCS の人々は、一軒のホテルでたった一泊するだけのために、
そのように多くのものを持ち込む”と彼女は言う。”そして、それでもホテルの部屋で気分が悪くなる”。
殺虫剤や除草剤に注意
ホテル経営者は、駐車場、プール、その他の空気の質が懸念される場所から部屋が離れていることを確認するこ
とにより、MCS の旅行者を宿泊させることができる。害虫を抑制するために総合的病害虫管理技術を用い、除草剤
は特に宿泊者に暴露リスクを及ぼす場所では避けること。
香りのブランド化や販売が近年、ますます人気になっているとスタインマン博士は懸念している。”香りを振りまくと
人々にリスクを及ぼす”と彼女は言う。”子どもは、香り製品の周囲でけいれんやぜんそくの発作を起こす”。
100%の禁煙環境は言うまでもない。窓が開けられることは需要である。最近改装した部屋は、塗料や備品から
の放出ガスの可能性があり、MCS の人々にとっては適切でない。
空気清浄器は助けになるかもしれない
空気清浄器は、そのタイプとどのくらいの頻度でフィルターが交換されているかにより、MCS の人々の助けになる
かもしれない。しかし、オゾン発生器は MCS の人々に問題を引き起こすかもしれない。シャワーヘッド中の塩素をフ
ィルターで除去することもまた重要である。ホテルの客室やその他の場所を設計する時に、ガラス、硬質木材、タイ
ル、金属のような不活性な材質を選ぶこともまた重要である。
無線信号がホテル中を飛び交っているので、電磁波(電磁界)に過敏な旅行者に宿泊してもらうことは、ホテルを
経営する人々にとって難しい課題である。電磁波(電磁界)に問題がある人々は、インターネットには無線ではなく有
線で接続するのがよい。スタインマン博士は、MCS の人々に良いことは、ホテル従業員や他の旅行者を含んで、全
ての人々に良いことであると述べている。
”このことに早く取り掛かるホテルは、非常に素晴らしいことをしている”と彼女は言う。”彼らは収入を増やし、健康を
増進し、コストとリスクを削減することができる”。
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35
私たちの身のまわりで起きている健康を蝕む事態と、今、社会で起きている問題を新聞等の記事から紹介します。
詳細内容はネットで検索、または図書館で閲覧いただき、この予防への情報はカナリヤの学習録にまとめました。
現在の危機的状況に至る起源から、何が人の健康と環境を破壊してきたかを学び、次の世代を守りましょう。
(9.と 10.の見出しは昨年 7 月~今年 1 月初迄の記事より)
8. 有害物質 SOS 受信

塗料缶全開の工事現場 / 有機溶剤を取り扱う事業者の皆さまへー厚生労働省

地下街のタバコ煙 / ビル内の語学教室にタバコ臭

隣室からのタバコ煙でまた転居 / 管理者による弱者排除のシステム

助けて下さい!隣室からの強烈な香臭 3 年

クラクラする全身倦怠

隣室から一日中タバコ臭~深夜のタバコ臭は揮発性の電子タバコかドラッグか?
9. 化学物質/電磁波/原発 問題

タバコ・アスベストに次ぐ呼吸器系に受難の「イソシアネート」化合物

日本から「赤とんぼ」がいなくなるー農薬が要因

ブリ加工品の回収命じる、青森県 高濃度ヒスタミン検出

食品添加物、残留農薬…体内で相乗毒性、人体に異常起こす可能性

コカコーラから発ガン性物質検出

命を奪う危険ドラッグの正体 / 危険ドラッグ 25 物品を告示

「電子たばこ」から発がん性物質

「エコキュート」で健康被害の可能性

原発事故、甲状腺検査の充実を / 福島で甲状腺がん増加か

敦賀原発 2 号機直下、改めて活断層認定

放射能濃度 50 倍以上に=2 号機海側の汚染地下水-福島第 1

震災 20 年 アスベスト健康不安 52%
10.
科学と医療・社会問題

医療過誤と薬害 / 医療事故 過去最多の 2700 件余

<国民医療費>39 兆円で過去最高更新

開腹手術でも 10 人死亡「調査必要」…群大病院

子宮頸がんワクチンの危険性 / 子宮頸がんワクチン、副作用患者は脳障害か 原因は不明

新型糖尿病薬服用、10 人死亡 厚労省、適切使用指示へ

子供に向精神薬処方増…注意欠如などで 2・5 倍

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針の制定(文部科学省/厚生労働省)

不正論文多発 / STAP 論文「氷山の一角」 / 東大論文、33 本の捏造・改ざんを認定

肥満が原因のがん、年 50 万人 WHO、女性高リスク

米国、食事の質の格差が 2 倍に拡大

世界各国でトランス脂肪酸規制広がる / アメリカでマーガリンの使用禁止
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11.
カナリヤの視点
<次の世代が安心して生きていける社会を>
1945 年 8 月、日本の無条件降伏により第 2 次世界大戦が終結した。日本は「二度と戦争をしない」ことを誓って
憲法 9 条を制定し、戦後の再出発をしている。
以来、戦争がもたらした多大な犠牲と、その後の経済成長の陰で起きた人災による犠牲者の上に成り立っている
戦後 70 年を振り返って、これからを考えよう。
敗戦からの産業優先政策が乱開発、合成化学物質、農薬による環境汚染、大気汚染はじめ放射能に至る公害
を繰り返し、人は健康を損ない命を奪われても、企業と国は因果関係を否定し真実を知らせず救済を遅らせてきた。
この危機に早くから警鐘を鳴らした識者の真の進言も生かされず、高度経済成長後のバブル崩壊、デフレ進行中に
貧富の差が拡大し、公平で公正な社会を築けなくなった。表は優良でも、裏では弱者を踏みつけ不正と隠匿・偽装
で収益を狙う組織や集団が堂々と闊歩している。人々は今、この国を覆う先行き不安に苛立ち意気消沈している。
こどもたちに平和と安心して生きる権利が守られる社会を繋ぐために何をするべきか。この歴史を鏡として真摯に
向き合い、真実の情報に耳を傾け、平和憲法の行方と身の回りの環境を見守りたい。
<レイチェル・カーソンよりも早く>
第 2 次世界大戦で開発され生産された大量の有機リン系毒物は戦後、農薬として普及した。奈良県五條市で
開業していた梁瀬義亮 医師は診療と実験と膨大なデータにより、1950 年代からその毒性に警鐘を鳴らしている。
梁瀬医師は、有機リン農薬の慢性中毒による肝障害、癌の発生、精神障害による自殺が急増している原因は農
薬の害だと指摘した。しかし、農家自身も保健所、厚生省ともに農薬による害を否定し続けた。そのため彼は自分自
身でパラチオンを散布した野菜を食べる人体実験をしたのである。その結果、農薬の慢性中毒には「毒物単独の蓄
積」以外に毒物が体内で分解される過程で起る人間の軽微な体細胞の障害が蓄積して起る「作用の蓄積」がある
とした。不眠、焦燥感、鬱、ふるえ等の神経症状、肝腫肥大、口内炎、下痢等の胃腸障害、手足の冷え、低血圧
等の自立神経失調症状、さまざまな症状を呈すると指摘している。現在でも日本の単位面積当たりの農薬の使用
量は世界一でありアメリカの約 10 倍である。現代の様々な健康障害や社会問題化する行動異常が、長期にわた
る農薬・化学物質の影響である可能性を指摘している。
梁瀬義亮 著「生命の医と生命の農を求めて」より
(http://www.jiko-kai.org/organic/)
<生態学的輪廻の法則>
死の農法 農薬の障害作用 第二章 生命の農法 第一節より(抜粋転載)
雨が降って地上を流れ或は地下に浸透して河に入り、海に入り、太陽熱によって水蒸気となって蒸発して雲にな
り、再び雨となって降下します。この「水の輪廻」の中にあらゆる地球上の生命が生きさせて貰っています。若しこの
輪廻をどこかの点で切りますと忽ち旱魃が起ってあらゆる生命は死に絶えるでしょう。植物と動物に跨がった「酸素
の輪廻」に於ても同様です。今ここに水や酸素の輪廻と同じように大切な、あらゆる生命がよってもって生かされて
いる大切な輪廻があります。それは「生態学的輪廻」です。
今や、環境破壊による人類滅亡が現実化しつつあり、全世界の学者や心ある人々によって危機が叫ばれている。
完全無農薬有機農法の全世界的実施の一日も早からんことを祈ると共に、母なる大自然への畏敬、人類が互いに
仲良くすること、一切の動植物の生命に対する尊重(生態系への畏敬)、もと質素かつ生活物資尊重の生活の重要
さを感ずるのである。
<梁瀬 義亮 1920-1993>大正 9 年生まれ。奈良県出身。京都大学医学部卒。昭和 18 年、軍医で出兵 3 年、復
員後、兵庫県立尼崎病院を経て、昭和 27 年に奈良県五條市で開業。農薬の害を訴え、有機農業の研究・実践を
すすめて、35 年「健康を守る会」(慈光会の前身)を結成。有吉佐和子の「複合汚染」に紹介された。50 年、吉川英
治文化賞受賞。NHK 教育テレビ出演多数。平成 5 年 5 月 17 日死去(73 歳)。著作に「有機農業革命」など。
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12.
世界で初めて農薬の害を発表し環境汚染に警鐘を鳴らした医学者
著書『生命の医と生命の農を求めて』が伝える実践と活動
梁瀬義亮 医師(1920~1993)
戦後、日本の農業は大量の農薬と化学肥料の使用が普及していく中で、レイチェル・カーソン
よりも早い 1950 年代から、その毒性に警鐘を鳴らした偉大な医学者 梁瀬義亮 氏に学ぶ。
財団法人 慈光会より http://www.jiko-kai.org/organic/
有機農法について 緒言(1952 年)
昭和二十七年(1952 年)秋、私は現代の農法(近代農法)はただ量産と外観のみを目指した誤った農法であって、
農業本来の目的である「健康」と「生命」ということを忘れていることに気付き鋭意「健康」「生命」を主目的にした正し
い農法の研究に努力したのです。同時に農民の農薬による健康障害については特に注意深く観察し又警告をつづ
けて来ました。(1959 年)
昭和三十四年二月私は化学肥料(以下化肥と略称)と農薬を主体にした近代農法によって十年乃至二十年後に
は農村に癌、白血病、胃潰瘍、肝臓疾患、腎臓疾患、内分泌疾患、リューマチ性疾患、其の他の新陳代謝異常疾
患、又様々の精神障害、特にうつ病、原因不明の或は些細な原因による発作的、狂気的犯罪や自殺や交通事故
が多発することが必至との確信に到達し、データーと意見をパンフレットにして全国に配布し、又国会に毒性の強い
農薬の即時禁止、低毒性農薬の五年後の禁止、そのための近代農法の見直しと日本古来の農法の国家的規模
の研究を請願したのであります。
同時に現在の財団法人慈光会の前身である「健康を守る会」を組織して協力農家と共に完全無農薬完全無化肥
の有機農法の研究を行って参りました。すなわち完全無農薬無化肥の有機農法が、農薬使用により昆虫の生態系
が異常になった現在に果して可能であるか否か、可能であるとしても経済的或は労力的に可能か否か、生産量や
品質如何、等の研究であります。すでに稲作は二十一年、そ菜は三十年、果樹は二十年実施し
略満足すべき成果をあげて二千七百世帯の慈光会会員に頒布し、味、香り、日持ち等抜群とよろ
こばれています。
『生命の医と生命の農を求めて』 梁瀬義亮 著 地湧社 1998 年
近代科学に対する反省の姿勢を常に崩さず、深い祈りのうちに生涯精力的な活動を続けた梁瀬医師
の名著の復刻版である。有機・無農薬農業を日本でいち早く確立した一人の医師の思索と実践。
<梁瀬義亮 資料館より>
梁瀬医師は夜明け前から患者さんが並び、夜半まで診察が続く仁慈の医師でした。
患者の症状の深い観察と徹底した生活調査の中から、医学の発達に相反した有病率の急上昇、難病、奇病の多
発という、戦後の奇妙な現象の最大原因が農薬と化学肥料によって生産される農作物であることにいち早く気付き、
自らの身体で残留農薬の恐ろしい毒性を確かめた上で、日本民族存亡の危機を感じて立ち上がりました。
近代農法を「土を殺し、益虫を殺し、人を殺す死の農法」と警鐘を鳴らして、昭和 35 年には池田首相に直訴し、全
国を講演行脚し、多くの雑誌に投稿し、書物を著わしました。
同時に「生命の農」の研究に没頭し、遂に完全無農薬有機農法の原理と方法を確立して、「第二のノアの方舟」たる
財団法人慈光会を設立しました。心ある生産者と消費者が手を携えた、無公害食品の販売拠点が全国に先駆け
て五條の地に誕生したのです。
この活動は有吉佐和子氏著『複合汚染』にも紹介され、「昭和の華岡青洲」「日本の宝」と称えられました。同じ頃、
吉川英治文化賞を受賞し、国連機関である W.W.F(世界環境保護基金)の機関誌にも紹介され、世界的な反響を
呼びました。梁瀬医師が遺したメッセージは、混迷を深める現代の状況の下で、私達の進むべき道、人生を全うす
る道、永遠の生命を得る道を明確に示したもので、将来の子孫のための指針となることは間違いありません。
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12.1. 梁瀬義亮 医師からの遺言 「愛する子孫のために」
近代文明の暴走による地球環境破壊とそれに伴う人類生存の危機に接し、愛する子孫等が幸せな生存を続けることが
できるようにとの梁瀬医師の願いをまとめ、平成 2 年に日本全国および、全世界へ送ったアピールの全文です。
このメッセージは平成 4 年の WWF(世界自然保護基金)機関紙に掲載されています。
(了解を得て転載)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
愛する子孫の生存と幸せのためご尽力下さい。
(これは、過去に配布させて頂き、世界各国から多大な反響を得た声明文のオリジナルです。どうか御精読ください)
財団法人慈光会
前理事長 梁瀬義亮
拝啓
愛する子孫等が幸せな生存を続けることが出来ますよう、社会に影響力をお持ちの皆様に祈りをこめて、御尽力を
お願い申し上げます。
緒言
今や全世界に置いて地球環境の破壊による人類滅亡の危機を叫ぶ学者や有識者が多く、様々の会合が持たれ、
その声明が発表されています。然し、今尚、危機の現実が実感されず世界規模の具体的な解決への動きが見られ
ません。 生命と生態系を無視して果てしなく快適と贅沢な快楽を追求する近代文明は近い将来に置いて地球環
境と生態系の破壊を起こし、人類の滅亡をもたらすことを、三十年来私達は叫び続けてきましたが、今や恐れてい
た予想が現実となって現れて来ました。 もう対策可能の最後の時点に来ていると思われます。速やかな対策樹立
のご尽力をお願い申し上げる次第であります。
一、政治
武力による国家エゴの主張が如何に悲惨な結果をもたらすかは今や全世界の人々の周知のことであります。然し経
済力による国家エゴの主張が更にもっと悲惨な結果をもたらすことが未だ理解されず、世界中の国々は工業を主体
とした果てしない経済発展のみを目標にしています。その結果、後述の如き恐るべき人類滅亡の危機が当来しまし
た。今こそ国家エゴを捨てて世界中の国々が総力をあげ、互いに助け合って人類の永遠の生存と幸福のため進む
べき道を必死に求めるべき秋(とき)であります。近代文明の発達はもう国家単位の幸福の追求を許しません。 全
人類が協力して幸せな生存を求めるべき時代が来ています。差し当たって「共に生きる道を求める和の場としての
国連」の位置づけのため、各国が話し合い、次第に平和な世界国家建設に進むべきと存じます。
二、経済
大量生産、大量消費の現在の経済理念は誤りであります。地球資源は有限であります。もし、大量生産、大量消費
を押し進めるならば、ただに資源が涸渇するのみならず、地球上のあらゆる生物が依って以て生命を保っている大
自然の諸々のサイクル(例えば、動植物の O2 と CO2 のサイクル、水のサイクル、地上、地下の動植物、微生物に
よる生態学的サイクル等々・・・)が破れ、地球上の生命が死滅することは明らかであります。人間の快適と快楽の
追求は飽くまで大自然の諸サイクルを破壊しない範囲内にあるべきで、人類の生存のために現経済はもっと縮少す
べきであります。殊に紙や木材の再利用と重金属の回収、工業毒物の中和、家庭用洗剤の見直し等々は、森林を
護り、大地や水の汚染を防ぐため経済性を無視してでも国家予算によって行われるべきであります。
三、工業
工業は現在の経済推進のチャンピオンと見なされ世界中の国々が果てしない工業の発展を望んでいますが工業は
最も劇しく地球環境や生態系の破壊を行っています。煤煙による大気汚染、酸性雨、工業排水による河川、湖沼、
海洋の汚染、O2 の異常消費による CO2 異常蓄積、フロンガスによるオゾン層破壊、原子力発電による核汚染
等々・・・。地球の様々のサイクルを破壊し、自浄作用を害う現工業は、地球上の生命を絶滅します。正に「死の工
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業」です。 現工業の進捗はおろか工業先進国の工業は地球の自然を害しない程度までずっと引き下げるべきであ
り、工業の甚だしく遅れた国の工業進展もあくまで自然破壊の無い様に十分注意して行われるべきであります。
四、農業
農業こそ最も大切な基幹産業として重視されるべき産業であり、それは人類の生命の源であります。然し現在行わ
れている化学肥料と農薬を二大支柱とした農法については、私達は三十年前からその恐るべき害を叫びつづけて
います。この農法は生命を無視し生態系を無視した農法で「土を殺し、益虫を殺し、そして人を殺す」という恐るべき
欠陥があります。殊に農薬は地上の生態系を破壊するのみならず、人間の脳や神経系、内分泌系を侵し、微量と
雖も連続接種される時は二十年乃至三十年を経て癌、白血病、リューマチ、膠原病、肝障害等を起こし或いは、
自殺や犯罪の原因ともなります。 農法は永久に土が健康で且つ旺盛な生産力を保持し得る完全無農薬有機農
法でなければなりません。この農法は、土から出たあらゆるもの(有機物)を地上で土にしてから(好気性完熟堆肥)
大地に返すという生態学的輪廻の法則に忠実な農法であります。この農法は、可能であるのみならず、その収穫は、
質、量共に満足すべきものであり且つ、健康上、労力上、経済上極めて有利であることを三十年来私達は実践し、
証明しつづけて来ました。工業の縮少、完全無農薬有機農業の振興により全人類は永久に食と職を得るのです。
又、農業に於いては生命と健康への役立ちが第一眼目で、経済性のみを重視した現農業や流通機構は誤ってい
ます。その意味に於いて農業の保護政策は重大であります。 漁業についても現在の様にいろいろな装置を用いて
魚を必要以上にせん滅的に多く獲ることは誤りで、魚族の生態系を壊さぬ範囲内の漁獲にとどめるようよくよく調査
研究し且つ協定すべきであります。
五、医学
膨大な費用と多くの学者や医師の努力にもかかわらず、又その治療効果のすばらしさにもかかわらず現代医学は、
病気と病人の数を減らすことは出来ません。反ってそれ等は、増加の一途を辿っています。
現代医学は救急医学としては極めてすぐれていますが、結果的には「病気を治して病人をつくる」という欠点のある
事が事実として現れています。現代医学が見落としている重大な事実があります。それは極めて多くの病気は独立
して存在するものでなくて「誤った生活」という根の上に生えた雑草の如きものであるという事実です。
病気を病気という時点のみで、然も主として工学的発想と方法で解決しようとする現代医学は、根はそのままにして
地表に現れた雑草を刈る努力をしているにすぎないので、あくまで病気の一時押さえ的範囲を出でず病気と病人は
雑草の如くいくらでも、且つより強力に現れてきます。
救急医学的には極めてすぐれている近代医学に、「誤った生活の匡正による生命力強化」を目指した今一つの医
学、即ち「病源を絶つ新しい医学」が加わってはじめて病気が克服され病人がなくなるのです。この新しい医学は農
学、環境学、更には哲学や宗教とも密接な関係を持たねばなりません。
六、教育
人間社会を運営しているのは人間であります。それ故教育は青少年の全人格的向上を願って、正しい人間性のか
ん養を計るべきであります。現今の様にただ産業や経済に役立つための機械的人間をつくる教育は必ずや将来社
会に大禍をもたらすものと信じています。 正しい教育を施すため、科学教育の中に生態学を十分に織り込んで「生
命」に対する認識を深め、且つ哲学的立場から科学の何たるかを教えて科学迷信に陥らぬようにしなければなりま
せん。又大自然の意義とその恩恵を教え更に、宗教や芸術に対する正しい認識を深めるような情緒教育をもっとも
っと強化すべきと存じます。
七、宗教
人間を最高、至上と驕慢に錯覚して大自然の恩恵、大自然への畏敬を忘れ、更に一切の生命に対する畏敬と愛
をも忘れ、終には人間同志すらも生存競争の相手とまで考えるに至った現代人の妄想が地球破壊や公害という
「文明の暴走」の原因でありますから宗教こそ正に大活躍するべき秋(とき)であります。然るに今や宗教界は或いは
教団の維持にのみ汲々とし、或いは科学の何たるかを理解せず反って徒らに妥協、屈従して近代文明に媚び教祖
の説かれた超科学的真理を宣布し得ず、人類を救う業を行っていません。
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今こそ宗教界は近代文明とその推進者である科学の実状と本質と限界をよく理解し、その指導者としての権威を発
揮しなければなりません。又各宗教は個々の相違点はそのまま認め合い、理解し合い乍ら、その共通点たる「人間
を超えた叡智と愛と能力の実在の信仰」、「エゴに対する懺悔」、「愛(慈悲)の実践」という共通点で互いに手を握り
合い力を合わせて地球の滅亡を救う業に邁進すべき時であります。
但し宗教は理性の埒を超える超科学的要素がある故にしばしば贋物が現れて社会に害を与えます。 「人間を超え
た叡智と愛と能力の実在の信仰」、「自身のエゴへの謙虚な反省」、「日常生活における愛の実践のすすめ」 この
要素に欠けたものは邪教として排すべきであり、且つ宗教者の金満、奢侈、贅沢は絶対禁ぜられなければなりませ
ん。
すべての宗教を弾圧し、極右的な国家神道のみによって、国民を洗脳し他のすべての宗教を弾圧した明治の教育
や政策が如何に恐ろしい罪を日本国民に犯さしめ、且つ自国のみならず全アジア、全世界に大きな不幸をもたらし
たかを深く反省し心から懺悔すると共に、無宗教状態の日本の現在の文明が平和国家を標榜し乍ら一体何をなし
つつあるか、どうなりつつあるのかを反省して、今更乍ら「誤った宗教」及び「無宗教」による近代文明の暴走の危険
を膚寒く感ずるのであります。
結語
人類の生存は大自然と数限りない生命が織りなす大調和(生態系)の恩恵があってこそはじめて可能であるという、
この厳粛且つ重大な事実を見落として、人間が全く自己中心的に大自然を破壊、掠奪し、数限りない生命を奪いそ
の生活を破壊することが当然の権利であるかの如く錯覚した。その錯覚の上に打ち立てられた近代文明は今や崩
壊の危機に臨んでいます。私達は心から反省し懺悔し至急に徹底的に大方向転換しなければなりません。
然らざれば極く近い将来地球環境は破壊され、人類の滅亡が必至であります。今や匡正可能の最後の時点に至っ
ています。猶予すべきときではありません。全世界の国々は国家的エゴを捨て互いに相和し、相協力して愛する子
孫のため人類が永久に且つ幸せに生きられる道を早急にえらぶべきです。
人類の快適、快楽の追求には許される限度があり今の先進工業国はいろいろな点でその限度を遥かに超えていま
す。又工業後進国も工業先進国の贅沢が誤りであることを覚(さと)るべきです。
人間の幸福の最も大切な基本は心身の健康です。世界中が協力して贅沢よりも健康と平和を願い、大自然を畏敬
し、自然のサイクルを重んじて生活廃棄物の再生を重要視し、農業が工業以上に重んぜられ、正しい芸術や正しい
宗教が崇ばれる社会をつくることが、人類が永く地球上に生き残れる唯一の道と信じます。
以上のことをご理解の上速やかな解決へのご尽力を賜らんことを神仏に祈りつつお願い申し上げる次第であります。
合掌
12.2. 研究と実践を継ぐ「慈光会」の活動
財団法人 慈光会 HP より
http://www.jiko-kai.org/about/
1959 年(昭和 34 年)に、世界に先駆けて農薬の害に警鐘を鳴らした梁瀬義亮(やなせぎりょう)医師によって「健康
を守る会」として発足、1974 年に財団法人の認可を受けて財団法人「慈光会」となり、梁瀬医師の築いた人と生態
系を守る実践と啓発活動が続いています。慈光会は非営利団体であり、その目的は下記の通り案内されています。
▶慈光会の実践と活動
・完全無農薬有機農法の研究と実践
・完全無農薬有機栽培された農産物、及び、無添加純正食品の販売
・農薬公害、食品添加物公害、様々な環境問題に対する調査、研究、及び啓蒙活動
・公害問題の根本を正す、豊かな情操、真の教養のための文化活動
・慈光会の無農薬栽培の野菜、果物は定期配送で週 1 回(毎週月曜日発送)行っています。
財団法人慈光会 〒637-0042 奈良県五條市五條 2 丁目 311 の 1 tel.0747-23-1238 fax.0747-25-0994
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41
13.
お知らせ
13.1. 昨年 12 月にノートルダム教育修道女会から寄付金 10 万円を受領しました。
(引き続き、設立以来ご支援を頂いていますノートルダム修道院シスターの皆様の推薦により授与されました)
▶ノートルダム教育修道女会-国連 NGO スタッフの活動
ノートルダム教育修道女会は国連 NGO オフィスにスタッフが常駐して、戦争や紛争が日常化した 10 億人以上も
の兄弟姉妹が依然として貧困と飢餓に苦しんでいる世界の現実問題に対処されている。シスター方は貧しい人々の
中でも最も貧しくされた人々、孤児や捨てられたこどもたち等、支援が求められる地域に住み、地域にあって世界的
に生きる奉仕活動を行っているとのことです。その一環として、当会の「こどもたちが健やかに育つ生活環境保全」の
活動を支援して下さったのです。
<図書の紹介> 会報 10 号で寄稿して戴きました水野玲子氏からの贈呈です。貸出しいたします。
13.2. 『食べていませんかネオニコチノイド』
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 監修 水野玲子編著 2014 年 6 月 20 日発行
新農薬・ネオニコチノイド。毎日食べているお米や野菜、果物に使われている、私たちの体にも
影響を与える農薬のことです。ミツバチを大量死させたこの農薬は、私たちの身の回りにも溢
れるようになりました。ネオニコチノイドは少量でも効果が強く、減農薬を謳うために推奨されて
います。また、神経に働きかけて虫を殺すので、人間、特に幼い子どもの脳にも影響があると
いう研究が進んでいます。その効果は、昆虫だけにではなく、人間、特に脳が発達途上の子供
たちにも及ぶことがわかってきました。この農薬の危険性を、世界の動向を織り交ぜながらたくさんのカラーイラストで
わかりやすく伝えています。ミツバチを大量死させた新農薬・ネオニコチノイドは、私たちの身の回りにも溢れるように
なりました。「コバエがホイホイ」やゴキブリ駆除剤「ブラックキャップ」などは主成分がネオニコチノイドです。
▶空気質の向上啓発活動では引き続き、管理に優れた施設に表彰プレートを配布しています。
*空気質の管理に優れた施設の推薦をお願いします。(京都市外も可)
「空気質の管理に優れた施設」の選考基準
1.建物および敷地内の禁煙を徹底している施設であること
2.洗面所・トイレに芳香剤・消毒剤・殺虫剤・除菌剤などを配置・使用していないこと
3.複数で数回に亘る室内空気質の査察により決定する
4.目視と感度査察の結果により計測器による空気質の測定も行う
5.施設管理者の化学物質と健康影響への理解と室内空気質の保全対策
▶界面活性剤不使用の洗濯用洗剤 「ハッピーエレファント」 の購入方法について、
昨年、水環境保全策に推薦しましたが、最寄り店にない場合は、メーカー株式会社サラヤの電話注文も可能です。
(フリーダイヤル:0120-26-1610 または、公式通販、http://shop.saraya.com/guide/order.html で 購入可)
13.3. 平成 27 年度の総会ほか事業についての意見用紙を同封しています(2 月 10 日までに提出願います)
<編集後記> 2015 年元旦は真っ白い雪で開けました。“京都では 60 年ぶりの大雪など各地で積雪の”異常気象”、
年末に突如の解散・総選挙で潔白にリセットした政界とその後、そして、広島、長崎の被爆から 70 年、阪神大震災
から 20 年の節目の年に平和と安全を願う新年です。天災は避けられませんが、人災は許せません。
危険を見通し人災を指摘した勇気ある先人に学び、知らされなかった真実を紐解いて、この数十年、
多くの人々の健康と命が奪われた要因も人災であると理解し、この先を考える特集号としました。
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京都カナリヤ会会報第 14 号 (2015 年 1 月)
発行日
発行
2015 年1 月15 日
京都カナリヤ会 (編集責任者:広瀬晴美)
600-8127 京都市下京区梅湊町83-1 ひとまち交流館2 階
京都市市民活動総合センター メールボックスNo.57
FAX
E-MAIL
WEBSITE
075-344-0465
[email protected]
http://www.kyotokanariya.com/
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