iii はしがき 本書は成蹊大学アジア太平洋研究センターの助成による「日韓教育プロ ジェクト」の成果をまとめたものである。 「日韓教育プロジェクト」は 2003 年度から 3 年間のプロジェクトとしてスタートした。プロジェクトメンバー は,成蹊大学を中心に日本から 7 名,韓国から 2 名であった。しかし,3 年 間は長いもので,そのあいだにかなり状況が変わった。日本の大学で教鞭を とっていたプロジェクトメンバーの二人が母国の韓国の大学に移られた。ま た,日本人メンバーのなかにも研究で海外に出られたり,日本国内で大学を 移られたりする方もいた。したがって,本書に論文を寄稿していただいた 方々のなかに当初メンバーに入っていなかった方もいれば,当初メンバー でありながら残念ながら論文を寄稿いただけなかった方もおられる。こう した状況の変化にもかかわわらず,プロジェクトをかたちにすることがで きたのもこれにかかわってくださったすべての方々のおかげである。とく に,これまでこのプロジェクトにご協力いただいた Hyosun Kim 教授(現 Chung-Ang University(韓国・中央大学),前成蹊大学経済学部),田口誠教 授(成蹊大学経済学部) ,本多正人教授(国立教育政策研究所)には心から感 謝申し上げる次第である。 当初の状況が変わってしまったことで,期待されていた face-to-face によ る意見交換というものが困難なものになってしまった。それでも 2004 年の 3 月に成蹊大学において最初のコンファレンスを開催し,プロジェクトメン バーが一堂に会して中間発表の機会を設けた。その際,オブザーバーとして 下地誠教授(英国・ヨーク大学)と中野英夫教授(専修大学経済学部)にも 参加していただいた。その後,2005 年度末(2006 年 3 月末)の出版に向け てプロジェクトメンバーの方々に論文の提出をお願いしたものの,プロジェ クトリーダーである中神が関係する論文の完成に手間取ってしまい,プロ ジェクトメンバーの方々に多大なご迷惑をおかけしてしまった。プロジェク トが終了した 2006 年の秋に Taejong Kim 先生が教鞭をとる KDI School of Public Policy and Management で,小人数ではあったが 2 回目のコンファレ ンスを開催した。コンファレンスには韓国側のプロジェクトメンバーだけで iv なく,KDI School of Public Policy and Management の院生,そして明治学院 大学経済学部の神門善久教授と Korea Institute of Public Finance(韓国租税 研究院)の Junghun Kim 教授にも参加していただいた。とくにお二人には 貴重なご意見を賜り,ここに記して感謝申し上げたい。 本書はプロジェクトメンバーだけでなく,多くの方々の協力があってはじ めて生まれたものである。アジア太平洋研究センターの現所長の鈴木健二教 授(成蹊大学文学部)には,いつ終わるともわからない「日韓教育プロジェ クト」をいつも優しい眼差しで暖かく見守っていただいた。プロジェクト終 了から 1 年半余りでどうにか出版にこぎつけることができたのも鈴木所長 のおかげである。また,アジア太平洋研究センターのスタッフの方々にはプ ロジェクトのスムーズな運営を事務的にサポートしていただいた。私事で恐 縮ではあるが,アジア太平洋研究センターの歴代の所長である関口末夫教授 (成蹊大学経済学部名誉教授) ,富田武教授(成蹊大学法学部)にも日頃から いろいろなかたちで助言や励ましをいただいている。このような素晴らしい 研究環境に身を置くことができたことはこのうえない喜びである。 オリジナル論文はすべて英語で書かれた。本プロジェクトが日韓の教育を テーマにしていることから,プロジェクトリーダーの中神が英語による出版 にこだわり続けたからである。しかし,諸般の事情により,まずは日本語で 出版することになった。その意味では本書の出版は本プロジェクトの通過点 であり,英語による出版が実現してはじめて当初の目標が達成されることに なる。韓国から参加していただいたプロジェクトメンバーの論文は中神が翻 訳にあたった。英語を母国語としない者同士が英語を通してコミュニケー ションを図ることの素晴らしさを実感しつつも,言葉の壁を完全に克服する ということは容易なことではないと改めて感じた。校正の際,中神の拙い訳 に対してプロジェクトメンバーのお一人である平尾由紀子教授(成蹊大学経 済学部)から実に多くのコメントをいただいた。もちろん,不明瞭な箇所に ついては e-mail 等で著者と直接コミュニケーションを図るように努めたが, 誤りや理解しにくい部分が残っているとすれば,それは中神の力量不足によ るものであって,その点読者諸氏のご寛恕を賜りたい。 最後に本書の出版にあたり,快く引き受けていただき編集の労をとられた シーエーピー出版の杉谷繁氏に対し心から感謝申し上げる次第である。 2007 年 9 月 中神 康博・Taejong Kim v 目 次 はしがき iii 第 1 章 日韓における教育の課題(中神康博)·········································· 1 1 はじめに 1 2 日韓教育の課題 3 教育と政治経済学 2 9 4 おわりに:本書の構成 参考文献 22 27 第 I 部 日韓教育の現状分析 第 2 章 政治体制と政党 集団関係:日韓比較 (飯尾潤・大西裕・増山幹高) ··············································· 31 1 はじめに 31 32 2 省庁割拠制と大統領中心制 3 集団の政治的働きかけ 4 日韓における政党と集団 参考文献 34 40 44 付録 2-1 変数の基礎統計 45 付録 2-2 順序プロビット・モデル 46 第 3 章 教育の地方分権と政府間財政関係(青木栄一) ·························· 49 1 はじめに 2 分析的枠組 3 制度 49 50 54 4 ナショナルミニマムと地域格差 5 自律性と地方分権 6 おわりに 参考文献 69 76 79 81 第 4 章 韓国の教育財政とその改革について(Young Lee) ····················· 83 vi 1 はじめに 83 2 韓国の初等・中等教育財政 89 91 3 韓国の高等教育財政 4 韓国の高等教育に対する政府研究助成の性質 93 5 韓国における高齢化と教育システムへの影響 96 6 まとめと改革案 参考文献 97 100 第 II 部 教育需要と学校選択 第 5 章 教育需要と競争:良い学校に入学するために (Yoon Ha Yoo) ······························································· 105 1 はじめに 105 107 2 モデル 3 比較静学と均衡の性質 127 4 学校均等化対策の効果 134 参考文献 140 第 6 章 日本の法科大学院の経済分析(平尾由紀子) ···························· 141 1 はじめに 141 144 2 モデル 3 法科大学院の参入 156 4 最低合格ラインの社会的厚生への影響 5 おわりに 参考文献 159 160 161 第 7 章 混合 vs. 選別:韓国の高等学校の学業成績をめぐって (Taejong Kim・Ju-Ho Lee・Young Lee) ······························· 163 1 はじめに:学校編成における混合と選別 163 2 韓国における学校平準化:制度的な背景 165 3 データと実証方法 4 結果 174 5 おわりに 参考文献 付表 167 182 184 選別制・混合制以外の 5 教科平均点の決定要因 186 第 8 章 韓国における学校の質と塾需要(Taejong Kim) ······················· 187 目 1 はじめに 次 vii 187 189 2 背景:韓国の中等教育と塾 3 データと実証方法 194 4 実証結果:学校の質と塾に対する需要 200 203 5 おわりに 203 参考文献 第 III 部 教育財政 第 9 章 高齢化は教育費に影響するか ?:日本の義務教育の場合 (井上智夫・大重斉・中神康博) ·········································· 207 1 はじめに 207 2 日本の教育財政 209 217 3 理論モデル 4 データと推計方法 5 推計結果 229 6 おわりに 246 223 247 参考文献 付録 9-1 都市サンプルについて 付録 9-2 データの出所と定義 248 249 第 10 章 コミュニティ構成が地方公共サービス支出と経済厚生に 及ぼす影響(大重斉・中神康博) ········································ 251 1 はじめに 251 2 モデル構築にあたって 3 モデル 4 土地利用規制の影響 5 モデルの解釈 6 おわりに 253 255 274 参考文献 275 付録 10-1 276 付録 10-2 276 付録 10-3 276 付録 10-4 277 付録 10-5 277 269 259 viii 第 11 章 地方税の選択と社会的厚生(中神康博) ································· 279 1 はじめに 2 先行研究について 3 モデル 4 地方公共支出と最適課税 5 最適化されていない状況における社会的厚生の変化 6 実証分析と考察 7 おわりに 参考文献 279 282 284 287 297 302 309 309 索引 ································································································· 311
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