健康的な糖分

栄養 と料理 2014年 11月 号
日 々発展を遂 げ て いる
栄養分野を中心 に、
専門家 のアンテナに触 れた
食と健康 にかかわる
新情報をご紹介 します。
香 川靖 雄
女子養 霊 全 罰 ¥ 長 ・
自治医科大学名誉教授
9歳 の︲ 。7%が肥満 です。
は 2∼ 1
3
上︶ に当 てはめると、 アメリカ で
5以
す。 日本 の肥満基準 ︵
BM I2
5%ま で引き 下げ ること が日標 で
7%から
満 の子 ど も の割 合 を 、 1
0以上 の肥
030年 ま でにBM I3
︵
行 動 を 始 めま し ょう !︶ は、 2
防止 キ ャンペー ン ﹁
F″ 〓oくのこ
マ大統領夫 人 による子ども の肥満
2010年 2月 から アメリカ で
実施 され て いる、 ミシ ェル oオバ
と れば健康 によ いのかを 、最新 の
の嗜好 が生 じ る のか、どう砂糖を
そ こで今 回は、ど のよう に甘味
糖尿病 にかかり やす いから です。
イ ンスリ ン分泌 が半分程度 な ので、
べて、同 じよう に糖分をと つても
ほう が深刻。 アジ ア人 は自 人と比
よ る影響 は、 アメリカより 日本 の
嗜好 があ るから です。甘味嗜好 に
な理由 は、そも そも人間 には甘味
こ のよう なキ ャンペー ンが必要
がカ ロリー削減を宣言 しま した。
の実験 でわか って います。ごく最
って糖尿病が起 こることは、多く
過剰 に砂糖を摂取することによ
起 こしやすくなります。
血糖を上げ て肥満 や糖尿病などを
くさんの砂糖水を飲むと、急激 に
フトドリンクなど の形 で 一度 にた
働きを回復させます。しかし、 ソ
速 やかに血糖を上げ、脳や筋肉 の
い影響があるからにほかなりませ
ん。砂糖は疲れたとき や空腹時 に
いへん好まれるのは、脳や体 によ
最新 の脳科学 でわか った
こ の状 況を、保護者 や学校 、社会
近 の蘭か国 の膨大なデータからは、
リ ンク ー本 で1%上昇 す る計算
ること で糖尿病有病率がH% ︵
補
2o
%︶上昇することがわかり
正 でl
ました ︵
図 1︶。 およそ ソフトド
砂糖を1日あたり馴皿多く摂取す
脳科学 から考え てみまし ょう 。
砂糖が肉食動物以外 の動物 でた
メリ ット と デメリ ット
砂糖言る
が力を合 わせ て健康的な食事 がと
れる体制を作 り、また運動を推奨
す ること で改善 しよう と いう ので
す。 たとえ ば子ども たち が大量 に
飲 ん で いる ソ フト ド リ ンク では、
コカ oコー ラなど の大手食 品会社
104
Basu S,et a!.:PLoS One.8(2):e57873(2013)
図1 砂糖の消費量 と糖尿病有病率の変化
0
︲
5
■. ・・
亀
0
与
翼
5
糖尿病有病率の変化 ︵
%︶
200
100
0
‐
100
世界 175か 国の栄養 0糖 尿病調
査 により、砂糖 を1日 あた り
150kca:多 く摂取することによっ
て、糖尿病の有病率が1.1%(補
正で1.2%)上 昇する。
θ ●
です。
ここで大事 な こと は、 ほか の食
間 の夢 でした。 それを可能 にした
のが 、 フ アン ク シ ョナ ル M R I
味料を含 む ソフトド リ ンク のほう
コ︰ンシ ロ ツプ など果糖 の多 い甘
分解されてブドウ糖 になれば、 こ
持 つ味細胞は舌だけでなく、十 二
指腸、小腸 にもあり、 でんぷんが
されます。また、甘味 の受容体を
︵
室傍核など︶を活性化 し、そ の
外側核︶が抑制
結果、摂食中枢 ︵
ても砂糖と同様 に血糖値を上げる
ので、 これが視床下部 の満腹中枢
下部 で渇望 への信号 が抑制 されま
き には、血糖 が上が るため に視床
と、砂糖 やブド ウ糖を摂取 したと
合を f M RIで比較 します。す る
ロリー のあ る砂糖液と カ ロリー の
る のかを調 べるため に、まず 、 カ
甘味を受 容 したとき、脳 が カ ロ
いう神経細胞 の集まりに伝達され
一方、炭水化物は甘くなく
ます。
います。 にも かかわらず 、な かな
の味覚情報は迷走神経を通 って脳
す。と ころが、 アスパ ルテー ムや
︵
fMR I︶と いう方 法 です。
か ソフトドリ ンクが やめられな い
に届けられます。そして、小腸 の
マルト デキ スト リ ンなど の人 工甘
品 による糖質 の摂取増加だけ では、
のは、人間 の甘味 への嗜好 が強 い
グ ルカゴ ン様 ペプ チ ド ー ︵
GL
味料 の摂 取 では、血糖 が上 がらな
とごはんが
が有害 であ ること はよく知 ら れ て
いこと です。 しかも 、砂糖 よりも
l%しか糖 尿病有病率 が増加 しな
Oo
ため です。 そ こで、嗜好を支 配す
P11︶など のイ ンクレチ ンの分
いため にこ の応答 は観察 されま せ
い し い のは?
な い人 工甘味料液 とを摂取 した場
リーに反応す る のか甘 さ に反応す
る脳 のしく みが注 目された のです。
泌量が増え、膵臓 でのイ ンスリン
分泌が促されます。この甘味受容
ん でした。
これら の経路から の情報を総合
調 べてみると、砂糖液を与え ても
次 に、甘味を感受 す る島皮質 を
によ って、摂食行動を決定す る大
人 工甘味料液を与え ても、島皮質
最近 の脳科学 の目覚 ま し い発展
脳 の島皮質 の前 部 の役割 がわか っ
するのが、第 一次味覚野 の島皮質
と、それを上からおおう頭頂弁蓋
した人 で比 べた場合 、拒食 症 回復
から回復 した人、過食症 から回復
る島皮質 反応を、健常者、拒食 症
ちな みに、甘味 の感覚 で増加す
の活動 が活発となりま した。
てきま した。 な にを お いし いと感
部な のです。
ら か にな ってき た のです。
たとえ ば炭水化物を食 べたとき 、
まず働く のは、味覚 の神経 回路 で
では反応 が大きく なります。 しか
者 の反応 は小 さく、過食 症 回復者
このような脳 の活動を、体外か
し、砂糖液 の濃度をう す め て、舌
視覚化するfMRI
感受 され、 そ の情報 が顔面神経と
ら確認することは精神医学 の長 い
す。舌 の味曹 の味覚受 容体 で味 が
脳 の活動 を
じ る のかと いう基本的な機構 が明
起 こります。
体 による反応は、人工甘味料 でも
お墓
舌 咽神経を通 って延髄 の孤東核 と
105
ご
砂精消費量の変化量 (kcaソ 人/日 )
図2 野菜 と糖質の摂取順序 と1日 の血糖値の変化
雖 ▼
難 ▼
8 10 12 14 16 18 20 22 24
6
4
2
質 を先 に食べ た健常者
===糖
感 が得 られます。 私 たち の体 の エ
の神経伝達物質 が分泌 され て満 足
系 ﹂ に伝え ら れ、ド ーパ ミ ンなど
ると、島皮質 の判断 が ﹁
脳内報 酬
私たち がお いし いも のを 口にす
わ かりま した。
関連す る中枢 の異常 であ る こと が
と で、摂食障害 が島皮質 と それ に
食障害者 は大 きく異 な って いた こ
M R Iで調 べた島皮質 の活動 が摂
かります。闘値 が同じな のに、 f
れだ け砂糖 より甘 さが強 いかも わ
濃度 を調 べれば、人 工甘味 料 がど
度 は閾値と呼 ば れます が、閾値 の
じなく な った のです。 こ の最少濃
血糖 が上昇 しな いので、食事 後 の
しかし、人 工甘味料 では食後 に
に入 った﹂と いう 情報 になります 。
と ﹁エネ ルギ ー にな る食 物 が体内
し ょう 。甘味受 容体 が刺激 され る
高く 、すぐ に血糖を上げ るため で
G ︰︶ が
ミ ツク ・イ ンデ ツク ス ︵
や白米 が好ま れ る のは、グ ライ セ
て満 足感を生 じさ せます。白 パ ン
甘味受 容体 、味覚神経 などを介 し
AЮ神経系 ︶ や
ーパ ミ ン神経系 ︵
が強く活性化 さ れます。甘味 はド
眼宵前 頭皮質 、 お よび扁桃体 など
のです。砂糖 の摂取 では、島皮質 、
縁系 に伝え て初 め て満 たされ るも
え た ことを視床 下部 が感知 し、辺
います。 こ のう ち 、摂 取後満 足感
は、血糖 など食 物 の代謝産物 が増
摂取後 満足感 の2 つで構成 され て
食事 の満 足感 は、快適 な味覚 と
法 は、時 間栄養 学 にあります。時
感 を与え 、なお か つ肥満 を防ぐ方
適度 に糖質 をと って脳 にも満 足
し やすく なります。
質 が増え るた め、動脈硬化 を起 こ
師も います が、糖質 の代 わり に脂
な い極端 な低糖質食 をすす め る医
要 です。他方 、血糖 も体重も 上げ
を でき るだけ遅ら せ るく ふう が必
激 な血糖 の上昇 は害 があり、 これ
きま した。 しかし、砂糖 によ る急
く みも f M R Iで明ら か にな って
は食事 の楽 しみ でもあり、 そ のし
と って、砂糖 やご はんなど の糖質
寿命 を保 ってく れます。私 たち に
食 べ ても 甘 味 を 感 じ に く く な り 、
ネ ルギ ー摂取 の調節 に重 要な役割
報酬系 を活性 化 できま せん。 した
間栄養学 は、栄養素量 や エネ ルギ
とき に活性化 し、そ の個体 に快 の
を果た し て いる神経系 が、脳内報
が って、食後 の満 足感 がな いた め、
ー量 だけ でなく 、食 べる時刻 、速
が感 じ る最少濃度を 調 べると、 三
酬 系 な の です 。 こ れ は ﹁快 楽 中
報酬応答 が低 下し て、 さら に食 物
度 、順序 によ る健康 への影響を重
結 果 と し て カ ロリ ー のと り す ぎ か
枢 ﹂とも呼 ば れ、自 分 にご ほう び
を求 め る動機 にな ってしま います。
視 します。 具体 的 には、夜食 や夜
感覚 を与え ます。
を与え る神経 シ ステムです。報 酬
しかも 、人 工 の強 い甘 さ に慣 れる
のお菓 子を避 け る こと、 ゆ っく り
者 はま ったく 同 じ濃度 で甘味を感
系 は、欲求 が満 たされたとき、あ
と、自 然 の甘 さ の果物 やお菓 子を
防ぐ脳内 システムとは
砂糖 は、 じ ょうず に使え ば健康
糖質をじょゝ
つず に摂取
時間栄養学で
ら 肥 満 に つな が る恐 れ が あ り ま す 。
る いは満 たさ れ ること がわか った
過剰授 を
路の
時刻
娘▼
lmai S,et a!.:J Clin Biochem Nutr.54(1):7‐ 11(2014)
……… 野菜を先に食 べ た糖尿病患者
―…… 糖質を先 に食 べた糖尿病患者
・… … Ⅲ野菜 を先に食べ た健常者
野菜を先に食べると、糖質を
先に食べたときよりも、血糖
値の上昇が糖尿病患者でも健
常者でもおさえられる。
106
dOnary
圃圃圃囲 磁
コーンシロップ
トウモロコシな どのでんぷんか ら作 られる液
状 の果糖。安価 でソフ トドリンクや菓子 など
によく使 われる。 ブ ドウ糖 と果糖の混合液 で
ある高果糖 コーンシロップ (異 性化糖 )に は、
果糖 の割合 によリブ ドウ糖果糖液糖、果糖 ブ
ドウ糖液糖、高果糖液糖 などがある。
お菓 子を食 べても差 し支え な いで
は B mal lがき わ め て少 な いの
で、糖 尿病患者 でも少 し であ れば
逆 に、午前 0
1時 から午後 3時ま で
て肥満 に つながり やす いから です。
産物 の作 用 で糖質 が脂肪 に変 わ っ
夜 は B mallと いう 時 計 遺 伝 子
質 より先 に食 べること です。
食 べること、繊維 の多 いも のを 糖
である ヘモグ ロビ ン缶が大幅 に改
慣を 2年半続け て、血糖 の平均値
。﹁
です ︵
図2︶
野菜を先 に﹂ の習
尿病患者 でも実証されているから
えられることが、健康な人 でも糖
これによ つて血糖値 の上昇がおさ
多 い食物 よりも先 に食 べる のは、
野菜など繊維 の多 い食物を糖質 の
やす いこと が報告 され て います。
はゆ っくり食 べる人よりも肥満し
康 ・栄養調査 でも、速く食 べる人
な原因とな って いる急速 に血糖を
る でし ょう 。 さら に、肥満 の大き
栄養指導 にも活 かされる時代 がく
さを保 ちながら健康 を守 る今後 の
ま した。 ゝ
﹂
ヽ
つした成 果 が、お いし
のよう に活性化 させ るかがわかり
満腹中枢 で処 理され、報酬系 をど
快感 の信号 が島皮質 や視床 下部 の
f MR I検査 の導 入 で、味覚 と
さえ てしまう 面もあ るから です。
てしまう と料 理を味 わう喜 びを お
く、初 めから摂食 中枢を満足 させ
丁he reiationship of sugar to
nometric analysis of repeated cross‐ sectional
data.PLoS OneD3(2):e57873(2013)
Obemdorfer ttA,et al.:Altered insula response
to sweet taste processing after recovery
frorn anorexia and bu‖ rnia nervosa. Arn J
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nance imag:ng of human hypothalamic res‐
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K‖
patrick LA,et al.: !nfluence of sucrose
ingestion on bralnstern and hypotha!anlic
oscillations in lean and obese women. Gas‐
troenterology.146(5):1212‐ 1221(2014)
Kaplan DL: Eating style of obese and non‐
obese males. Psychosom Med.42(6):529‐ 538
(1980)
imai S,et al.: Effect of eating vegetables
before carbohydrates on glucose excursions
in pa‖ ents wittl type 2 diabetes.J Clin Bio‐
chem Nutr.54(1):7-11(2014)
107
★次号は「宗教家はなぜ健康長寿か」の予定です。
ー
し ょう 。食 べる速度を でき るだけ
善したと の報告もあります。健康
上げ る ソフトド リ ンクが改善 され
Basu S, et al.:
population‐ level diabetes prevalence:An eco‐
メ
ゆ っくり にす る のは、血糖値 の上
によ いとされる懐石料理 ではごは
れば、 ミシ エル ・オバ マ大統領夫
Suppl):284S‐292S(1995)
,
昇 がおさえ られ るから です。 ゆ つ
んを最後 に出し、
一般 の食事 でも
人 の目標 も達成 され るかも しれま
McDonald RB: lnfluence of dietary sucrose
on biological aging.Anl J CI:n Nutr.62(1
1 1
くり食 べると、満腹感 が得 られ る
甘 いデザートを最後 に出す のは、
参考文献
夜食 や夜 のお菓 子を避 け る のは、
うえ に摂取量を減 ら せ ると されま
せ ん。
グライセ ミック 0イ ンデックス (Gi)
糖質 が同量でも、食品によって血糖上昇率が
異なることか ら、食後 に血糖値 を上昇 させる
程度 を、食品 ごとに数値 で表わ したもの。
血糖値を急激 に上げな いだけでな
ファンクショナJレ MR:(fMRI)
機能的核磁気共鳴画像法 とも呼ばれ、脳の機
能 を画像化する方法。脳に強い磁力をかけて
特定の電磁波 を当てることで、脳が活動 して
いる場所の範囲や活動時間がわかる。
︲ ︵
す。平成 2
2009︶年 国民健
大目の島皮質
脳の外側面の奥、側頭葉 と頭頂葉 を分割 して
いる外側溝の内部に位置する。島皮質前部 は
味覚、内臓 自律系、恒常性機能などと関係 し、
後部 は聴覚、体性感覚、骨格運動 と関係する。
飢餓感や渇望 を生み出 し、食 べ物やアルコー
ル、麻薬などへの強い衝動 を作 り出す。