生徒の自己肯定感を高めるための養護教諭のかかわり方

沖縄県立教育センター
研修報告集録
第29集(2-1)
175ー180
2001年3月
<教育相談>
生徒の自己肯定感を高めるための養護教諭のかかわり方
ーミニ保健指導・交換日記を通して ー
金武町立金武中学校養護教諭
Ⅰ
テーマ設定の理由
大
城
孝
子
はグループで行動していることが多く,4月当初よ
り保健室への出入りも頻繁である。
急激な社会環境の変化は,生活様式や生徒の生活
反復する身体症状や主訴から ,
「生活リズムの乱れ
リズムを変え,価値観の多様化を生み出してきた。
からくる体調不良 」
「喫煙による影響 」「健康に対す
その結果 ,生徒の心身に様々なひずみを呈している 。
る正しい知識の欠如 」「教師への不満や不信感 」「学
今日 ,深刻な社会問題として ,子どもたちの喫煙 ,
習意欲の欠如」などが見られる。
飲酒,薬物乱用,性非行,いじめ,暴力,不登校な
保健室においては,傾聴的態度で接するとともに
どが年々増え続けている。こうした問題行動を起こ
心身の健康に関する正しい知識を理解させようと機
す根底に共通して存在するのが ,
「心」の問題である
会を見つけてはミニ保健指導を続けてきた。
ことが明らかになり,よりよく生きていく能力(ラ
その生徒達とかかわり続けていく中で「今の自分
イフスキル)の必要性が叫ばれ,保健室や養護教諭
を変えたいと思う反面 ,どうせやっても・・・ 」と ,
の役割が重要視されている。
自己否定的な気持ちや強い被害意識をもっている。
平成9年度保健体育審議会答申の中に養護教諭の
新たな役割として次のように述べられている。
また,健康に関する正しい知識の乏しさなども加わ
「養護教諭の職務の特質や保健室の機能を十分に
り消極的な学校生活,問題行動,身体症状の出現へ
とつながっているのではないかと思われる。
生かし,生徒の様々な訴えに対して,常に心的な要
そこで,不適応行動として体に生じる身体症状や
因や背景を念頭において,心や体の両面への対応を
問題行動を起こす生徒一人一人を大切にし,生徒が
行う健康相談活動(ヘルスカウンセリング)が一層
心安らぎ,自己肯定感を高めるための保健室におけ
重要な役割を持ってきている 。
」
る養護教諭のかかわりについて追求してみたいと考
本校において,問題行動傾向を示す生徒の大部分
Ⅱ
え,本テーマを設定した。
研究内容
1 研究の全体構想図
主環
体境
的的
要要
因因
ストレス
葛藤・欲求不満
研 究
テーマ
研究
仮説
生徒の実態
めざす生徒像
・身体症状
・問題行動
自己実現を図る
保健室の課題
心のオアシスとしての
機能充実を図る
生徒の自己肯定感を高めるための養護教諭のかかわり方
−ミニ保健指導・交換日記を通して−
保健室の場において,交換日記,ミニ保健指導を通し,できるだけ多くのかかわりを
持つことによって,生徒の心が開かれ,自己肯定感を高めることができるであろう。
理論研究
①保健室と問題行動
②ミニ保健指導について
③レターカウンセリング
④諸心理テストについて
実践での工夫
①プライバシーの保護に十分配慮する。
②担任との情報交換を行い, 連携を密にしながら
生徒の対応に当たる。
③家庭や専門機関との連携に留意し,生徒の問題
を的確に把握し,相談に当たる。
研修のまとめと今後の課題
- 1 -
実践研究
①ミニ保健指導
②交換日記(レターカウンセリング)
③諸心理テストの実施
2 保健室と問題行動
4 ミニ保健指導について
保健室は子どもの成長発達の観点から問題行動を
ミニ保健指導とは,養護教諭が保健室へきた生徒
とらえる傾向にある。子どもの問題行動や症状は
に,その生徒の状況に合わせ短時間に心身の健康づ
「心」の現れであり,外的には援助希求の自己表現
くりについて直接指導する保健指導のことである。
である。内的には葛藤の自己流の解決法や人格崩壊
実施上の留意点:①必要性を感じた事柄を発見し
の保護,歯止めであり,時には自己存在の確認でも
あるといわれる。
た時が最も生き生きとした指導を展開できるチャン
スである。②内容を絞り,より理解しやすい指導法
様々な問題行動は,現れ方こそ違え,いずれも根
を工夫する。③指導のねらいに最も合った教具を選
底に自己肯定感,自己信頼感,あるいは自己の感性
ぶ 。④一人一人の子どもの様子をふまえて実施する 。
に対する自信のなさが深く根を下ろしている。
⑤理解しやすい言葉を選ぶ。⑥指導後も継続指導を
3 レターカウンセリングについて
続けることにより生徒の生きた力につながっていく 。
レターカウンセリングのねらいは,問題の直接的
5 諸心理テストについて
な解決を目指すのではなく,相談者の内面的な問題
解決を援助する事である。
保健室で行われる健康相談活動は,もともと心に
問題が生じて身体症状を起こしてきたと思われる者
渡辺氏は,相談者の状況に合わせて次のような問
に対して,話し合い・相談を通じ,原因となった心
いかけの10段階を活用しながら進めていく事が大切
の問題を解決・緩和することにより身体的苦痛を解
であると述べている。
消しようという活動である。従って最も根本となる
表1
レターカウンセリングの10段階理論
生徒の心の問題が何であるか,どこから解決してい
第1段階:『肯定的関心の表明』
・うなずきやあいづちなどの肯定的関心を文章で表
して伝える。
第2段階:『反復確認』
・書き手の気持ちがよく表れている箇所を手紙の中
から取りだして,確かめる。
第3段階:『具体化』
・手紙に書かれている内容の中心的な所をとらえて ,
具体的に書くように導く問いかけをする。
第4段階:『内面化』
・読み手は,書き手の思いの背後に流れている感情
や ,その奧に潜んでいる欲求をとって問いかける 。
第5段階:『視点転換』
・読み手は書き手に相手の気持ちを察することがで
きるように問いかける。
第6段階:『過去の想起』
・読み手は書き手に,今までの,自分と相手とのか
かわりについて,思い起こすことができるように
問いかける。
第7段階:『未来の予想』
・読み手は書き手に,相手に対して,今のままの関
わり方を続けるなら ,これからどうなるだろうか ,
ということを思い描くことができるように問いかける。
第8段階:『状況対処』
・読み手は書き手に,現在の状況に対して,どのよ
うに対処したらよいかを問いかける。
第9段階:『吟味検討』
・読み手は書き手に,書き手自身が考え出した問題
解決の方法が,状況に対して,適切であるかどう
かを問いかける。
第10段階:『助言提案』
・読み手は書き手に,一つの可能性として,書き手
自身の対処の仕方を提示する。
ったらよいか,その手がかりを得る事が必要不可欠
である。その際,心理テストは最も有効な手段であ
ることから,次のような心理テストを実施した。
(1)
エゴグラム
エゴグラムとは,自分の性格上の問題点を自己分
析によって気づき,他人との人間関係を自分でうま
くコントロールできるように学習していく方法であ
る。エゴグラムでは,人はだれでも3つの私(自我
状態)をもつと考えられ,心的エネルギーは一定で
あるというデュセイの恒常仮説に基づいて,自我状
態のエネルギー量をグラフで表したものである。
3つの私とは,Parent(親の自我状態), Adult
(大人の自我状態 )
,Child(子どもの自我状態)の
ことである。Pはさらにcritical P(批判する私)
とNurturing P(やさしい私 )
,CはFree C( 自由な私 ),
Adapted C(人に合わせる私)に分けられる。
(2)
バウムテスト
「樹木画テスト」とも呼ばれ,描かれた樹木は自
己の意味をもつとされる 。幹は人間の体(芯の部分 )
,
枝葉は人間の心の広がりというように描かれた木の
形を人間の内面的全体像に置き換えてみていき,そ
こに人間の内面が写し出されるものである。
(3)
動的家族画(KFD)
この検査は,家族全員の特徴,シンボル,スタイ
ル,行為の4側面から分析される。誰が誰と相互作
用しているといった行動や,又,養育行為,攻撃行
為などの背後にある感情を扱うことが可能であり,
家族内での自己の成長を理解する1つの方法である 。
- 2 -
Ⅲ
指導の実際
訴え,保健室利用を繰り返している。健康について
の正しい知識に乏しいこと,生活リズムの乱れ(朝
食抜き, 睡眠不足 )からくる体調不良 ,喫煙の影響 ,
1 ミニ保健指導
(1)
自他否定的な言動から学校での人間関係がうまくと
これまでの経過
3年生の女生徒4名は,服装容儀違反,反抗的態
れない事で保健室利用を繰り返していると思われた 。
きた。個々の生徒との話し合いにおいては素直な自
保健室では生徒の身体症状にはきちんと対応して
いくとともに,休憩時間に機会を見つけては15分程
分を出すが,集団になるとマイナスのエネルギーを
度のミニ保健指導を続けてきた。
度,無断欠課等で機会ある毎に教師の指導を受けて
各担任とは生徒についての情報交換や対応のあり
出す傾向にある(3年担任の声 )
。学校や地域におい
方について,その都度連携を図ってきた。
ても,行動を共にしていることが多い。
4月始めより頭痛,腹痛,気分不良,倦怠感等を
(2)
指導の全体計画
①
ねらい
ア 心身の健康について正しい知識を与えることにより,自分の生活態度やものの考え方を見直すきっかけづくりをする。
イ
ウ
②
④
グループ指導を通して一人一人が自分自身を良い方向へ高めていこうとする雰囲気づくりをする(集団になった時のマイナスエネルギーを減らす )。
4月に話し合った合い言葉「みんな一緒にいい思いで卒業しよう」の達成をめざす(1学期からの継続指導)。
時間:休憩時間(20∼25分程度)
③ 場所:2階進路指導室(視聴覚設備を利用するため)
方法:ビデオ,掲示資料,プリント,話し合い活動
⑤ 対象:3年生女子4人
時
①
期 日 項目
ね
ら
い
指
導
内
容
10/24火
自分の心の状態を見る方法 ①エゴグラムについて知る。
自 があることを知る。
②自分のエゴグラムを作成する。
②
11/15水
③
11/16木
④
11/17金
分
の
心
③自己肯定度チェック表の記入。
自己肯定度チェック表
人はみな5つの自我状態を 5つの自我状態とはどんなものかを 日頃の行動を通して具体例を示しな 掲示資料
もっている事を理解する。 知る。
がら理解させる。
プリント
を
知
ろ
う
今の自分の心の状態を考え ①エゴグラムから今の自分を知る。 エゴグラムを見る時の留意点を理解 エゴグラム表
もっと自分を高める方法に ②一番低い自我状態を知り高める方 させる。
プリント,掲示資料
ついて理解する。
法について知る。
持続実践可能な事から決めさせる。
③自分の決めた事を紹介する。
④4人で実行できるものを考える。
自分の喫煙状況を振り返る ①煙草アンケートの記入。
②煙草アンケートより話し合い。
⑤
11/20月
煙
⑥
11/22水
と
ビデオを通してこれまでの ビデオ視聴,感想文の記入。
ビデオを見る視点を知らせる。
喫煙を考える。
喫煙の害について知る。① 喫煙によってすぐに現れる体の変化 副流煙の影響を理解させる。
⑦
11/24金
健
喫煙の害について知る。②
⑧
11/27月
康
煙草の正体を知る。
⑨
12/8金
ビデオ,記録用紙
掲示資料,煙草人形
を確認する。
煙で汚れた肺の模型,写真
喫煙習慣によって起こる病気を知る 胎児への影響も大きい事を強調し, 掲示資料,写真
「肺ガン」だけではないこと。
理解させる。
①煙草の成分とその作用を知る。
ニコチン依存は薬物中毒であること 掲示資料,プリント
減らし ,禁煙していく方法を考える 。
③自分が実行可能なものを決める。
二 次 性 徴 や 脳 に つ い て 知 ①二次性徴について知る。
心は脳にあることを理解させる。
12/15金
性
教
育
る。
②脳の仕組みや働きを知る。
生命誕生の経過と母子の絆 ①(私)が生まれてきた経過を知る。
の深さを知る。
②誕生日は誰が決めるかについて話
し合う。
1/19金
⑫
1/22月 ま と エゴグラムの変化を見る。
め
①
煙草アンケート用紙
②煙草1本を溶かした水の観察。
を理解させる。
煙草溶液
4人一緒に禁煙に努力する ①これまでの禁煙体験談を話し合う 将来の自分を考え,今真剣に向き合 プリント
雰囲気をつくる。
②日常生活で今日からすぐに煙草を う大切さを強調し理解させる。
⑪
(3)
正確に記入させる。
・喫煙開始の動機。
・よく吸うようになった理由。
・今どうしたいかについて。
喫
⑩
指 導 の 留 意 点
教 材・教 具
今の気持ちにそって質問紙の項目を プリント,掲示資料
記入させる。
エゴグラム質問紙
①自分のエゴグラムを作成する。
②自己肯定度チェック表の記入。
指導後の考察
ビデオ「こんにちは13才」
前頭葉の成長に努力させる。
選ばれた「私 」である事を知らせる 。 掲示資料
誕生日は赤ちゃん自身が決める事を
理解させる。
10月のエゴグラムと比べ,変化して エゴグラム質問紙,プリント
いる所に注目させる。
自己肯定度チェック表
のへの気づきのきっかけができたのではないかと思
自分の心を知ろうについて(①∼③)
われる。それぞれが次のような成長技法を心がける
「これが心? 」
「信じられん 」
「当たっているさ 」
「む
ずかしいさ」の感想。自分のエゴグラムと友達のも
ことを約束した。
A子(NPを高める ):ありがとうをいう。挨拶をする。
のを互いにのぞきあったり,4人の共通している部
分を説明するとお互いに笑っている。自分というも
今,相手がどんな気持ちだろうと考える。
B子(NPを高める ):そこがあなたのいいところです。
- 3 -
挨拶をする。自分の意見をいう前に人の話を十分聞く。
レスを強調し拒否。保健室では受容と共感の態度で
C子(NPを高める):元気ですかの言葉をいう。自分や家
接することに徹し,時には将来の夢などについて話
し合いをするように努めてきた。
族のいい所を考える。挨拶をする。
その後,教師不信,家庭状況,私がこうなった理
D子(ACを高める):相手がどう感じているか考える。
由等を話し始めた。バウムテストでは内向的で心の
これでいいですか。小さい子や兄弟の世話をする。
4人が頑張る事:(挨拶をする。物事の結果を考えて行動する。
)
終了後,各担任に生徒の様子を報告し,各自が決
めた頑張ることに励ましの言葉かけを依頼した。
②
エネルギーが乏しく,エゴグラムはNPを底とし,
ACへと上がり,自他否定的傾向を示していた。担
任とはその都度,連携を図りながら対応してきた。
喫煙と健康について(④∼⑨)
心理テストの分析考察は,スーパーバイザーのア
ねらいに関連するアンケート結果を下記に示す。
①よく吸うようになった理由:学校がおもしろくないから
(3人),気持ちが満たされない(1人),おいしい(1人)
②その時期:小4(1人) 中1(1人) 中2(1人) 中3(1人)
③誰と吸うか:友達と(4人)
④周りの人への害:ある(1人) ない(2人)わからない(1人)
⑤今,煙草をやめたいか:わからない(3人),はい(1人)
最後の指導では全員が「やめたい」と答え,4人
ドバイスを受けている。
(2)
レターカウンセリングを取り入れた交換日記
10段階理論を活用した交換日記の中から,次の段
階を取り入れた交換日記は,下記の通りである。
① 第2段階(反復確認 )と第6段階(過去の想起 )
A子:今からチコクしても教室に入り,F先生に
顔見せにいくよ.
で実行する禁煙の努力事項を次のように決めてきた 。
T:チコクしても教室に入り,F先生に顔を見せ
1 煙草は買わない,持たない。 2 水を多く飲む。
に行くと書いているA子さん,5月頃教室に入りづ
3 自分で止めると決める 。4 「煙草はやめられる 」
らい,人の目がこわいといっていたA子さん,今で
を貼って毎日見る。
5 家から灰皿をなくす。
はクラスメイトや先生の事が自分にとって受け入れ
指導後,A子からの電話があった際,一緒にいる
やすく感じてきたんだね。いつ頃から気持ちの変化
他の女生徒からも煙草をやめる努力をしている話題
を感じるようになったのかな。
がよく出るようになった 。終了後 ,各担任に報告し ,
励ましの言葉かけを依頼した。
③
A子:2年の時はイライラの毎日だった。先生と
会うのもイヤ,朝の会出るのもイヤな毎日だった。
性教育指導において(⑩∼⑪)
だけど今は違う。A子が欠課したらF先生が一番心
性器の名前や働きは小学校の段階で学習している
配してくれる。今までは本当に嫌いだった。しかし
が,知識としてはあまり理解していなかった。ホル
前は前だと思う。今は今しかない。一日一日大切に
モンについての説明をした時,A子:「ホルモンは何
過ごしたい。クラスメイトや担任と。
からつくられるの」と興味深そうに尋ねてきた。誕
生日は赤ちゃん(あなた)が決めることや選ばれて
考察:過去の想起を促すことにより,これまでの
苦しかった出来事やくやしい思いを書いていく中で
この世に生まれてきた私であること,母親と赤ちゃ
過去から現在,未来へと歩んでいこうとする気持ち
ん(あなた)がともに頑張って初めて健康に生まれ
が高められてきたのではないか。さらに「前の自分
てくることができる。親子の絆ほど深いものはない
ではない ,変わったよ 」
「叔母さんと家庭学習始めた 」
ことを強調すると ,
「初めて知った」と言いながら驚
「友達にA子変わったねって言われ嬉しかった 」
「夢
いた表情でいつもより静かに話を聞いていた。
に向かって頑張る 」という事を繰り返し書いてきた 。
以前「母親は好きか 」との問いに4人とも「嫌い 」
の返事だったが,今回,母と自分との関係について
考えるきっかけになったのではないかと思われる。
2 A子とのかかわり
(1)
これまでの経過
A子は,ミニ保健指導の対象になっている生徒の
リーダー的存在である。遅刻,早退,欠席が多く,
反復する身体症状を訴えての保健室利用が特に多い 。
5月に吐血,頭痛,食欲不振,微熱で受診を促す。
(H12 9/20)
胃からの出血の疑いといわれ服薬療法で軽快するが ,
断続的な微熱と頭痛があり,再受診を勧めたがスト
- 4 -
絵1
ア
(H12 11/2)
バウムテストの変化
バウムテストの分析
絵1より,バウムが大きく幹が太く変化してきて
考察:視点転換を促すことで相手の気持ちを考え
いることから, 自分がとても元気になりしっかりし
るようになり,父との会話,母との交換日記を始め
てきたようだ。木の影に隠れてクラスの中を覗いて
るようになったと思われる。
いる(A子の説明)のは,まだクラスでの人間関係
しかし,頑張ろうと努力している事を書いてくる
に不安を持っているのではないかと解釈される。
が,調子が悪くなると「ムカツク」と言ったり,喫
電話相談時,A子は朝起きる時,頭痛で学校を休
んだが ,午後からはよくなると話している 。担任は ,
煙や化粧などから心の不安定さが見られる。病欠が
あまり改善しないことから,担任と相談し,A子が
最近ではA子から話しかけてくるようになったが,
病欠の日に家庭訪問を実施した。医療機関への再受
体調不良を訴え早退が多い。絵1の分析などから,
診,生活リズム,朝食の大切さ, 両親との会話,思
担任と相談し「エゴグラムを通して自分の心を知ろ
春期の子どもの気持ちなどについて話し合いを持っ
う」の学級指導を実施した(担任と養護教諭とのT
た。母親は初対面の養護教諭の家庭訪問で初めは少
・T指導 )
。
し緊張していたが,話し合いをしていく中で母親の
若い頃の話しなどをしてくれた。最後に「今晩さっ
そく家族会議をします 。
」と伝えてきた。担任へ報告
し,その後の対応について話し合った。
電話相談時,視点転換を繰り返し続けていくと,
父親との様子を次のように書いてきた。
A子:今は父とよく話すようになった。学校の事とか友達
の事とか家族の事とかいっぱいいっぱい話しているよ。A
子が学校から帰ってくると,
「今日はどうだった」って毎
絵2
イ
動的家族画 (H12 11/7)
日っていうくらい聞いてくるよ。たまにはうるさいって思
動的家族画の分析
うこともある。いつのまにか普通に話すようになった。
上記の動的家族画より,両親とのかかわりを次の
ように推測できた。
A子は母親を身近な存在として感じているようだ 。
父親は家庭の経済的支えとしては認めているが,A
子との精神的交流が十分できていないのではないか 。
②
第5段階(視点転換)
A子:父とは口をきかんようにしている。母に交
換日記しようといわれたので何でと聞いたら ,
「もう
受験だから」と言われた。変だったから断った。
絵3
T:A子さんがお父さんになったつもりで娘のA
ウ
子をどう思っているか,娘(A子)から口をきいて
動的家族画(H13 1/10)
動的家族画の分析
上記の動的家族画より,A子と父親との距離が近
もらえないお父さんはどんな気持ちになるだろうか 。
くなり ,家族全員が食卓(連帯感 )を囲みテレビ(安
お母さんはどんな気持ちからA子に交換日記をしよ
息)を見ながら食事をしていることから,家族間の
うといったのかな。A子さんがお母さんになったつ
人間関係が改善されてきたようである。
もりで書いてみてね。
エ
A子:考えてみたら,このままずっと父としゃべ
らなくなったら後で後悔するから,元の父になって
ほしくないから,今はできるだけしゃべるようにし
ている。たしかに母はA子の事考えて交換日記しよ
うといってくれたけど ,でもすぐに断ってしまった 。
でも考えてみると,今交換日記しないとずうっと後
悔すると思って ,
「ゴメン」って言って交換日記2人
でしようっていったら,涙目で「ウン」って言って
くれた 。その時何でかわからないけどうれしかった 。
絵4バウムテスト
(H13 1/11)
- 5 -
バウムテストの分析
絵4のバウムで初めて枝がで
てきたことから,対人関係がで
き始めてきたのではないかと思
われる。しかし,バウム全体が
左よりになっていて幹が前回に
比べ細くなっている。木の根元
に草がはえている。枝について
いる一枚一枚の葉の葉脈がきち
んと書かれている。落葉を書い
ていることなどから,A子の葛藤
や不安定さ,落胆などが感じられる。
考察:電話相談時,以前は話すことに消極的だっ
Cの差が小さくなり,人との協調性やNPが上がり
た父親のことや仕事の内容も伝えてきた。
それぞれが全体的に心のバランスが良くなってきた 。
思いやりの心などが高まってきたようである。4人
その後,身体症状の訴えは消失している。将来の
(2)
自己肯定度チェック表(
10月と1月)より
夢に向かい,明るく前向きに努力していこうとする
自己肯定度は表2のように,各自その度合いが高
気持ちと,学業の遅れから目前に迫った受験に対し
てのあせりや不安,ヤケになろうとする気持ちとを
くなっていた。レターカウンセリングを取り入れた
交換日記を実施したA子の自己肯定度は3点(指導
繰り返し話すようになった。クラス全体が受験的雰
前)から9点(指導後)と大きく上がっていた。
囲気になるにつれ,再び登校をしぶる傾向が見られ
表2 自己肯定度チェック表の結果
る。今,A子は受験や卒業を控え,揺れ動く自分自
(4点以下は自
身を見つめているようである。
己肯定度が低い) 10月1月
今後も担任や父母との連携を取りながら継続支援
(A子)
(B子)
(C子)
(D子)
10月1月
10月1月
10月1月
自分自身の事(0,3) (1,1) (1,1) (0,3)
をしていきたい。
友達関係の事(3,3) (3,4) (2,3) (3,3)
3 仮説の検証
学校生活の事(0,0) (0,0) (0,0) (0,1)
(1)
エゴグラムより
家庭関係の事(0,3) (1,2) (1,3) (1,1)
A子のエゴグラム
100
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
CP
NP
合 計
B子のエゴグラム
A
FC
Ⅳ
(5, 7)
(4, 7)
(4, 8)
まとめと今後の課題
1 成果
AC
CP
10月
1月
C子のエゴグラム
(3,9)
NP
A
FC
(1) 反復する身体症状や問題行動傾向を起こして
きた生徒に,その状況に合わせたミニ保健指導,時
AC
間や場所に拘束されないレターカウンセリングを取
D子のエゴグラム
り入れた交換日記を実施していくことで,正しい知
100
100
80
80
識の理解と判断力を高めることができ, 身体症状の
60
60
40
40
消失,問題行動の改善等が見られ,自己肯定感を高
20
20
0
0
CP
NP
A
FC
AC
めることができた。
CP
NP
A
FC
(2)
AC
諸心理テストを活用することで,生徒自身の
自己理解を促すことができた。また,教師は不適応
図1 生徒4人のエゴグラム
行動を起こしてきた生徒の心の問題点を把握して,
図1より,A子,B子,C子の10月(指導前)の
エゴグラムは共通してNPを底とし, ACに上がっ
支援することができた。
2 課題
ていく谷型でNPが低いため他の人との暖かい交流
(1)
今後,ますます様々な問題を抱えた生徒たち
が持ちにくく,ACが高いため自分に対して肯定的
が保健室にやってくると予想される。その心理的背
構えがとりにくい自他否定的傾向が見られた。1月
景をより適切に把握し接して行くために,諸心理テ
(指導後)はともにNPとAが上がり,思いやりや
ストの理論研修及び活用を継続していく必要がある 。
寛大な心,客観的な物の見方や判断力などが高まっ
(2)
ミニ保健指導をより効果的に継続していくた
てきた。又,AC<FCとなり自分に対して肯定的
めの日頃からの資料収集と,その実践活動を通し,
な気持ちがもてるようになってきたと思われる。D
保健室から学校全体への健康教育活動の取り組みへ
子の1月のエゴグラムでは,ACが上がりFC>A
とより発展させていくことが今後の課題である。
<主な参考文献>
杉浦守邦
1998
『心理テストの進め方・読み方』
東山書房
渡辺康麿 1998 『レター・カウンセリング』 学陽書房
出井美智子 1991 『子どもの心がわかる養護教諭に』 学事出版
- 6 -
- 7 -
- 8 -