論文審査結果の要旨 氏名 関 信夫 ラ ク チ ュ ロ ー ス は 、乳 糖 を 原 料 と す る 難 消 化 性 の オ リ ゴ 糖 で あ り 、整 腸 作 用 等 を 有 す る 。本 論 文 は 、ラ ク チ ュ ロ ー ス の カ ル シ ウ ム お よ び マ グ ネ シ ウ ム 吸 収 促 進 効 果 と ラ ク チ ュ ロ ー ス 、カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 含 有 顆 粒 の 長 期 摂 取 に よ る 体 組 成 へ の 影 響 を ヒ ト 臨 床 試 験 に よ り 検 討 し た も の で あ る 。内 容 の 一 部 は す で に 2 報 の 英 語 論 文 で 発 表 さ れ て い る 。論 文 の 内 容 は 以 下 の と お り で あ る 。 第 1 章 は カ ル シ ウ ム と マ グ ネ シ ウ ム の 栄 養 学 的 な 重 要 性 と 、摂 取 の 実 態 、そ し て ラ ク チ ュ ロ ー ス が こ れ ら の 栄 養 素 の 吸 収 促 進 効 果を有する可能性などについて紹介したものである。 カ ル シ ウ ム と マ グ ネ シ ウ ム は 、体 内 に 多 く 含 ま れ る ミ ネ ラ ル で あ り 、私 た ち の 健 康 の 維 持 ・ 増 進 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。し か し な が ら 、日 本 人 に お け る カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム の摂取量は十分ではない。また、カルシウムとマグネシウムは、 そ の 吸 収 率 が 比 較 的 低 く 、摂 取 量 と 共 に そ の 吸 収 率 も 考 慮 す る 必 要があると考えられている。 ラ ク チ ュ ロ ー ス に よ る カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム の 吸 収 促 進 効 果 に 関 す る 動 物 実 験 の 報 告 は 複 数 あ っ た が 、ヒ ト 臨 床 試 験 の 報 告 は 、閉 経 後 の オ ラ ン ダ 人 女 性 に 対 す る カ ル シ ウ ム の 吸 収 促 進 の み を 評 価 し た も の し か な か っ た 。そ こ で 、 第 2 章 で は 日 本 人 に 対 す る ラ ク チ ュ ロ ー ス の カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 吸 収 促 進 効 果 を 確 認 す る た め に 、臨 床 試 験 を 実 施 し た 。カ ル シ ウ ム の 吸 収 促 進 に 関 し て は 、日 本 人 を 対 象 と し た 初 の ヒ ト 臨 床 試 験 で あ り 、マ グ ネ シ ウムの吸収促進については、世界初のヒト臨床試験である。 方 法 は 尿 中 へ の カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 排 泄 量 を 指 標 と し て 、 ラクチュロースのカルシウムおよびマグネシウム吸収促進効果 を 検 討 す る も の で あ る 。 試 験 デ ザ イ ン は 、 24 名 の 成 人 健 常 男 性 を 被 験 者 と し た 3 剤 3 期 の ク ロ ス オ ー バ ー・シ ン グ ル ブ ラ イ ン ド 試 験 と し た 。 ラ ク チ ュ ロ ー ス 0 g( プ ラ セ ボ )、 2 g( 低 用 量 ) ま た は 5 g( 高 用 量 ) と カ ル シ ウ ム 3 0 0 m g 、 マ グ ネ シ ウ ム 1 5 0 m g 含 有 する試験食品 を調 製し、朝食と共に 摂取させ、以後 2 時間毎に 8 時 間 後 ま で 尿 を 採 取 し 、尿 中 に 含 ま れ る カ ル シ ウ ム お よ び マ グ ネ シ ウ ム 量 を 測 定 し た 。摂 取 8 時 間 後 ま で の 尿 中 カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 総 排 泄 量 は 、ラ ク チ ュ ロ ー ス 摂 取 量 と と も に 用 量 依 存 的 に 上 昇 し た 。 カ ル シ ウ ム は 低 用 量 ( 2 g ) と 高 用 量 ( 5 g )、 マ グ ネ シ ウ ム は 高 用 量( 5 g )に お い て プ ラ セ ボ と 比 べ て 尿 中 総 排 泄 量 は 有 意 に 増 加 し た 。本 試 験 に よ り ラ ク チ ュ ロ ー ス に よ る カ ル シ ウ ム およびマグネシウム吸収促進効果が示唆された。 尿 中 へ の カ ル シ ウ ム お よ び マ グ ネ シ ウ ム 排 泄 量 の 上 昇 は 、ラ ク チュロースによる腸管吸収促進効果に起因したものだけではな く 、骨 吸 収 の 促 進 効 果 や 腎 臓 に お け る 再 吸 収 の 阻 害 効 果 に 起 因 し て い る 可 能 性 を 否 定 す る こ と は 出 来 な い 。そ こ で 、第 3 章 で は 特 定の安定同位体比を高めた試験食品摂取後の尿中安定同位体比 を 指 標 と す る こ と で 、ラ ク チ ュ ロ ー ス の ミ ネ ラ ル 吸 収 促 進 効 果 を 検 討 し た 。試 験 食 品 中 の 存 在 比 が 高 い 安 定 同 位 体 が 尿 中 に 多 く 排 出 さ れ れ ば 、尿 中 に 排 泄 さ れ た カ ル シ ウ ム お よ び マ グ ネ シ ウ ム が 試 験 食 品 由 来 で あ る こ と を 証 明 す る こ と が 可 能 で あ る 。試 験 デ ザ イ ン は 、第 2 章 と 同 様 の デ ザ イ ン と し た が 、シ ン グ ル ブ ラ イ ン ド を ダ ブ ル ブ ラ イ ン ド に 、ラ ク チ ュ ロ ー ス 高 用 量 を 5 g か ら 4 g に 変 更 し た 。そ の 結 果 、尿 中 の 安 定 同 位 体 比 は 、ラ ク チ ュ ロ ー ス 摂 取 量 に 対 し て 用 量 依 存 的 に 高 ま り 、プ ラ セ ボ に 比 べ て 、カ ル シ ウ ム で は 高 用 量( 4g)で 、マ グ ネ シ ウ ム で は 、低 用 量( 2g)と 高 用 量 ( 4g) で 安 定 同 位 体 比 の 有 意 な 上 昇 を 示 し た 。 以 上 の 結 果 よ り 、 ラ ク チ ュ ロ ー ス は カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 吸 収 促 進 効 果 を 有 す ることを確認できた。 第 4 章 で は 、ラ ク チ ュ ロ ー ス 、カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 含 有 顆 粒 の 長 期 摂 取 に よ る 体 組 成 へ の 影 響 を 検 討 し た 。こ れ は 近 年 カ ルシウムやマグネシウムによる体脂肪増加抑制効果等が報告さ れ て い る た め で あ る 。 35 歳 以 上 の 日 本 人 女 性 を 被 験 者 と し て 、 1 日 あ た り 、 ラ ク チ ュ ロ ー ス 4g、 カ ル シ ウ ム 300mg、 マ グ ネ シ ウ ム 150mg を 摂 取 さ せ 、 摂 取 前 、 6 ヶ 月 後 、 12 ヵ 月 後 に 体 組 成 測 定 、血 液 検 査 な ど を 実 施 し た 。試 験 デ ザ イ ン は 、オ ー プ ン 並 行 群 間 試 験 と し た 。 そ の 結 果 、 12 ヶ 月 後 に お け る 摂 取 群 の 体 脂 肪 量 は 、対 照 群 に 比 べ て 有 意 に 低 い 値 を 示 し た 。本 試 験 に お い て 、ラ ク チ ュ ロ ー ス 、カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 含 有 顆 粒 が 、体 脂 肪 低 減効果を持つ可能性が示唆された。 本 論 文 で は 、ラ ク チ ュ ロ ー ス の カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 吸 収 促進効果を安定同位体を用いた方法で確認し、ラクチュロース、 カ ル シ ウ ム 、マ グ ネ シ ウ ム 含 有 顆 粒 の 長 期 間 摂 取 に よ り 、体 脂 肪 量が低減する可能性が示唆されたことを報告した。 先に述べたように本研究の結果の一部はすでに2報の英語論 文 と し て 発 表 さ れ て お り 、非 常 に 興 味 深 い 示 唆 に 富 む 内 容 と な っ て い る 。す な わ ち 、ラ ク チ ュ ロ ー ス が カ ル シ ウ ム や マ グ ネ シ ウ ム の 吸 収 を 促 進 す る こ と 、そ の 事 に よ り 体 内 に 取 り 込 ま れ た カ ル シ ウムやマグネシウムが体組成に影響を与える可能性があること が 確 認 さ れ た 。こ れ ら の こ と は 、健 康 の 維 持・増 進 に つ な が る 非 常に重要な栄養学的知見といえる。 審 査 委 員 会 で は 、特 に 第 4 章 の 内 容 に つ い て 質 疑 が 行 わ れ 、審 査 委 員 の 先 生 方 の コ メ ン ト に 基 づ き 、内 容 を 一 部 加 筆・修 正 し た 。 以 上 の こ と か ら 、本 論 文 は 博 士( 栄 養 学 )の 学 位 の 授 与 に 値 す るものと認められる。 【論文審査委員】 (委員長)教授 上西 一弘 教授 香川 靖雄 教授 田中 明 教授 山田 和彦 教授 堀江 修一
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