THE ENCORE Review by M. J. Gomes 過去、数十年の間、日本から

THE ENCORE Review by M. J. Gomes
過去、数十年の間、日本から多くの優れた汎用電化製品が生み出されてきた。
しかし、素晴らしいハイ・エンド スピーカーは、この中には 1 つとして含まれない。
残念だが、それが理由で、日本製品「ひいき」のオーディオファンでも、スピーカーに関し
ては欧米製品を購入してしまうのである。
このような現象の一因には、優れた大出力スピーカーの製造方法とは逆に、日本製電化製品
のほとんどが量産構図になっている事が主な原因があると思われる。
実際、多くの高級スピーカーは、熟練した技術者により、優れた楽器のように、一組ごとに、
細心の注意を込めて作られ、その性能を引き出すよう一台一台創り上げられている。
最近、日本からも、過去半世紀に欧米の良質な音響機器と同じような製造方法で創られた大
出力スピーカーが幾つか見受けられるようになった。傑出した取り組みの1つが ES
SS-M9ED で、そして多くの評価をされた SS-AR1 を発表したソニーによるものであった。
このレビューの主役であるアンコール”Encore” ENC-5 は、高品質のアコースティック楽
器のように、繊細にデザインされ、しかも、綿密に手作業で組み立てられ、一台一台を名工
が調整されている点が SS-AR1 と同様である。
アンコール”Encore”は、コンバックコーポレーション社から発売されたハイ・エンド ス
ピーカーの第2弾目のスピーカーである。
コンバック社の最初の試みは Bravo であるが、”Encore”も Bravo と同様にブックシェル
フ型でありながら、同クラスのスピーカーのみならず、一部のフロア型のスピーカーにも勝
る性能であった。
試聴機を携え来訪した Wynn Audio の Wynn Wong 氏がうやうやしく、開梱と設置を手伝
ってくれた。
The Encore を箱から取り出したときは特に圧倒されたわけではないが実際に現物を手にし
たら、”Encore”は素晴らしい仕上がりの、127x300x217mm で 12.32kg(梱包時は 16kg
程度)の小型のスピーカーである。
包装は、輸送中の最も手荒な扱いにも耐えうると思うほど、よく考え抜かれて造られ梱包を
されている。
”Encore”は、2-Way の同軸型で、アルミ・ドームの 24mm ツイーターが中央に収まっ
た 176mm のファイバーグラス製の高中音域ドライバーで構成されたスピーカーである。
気付くまでは、一見して単一ドライバー設計のように見える。
このデザインの注目する点は、可能な限りスムーズで、整ったバランスの響きを放射する事
である。
エンクロージャーは、完全密封型の再生に最も理想とされる筐体で創られていることから判
断して、制作者の取り組みと技術の自信が理解できる。
”ENCORE”を他社の同クラスのスピーカーと大別すると、その性能を最大限に引き出すた
めに、熟練者が一台毎に砕身に、更にきめ細かくチューニングしている点であろう。
この精細な創り込みから判断して、”ENCORE”は、大出力スピーカーと言うよりも高級な
弦楽器と云えるものである。
コンバック社は、この制作技法を「ハーモニクス・レゾナンス・チューニング:Harmonix
Resonance Control Technology」と呼び、ピアノやバイオリン、ギターのようなアコーステ
ィック楽器の再生音を自然な音色で再現する技法であると唱えている。
一般の他社製の同種と比較して、
高い価格設定は、
スピーカー自体の部品や素材だけでなく、
この優れたチューニング技法に相当の関係があるものと推測する。
”Encore”のエンクロージャーには、箱の両側に耳の様なコーンが 2 個付いてるが、コンバ
ック社の説明によると、これらのコーンは、不要な共振をバランス良く整え、エンクロージ
ャーの振動パターンを理想的な自然な響きに統一する機能をすると言うことである。
再生周波数帯域は 70-25000Hz、出力音圧レベルは 86dB である。
クロスオーバーネットワークが 2800Hz 以下をミッドレンジに伝え、それ以上はすべてツイ
ーターへと移行する。インピーダンスは8Ωに設定され、7Ω未満でも乱れぬように設計が
されていることから、ほとんどのアンプに容易に対応できるであろう。メーカーの推奨する
アンプ出力は 20~150W としている。
グリル部は、
欧州の超高級スポーツ車が採用している流体性に優れた金属製メッシュを使用、
取り外しは不可能のような創りから想像して、グリルが起因とする様々な難問を解決し、コ
ンバックはこの方法によって消音や回析、初期反射など、再生面でマイナス要因となる、あ
らゆる対策が施されている。
美的観点からいうと、”Encore”は、もしも大型量販店で数百ドル程度の無数のブックシェ
ルフ型スピーカーと並んでいても、さほど目立たないかもしれない。
一見したところでは 9000 ドルの価格と言われても、単に外見からはその価格の相応しさは
理解することは難しい。私自身、このスピーカーが、ブックシェルフ型を検討しているオー
ディオファンの候補リストに入るには、たとえその人に経済的余裕があったとしても、真に
格別なサウンドパフォーマンスを備えないかぎり無理だと思ったものだ。
コンバック社によると、”Encore”は Bravo 同様、フィンランドの Gradient 社やノルウェ
ーの Seas 社との提携で設計、開発されている。
開封後間もない試聴では、”Encore”は少々荒削りに聴こえ、慣らしが必要であると判断し、
試聴の前に 180 時間程慣らし時間を置いた。
慣らし後の”Encore”は、まるで別物になったように聴こえた。又、私は”Encore”は、接
続ケーブルに非常に敏感であると気付いた。私はいろいろなケーブルの種類を試し、
Skogrand Beethoven ケーブルで最もよく鳴ることを知った。
”Encore”の音楽再生の第一の印象は、同価格帯のブックシェルフ型スピーカーと同様に、
区切りの見えないミッドレンジからツイーターへの滑らかな移行である。もう 1 つの注目点
は、音の広がりと、品位の良さで、三次元的な立体性である。
この小さな仲間は、その小さなサイズに反して誠に広帯域で、ホログラフの立体音像を私に
投げかけてくれた。
”Encore”の性能で、もう一つ注目したい点は、並はずれて優れたボーカルの描写性である。
男声であれ女声であれ歌声に表れる感情が非常に鮮明で、歌い手の存在感の表現が想像以上
に良いのである。優しいラブ・バラード、時にディーバの歌を聴いた時など、申し分のない
親密感を得ることができた。ドリー・パートンの無垢で、子供のような歌声は、まさに間違
いなくドリーの、少女のような声質で描かれている。幸いなことに、高価なスピーカーでさ
え解決出来ない鼻に詰まった声質は”Encore”には全く無い。
打楽器音は、私の好み通り、素早い立ち上がりで、而も、しっかりと絞まった音を出しなが
ら、弦楽器の程よいボリューム感と充実感を鳴らしてくれた。
多くのブックシェルフ型スピーカーが抱える問題点は、全帯域を問題なく発揮させるような
設計が非常に難しく、ブックシェルフ型スピーカーの殆んどが、ある帯域のみに力量を発揮
するが同時に、他の帯域に弱点を抱えている。”Encore”は、全帯域を見事なバランスで、
ダイナミックなコントラスト、細かなニュアンス、音楽の微妙な再生を見事に再現し、音楽
鑑賞の聴き疲れをさせずに滑らかで、聴き心地よく聴かせてくれた。小型スピーカーのイメ
ージを完全に破ったように思われる。
”Encore”は、より音楽的な音色によって、受け入れ可能な低音ならどんなものでも再現可
能な、12dB/オクターブのベース増減コントロールを備えている。
ほとんどのブックシェルフ型スピーカー同様、重低音の再生能力には欠けるが、その解決策
は、立ち上がりに優れたサブウーファー1個か2個と組み合わせて使用するとよい。
私は JL Audio f122 と組み合わせて、良い結果を得た。f122 は”Encore”が伝えきる音の
物語を完成させるための下地を提供した。
高音域は、euphonic に聴こえるのを避けるのにちょうど適量の sweetness を備え、中域には
飽和がありながらも、同価格帯のスピーカーに比べると平均以下の shade であった。
まず、セリーヌ・ディオンの Nature Boy からレビューを始めよう。ラスベガスで 2 度、セ
リーヌのライブ・コンサートを観たことで、私は彼女の歌声を個人的体験からもよくわかっ
ている。”Encore”を通した楽曲は明確な存在感とボリューム感がある。
セリーヌの歌声はすばらしい構造体で、驚くほどよく制御され、真のハイエンドオーディオ
システムでは常に極めて荘厳に聴こえる。
次は Ulla Meinecke の Die Tänzerin だ。このハスキー声のディーバは、どの歌にもたっぷ
りとした感情が込められた。
”Encore”を通して聴くディーバは、たいへんな心地よさと共に満ち溢れた感情の全てが伝
わってきた。また、この曲はスピーカーのリズム、ペース、タイミングを試す上ですばらし
い曲で、”Encore”は、私が反射的に足でリズムを取っていた事に気付いたことからも、そ
の高音質スピーカーとしての役割を充分に果たしたことは明らかだ。
次の曲は、スーパートランプの Breakfast in America だ。この古典的な録音には驚異的なピ
アノのくだりがある。
”Encore”が出すピアノの音符1つ1つが明瞭で、重量感を伴い、正確で滑らかな音色で描
かれ、この楽器を聴くことがとても楽しくなる。特筆すべきはこの充実感が生でピアノを聴
くときの暖かさを少しも犠牲にすることなく成し遂げられているということだ。
次の曲はレビューアーの定番、サムエル・ゴールデンバーグとシュムイルによるムソルグス
キー組曲「展覧会の絵」だ。
この曲はすばらしすぎて、オルガンの音を、上品な高音から、持続する低音まで鳴らし切る
力がないことを露呈させてしまうので、殆んどのブックシェルフ型スピーカーが苦戦する 1
曲だが”Encore”はこれを見事に取り扱っている。JL Audio のサブウーファー2 台の助け
を借りて、オルガンの低音も弱まることなく無理なく放たれた。
そして今度は男性ボーカル、キャット・スティーブンス(現在はユスフ・イスラム)の Morning
Has Broken だ。
”Encore”からは、まさに彼がこの曲を歌い上げたときに聴き手に感じてもらいたかったに
違いない・・と思う程、新しい一日の始まりの新鮮さと、軽快さを感じさせてくれた。
多くのブックシェルフ型スピーカーにとってまたひとつの挑戦は、交響楽団のトゥッティ演
奏の精密な再現だ。
ここで私は大植英次指揮ミネソタ管弦楽団の「雪娘~道化師の踊り」を試した。ここでも”
Encore”は、小型スピーカーからは想像すらできないサイズよりもずっと大きく鳴って、私
を驚かせた。
試聴の結果、”Encore”はブックシェルフ型スピーカーのとても特別な種類に属することが
判った。
このスピーカーは、例えば、素早い音の立ち上がりや、非常にしっかりした音質再現を可能
にしたブックシェルフ型スピーカーで、フロア型が勝る点のほとんどに優れ性能をもたらし
てくれる。
9000 ドルと云う価格から、殆んどオーディオファンに「安い」と思わせる製品と受け止め
られないだろう、何故なら、この価格帯の競争は激しく、支払っただけの満足を与えるスピ
ーカーは他にも存在するだろう。
そう、ある一面では、”Encore”よりも客受けするブックシェルフ型や、フロア設置型のス
ピーカーはいくつかある。だが、しかし、これほど欠点が少なく、完成度の高いブックシェ
ルフ型スピーカーを見つけることは困難で、この高邁な価格帯においてさえ、窮してしまう
だろう。
一度”Encore”の小ぶりなサイズと、上品な音美学を経験して、これがもたらす音のパフォ
ーマンスに浸れば、9000 ドルという価格であっても、その価値を充分に見出すことができ
るだろう。
ひとつ確かに言えることがある;”Encore”のような超コンパクトなサイズでありながら、
これほどの性能をもたらすブックシェルフ型スピーカーに出会うことは稀有である。
つまりは、もしも、あなたのリスニングルームに、フロア型スピーカーや、大きめのブック
シェルフ型スピーカーを置くスペースがないとすれば、私はこの小さくも力強い”Encore”
を試し、購入候補リストに加えることをお薦めするということだ。