6月13日 第 28回世田谷保育親の会総会 記録 ○学習会(親が参画する保育) 区立保育園保護者(シンクタンクで保育について研究) 森美香さん 講演の概要(詳細については別紙の 講演の概要(詳細については別紙の資料を参照) 詳細については別紙の資料を参照) 1.はじめに 区立保育園に上の子と下の子合わせて 9 年預けている。親として自分が園でできるこ とをやっていきたいと考えていたが、園には父母会がなく、保護者同士でつながること が難しかった。園の運営のことについて誰にも相談できず、園長先生に直接相談するこ ともあったが、それがよい方法だったのか、すっきりしない気持ちもある。2 年くらい 前から父母会を作ろうとしているが、反対する保護者もいると思うと踏み出せずにいる。 新たに父母会を作るのが大変ということを知り、むしろそういうものを制度化した方 がよいのではないかと考えて、海外の動向を調べるようになった。 2.プレイセンター 90 年代半ばくらいに、時間延長保育について海外で調査したところ、 「なぜそんなに 働くの?」 、 「子どもは親と過ごしたいのでは」という反応であった。ニュージーランド では、プレイセンターという日本でいうと自主保育のような幼児教育施設があり、保護 者がよい保育を提供したいと考えて、自ら研修を受講した上で、先生を雇わずに運営し ている。保護者自身が勉強した上で先生となり、自主的な遊びや異年齢保育などの理念 を掲げ、全国に展開している。国もこの活動を制度として認可し、補助金も出している。 このことを知ってから、日本でもプレイセンター協会を設立した。以来、日本各地で プレイセンターが運営されている。プレイセンターでは、子どもを預ける場ではなく、 家族が一緒に成長して質の高い幼児教育やっていくことを目指している。 3.親が運営する保育園 親の参画に注目している国があることを知り、いろいろ調べていくと、ヨーロッパで は、保育園を利用しない保護者へ手当を出したり、幼稚園の代わりにホームスクールの ようなものを認めたりするなど、親が子育てにもっと関わることができる環境の整備が 行われていることを知ったが、詳しく調査することはできなかった。 ようやく調査することができるようになったのは、海外における株式会社の保育園へ の参入状況を調査したときである。そのときに、親が運営している保育所が多い国や公 立保育園の運営に親が加わることが義務化されている国があることが分かった。そこで、 生協総研からの助成を受けて、保育園での親の参画について調査して出版した。 日本でも、1960 年代から 70 年代にかけて共同保育所という親が運営する保育所があ ったが、公立保育所の増設運動の方に移行していった。現在はほとんどなくなっており、 待機児童問題に悩む今の保護者には、自分たちで保育所を運営するという選択肢が思い 浮かばない。 海外では、保育所の不足を背景に親が保育所を運営するようになった例もあるが、質 の良い保育を目指して保育所を作ろうとした例が多い。 スウェーデン…公立保育園の定員が増えたことで、保育者や親が理想の保育ができな いと考えて自分たちで保育所を作ろうとした。公立保育園では柔軟性がないということ で、公立園から親保育所に転園した人もいた。 フランス…保育園の安全管理が厳しくなり閉鎖的になったことを受けて、大学生が自 分たちのやりたい保育をやるために保育園を作った。親は当番制で保育に参加し、子ど もの保育を見ることができ、保育者から子育ての方法について学んでいる。 このほかにもアメリカ、カナダ、ドイツ、ノルウェー、韓国など多くの国で親が運営 する保育所が見られる。広がっている背景として、次のようなものがある。 ・核家族化や夫が戦争に出征したことを背景に、母親が孤立し、親同士のつながり・支 え合いが望まれた。 ・政府が、親が運営する保育園への支援は効果的な投資と認識しており、公立保育園並 みの補助が行われている。統計にも親運営保育園という区分がある。 ・設立支援や保険などの面で親運営保育園の運営を支える団体がある。 ・長時間労働がなく、親の柔軟な働き方が広く認められている。 4.園の運営に対する親の参加が義務化されている デンマーク、オランダ、ノルウェー、ドイツ、韓国では保育園の運営委員会に親の参 加が義務化されている。これは、子どもの権利を代弁する立場として親の意見を保育に 反映させるためである。こうした制度は学校の方が先行しており、子ども、親、先生が 意見を出す場がある。ノルウェーでは、保育計画の策定時にできるだけ保育園児の意見 を聞くことも推奨されている。 このほかイギリスやニュージーランドでも、親の意向を聞く取り組みが多くみられる。 5.親の参加は保育の質向上のための資源 各国では、保育の質を向上させるために、親という資源に着目する動きがある。 カナダでは、園の運営がうまくいっているかどうか、保育の質はよいかという情報を チェックする役割が親に期待されている。また、韓国では保育モニタリング団が各地域 にある。 また、親の特技を保育に活かすことが期待されており、園も「ボランティアで楽器演 奏や読み聞かせなどをしたい人はいつでも来てください」と言っている。親同士のつな がりを作るために園でのお茶会や親子遠足を園が企画していることもある。また、寄付、 施設の修繕、保育当番などの形で親の協力を得ることで、予算の節約が図られている。 そして、家庭訪問や日常的なコミュニケーションを通して、親の持つ情報と保育士の持 つ情報を組み合わせることで、子どもに適切な保育ができるという考え方がなされてい る。 アメリカの親運営保育所を支援する団体が掲げている理念であるが、共同保育の哲学 では、親や子どもは、保育サービスの消費者ではなく共同生産者として位置付けられて いる。 6.日本の現状 親が運営する保育所や学童保育所はあるが、たまたまうまくいっているにすぎないケ ースも多い。閉鎖の危機にあるところもある。 株式会社が設立した保育所や認証保育所には運営委員会設置義務があり、親がそこで 意見を出し園とのコミュニケーションが活性化しているところもある。また、幼稚園で は保護者が「お客さん」になっているところも多いが、親が日常的に参加していて誰が 先生か親か分からないような園や、保護者の活動スペースが設けられている園もある。 しかし、保育所は「保育に欠ける」子が入る施設であるので、そもそも親が参画するこ とが想定されていない。「保護者対応」、「保護者支援」という言葉があるように、保護 者は受け身の存在となっている。個人情報保護という問題もある。 7.世田谷区で何ができるか 新規に父母会を作ることは難しい。作ったとしても、父母会は任意の団体なので、親 の意見を園の運営に反映させることができるとは限らない。父母会や親代表が参加する 運営委員会など親が参画する仕組みを制度化したり、親たちが活動しやすい環境を作っ たりすることはできないのだろうか。親が関わることを「自分たちがやるべきことをや っていない」と考えてしまう保育者の意識変革も重要である。園の評価の過程に親が参 画することも制度化できないかと考えている。 質疑応答 Q:保育室は保護者との距離が近い点で、親の参画ができる施設であり、例えば土曜日 には、以前いた保護者が来て読み聞かせなどを行っている。保護者が保育に携わる場 合、資格はどうなっているのか。 A:プレイセンターの場合は、親が資格をとるために研修が行われている。また、カナ ダのある州では、親運営の園では、親が講習会に参加することが義務付けられており、 参加しないと園の認可が取り消されるため、必死に勉強している。 (事務局より) 板橋区では、保護者が保育者のスキルを学ぶ事業をやっていた例もある。 Q:区の園で父母会がないところはどうなっているか。 A:5 年前の調査では、区の認可園の 4 分の 3 くらいには父母会があった。しかし、5 年のうちに父母会がなくなった園もあるだろうし、また新設園には父母会がないので、 父母会が存在する園の割合は下がっているだろう。 Q:新設園で父母会を作ろうとしたところ、園につぶされた経験があった。父母会の価 値を認識し直していきたい。海外の株式会社立の保育園はどのように評価されている のか。 A:イギリスでは設立主体にかかわらず全園が外部評価を受けており、「株式会社だか ら質が悪い」というイメージは持たれていない。大規模に展開する場合、グループ全 体で一括購入ができるのでコスト面でスケールメリットもある。一方、オーストラリ アでは手広く展開していた保育会社が資金運用に失敗したことで倒産した例があり、 株式会社が運営する保育園への視線は厳しい。カナダの一部の州では株式会社の参入 が全く認められていないところがある。国や地域によってさまざまである。 Q:幼稚園と保育所のような違いはあるのか。 A:昔は教育のための施設と福祉のための施設で分かれていたが、今は一元化されてお り、幼稚園と保育所が分かれているのは韓国くらいである。3歳ぐらいから教育機関 となっている国や、ゼロ歳児からすべて教育機関として位置付けられている国もある。 Q:ポイントで選考されるため、パートタイムの人は認可保育園に入れないのが現状で ある。認可保育園に子どもを預けることができるのは時間のない人ばかりで、保護者 が保育に参加することについて区はどう思っているのか。「時間があるんでしょう」 と思われてしまわないだろうか。 (田中課長) 海外の話を聞くと日本は世知辛いと思ってしまう。海外では週 50 時間以上労働する 人が 1%くらいであるのに対し、日本ではそれくらいの労働時間は当たり前になって いる。世の中全体がすぐ変わるわけではないので、区でできることを着実にやってい くため、子ども・子育て会議で議論している。ボランティアは、お仕事の関係でそう いうことができるのであれば積極的にやってほしい。入る前の段階で指数で選考され るので、フルタイムの方しか利用できないような状況になっているのは確かである。 「保護者支援」という言葉をよく使うが、保護者をパートナーとしては見ていないと 言われると確かにそうである。今後は親と協働する関係を築けたらいいのかなと思う。 なかなか変わらない世の中の中で理想に向かうために、行政としても頑張るが皆さん からの支援もいただければと思う。 Q:今回配布されたアンケートは何のためか。 A:私が委員を務めている子ども・子育て会議のために使う。回答していただいた父母 会にはできるだけ早くフィードバックを行う。 以上
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