第8回 グラフ理論・組み合わせ論 情報学部門 瀧本 英二 http://www.i.kyushu-u.ac.jp/~eiji 平面的グラフ クラトウスキー(Kuratowski)の定理の証明 復習 4 平面図の性質2 定理 平面グラフ 𝐺 の外面でない任意の面 𝑓 に 対し,𝑓 が外面になるような 𝐺 の平面図が存在. 3 1 3 𝑓1 4 2 6 𝑓3 𝑓4 𝑓2 𝑓5 𝑓3 𝑓6 5 7 4 1 𝑓1 𝑓6 6 𝑓5 2 𝑓2 7 𝑓4 5 5 オイラーの公式 定理: 連結である平面グラフ 𝐺 に対して,次の等式 が成り立つ.ここで,𝑝, 𝑞, 𝑟 は,それぞれ 𝐺 の頂点数, 辺数,面数を表す. 𝑝−𝑞+𝑟 =2 𝑝 = 7, 𝑞 = 11, 𝑟 = 6 6 平面グラフの疎性 定理 任意の平面グラフ 𝐺 に対し,𝑝 ≥ 3 ならば 𝑞 ≤ 3𝑝 − 6. 系 完全グラフ 𝐾5 は平面的ではない. 𝐾5 7 平面的2部グラフの疎性 定理 任意の平面的2部グラフ 𝐺 に対し,𝑝 ≥ 3 ならば 𝑞 ≤ 2𝑝 − 4. 系 完全2部グラフ 𝐾3,3 は平面的ではない. 𝐾3,3 9 細分 定義 グラフ 𝐻 の辺 {𝑦, 𝑧} に対して,辺 {𝑦, 𝑧} を削除し, 新しい頂点 𝑥 と新しい2つの辺 {𝑦, 𝑥} と {𝑥, 𝑧} を加えて 得られるグラフ 𝐺 を 𝐻 の辺 {𝑦, 𝑧} を細分してできる グラフという. 𝑦 𝑦 𝑥 細分 𝑧 𝐻 𝑧 𝐺 10 位相同型 定義 𝐺 が 𝐻 から辺の細分とその逆操作の繰り返し で得られるとき,𝐺 と 𝐻 は位相同型であるという. 位相同型 11 クラトウスキー(Kuratowski)の定理 定理 グラフ 𝐺 が非平面的グラフであるための必要 十分条件は 𝐺 が 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分 グラフを含むことである. 平面的グラフではない例 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフ 12 証明の流れ 十分性 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフを含む ⇒ 平面的グラフではない は明らか. 必要性(の対偶) 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフを含まない ⇒ 平面的グラフ を,頂点数 𝑝 に関する帰納法で示す. 𝑝 ≤ 4 のときは自明. 𝐺 = (𝑉, 𝐸) を頂点数 𝑝 ≥ 5 で 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相 同型な部分グラフを含まない連結グラフと仮定し, 𝐺 が平面的であることを示す. 13 場合分け 次の3つの場合について,それぞれ証明する. 1. 𝐺 が2連結でない 2. 𝐺 が2連結だが3連結でない 3. 𝐺 が3連結 定義 グラフ 𝐺 = (𝑉, 𝐸) が 𝑘連結 ⇔ ∀𝑆 ⊆ 𝑉: 𝑆 = 𝑘 − 1, 𝐺 ′ = 𝑉 − 𝑆, 𝑒 ∈ 𝐸 𝑒 ⊆ 𝑉 − 𝑆 (どの 𝑘 − 1 頂点を削除しても連結) が連結 14 1. 𝐺 が2連結でない場合 ある頂点 𝑥 を削除すると非連結. すなわち,頂点集合の分割 𝑉 = 𝑉1 ∪ 𝑥 ∪ 𝑉2 が存在し, 𝐸1 = 𝑒 ∈ 𝐸 𝑒 ⊆ 𝑉1 ∪ 𝑥 𝐸2 = 𝑒 ∈ 𝐸 𝑒 ⊆ 𝑉2 ∪ 𝑥 とすると,𝐸 = 𝐸1 ∪ 𝐸2 , 𝐸1 ∩ 𝐸2 = ∅. 𝐺1 = 𝑉1 ∪ 𝑥 , 𝐸1 , 𝐺2 = 𝑉2 ∪ 𝑥 , 𝐸2 は 𝐺 の部分 グラフなので,𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフ を含まず,それぞれの頂点数は 𝑝 − 1 以下. よって,帰納法の仮定より 𝐺1 , 𝐺2 は平面的. 特に,平面図の性質2より,それぞれ 𝑥 が外平面に接する ような平面図が描ける. 各平面図の 𝑥 を同一頂点にマージすることにより,𝐺 の 平面図を得る. 15 2. 𝐺 が2連結だが3連結でない場合(1/2) ある2頂点 𝑥, 𝑦 を削除すると非連結. すなわち,頂点集合の分割 𝑉 = 𝑉1 ∪ 𝑥, 𝑦 ∪ 𝑉2 が存在し, 𝐸1 = 𝑒 ∈ 𝐸 𝑒 ⊆ 𝑉1 ∪ 𝑥, 𝑦 ∪ 𝑥, 𝑦 𝐸2 = 𝑒 ∈ 𝐸 𝑒 ⊆ 𝑉2 ∪ 𝑥, 𝑦 ∪ 𝑥, 𝑦 とすると,𝐸 ∪ 𝑥, 𝑦 = 𝐸1 ∪ 𝐸2 , 𝐸1 ∩ 𝐸2 = 𝑥, 𝑦 . 𝐺1 = 𝑉1 ∪ 𝑥, 𝑦 , 𝐸1 , 𝐺2 = 𝑉2 ∪ 𝑥, 𝑦 , 𝐸2 とする. 補題 𝐺1 , 𝐺2 は 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分 グラフを含まない. よって,帰納法の仮定より,𝐺1 , 𝐺2 は平面的.特に,辺 𝑥, 𝑦 が 外平面に接するような平面図が描ける. 各平面図の辺 𝑥, 𝑦 をマージすることにより 𝐺 ∪ 𝑥, 𝑦 の 平面図,すなわち 𝐺 の平面図を得る. 16 2. 𝐺 が2連結だが3連結でない場合(2/2) 補題 𝐺1 , 𝐺2 は 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分 グラフを含まない. 証明 𝑥, 𝑦 ∈ 𝐸 のときは,𝐺1 , 𝐺2 が 𝐺 の部分グラフなので自明. 𝑥, 𝑦 ∉ 𝐸 のとき,𝐺1 が 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分 グラフ 𝐻 を含むと仮定(背理法). 𝐻 は 𝑥, 𝑦 を辺として含むはず. 𝐺 は2連結なので,𝐺2 に 𝑥 と 𝑦 を結ぶ道が存在する.【演習】 辺 𝑥, 𝑦 をこの道で置き換えたグラフ 𝐻′ も 𝐾5 または 𝐾3,3 と 位相同型 𝐻′ は 𝐺 の部分グラフなので,仮定に反する. 17 3. 𝐺 が3連結の場合 Tutte の定理 𝐺 が3連結で,𝐾5 または 𝐾3,3 と位相 同型な部分グラフを含まないならば,𝐺 は平面的. 注:各面が凸多角形であり,どの3点も直線上にない ように描画できることを示している. まとめ いずれの場合も 𝐺 が平面的であることが示せたので, Kuratowski の定理が証明できた. 18 Tutte の定理の証明の準備:辺縮約 定義:グラフ 𝐺 = (V, E) の辺 𝑒 = {𝑥, 𝑦} ∈ 𝐸 に対し, 辺 𝑒 を縮約したグラフ 𝐺/𝑒 とは,𝑥 と 𝑦 を新しい頂点 𝑣𝑒 におきかえ,𝑥 または 𝑦 に接続する辺 𝑒 ′ ∈ 𝐸 を 𝑣𝑒 に接続するように置き換えたグラフのことをいう. 𝐺 𝑥 𝑒 𝑦 𝐺/𝑒 𝑣𝑒 19 Tutte の定理の証明 以下の2つの補題を用いる. 補題1 ∀𝐺 = 𝑉, 𝐸 , 𝐺 が3連結で 𝑉 ≥ 5 ⇒ ∃𝑒 ∈ 𝐸, 𝐺/𝑒 も3連結. 補題2 ∀𝐺 = 𝑉, 𝐸 , 𝐺 が 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフを持たない ⇒ ∀𝑒 ∈ 𝐸, 𝐺/𝑒 も 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフ を持たない 補題の証明は後回し 20 Tutte の定理の証明 頂点数に関する帰納法を用いる. 頂点数 𝑉 ≤ 4 のときは自明なので, 𝑉 ≥ 5 と仮定. 補題1,2より, ∃𝑒 ∈ 𝐸, 𝐺/𝑒 は3連結であり, 𝐾5 または 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフを持たない 帰納法の仮定より,𝐺/𝑒 は平面的. 𝑒 を縮約した点 𝑣𝑒 が 𝐺/𝑒 の内部の面に接するように 描画する. この描画から,𝐺 の平面図を構成する. 21 Tutte の定理の証明 頂点 𝑣𝑒 が,頂点 𝑧0 , 𝑧1 , … , 𝑧𝑚−1 と,時計まわりにこの順で 隣接しているとする. 𝑧𝑖 と 𝑧𝑖+1 を結ぶ境界と 𝑧0 𝑧𝑗 と 𝑧𝑗+1 を結ぶ境界は 共通の頂点を持たない. 𝑧 𝑧 1 𝑚−1 𝑣𝑒 𝑧2 𝑧3 もし,そのよう この面には な頂点があれ 𝑧𝑖 頂点がない zi+1 ば,𝑧𝑖 に最も近い そのような頂点と 𝑣𝑒 の2頂点を zj 𝑣𝑒 削除すると,ziと この面には zi+1 が連結でなくなる. 頂点がない zj+1 これは 𝐺/𝑒 が 3連結であることに反す. 22 Tutte の定理の証明 頂点 𝑣𝑒 の隣接頂点がちょうど3個のとき,𝑣𝑒 をもとの辺 𝑥, 𝑦 に 戻したとき,次の図のようになれば,𝐺 は 𝐾5 と位相同型な部分 グラフを含むことになり,仮定に反する.これ以外の場合は平面 に描くことができる. 𝑣𝑒 x y 23 Tutte の定理の証明 頂点 𝑣𝑒 の隣接頂点が4個以上のとき,𝑣𝑒 をもとの辺 𝑥, 𝑦 に 戻したとき,𝑥 の隣接頂点と 𝑦 の隣接頂点が交互にならぶような 4点があれば,𝐺 は 𝐾3,3 と位相同型な部分グラフを含むことになり, 仮定に反する. 𝑧0 zp zs 𝑧1 𝑧 𝑚−1 𝑣𝑒 x 𝑧2 𝑧3 zr y zq 24 Tutte の定理の証明 よって,前スライドのような4頂点は存在しない. この場合,下図のように平面描画可能. x y
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