局所麻酔薬

局所麻酔薬
1
麻酔とは
麻酔とは何か
???
麻酔状態はどのような状態
麻酔が生じる生理機序
麻酔の目的
全身麻酔:
鎮痛
意識消失
局所麻酔:
鎮痛
有害反射の抑制
有害反射の抑制
筋弛緩
筋弛緩
2
全身麻酔と局所麻酔の比較
全身麻酔
作用
意識
健忘作用
鎮痛作用
作用機序
薬理作用
反射
筋弛緩
投与方法
局所麻酔
中枢神経系でのシナプス伝 主としてNaチャネルブロッ
達抑制
カーによる神経伝導抑制
消失
あり
あり
なし
さまざま(意識消失により痛 あり
みは感じない。)
抑制(全身性)
抑制(局所)
全身の骨格筋
投与方法
局所
吸入、静注、筋注、座薬、皮下注、筋注、神経叢、硬
膜外、くも膜下腔
中枢
3
4
局所麻酔法について
局所麻酔薬を用い、痛覚伝導路を可逆的に遮断し、その末梢神経領域の無痛域を
得て手術ないし処置を行えるようにする麻酔法である。
局所麻酔薬の投与部位により、知覚神経、運動神経、自立神経も遮断される。
1.意識が保たれている。胃充満患者、腹臥位の手術に対応は可能。
2.心肺機能、及び全身に及ぼす影響が少ない。
3.合併症の種類が少ない。
1.患者の協力が必要。
2.麻酔の持続時間制約がある。
3.無痛効果が不確実な場合がある。
4.手術範囲が広い場合、大量の麻酔薬が必要となり、麻酔薬中毒が起こりやすい。
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局所麻酔薬の歴史
BC1200年〜 1867年 インカ帝国時代コカの葉を噛むと気分
が高揚し、一時的に疲れや痛みを忘れる。
1544年 局所麻酔薬として、コカが使用された最初の記述は、
Jesuit Bernabe Cobo。
1855年 Friedrich Gaedcke(1828〜1890, ドイツの化学者)が、
コカの葉からコカインを精製した。
1856年 Albert Niemannが、乾燥したコカの葉からアルカロイド
の結晶を抽出し、「kokaine」と命名した。
1878年 本邦で初めてコカインが輸入された。
1884年 最初に手術で使われた局所麻酔薬はコカインであっ
た。Carl Koller(P 1857〜1944, ウィーンの眼科医)。
1885年 伊野春毅(いのはるき、熊本出身の歯科医)が、抜歯
にコカインを使った。
1884年~1886年 様々なコカイン飲料が販売された
(コカ・コーラ)
昭和大学薬学部薬用植物園より
6
1886年~
1894年
1898年
1902年
1942年
1947年
1950年
1997年
1951年
1956年
1957年
1957年
コカインの中毒作用の症例が各国から報告されて、激しく攻撃された。
Richard Martin Willstätter(1872/8/13〜1942/8/3, ドイツの化学者、
1915年にノーベル化学賞受賞者)はコカインの構造の研究により、ミュンヘン
大学から博士号を得た。
Karl Gustav August Bier(P 1861〜1949, キール大学の外科医)は、彼自身を
被検者として、コカインによる、腰椎麻酔の臨床実験を行った。
はじめての「脊椎麻酔」の臨床応用である。
ジョージア州議会の「あらゆる形態のコカイン販売全面禁止」によって
コカ・コーラからコカインが取り除かれた。
Nils Löfgren(P 1913〜1967, スウェーデンUniversity of Stockholmの化学者、
とBengt Lundqvist(1922〜1953, スウェーデンの化学者)はプロカインよりも
作用時間の長い化合物の合成に成功し、2人の名前の頭文字をとり、
LL30(=lidocaine=Xylocaine® ‐最初のアミド型局所麻酔薬‐)と名づけた
lidocaineを臨床に応用し、1948 年に Astraから販売された。
Jens Christian Skou(1918/10/8〜, 化学者)は、麻酔物質は当時タンパク質だと
推定されていたナトリウムチャネルを開くことを発見した。
Na+/K+‐ATPアーゼ(ナトリウム‐カリウムポンプ)の発見の功績によって、
Paul Delos Boyer、John Ernest Walkeとともにノーベル化学賞を受賞した。
田辺製薬が、pentothal sodium↑の国産化に成功した。
EkenstamとEgner(スエーデンBofors 社)によってメピバカインが合成され、
1957年にDhunerによって臨床使用された。
Ekenstam(スエーデンBofors 社)がブピバカインを開発し、
1963年にWildmanとTelivuoによって臨床使用された。
af Ekenstam(スエーデンBofors 社)がロピバカインを開発し、
1997年に臨床使用された。
現在でも南米諸国ではコカ葉を噛む風習が残っている。
7
局所麻酔薬の作用機序
末梢神経細胞(インパルスの発生、および伝導)
細胞膜の内側
電位依存性Na+チャネル
(K+チャネルを遮断することもある)
8
局所麻酔薬構造と種類
芳香族ーー中間連鎖ーーアミン
エステル型
(エステル基)
アミド型
(アミノ基)
9
局所麻酔薬の構造ー活性相関
親水基
疎水基
(水溶液中溶解する)
アミノ基
エステル基
荷電型(LH+)) 塩基型(L)
pH = pKa + log
麻酔液のpH
(重炭酸塩添加)
pKa
(膜近傍ほど低い)
(標的細胞膜内に貫入する)
芳香族
麻酔効力
[ L ] [ LH +] 麻酔薬の
代謝速度
血漿エステル
分解酵素
作用部位の
結合性
持続時間
毒性
麻酔効果
の速さ
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局所麻酔薬の薬理作用-末梢神経
(交感神経)>痛覚>温覚>触覚>深部圧感>運動機能
伝導生物物理学
の分類
解剖学的の分布
ミエリン
(髄鞘)
直径
μm
機能
A線維
Aα
Aβ
Aγ
Aδ
筋・関節の求心、
遠心性線維
筋紡錘への遠心性線維
知覚根、求心性末梢神経
あり
6‐22
運動
あり
あり
3‐6
1‐4
B線維
交感神経節前線維
あり
< 3
C線維
交感神経
交感神経節後線維
なし
0.3‐1.3
後根
知覚根、求心性末梢神経
なし
感受性
+
++
++
筋緊張
痛覚・温覚・触覚 +++
血管運動
内臓運動
発汗刺激
毛髪運動
++++
++++
血管運動
内臓運動
発汗刺激
毛髪運動
0.4‐1.2 痛覚・温覚・触覚 ++++
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局所麻酔薬の薬理作用-末梢神経
大径神経線維(運動神経)>小径神経線維(交感神経、知覚神経)
ある時点における局麻薬の最少塩基濃度:
2
‐5.76DTR
Cm=C (1‐1.6
)
最少塩基濃度(Cm)
神経線維の直径(R)
拡散係数(D)
麻酔薬濃度(C)
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回復する際、吸収面積が広いためにCmが早く下降するため、大径神経線維のほうが早く回復する
局所麻酔薬の薬理作用-中枢・心血管
血液脳関門
局所麻酔薬
興奮相
抑制相
GABA作動性
抑制ニューロン↓↓
延髄
血管運動・呼吸中枢↓↓
興奮・多弁
めまい・耳鳴り
痙攣
振戦
抑うつ
意識消失
呼吸抑制
心臓: 刺激伝導性、心収縮力を抑制
血管: 二相性
低濃度
臨床濃度
抗不整脈作用
(リドカイン
プロカインアミド)
血管収縮
血管拡張
エピネフリン含有製剤を誤って血管内の投与を注意!!!
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局所麻酔薬の薬理作用-過敏性
エステル型:
エステル基
芳香族
代謝産物はパラアミノ安息香酸であり、抗原性があるため、アレルギー反応が
起こりやすい。
アミノ基
アミノ型:
芳香族
麻酔薬自身はアレルギー反応が起こりにくい。
バイアル製剤に抗菌薬添加物(メチルパラベン)によるアレルギー反応。
(アンプル化による減少)
14
局所麻酔薬の毒性
吸収速度
分解速度
血管収縮薬
エステル型
アミノ型
α1ー酸性糖
タンパク質
ㇱトクロム
P450酵素
血漿エステル分解酵素
(コリンエステラーゼ)
脱アルキル化 結合 新生児
加水分解
加水分解
重篤肝臓疾患
癌
手術
心筋梗塞
喫煙
心・腎不全
腎より排泄
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他の薬理作用
エピネフリン:吸収スピード減少させる。望む部位に局在させる。
体内で分解される速度を循環系へ吸収される速度に
合わせることができる
全身毒性の減少
局所毒性(傷治癒の遅れ、組織浮腫や壊死)
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局所麻酔薬の吸収と分布
粘膜(口腔・気管)肋間神経ブロック>仙骨硬膜外ブロック>腕神経叢ブロック>皮下注入
注入する量が多いほど速く吸収される
血流の多い組織(肺、心、中枢神経)>血流の少ない組織(筋肉・脂肪)
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リドカイン
エステル過敏反応を示さない
親水性
細胞膜の
通過性
アミノメチルアミド
18
リドカインの作用機序
水溶液中のリドカイン
アトラス麻酔科学19
リドカイン麻酔効力の影響因子
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式
(Henderson–Hasselbalch equation) アシドシース
アルカロシース
麻酔効きやすい
麻酔効きにくい
20
リドカインの薬理
吸収速度
分解速度
血管収縮薬
エステル型
アミノ型
ㇱトクロム
P450酵素
血漿エステル分解酵素
(コリンエステラーゼ)
重篤肝臓疾患
加水分解
副作用・中毒
脱アルキル化
α1ー酸性糖
タンパク質
モノグリシンリジド 結合
グリシンキシリジド
加水分解
モノエチルグリシンキシリジド
クリシンギシリジド
腎より排泄
新生児
癌
手術
心筋梗塞
喫煙
心・腎不全
21
局所麻酔薬の薬理(リドカイン)
アトラス麻酔科学より引用
22
コカイン
Tropine
安息香酸
メチルエクゴニンのエステル
エクゴニン(ecgonine)
合成局麻薬と同様な基本骨格(芳香族ー中間連鎖ーアミン)を持つ
23
コカインの薬理作用
コカインの臨床で期待される作用は、局所麻酔薬による
神経インパルスの遮断と、局所でのノルエピネフリン再
取り込の抑制による血管収縮である。
コカインは中枢、及び末梢神経系でのすべでのカテ
コールアミン取込みを抑制する。
気道上皮などの粘膜表面麻酔に使用している
(1%、また4%の水溶液)が、薬物濫用のため、臨床
的な応用は着実に減少してきた。
24
局所麻酔薬の薬理(ポイント整理)
25
一般に使用される局所麻酔薬
エステル型
アミド型
リドカイン
ブピバカイン
ペンレス
マーカイン
15
2
8
10‐12
1
8
肝で分解
肝で分解
肝で分解
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
一般名
コカイン プロカイン テトラカイン ジブカイン
商品名
コカイン
効力
2‐3
1
8
毒性
4
1
8
代謝
ノボカイン テトラカイン ヌベルカイン
50%肝臓 肝・血中ChE 肝で加水分
解
他は排泄 による分解
表面麻酔
浸潤麻酔
神経ブロック
脊髄麻酔
硬膜外麻酔
+
作用発見
<1min
2‐5min
2‐5min
10min
2‐3min
3‐5min
持続時間
1h
1h
2‐3h
2.5‐3h
1‐1.5h
3‐5h
中毒
もっとも強
力な局麻薬
その他
中毒+ 中毒少ない
習慣性+
+
+
+
刺激性(-) 刺激性(±)
抗不整脈 心抑制(+)
26
作用(+)
局所麻酔の種類
皮膚(粘膜)表面ー表面麻酔
皮内、皮下、筋膜下ー浸潤麻酔
ブロック
神経幹
伝達麻酔(狭義)
神経叢
伝達麻酔(広義)
硬膜外腔ー硬膜外麻酔
クモ膜下腔ー脊髄麻酔
アトラス麻酔科学より引用
27
一般に使用される局所麻酔薬
全ての局所麻酔方法で使用可能:
テトラカイン
ジブカイン
表面麻酔のみ使用可能:
皮膚のかゆみに使用される ー アミノ安息香酸エチル
点眼による表面麻酔に使用される ー オキシブプロカイン
気道粘膜の表面麻酔に使用される ー コカイン
胃粘膜表面麻酔に使用される ー オキセサゼイン
28
局所麻酔薬の臨床適用
腰椎腔の脳脊髄液に局麻薬を注入し、脊髄の前根および後根に
おける自立,知覚、及び運動神経の刺激伝導を遮断する方法。
黄靭帯
棘間靭帯
くも膜下腔
硬膜下腔
アトラス麻酔科学より引用
Jacoby線(L4横突起)29
局所麻酔薬の臨床適用
適用: 血中濃度が上昇しない用量で、身体のかなりの部分を麻酔できるなど
の理由で、現在最もよく使われている麻酔法の一つ。下腹部、四肢
または会陰部の手術に評価は高い。
麻酔薬:
リドカイン(lidocaine)ー短時間手術
ブピバカイン(bupivacaine)ー中・長時間手術
テトラカイン(tetracaine)ー長時間手術
30
エステル型
アミド型
リドカイン
ブピバカイン
ペンレス
マーカイン
15
2
8
10‐12
1
8
肝で分解
肝で分解
肝で分解
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
一般名
コカイン プロカイン テトラカイン ジブカイン
商品名
コカイン
効力
2‐3
1
8
毒性
4
1
8
代謝
ノボカイン テトラカイン ヌベルカイン
50%肝臓 肝・血中ChE 肝で加水分
解
他は排泄 による分解
表面麻酔
浸潤麻酔
神経ブロック
脊髄麻酔
硬膜外麻酔
+
作用発見
<1min
2‐5min
2‐5min
10min
2‐3min
3‐5min
持続時間
1h
1h
2‐3h
2.5‐3h
1‐1.5h
3‐5h
その他
中毒+ 中毒少ない 中毒(中枢 もっとも強
習慣性+
力な局麻薬
抑制)
+
+
+
刺激性(-) 刺激性(±)
抗不整脈 心抑制(+)
作用(+)
31
局所麻酔薬の臨床適用
脳脊髄液(CSF)中の局麻薬分布に影響を及ぼす因子がブロックの高さを決める
S
L
L3
T
C
T5
C3
薬物の濃度 低
高
薬液量
少
多
注入速度
遅
速
薬液バリシティー(Drug Baricity):液の比重
高比重液(1.030~1.040):頭高位では、麻酔は尾側に寄る
頭低位では、麻酔域が広がる
低比重液(<1.003): 調節性は乏しい
32
局所麻酔薬の臨床適用
硬膜外腔に局麻薬を注入する方法である。硬膜外腔に留置カーテルを挿入し、
局麻薬を持続注入するしたり、繰り返し投与することができる。
PCA装置
Pushボタン
黄靭帯
棘間靭帯
くも膜下腔
硬膜外腔
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局所麻酔薬の臨床適用
適用: 応用はくも膜下腔麻酔より広い。分節麻酔が可能なことから、
脊髄神経支配領域の手術や疼痛管理に応じる。
麻酔薬: 脊髄麻酔と同じように持続時間で選択する。
リドカイン(lidocaine)ー短時間手術
ブピバカイン(bupivacaine)ー中・長時間手術
テトラカイン(tetracain)ー長時間手術
注意事項:
1.誤ってくも膜下腔に注入すると、神経損傷をもたらす。
2.硬膜外腔から局麻薬が吸収されるので、血中濃度が
より高くなり、中毒に注意。
(エピネフリン併用により減少)
(脂溶性局麻薬の心臓毒性が少ない)
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リドカインと比較し、ブピバカインは:
脂溶性↑、麻酔効力↑、中毒の危険性↑
水溶性ではないため、循環系に分布しにくい(心毒性↓)
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局所麻酔薬の薬理(ポイント整理)
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