社会的事象を脈絡と構造でとらえる ことを通して,社会を読み解く 授業と

・ある現象を,そこでしか起こりえない特定の現象と
対話を
小学校
社会科
して,特殊性や個別性を重視する手法
・そうした現象は他でも起こりうるという可能性を示
唆し,一般性や普遍性を志向する手法
社会的事象を脈絡と構造でとらえる
ことを通して,社会を読み解く
授業とカリキュラム
この二つの手法は,相互に補完し合う関係で
あり,社会的事象をとらえるときに不可欠であ
る。なぜなら,社会的事象にかかわる個々の事
物は一般化のための基礎となるし,一般化され
1
社会を読み解く子ども
た知識を学ぶことによって個別の事象をより深
く知ることができるからである。
情報があふれ,激しく変化し続けている現代
そして,このような学びを繰り返していくこ
社会を主体的に生きていくためには,新たな知
とで,社会的事象に対して自分なりにとらえる
識を獲得し続けていくとともに,自分なりの社
ことができ,納得していくのである。以下,社
会をとらえる見方・考え方を広げ,深める必要
会的事象を脈絡と構造でとらえることを通して,
がある。
社会を読み解いていく姿について述べる。
そのためには,社会を読み解くことが大切に
なってくる。そこで,社会を読み解く子どもを,
2
社会的事象を脈絡と構造でとらえる
次のように定義する。
○社会的事象に対峙したときに,その社会的事
象について自分なりに意味づけていくこと
ができる子ども
○取り上げる社会的事象に対し,根拠を挙げて
説明できるとともに,他者のとらえについて
も吟味できる子ども
(1 ) 脈絡と構造でとらえるための教材化の工夫
社会的事象を脈絡でとらえるとは,その社会
的事象がいかに形成されたかをとらえることで
ある。一方,構造でとらえるとは,脈絡や経緯
子どもたちは,出会った社会的事象に対して,
とは関係なく,ある時点での社会的事象の枠組
いろいろなとらえを抱くであろう。ここで,教
みや仕組みにはいかなる特徴があるかをとらえ
師は,子どもたちの社会的事象に対する互いの
ることである。その両面でとらえることによっ
とらえの相違点や類似点に気づかせるために,
て,取り上げた社会的事象をより多面的に理解
意見の交流を行わせる。子どもたちは,まず自
することができると考える。
分の意見を他者に伝えようとするであろう。そ
して,交流する中で,他者とのとらえの相違点
が浮き彫りになり,自分のとらえを確かなもの
図1
脈絡と構造の関係
構造
b−1
にしようとする内発的な意欲をもつであろう。
C
b−2
b−3
そこで,教師は,これらの意欲をより喚起させ
るために,社会的事象に包含される矛盾等を焦
点化した発問として子どもたちに提示する。そ
うすることで,子どもたちは調べ活動を進め,
脈絡
事象
事象
事象
過去
現在
未来
A
再度,その矛盾に対する自分の社会をとらえる
見方・考え方を表出し,互いに意見を交流する
中で社会的事象に対するとらえを確かなものに
していくのである。
そのための手法としては,次が考えられる。
特殊性や個別性を重視する手法
一般性や普遍性を志向する手法
脈絡と構造とを,一般性(または,普遍性)
と個別性(または,特殊性)でとらえると,図
ら平和の構築を考えさせることにより,子ども
1のようになろう。脈絡については,ある事象
は脈絡に入っていくのである。そして,条約内
や事象間には特有のストーリーがあるとする見
容の予想と実際の条約内容とを比較することで
方と,一方で,他事象と比較することにより事
何をすることが平和構築を進めていくことなの
象間の関係にはある法則性があるとする見方
かを「構造」としてとらえる。
の,二つが考えられる(図1・A)。また,構
造にも,事象それぞれに構造や関係性,モデル
等があるとする見方(図1・b−1,b−2,
このとき,図2のように,個別性と一般性が
混在したなかでとらえることが考えられる。
図2
b−3)と,事象ごとの構造を比較することに
より諸事象にある種の共通性をとらえようとす
る見方(図1・C)の二つが考えられる。
個別性
行
為
(2) 脈絡と構造でとらえる場や状況の設定
スタイル」の視点,
「現象」,
「行為」,
「構造」を
念頭に置きながら,場や状況を設定していく。
「現象」の視点とは目の前に起こっているこ
とを正確にとらえることである。
「行為」とは前
記の脈絡を念頭に置いた視点のことであり,
「構
造」も前記の構造を念頭に置いた視点である。
6年生「民主国家の成り立ち」の単元を例に,
一般性
エリゼ条約の内容の
平和構築のための
予想(脈絡)
条約づくり
(脈絡)
構
造
ここでは,昨年度より取り入れている「追究
単元「民主国家の成り立ち」の
脈絡と構造でとらえる場や状況の例
エリゼ条約の内容
(構造)
平和構築に有効な
特徴(構造)
そして,
「今の日本には何が必要なのか」,
「何
ができるのか」等の日本の有り様を自分なりに
意味づけていくための脈絡に入ろうとし,平和
構築についての構造を考えようとしたりして,
脈絡と構造とを行き来するような場を設定し,
日本を見ていくことで,公民的な実践の萌芽を
生み出すのである。
脈絡と構造でとらえる場や状況を説明する。
単元「民主国家の成り立ち」では,戦後から
(3) 見取りの工夫や自覚化について
現代に至る課題を踏まえ,これからの民主国家
としての日本の在り方を子どもに考えさせた
い。そこで,第二次世界大戦という日本と同様
の体験をした国の事例を比較対象にしながら学
習を仕組んだ。フランスとドイツは,百年の間
に第二次世界大戦を含む三回の大戦争を経験し
ている。これは,家族三世代が戦争を経験して
いることであり,相手に対する憎しみが強いは
ずである。しかし,現在,両国民は互いに好感
度が高く,同一国籍をもとうとまでしている。
まず,子どもはこの「現象」に疑問を抱くであ
ろう。次に,このような「現象」が生まれ始め
たのが,約 40 年前に結ばれたエリゼ条約であ
ることを提示することにより,友好関係を結ぶ
ための内容を考えさせる。つまり,条約づくり
という疑似体験を仕組み,当事者の「行為」か
小学生段階においては,社会的事象の脈絡に
入って,追体験をさせていく方が,構造をとら
えやすい。また,その構造をもとに脈絡を考え
ていけば,取り上げた社会的事象に対するより
多様で重厚なとらえが生まれてくる。上記で取
り上げた6年生の単元では,友好条約づくりが
ベースとなって思考や活動が行われている。
このような活動の中で,既有知識・体験や調
べ活動に裏づけられた思いや社会的事象のとら
えを語ることができる話し合いの場を設定し,
話し合いが活性化する発問を投げかけることに
よって,子どもは自分なりの社会的事象のとら
えを表出するであろう。そして,その後,活動
や話し合いを行うことで,社会的事象に対する,
自分なりのとらえを自覚していくのである。
(参考文献)
・ 川 嶋 周一 「 エリ ゼ条 約 の成 立と 戦 後ド イツ
=フランス関係史(1)
(2)」
『北大法学論
集』第51巻第1・2号、2000年
(文責
松村
淳)