しくみからわかる生命工学 (立ち読み)

 
1-1
生命の起源と生物進化プロセス
生命誕生のシナリオは化学進化説などの仮説が提唱されているが,正確にはよくはわかって
いない.生物は大きく原核生物(真正細菌と古細菌に分けられる)と真核生物の二つに分けら
れる.真核生物は,細菌類による細胞内共生を経て誕生・進化したと推定される.
■
生命の起源に関する仮説
□
がてタンパク質を含んだ RNP ワールドとなり,
地球上の生命が,最初どのように生まれたか
さらに現在の DNA ワールドに変わっていった
は正確にわかっていないが,いくつかの仮説が
と推定されている.事実 RNA から DNA を合成
提唱されている.この中の一つとして,高温,
する逆転写酵素も存在しており,この説を信じ
高圧,放電などによって無機物から単純な有機
る学者は多い.
物が生成し,それがより複雑な有機物へと変換
され,さらにコアセルベートといわれる有機物
■
生物を大別する
□
集合体の液滴に成長し,それが細胞の原型と
生物は細胞の形態により,染色体が核膜で包
なったという仮説がある(オパーリンによる化
まれている真核生物と包まれていない原核生物
学進化説)
.
に分けられる(⇨ 2 ドメイン説という)
.原核
生物はさらに真正細菌(通常の細菌とシアノバ
■
RNA ワールド
□
クテリア[ラン藻類ともいう]を含むグループ)
と,原始の地球環境に近い場所に生息している
:遺伝物質の進化に関する仮説
原始細胞ではじめて使われた遺伝物質は
古細菌に二分することができる(⇨結果的に生
RNA と想像されているが(⇨これを RNA ワー
物全体が三つに分類されることになるが,これ
ルド仮説という),これは RNA が反応性に富む
を 3 ドメイン説という)
.真核細胞と原核細胞
分子で,かつ遺伝情報を含み,あるものはリボ
は核膜の有無以外にも,遺伝子の数や発現方式,
ザイムとして酵素活性をもつという事実,そし
DNA の存在様式,細胞小器官の有無,細胞分
て補酵素の大部分がヌクレオチドであるという
裂の様式など,多くの点で異なる.真核生物は
事実などに基づいている.RNA ワールドはや
さらに原生生物,菌類,植物,そして動物に分
■ 図 1 真核生物と原核生物の細胞 ■
核膜
ゲノムDNA
リボソーム
真核細胞
(動物)
6
原核生物
1-1 生命の起源と生物進化プロセス
いること,また植物細胞に別の生物が入って二
遺伝子の構造や発現様式
(⇨転写制御因子など)
次共生という現象が起こったと推定できる生物
などが真核生物に近い.このため,真正細菌と
が存在するなど,この仮説の信憑性は高い.
1
生命工学の基礎 [ ]
:細胞,代謝,発生,分化,増殖
けられる.ただ古細菌はゲノムの存在様式や,
古細菌の祖先が共存した時期のあとで細胞内共
生が起こり,後者は古細菌と真核生物に分かれ
て別々に進化したという説も提唱されている.
コラム:パンスペルミア説
地球外生命体(細菌の胞子など)が地球上
1
の生物の起源となったという SF 的な仮説であ
■
細胞内共生説
□
る.「有機物を含む隕石を発見」 という情報(?)
古細菌の祖先細胞に好気性細菌が入り込んで
や生命誕生までの時間が想像よりも短い(?)
ミトコンドリアとなって動物細胞が生まれ,さ
などが論拠となっているらしい.もし宇宙のど
らにそこにラン藻が入り込んで葉緑体となって
こか,あるいは地球に落ちた隕石に有機物など
植物細胞が生まれたという仮説である.ミト
生命の痕跡が見つかると,この説はにわかに信
コンドリアと葉緑体の両方に DNA が含まれて
憑性を増すことになる,
■ 図 2 生物の分類 ■
2ドメイン説
原核生物
モネラ界
#
3ドメイン説
真正細菌
ラン藻
古細菌
真核生物
菌類
原生生物
動物
植物
五界説*
#:狭義の原核生物とする場合もある
*:真核生物 4 + モネラ 1
■ 図 3 細胞内共生と真核生物の誕生 ■
現生の真核生物
植物
動物
菌類
原生生物
現生の真正細菌
現生の古細菌
ラン藻
酸素呼吸細菌
真正細菌の祖先
古細菌の祖先*
原始生命
点線のように原核生物が入り込んだと考えられている.
*:酸素を必要としない嫌気性の生物
7
2-1
染色体,ゲノム,遺伝子
細胞の生存と遺伝を担っている真核細胞の染色体は,DNA とヒストンを含む複合体である
クロマチンという形で存在し,何重にも折り畳まれて核の内に収納されている.染色体がもつ
DNA の 1 セット分をゲノムといい,その中に遺伝子が散りばめられている.
■
染色体
□
■
クロマチンの凝縮
□
染色体は真核細胞の核内にある DNA- タンパ
1 本の染色体に含まれる DNA(直径 2nm)
ク質複合体で,物質的にはクロマチンとよばれ
の長さは平均 10cm 程度だが,これが小さな核
る.細胞分裂(M)期になると複製した染色体
に収まるためには高度に凝縮される必要があ
が高度に凝集し,顕微鏡で観察できる.複製し
る.クロマチンの基本構造はヒストン(コア
た染色体は染色分体が中心部(動原体といい,
ヒストン)の八量体に DNA が巻き付くヌクレ
その領域にある DNA はセントロメアとよばれ
オソーム構造で,これがビーズのように連結し
る)で結合している.染色体は相同染色体とい
ている.ヌクレオソームはリンカーヒストンに
う対からなり,数と形態は生物種で決まってい
よって束ねられ 30nm の繊維となり,さらに
る.染色体末端部分(末端小粒)はテロメアと
折り畳まれて直径数百 nm となって核内に存在
いい,単純な繰り返し DNA 配列からなる.染
する.染色体は最も凝縮したときには直径約 2
色体維持に必須な領域は,複製起点,セントロ
μ m,長さが数〜数十μ m になる.
メア,そしてテロメアの 3 か所であり,それ
以外の DNA は遺伝子であっても染色体維持自
■
ゲノム
□
体には不要である.原核生物ゲノム DNA は環
染色体 1 組分の DNA をゲノムといい(注:
状でタンパク質がほとんど結合していない裸の
二倍体細胞は 2 組のゲノムをもつ)
,生存に必
状態だが,慣例的に染色体という.
須な遺伝子を含む.ゲノムの大きさは大腸菌で
460 万塩基対(bp),ヒトで 30 億 bp と,真核
■ 図 1 ヒトゲノムの構成 ■
ユニークな
配列
(50%)
反復配列
(50%)
非遺伝子部分
遺伝子部分
(25%)
反復配列の種類
反復配列
重複遺伝子
散在性反復配列 レトロウイルス関連配列
縦列反復配列
タンパク質にならない部分
タンパク質になる部分
(2.5%)
22
(例)
リボソーム RNA 遺伝子
サテライト DNA
2-1 染色体,ゲノム,遺伝子
は RNA に転写される領域を示す.遺伝子の中
は多細胞生物は単細胞生物より大きい.ただ,
にはタンパク質をコードしないものもある(例:
真核生物では必ずしも進化度が高いほどゲノム
tRNA 遺伝子).近年,タンパク質をコードしな
が大きいわけではない.これはゲノムの中に多
い RNA に転写される DNA 配列が,遺伝子間ス
量に含まれる非遺伝子領域の量,さらには縦列
ペーサー領域,あるいは遺伝子の内部などにも
反復配列や散在性反復配列(レトロトランスポ
多数あることがわかり,遺伝子の概念が変わり
ゾンの増殖の結果と考えられる)といった反復
つつある.
配列の量の違いによるところが大きい.ゲノム
2
生命工学の基礎 [
:遺伝子と遺伝情報
生物の方が原核生物より大きく,また,一般に
コラム:生物がもつ最少の遺伝子数
に含まれる典型的遺伝子の数は単細胞生物で約
2
]
人工培養できるマイコプラズマは約 500 個
500 〜 5000 個,真核生物で約 5000 〜 30000
の遺伝子をもっているが,これが自己増殖でき
個である.ヒトは約 22000 個の遺伝子をもち,
る生物の最少遺伝子数のようである.細胞内共
マウスはそれよりやや少ない.
生細菌のカルソネラは葉緑体なみの 16 万 bp
のゲノム中に 182 個の遺伝子しかない.必須
遺伝子の多くをもたないために自己増殖するこ
■
遺伝子
□
とができず,その増殖は全面的に宿主に依存し
遺伝子は狭義にはタンパク質をコード(指
ている.
定)する領域の DNA と定義されるが,広義に
■ 図 2 染色体各部の名称と機能 ■
繰り返し
短い配列の
末端
テロメア
複製起点
短腕
一本の染色体に
多数存在する
染色体の三大要素
微小管
長腕
動原体
セントロメア
…DNA複製の起点になる.
・複製起点
(ori)
多数存在する.
・テロメア…………染色体の末端を保護し,
染色体を安定化する.
・セントロメア……動原体形成部位に
存在する.
■ 図 3 ヌクレオソームとクロマチン ■
(a)ヌクレオソーム
(b)クロマチン構造の階層性
30 nm
繊維
ヌクレオソーム
約 200bp
DNA
700 nm
ヒストン #
八量体
ヌクレオソーム
#:コアヒストンという
ヒストンH2A,H2B,H3, DNA
H4を各2個ずつ含む
(
)
凝縮
クロマチン
らせん状
染色体
凝縮した
染色体
23
3-1
抽出とゲル電気泳動による分離 ・ 検出
細胞から DNA を抽出する場合はタンパク質を変性させ,遠心分離によって DNA と分け,
エタノール沈殿によって精製・濃縮する.DNA を分離する一般的方法にゲル電気泳動があり,
DNA 検出法にはエチジウムブロマイドによる染色法や,各種の標識法がある.
■
DNA の抽出・精製
□
出は DNA をタンパク質と分けることがポイン
DNA を安定な条件で扱う必要があり,pH は
トとなる.まずフェノールなどのタンパク質変
中性〜微アルカリ性に合わせる.高温になると
性剤を加えて細胞を壊し,その後遠心分離する.
変性し,100℃近くになるとリン酸ジエステル
フェノールが水より重いため,抽出 DNA は上
結合が部分的に切れて断片化する.生物のか
部の水層に集まり,変性タンパク質はその下に
かわる環境で DNA を分解する主な原因は DNA
くる.抽出したばかりの DNA 溶液にはまだ雑
分解酵素(DNase)なので,DNA を扱う場合
多な物質が混ざっており,DNA を精製する必
には必ず DNase 阻害剤を加える.DNase はマ
要があるが,一般的な方法はエタノールを加え
グネシウムイオンなどの二価金属イオンを活性
て DNA を沈殿させることである(エタノール
発揮に必要とするため,操作を通して金属イ
沈殿)
.遠心分離によって DNA を沈殿として
オンと結合するキレート試薬(例:EDTA,
クエン
集め,それを溶かすことにより濃い精製 DNA
酸)を加える.
溶液が得られる.低分子物質や脂質などはこの
細胞内には大量のタンパク質があり,DNA
操作で除かれる(多糖類が入る場合があるが,
にもタンパク質が結合しているので,DNA 抽
他の方法で除ける).
■ 図 1 生物材料から DNA を抽出する方法 ■
DNA
安定化剤
タンパク質
変性剤
遠心分離
水層
(DNAを含む)
SDS*1
フェノール
細胞や組織
変性タンパク質
フェノール
細胞を壊す
振とうする
ガラス棒
バッファー
精製DNA
溶解
エタノール
を加える
繊維状のDNA沈殿を
巻き取る*2
上清を回収
*1:SDS=ドデシル硫酸ナトリウム *2:DNAはガラスに付きやすいため
50
3-1 抽出とゲル電気泳動による分離 ・ 検出
■
DNA の分離:ゲル電気泳動
□
コラム:遠心分離機による核酸の分離
DNA を大きさ(長さ)で分離する一般的な
方法はゲル電気泳動である.DNA は負電荷を
もつので,電圧をかけると陽極に移動するが,
DNA / RNA は大きいほど速く沈降するの
で,遠心分離法で分離でき,密度の大きな塩化
セシウム溶液を使うと DNA と RNA の分離も
できる.エチジウムブロマイドがプラスミド
ゲル(⇨ 網目構造をとって内部に多量の水を
DNA に結合し難く,それが結合した DNA が
含む.ゼリー状物質)中では小さい分子ほど
しないものに比べて塩化セシウム溶液中での
DNA 変性剤を加えれば,一本鎖 DNA としても
3
比重が線状 DNA より小さくなることを利用し
核酸の性質と基本操作
速く移動するため,DNA を長さで分離できる.
て,プラスミドを分離・精製することができる.
分離できる.使用されるゲルはポリアクリルア
ミドか寒天に似たアガロースのいずれかで,後
(臭化エチジウム)溶液に電気泳動したゲルを
者は長い DNA の分離に適している.ゲル電気
浸けて紫外線を当て,DNA をオレンジ色に光
泳動は DNA シークエンス解析,巨大 DNA の
らせる.他のアプローチは,検知しやすい物質
分離,DNA-タンパク質検出,変異解析などと
をもつヌクレオチドで合成した DNA を使う方
応用範囲が広い.
法である.一つは蛍光色素結合ヌクレオチドを
使うもので,レーザー光を当てて光らせる.他
■
DNA の検出
□
の方法は放射性リンをもつヌクレオチドを使う
DNA の存在を知る普通の方法は染色である.
方法で,DNA 位置を写真に記録する(3-7).
DNA 二本鎖に入り込むエチジウムブロマイド
■ 図 2 DNA はゲル電気泳動で分離できる ■
紫外線ランプ
ゲル
(網目状の分子構造)
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
エチジウムブロマイド
(臭化エチジウム)
-
-
-
DNA
(負
[-]
に
荷電している)
写真などで記録
■ 図 3 DNA はいろいろな方法で検出できる ■
(a)染色法
(b)蛍光色素を使う
紫外線
RIを含む
DNA
エチジウム
ブロマイド
色素
X線フィルム
現像
ゲル電気泳動
感光
レーザー光
他にサイバーグリーン
なども使われる
(c)放射性同位元素
(RI)
を使う
(リン32の場合)
実際は見えない
(ネガ)
フィルム
オートラジオグラフィー
51
4-1
制限酵素 :決まった塩基配列で DNA を切る
細菌はファージの攻撃を防ぐために,自身の DNA をメチル化で保護したうえで,ファージ
DNA を切断する制限酵素を使う.制限酵素は特定の塩基配列を認識して DNA を切断するが,
切断後に一本鎖末端を残す性質があり,これが組換え DNA の作製に利用される.
■
遺伝子工学を可能にした酵素の発見
□
い,その発見と応用はノーベル賞(アーバー
あるファージと,その感染を阻止できる型の
ら,1978 年,生理学 ・ 医学賞)の対象となり,
宿主細菌 Y という組合せでも,たまたまそこ
遺伝子工学・遺伝子組換え実験がスタートする
で増えたファージ(⇨ ファージ X)が見つか
きっかけとなった.制限酵素は三つに分類され
る場合があるが,次に X を細菌 Y に接触させ
るが,遺伝子工学に使われるものは,メチル化
ると,今後はよく増えるようになるという現象
活性をもたず,使いやすいⅡ型制限酵素であ
がみられる.ファージを増やさない現象を「制
る.制限酵素はほとんどの細菌に見つかり,そ
限」というが,その原因は細菌の DNA 分解酵
の種類は非常に多く,認識配列や認識部位に対
素(DNase)によるファージ DNA の分解である.
してどこを切断するかという反応性もまちまち
細菌自身の DNA は,DNA メチル化酵素(メチ
である.制限酵素の名称の最初の 3 文字は起
ラーゼ)
によって保護されていて分解されない.
源となった細菌名を表す略語になっている(例:
X の DNA はたまたまメチル化が先行し,分解
HinfⅠ酵素はヘモフィルス - インフルエンザ菌
をまぬがれたものと考えられる.上記 2 種の
由来)
.同じ認識配列をもつ異なる細菌由来の
酵素は,共通の塩基配列を標的にしている.
酵素はイソシゾマーといわれる.
■
制限酵素は特定の配列を認識する
□
■
制限酵素の特性
□
前述の制限という現象にかかわる DNase を
制限酵素の認識配列は 4 〜 8 塩基対で,多
制限酵素あるいは制限エンドヌクレアーゼとい
くはパリンドローム(回文)構造をとる.当然
■ 図 1 制限酵素の発見につながった,ファージ増殖にかかわる現象 ■
ファージX*は
よく増える
Z株
ファージX
ファージXは
当然増える
Z株
ファージX増殖
Y株
Y株
疑問 Y株の中でファージXに何が起こった?
ファージXとX*は何が違っているのか?
Y株は通常なぜファージXを増やさないのか?
70
ファージは増えない
Y株は増える
わずかに増えた
ファージX*
4-1 制限酵素:決まった塩基配列で DNA を切る
のことながら,認識塩基数が多いほど DNA を
■
制限酵素メチラーゼ
□
まれにしか切断せず,8 塩基認識酵素は,主に
ある配列を認識する制限酵素をもつ細菌の中
ゲノム解析で用いられる.制限酵素は反応条件
には,同じ配列をメチル化する酵素であるメチ
が悪いと塩基認識能が甘くなる現象がみられる
ラーゼが共存している(例:Eco RI 産生大腸菌
(スター活性)
.
制限酵素は認識部位の塩基配列,
は Eco RI メチラーゼをもつ)
.このようなメチ
あるいはその近傍の DNA を内部(endo)で切
ラーゼは認識配列内の特定の塩基にメチル基を
断する.大部分の酵素は数塩基対ずらして二本
付けることができ,遺伝子工学では制限酵素で
鎖を切断するため,切断後に一本鎖部分(3’ 末
切断されないようにする場合に用いられる.
■ 図 3 制限酵素の分類 ■
同じ末端をもつ DNA 断片が付着しやすいため
制限酵素の型 性質
「粘着末端」とよばれる.粘着末端でない平滑
末端を生ずる酵素もある.
■ 図 2 細菌の制限酵素はファージ感染から
自身の DNA を守る■
Ⅰ型
認識部位から離れた部位を切断,Mg ,
ATP,S- アデノシルメチオニンを要求す
る.メチラーゼ活性をもつ.
Ⅱ型
認識部位か,そのごく近くを切断する.
遺伝子工学に一般に使用される.
Ⅲ型
認識部位から約 25bp 離れたところを切
断する.ATP と S- アデノシルメチオニン
を要求する.メチラーゼ活性をもつ.
ファージ
ファージ
DNA
細菌
制限酵素
制限酵素
認識配列
切断されない
分解
される
D
N
A
‌ ‌をつくり,細胞に入れる
徴をもつ.
生じた一本鎖末端は回文構造をもち,
4
組換え
端あるいは 5’ 末端をもつ)を生じるという特
2+
■ 図 4 ゲノム DNA の断片化の様子 ■
ゲノム DNA
メチル化による保護
ゲノム DNA
DNA メチル化酵素
細菌はファージから身を守る手段として制限酵素
をもち,ファージ DNA を分解する.自身の DNA
切断部分は修飾されているため,分解されない.
4 塩基認識
制限酵素
細断される
8 塩基認識
制限酵素
あまり細かくは切れない
■ 図 5 制限酵素の切断様式 ■
(a)認識配列
酵素
Not Ⅰ
Eco RⅠ
(b)3 種類の切断方式(認識配列を示す)
認識配列*
GC|GGCCGC
G|AATTC
Hin dⅢ
A|AGCTT
Nco Ⅰ
C|CATGG
Sph Ⅰ
GCATG|C
Eco RⅡ
CC
Alu Ⅰ
A
|T GG
AG|CT
Hae Ⅲ
GG|CC
*:二本鎖 DNA 片方のみを 5' 側から示した
縦線は切断部位
(1)5′
粘着末端を生じる
例:Bam HⅠ
5′
-
GGATCC
-
CCTAGG
3′
G GATCC
CCTAG G
(2)3′
粘着末端を生じる
例:Kpn Ⅰ
-
GGTACC
5′
-
CCATGG
3′
GGTAC C
C CATGG
(3)粘着末端を生じない(平滑末端を生じる)
例:Alu Ⅰ
-
5′
AGCT
AG CT
3′
-
TCGA
TC GA
71
4-2
新しい組合せの DNA をつくる
制限酵素で生じた DNA には末端に回文配列をもつ一本鎖部分があり,同じ末端をもつ DNA
と付着させ,DNA リガーゼを作用させて一つの分子にすることができる.末端配列が合わな
くとも,適当な酵素とリンカー DNA を使い,どのような DNA も連結可能である.
■
DNA リガーゼ:DNA 連結酵素
□
方の鎖にしか起こらなくとも,組換え DNA と
DNA 連結酵素(DNA リガーゼ)は,DNA の
しての安定性は基本的に維持される.この操作
リン酸ジエステル結合が切れたり,複製が終
により A と B が末端でつながった一つの DNA
わって隙間(⇨ ニック[切れ目]という)が
(組換え DNA)ができる.1972 年,この操作
3’-OH, 5’-リン酸となっている部分に作用して,
によって最初の組換え DNA がつくられた(P.
リン酸ジエステル結合をつくって DNA 鎖を連
バーグ,1980 年,ノーベル化学賞)
.組換え
結する.実際には T4 DNA リガーゼ(T4 ファー
DNA は元の DNA の素性にかかわらず(⇨ PCR
ジがコードする)に ATP を添加して用い,遺
で 増 や し た DNA や 化 学 合 成 し た DNA で も )
伝子工学における最重要酵素の一つになってい
細胞内で通常 DNA と同じ挙動を示す.
る.5’ 端にリン酸基がないと連結できない.
■
末端を整えてから連結する
□
■
二つの DNA 断片を一つにする
□
上の方法では同じ粘着末端を生ずる DNA し
DNA を制限酵素で切断して生じた粘着末端
か連結できない.しかし制限酵素は種類が多く,
に注目し,たとえば断片 A の端に一本鎖部分
切断した DNA の末端構造が多様であるため,
AGCT-5’ があり,断片 B の端にも一本鎖部分
希望する DNA 断片を上のようにいつでも連結
AGCT-5’ があると両者がアニールする.異なる
できるとは限らない.平滑末端同士を連結する
酵素で切断しても粘着末端が同じであれば同様
のは容易ではないが,そこにリンカーとよばれ
に反応が進む.この状態ではまだ安定な共有結
る制限酵素配列をもった短い DNA を連結した
合になっていないので,DNA リガーゼを効か
あとで粘着末端をつくれば,リンカー間の結合
せて両鎖にあるニックを結合させる.結合が片
で DNA 断片は容易に連結できる.二つの DNA
■ 図 1 粘着末端同士で DNA 断片を付着させ,連結する ■
粘着末端 リン酸基
AGCT P
5′
OH
3′
3′
HO
P TCGA
5′
粘着末端
72
T4 DNAリガーゼ
AGCT
TCGA
付着させる
ATP
AGCT
TCGA
一つの分子
(組換えDNA)