天満ホープ修景整備 池田ビル改修工事について

天満ホープ修景整備
池田ビル改修工事について
NPO 法人もうひとつの旅クラブ/岩田尚樹
池田ビルは大阪天満宮の表参道の中ほどに位置し、1階は江戸時代の天秤棒をかついでものを売
る“ぼてふり”という商売の形態を復活して奮闘する祭屋・梅の助、井上彰さんの拠点となって
いる。建物は小さな5階建てのテナントビルで、全体の間口は2間(約 3.6m)ほどしかない。正
面左側は上階への通路であり、柱型を除いた店舗の有効間口はまさに1間(約 1.8m)しかない極
小の空間である。道路境界はかろうじて10cm の余裕があるだけで、ほぼいっぱいに建物が建
っている。そんな条件下で大阪市の天満ホープ計画に則ったまちなみ修景設計を試みた。
まず、店の間口は極小なので建物全体の間口を使い、町家の軒庇を意識した木製格子を取り付け
る。この木製格子は道路境界までの10㎝の空間を利用、2種類の部材を交互に張ってリズムを
持たせながらできるだけ彫りを深くして陰影をだすと共に、全体としては水平ラインを意識させ
る横長のプロポーションとして、将来的にまち並みが連続していくための要素の一つとした。次
に天満ホープの主眼である「しつらえ空間」を柱間のスペースに挟み込む。上部はやはり間口い
っぱいを意識しながら、小さな店がきらっと存在感を示せるように光格子をデザインした。上部
に同じ区画の格子を連続させて、左の通路上 2 コマがしつらえ空間、右の店舗上 5 コマは店の屋
号が格子に浮かび上がる内照式のサインとした。店の右下には大きなしつらえ空間を同素材の光
格子として要素の連携を図った。内部は違い棚の仕切りで和の要素となるようにしている。店の
建具は上部に取り付けた木製格子と同素材・同意匠を用いるなどして、全体が一つのテーマで統
一感を持つ様に配慮した。木製格子から下は元あったタイルの壁に漆喰調仕上げを施して、1階
部分を意識できるようにして通りのヒューマンスケールが連続していくことを意図している。上
部のエアコン室外機には木製格子を取り巻き、景観阻害要素を少しでも目立たないようにした。
それぞれの素材は、適材適所と年を経てなお素材感を増すよう吟味したもので構成されている。
外部格子や建具などに用いたのは、きめが細かく耐久性のある国内産の松材であり島根県から取
り寄せた木材を神戸の名工による見立てで加工組立してもらっている。また風雨にさらされる部
分に使用する鉄材の保護処理として亜鉛メッキという効果的な方法があるが、通常はシルバー色
となりむき出しの鉄の感じがでてしまうため、和の要素となじませることが難しい。そこで亜鉛
メッキの上に過酸化マンガン処理を加えることによりトーンを落としてなじませる方法を採っ
ている。これは大阪のメッキ加工会社が開発した技術である。
さて、もうひとつの旅クラブは観光化されていない大阪の魅力の発掘と発信を主眼の一つとして
活動しているが、魅力的なまちと人を巡るまち歩き「大阪まち遊学」もその一つである。
今回のプロジェクトでもそのネットワーク力を活かしている。しつらえ空間の精巧な鉄のショー
ケースは昨年の「西六エリア(西区)」で出会った鉄の工房「LOOP(ループ)
」花里氏の作品であ
り。ファサードの両袖を飾る重厚な梅鉢のレリーフは同じく「玉造エリア(東成区)」でいまも砂
型鋳物の手法を守り続ける「井濱鋳造所」井濱氏に依頼して製作してもらっている。そして地元
で伝統を受け継ぐ「河井提灯」
河井氏からはぼてふり提灯を寄
贈いただけるとのことである。
このような数々の名工をとりま
とめは地元に育ちこのエリアに
人一倍愛着をもつ岩田建築事務
所の岩田朗氏であり、なんと河井氏とは同級生の間柄であった。このような人や素材、手業の総
和として今回の天満ホープ池田ビル修景プロジェクトは成り立っており、
しつらえ空間にはさっそく地元発祥の伝統工芸品である天満切り子が飾られていて、通りがかり
の人もふと足を止めて井上さんとしばしの会話を楽しむ様子が見受けられる。新生・祭屋梅の助
も多くの人でにぎわい、時を忘れてくつろぐ
お客さんがひきも切らない様子である。この
ように新たに出会う人の輪や魅力ある建築の
輪が広がり、活気ある天満宮の表参道の一員
としてこの建物が長く愛されることを願うば
かりである。