abstract

漸近展開の不連続項を利用した
離散バートレット型変換統計量の性質について
北海道教育大・釧路 関谷祐里
鹿児島大・理工 種市信裕
1 はじめに
多項分布の適合度検定における対数尤度比統計量 T は,単純帰無仮説のもとで漸近的
にカイ二乗分布に従うが,大標本に基づく近似を小・中標本に対して適用すると,検定の
有意水準が保証されない危険性がある。そのため,極限分布に近い分布をもつ新たな検定
統計量が望まれる。
多項分布の適合度検定統計量の分布の近似に関する研究として,単純帰無仮説のもと
での分布の漸近展開に基づく近似が,Yarnold (1972), Siotani and Fujikoshi (1984), Read
(1984a) によって与えられた。これらの漸近展開式は,連続項 J1 と不連続項 J2 からな
る。Yarnold (1972), Read (1984b) は,J1 + Jˆ2 の型の近似式の性能が良いことを数値計
算によって示している。ここで,Jˆ2 は J2 の1次近似式である。
また,連続分布の場合には,極限カイ二乗分布への収束を改良するための変換が考え
られてきた。尤度比検定のバートレット調整の漸近展開に関する研究は Hayakawa (1977,
1987) によりおこなわれた。尤度比検定以外のいわゆるバートレット型調整に関する研究
として,Chandra and Mukerjee (1991), Cordeiro and Ferrari (1991), Taniguchi (1991) が
あり,これらを発展させた研究として,Kakizawa (2012, 2013) がある。また,カイ二乗近
似を改良するための単調変換に関する研究は,Kakizawa (1996), Fujikoshi (1997, 2000),
Fujisawa (1997), Enoki and Aoshima (2006) によりおこなわれた。さらに,Taneichi and
Sekiya (2007) は,2次元分割表の独立性検定において,統計量の分布の漸近展開の連続
項にバートレット型変換や Fujikoshi (1997, 2000) の改良変換を施すことによって新たな
検定統計量を構築した。
本報告では,対数尤度比統計量 T に基づく変換統計量として,連続項 J1 と不連続項
Jˆ2 を利用した離散バートレット型変換統計量を紹介し,その性質について述べる。
1
2 多項分布の適合度検定における対数尤度比統計量の分布の近似
(X1 , . . . , Xk )′ を多項分布 Mk (n, π) に従う確率変数ベクトルとする。p = (p1 , . . . , pk )′ を
0 < pj < 1 (j = 1, . . . , k) と
∑k
j=1
pj = 1 を満たすある与えられたベクトルとするとき,
単純帰無仮説 H0 : π = p を検定するための対数尤度比統計量は
(
k
∑
Xj
T =2
Xj log
npj
j=1
)
で与えられる。単純帰無仮説 H0 のもとでの対数尤度比統計量 T の極限分布は自由度 k −1
のカイ二乗分布である。
√
多項分布 Mk (n, p) に従う確率変数を (X1 , . . . , Xk )′ とし,Yj = (Xj − npj )/ n (j =
1, . . . , k), Y = (Y1 , . . . , Yr )′ , r = k − 1 とおく。対数尤度比統計量 T は Y の関数として,
(
√
Yj
T (Y ) = 2 (npj + nYj ) log 1 + √
npj
j=1
k
∑
)
と表現できる。Yarnold (1972) の定理を適用することにより,
Pr{T < c|H0 } = J1 + J2 + J3 + O(n−3/2 )
における J1 項の評価式が,Siotani and Fujikoshi (1984) によって以下のように与えら
れた。
J1 = Pr{χ2r < c} +
ここで,
1
1∑
dj Pr{χ2r+2j < c} + O(n−3/2 ).
n j=0


k
∑
1 
1
d0 =
1−
,
12
j=1 pj
d1 = −d0
である。また,Siotani and Fijikoshi (1984) は,J2 項に対する漸近近似として,
{
Jˆ2 = Q(c)n−r/2 N (c) − nr/2 V (c)
を与えた。ここで,


Q(c) =

ec (2π)r
k
∏
j=1
2
−1/2

pj

,
}
N (c) は B(c) = {y = (y1 , . . . , yr )′ : T (y) < c} に含まれる格子点の数,V (c) は B(c) の体積で,
V (c) = V̂ (c) + O(n−3/2 ) と評価される。ただし,



V̂ (c) =
(πc)r
(
k
∏
1/2

pj
j=1

)




k

∑
1
c

1−
+ 3k 2 − 6k + 2 .


24(k + 1)n j=1 pj
Γ 2r + 1
もう一つの不連続項である J3 項は非常に複雑であることと J3 = O(n−1 ) より,Siotani
and Fujikoshi (1984) は Pr{T < c|H0 } に対する近似式として,J1 + Jˆ2 を提案した。
3 不連続項 Jˆ2 を利用した離散バートレット型変換統計量
対数尤度比統計量 T の連続項 J1 のみを用いた(連続)バートレット変換統計量は,
(
T
B
)
2d0
= 1+
T
nr
で与えられる。また,関谷・種市 (2015) は,
b∗0 =
Q(c)n−r/2+1 {N (c) − nr/2 V̂ (c)}
,
Pr{χ2r < c} − Pr{χ2r+2 < c}
b∗1 = −b∗0
∑
とおき,不連続項 J2 の近似式 Jˆ2 の主要項を n−1 1j=0 b∗j Pr{χ2r+2j < c} として形式的に
表現し T にバートレット型変換を施すことによって,以下に述べるの3つの変換統計量
を構成した。下側確率 Pr{T < c|H0 } に対する近似式として,
Pr{χ2r < c} +
1
1∑
b∗ Pr{χ2r+2j < c}
n j=0 j
を考え,この式に基づき T にバートレット型変換を施すと,
(
T0∗
)
2b∗
= 1+ 0 T
nr
が得られる。この T0∗ を,離散係数 b∗0 のみに基づく離散バートレット型変換統計量とよ
ぶ。また,Pr{T < c|H0 } に対する近似式として,
Pr{χ2r < c} +
1
1∑
(dj + b∗j ) Pr{χ2r+2j < c}
n j=0
を考え,この式に基づき T にバートレット型変換を施すと,
{
}
2(d0 + b∗0 )
T = 1+
T
nr
∗
3
が得られる。この T ∗ を,離散バートレット型変換統計量とよぶ。さらに,
(
T
∗∗
2b∗
= 1+ 0
nr
)(
)
2d0
1+
T
nr
を考える。T ∗∗ を第2離散バートレット型変換統計量とよぶ。
数値計算によって各統計量のカイ二乗近似を比較する。その結果は当日報告する。
参考文献
[1] Chandra, T. K. and Mukerjee, R. (1991). J. Multivariate Anal., 36, 103–112.
[2] Cordeiro, G. M. and Ferrari, S. L. P. (1991). Biometrika, 78, 573–582.
[3] Cressie, N. and Read, T. R. C. (1984). J. Roy. Statist. Soc. B, 46, 440–464.
[4] Enoki, H. and Aoshima, M. (2006). SUT Journal of Mathematics, 42, 97–122.
[5] Fujikoshi, Y. (1997). Amer. J. Math. Management Sci., 17, 15–29.
[6] Fujikoshi, Y. (2000). J. Multivariate Anal., 72, 249–263.
[7] Fujisawa, H. (1997). J. Multivariate Anal., 60, 84–89.
[8] Hayakawa, T. (1977). Ann. Inst. Statist. Math., 29, Part A, 359–378.
[9] Hayakawa, T. (1987). Ann. Inst. Statist. Math., 39, Part A, 681.
[10] Kakizawa, Y. (1996). Biometrika, 83(4), 923–927.
[11] Kakizawa, Y. (2012). Statistics and Probability Letters, 82, 2008–2016.
[12] Kakizawa, Y. (2013). J. Multivariate Anal., 114, 303–317.
[13] Read, T. R. C. (1984a). Ann. Inst. Statist. Math., 36, 59–69.
[14] Read, T. R. C. (1984b). J. Am. Statist. Assoc., 79, 929–935.
[15] 関谷祐里・種市信裕, (2015). 漸近展開の不連続項を利用した離散バートレット型変
換統計量,日本統計学会誌, 45(1), 1-17. (印刷中)
[16] Siotani, M. and Fujikoshi, Y. (1984). Hiroshima Math. J., 14, 115–124.
[17] Taneichi, N. and Sekiya, Y. (2007). J. Multivariate Anal., 98, 1630–1657.
[18] Taniguchi, M. (1991). J. Multivariate Anal., 37, 223–238.
[19] Yarnold, J. K. (1972). Ann. Math. Statist., 43, 1566–1580.
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