学校独自can-doリストを軸にした、指導と評価の一体化

2012.1
11GTEC-①
ベネッセコーポレーションGTEC for STUDENTS編集部
GTEC通信 vol.69
学校独自can-doリストを軸にした、指導と評価の一体化
リストを軸にした、指導と評価の一体化
学校独自
~つけさせたい力から逆算して、日々の授業を充実させる~
北海道滝川西高等学校
北海道滝川西高等学校は、前身の滝川商業高校設立
から53年目を迎える学校で、普通科3クラス、会計
ビジネス科2クラス、情報ビジネス科2クラスの計
1学年7クラス。就職超氷河期の中、平成22年度卒
業生は、就職内定率100%(52名)を達成したほか、
進学においても、国公立大学にも現役で16名が合格、
私立大学にも75名が合格している。平成19年度~22
年度には、スーパー・イングリッシュ・ランゲー
ジ・ハイスクール(SELHi)に指定され、英語を使
う活動に重点をおいた授業実践がこれまでも行われ
ている。
<進学・就職実績>
<お話を伺った滝川西高校の英語科先生>
国公立大合格者
就職内定率
18年度 19年度 20年度 21年度 22年度
14名
10名
19名
16名
16名
97.1% 98.6% 96.6% 98.2% 100.0%
取り組みの成果
<GTECスコアの推移>(普通科・過去4年間)
現1年生
現2年生
現3年生
10年度3年生
500
10年度3年生は2年半で183点アップと大幅な
伸びを示したほか、現3年生もほぼ同様に大
きく伸びている。現2年生は、1年生7月時
点から既に例年より高いスコアを示しており、
2年生7月でも高いスコアを保っている。
450
技能別に見ても、Reading・Listening・
Writingの3技能でバランス良くスコアが伸び
ており、着実に「英語が使える力」が身につ
いていることがわかる。
400
350
300
10年度3年生は、
2年半で183点アップ
250
1年生7月 1年生12月 2年生7月 2年生12月 3年生7月 3年生12月
毎年7月と12月に普通科クラス全員でGTEC
for STUDENTSを受検している。全国の平均的
なスコアの伸びは、1年で30~40点だが、滝
川西高校では例年大きな伸びを見せている。
<GTEC for STUDENTS活用ポイント>
GTECは、3年間で6回受検をしており、半年
ごとにどのくらい英語力がついたかを、定点
観測しています。1年次にはCoreタイプ、2
年次にはBasicタイプ、3年次にはAdvancedタ
イプを受検しています。そもそも、中学校ま
で、こういうスコア型テストで英語力を測っ
たことのない生徒がほとんどですから、次は
もっとスコアを上げたいと学習へのモチベー
ションアップにつながっています。特に
Writingを楽しみにしている生徒が多いですね。
「英語は実技」だからこそ
どういう力をつけさせるかを目標に
ベネッセ
「この授業は、can-doのこの部分を
狙った授業です」とおっしゃっていま
した。その時に、「何を狙う授業をす
るのか」を、自分たちももっと考えな
ければならない、と感じたのです。そ
れが大きなきっかけでした。
貴校では、GTECスコアで見ると、毎年
安定して英語力が伸びていますね。あ
る学年、ある年度だけではなく、安定
して伸びる要因は何でしょうか。
ベネッセ
先生
本校では、様々な指導法を実践してい
ますが、こうして安定的に伸びている
要因としては、can-doリストの存在が
とても大きいです。
ベネッセ
can-doリストは、どういうコンセプト
で作成されたのでしょうか。
先生
本校英語科では、「英語は実技」だと
いう共通認識があります。そのため、
大事なことは「何を教えたか」ではな
く、「どういう力をつけられたか」だ
と考えています。同じ実技教科である
体育を思い浮かべるとわかりやすいで
すが、例えばバスケットボールにして
も、「ドリブルの仕方を教えた」
「シュートの打ち方を教えた」という
ことが指導のゴールではなく、「どの
程度ドリブルができるようになった
か」「どれくらいシュートが正確に打
てるようになったか」ということを、
指導の目標としますよね。英語もそれ
と全く同じです。英語が実技教科だと
考えたら、単に「何を教えるか」では
なく、「どういう力をつけさせるか」
という目標を示したcan-doリストを作
るのは、すごく自然なことだと思って
います。
can-doリストから
リストから
「指導と評価の一体化」へ
ベネッセ
何がきっかけでcan-doリストを作成す
ることになったのでしょうか。
先生
きっかけは数年前に東京で行われたセ
ルハイフォーラムです。その際に、神
戸市立葺合高校の授業を見たのですが
その授業をされた竹下厚志先生が、
先生
実際にcan-doリストをどのように活用
されていますか。
本校では3年ほど前からcan-doリスト
の作成・活用を始めましたが、can-do
リストが、全ての評価と指導の土台に
なっているという点が、最も大きいで
す。「どういう力をつけさせたいか」
というcan-doリストの文言から、「で
はその力を測るには、どのようなテス
ト・評価をすればよいか」を考えます。
すると、そういうテスト・評価をする
ならば、どういう指導をすればよい
か」と、具体的な指導のあり方を考え
るようになります。つまり、指導と評
価を一体化する上でも、can-doリスト
が大きな役割を果たすということです。
評価や採点の基準を
生徒に明確に示す
ベネッセ
先生
「指導と評価の一体化」というのは、
とても重要なキーワードだと思います
が、具体的にどのように実践されてい
ますでしょうか。
心がけているのは、生徒へのアナウン
スですね。テストを終えた時に「そん
なふうに評価されるなら、もっと違う
勉強の仕方をしたのに!」と生徒に思
わせるのが一番いけません。本校では、
どういった活動でも、どう評価される
かがわかるように、事前に必ず「こう
いう評価をするよ」ということを生徒
にアナウンスします。例えば、本校で
は生徒に書かせる指導を多く取り入れ
ていますが、Writingにおいてはどうい
う採点をするか、ということを明確に
生徒に示しています(資料1)。これ
はWritingに限りません。スピーキング
テストでも何でも、評価基準を明確に
伝えることにしています。
<資料1>
■スピーキングテストの評価シート
・どの項目がどの程度できれば、何
点になるのかを、細かく示している。
■ライティングテストの評価シート
・GrammarとContentに分けて、それ
ぞれどういうことができていれば良い
かを明確に示している。
can-doリストは少しずつ改訂し
リストは少しずつ改訂し
先生・生徒・保護者への定着を図る
英語科内では、常に活発な
コミュニケーションがはかられる
ベネッセ
先生
ベネッセ
先生
ベネッセ
生徒に対して明確に基準が示せるとい
うことは、英語科先生方の間でも、十
分に指導や評価についてのコンセンサ
スが取れているということですね。
そうです。本校では、各学年とも、ク
ラスを分割して授業をしているため、
同じクラスの生徒であっても、2人の
先生が教える形になります。2人の先
生がそれぞれ別々のことをやるわけに
はいかないのです。ですから、当然ハ
ンドアウトは共有して、同じものを活
用しています。そして、そのハンドア
ウトには、必ずcan-doリストにある要
素を盛り込むようにしています。例え
ば、Readingであれば、読みの速さの指
標としてwpmをcan-doリストに入れてい
ますから、ハンドアウトの英文を読ま
せる時には、そのスピードを意識させ
るようにしています。
英語科内での情報共有は、ハンドアウ
トの作成・共有を通じて、日頃から行
われているのでしょうか。
毎週金曜の5限目に英語科会を設定し
ています。連絡事項は、なるべく掲示
板やメールなどで事前に済ませておき、
この時間をなるべく研究の場になるよ
うにしています。外部での研修会で学
んできたことをこの時間にみんなで共
有したり、各学年で行っている指導も
その場で共有したりしています。こう
いう場に何回も出てくるキーワードは、
何回も話すうちに自然と「これは大事
だね」というコンセンサスがとれるよ
うになってきます。
can-doリストがあることで、英語科内
のまとまり・同僚性が育まれているの
ですね。
先生
みんなで議論して作成したcan-doリス
トを元にテスト・評価基準を考え、そ
れを指導に落としていく、ということ
ができていれば、大きく間違った方向
に行ってしまうことはありません。も
し、指導したことについて評価がうま
くいかなかった場合は、指導か評価に
何か問題があるということでしょうか
ら、その点についてはしっかりと検証
して、マイナーチェンジを繰り返して
いけば良いと考えています。そうすれ
ば、たとえ英語科先生が数年たって異
動で入れかわっても、can-doリストを
よりどころにした指導ができると思い
ます。
ベネッセ
can-doリストは、今後も少しずつ改訂
を繰り返していくということですね。
先生
はい。can-doリストは、現実と照らし
合わせて変える必要があると思ってい
ます。また、とても大事だと思ってい
るのは、入学してくる層が、どれくら
いの英語力を持っているのかを知るこ
とです。今後つけさせたい英語力の目
標を考える上でも、入学時の英語力を
把握しておくことは重要です。入学者
の学力や到達目標の設定時期や内容が
異なるからこそ、学校ごとにcan-doリ
ストを作る意味があると思います。
本校のcan-doリストでは、入学時の英
語力にあたる部分をSTEP1としており、
卒業時までに身につけておいてほしい
英語力をSTEP4としています。より高
い英語力を目指す生徒のためにSTEP5
や6も設定しています。このcan-doリ
ストが年々学校に定着して、生徒や保
護者が「滝川西高校に入って、こうい
う英語力をつけたい」と言ってもらえ
るようになるのが、今のところのひと
つの大きな目標です。
(取材:GTEC for STUDENTS編集 足立大樹)