(様式 3)若手研究者支援研究費 平成 27年 3月 30日 琉球大学 学長大城肇殿 所属部局・職法文学部・准教授 氏 名 柳 至 ⑩ 平成 26年度研究プロジェクト支援事業(若手研究者支援研究費) 研究実績報告書 このことについて、以下のとおり報告いたします。 ①研究課題 非公式の制度が政治的アクターに与える影響一政策・組織廃止の質的比較分析一 我々は公式の法令やそれに基づく慣行といった公式の制度だけではなく、規範と いった非公式の制度にも制約されながら行動している。しかし、これまでの制度に 着目する多くの政治学研究では、公式の制度のみに着目した分析を行ってきた。本 研究は、地方自治体における政策廃止において、政治過程における諸アクターが選 挙制度等の公式の制度だけではなく、自らの主張が公益に沿っていると主張する必 要があるという非公式の制度に制約されていることを明らかにするとともに、非公 式の制度がアクターの行動を制約するメカニズムを質的比較分析によって実証する ことを目的とする。 基本的な質的比較分析のやり方としては、政策廃止という現象が生じるための原 ②研究の概要 因条件を探るために、全事例について廃止の原因ではないかと予想される要因が起 きているかを調べ、原因条件と廃止の有無が存在するか否かによって 1か 0の 2値 を与え、真理表にまとめる。そして、原因条件の組み合わせをブール代数式で表し、 どのような場合に廃止という現象が生じるのかを示す。この分析手法の利点を計量 分析との対比でいうと、社会現象の多様性と因果関係の複雑性を分析できるという )。このため、非公式の制度がアクターの行動を制約す 点があげられる(石田 2010 るメカニズムをより明確に実証できる。 本年度は、理論枠組みの設定を行うとともに、質的比較分析の基礎となるアンケ ート調査を行った。また、決定的事例であるが、まだ分析していない京都府立病院 の病院閉鎖の事例を分析した。 引用文献:石田淳( 2010 )「テーマ別研究動向(質的比較分析研究〔QCA 〕)」『社会 、 9 0 9 9頁 学評論』 61巻 1号 1/4 ③研究成果の概要 本年度は、( 1)理論枠組みの設定、( 2)予備調査の実施、( 3)京都府立病院の事例分析を行った。 (1)理論枠組みの設定としては、廃止の決定過程だけではなく前決定過程も含めた包括的な枠組みを 設定するとともに、非公式の制度に着目した枠組みを示した。図表 1は枠組みの概略図となる。 ( 2)平成 26年 8月から平成 27年 3月にかけて、全都道府県のダム事業・自治体病院事業・土地開発 公社所管部署に対してアンケート調査を実施した。調査対象となったのは平成 21年度時点で存在して いた事業・組織であり、夕、ムは 79事業、病院は 184事業、公社は 43公社となる。これらの事業・組 織を所管するあわせて 119の都道府県部署に調査票を送付し、 101部署から回答を受けた。このアンケ ート調査では、廃止の有無、廃止案が議題にあがったかどうか、あがった場合にはどのアクターが議題 にあげたのか、検討過程において廃止を主張するアクターと存続を主張するアクターが政策知識を示し ていたかといった自治体内部における検討過程を事業・組織ごとに質問している。 ( 3)京都府立病院に関する新聞報道、議会議事録、行政資料、各種文献の調査を行うとともに、当時 の関係者への聞き取り調査を行い、分析を進めた。 図表 1 枠組みの概略図 外部環境の変動 公式の制度 非公式の制度 ・社会経済要因 ι −政治要因 ・国の動向 ι 地方政府における政策過程 前決定 決定 = 今 事業・組織所管部署 廃止 もしくは 存続 行政改革所管部署 2/4 ④研究成果の公表、あるいはその準備状況 柳至( 2014)「政策の存在理由が地方政治家の行動に与える影響ー地方自治体における政策・組織廃止を事 _ 号 、 160-181頁、[査読あり]. 例にしてー」『年報行政研究』(日本行政学会学会誌) 49 本稿では、先行研究で着目されてきた公式の制度だけではなく非公式の制度に着目し、地方政治家が非公 式の制度の制約を受けたために、その行動を変更したことを事例分析によって指摘した。 今後は、研究成果をもとにした質的比較分析を行い、その結果の公刊を予定している。 ⑤科学研究費等の申請に向けた準備状況 当該研究計画を進展させるべく、科学研究費助成事業若手研究( B)への応募を行い、採用された。 課題名は「縮小する行政ー政策・組織廃止の質的比較分析− Jである。期間は平成 27年度− 29年度と なる。 ⑥今後の研究の展開、展望 本年度に行ったアンケート調査の結果と、他資料から入手した政治要因や社会経済要因等を組み合わ せたデータセットを作成し、質的比較分析を行う予定である。アンケート調査では廃止の前決定過程と 決定過程に分けて質問を行った。これにより前決定過程までも含んだ包括的な分析を行う。また、アン ケート調査では政策知識の有無についても質問を行っている。この質問項目を活用して、非公式の制度 がどのような場合にアクターの行動を制約するかに関するメカニズムを明らかにする。こうした分析を 行うことにより以下のような貢献をすることを展望している。 ( 1)前決定過程も含めて包括的に廃止過程を明らかにする。政策廃止に関する先行研究では、前決定 過程と決定過程に分けて廃止がいかにして行われるかを示した理論モデルは存在するものの、実際に複 数の事例を 2つの段階に分けて実証した研究はあまりない。本研究では、前決定過程と決定過程に分け た分析を行うことで、どのような場合に廃止案が議題に上がり、どのような場合に廃止が決定されるか を包括的に理解することができる。社会的な貢献としても、財政難の中で政策廃止の処方築を示すとい う点があげられる。 ( 2)行政職員がいかにして影響力を行使しているかを明らかにする。政策過程において行政職員は強 い影響力を有していることが示され、その源泉として行政職員が有する政策知識が指摘されている。し かし、どのような場合に行政職員が、政治家等の他のアクターに影響力を行使しているかは実証されて いるとは言い難い。行政職員が有する政策知識がいかにして政治家を制約しているかを明らかにするこ 3/4 とで、どのような場合に行政職員に代表される専門性が優先され、どのような場合に政治家に代表され る民意が優先されるのかを理解することができる。 ( 3)本研究は、政治学において明らかにされてこなかった非公式の制度のメカニズムを実証するもの である。近年の先進民主主義国家においては財政状況の悪化によって政府が提供できる公共サービスが 減少しており、政策の存在理由が問われる機会が多くなっている。また、政策評価制度が導入され、政 策の必要性や効率性がより厳密に問われる環境となった。これらの環境変化により公式の制度のみに着 目しただけでは説明ができない政治的帰結が生じており、非公式の制度を正面から取り上げる必要性が 高まっている。公式の制度に加えて非公式の制度に着目することで、政治過程をより包括的に理解する ことができる。 *上記について、概ね 4ページ程度にまとめてください。また、別途関連する資料類(論文別刷など)が あれば添付してください。 ⑦実支出額の使用内訳 合計 4 9 0 , 0 0 0円 物品費 1 1 8 , 3 6 2円 旅費 2 8 8 , 1 9 0円 4/4 謝金等 4 5 , 6 0 0円 その他 3 7 , 8 4 8円
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