15.麻酔科

15.麻酔科
(1)術前診察
① 患者の姓名、術式、手術部位の確認を行う。患者の状態、術式に応じた麻酔方法、モ
ニターの選択を行い手術室看護師へ伝達する。
② 術前準備書の記入を行い手術予定時刻、絶食時間などのくい違いが無いかを確認する。
前投薬のオーダーを行う場合は、特に小児において投与量、投与時刻などに注意を払
う。
③ 麻酔によって起こる頻度の高い合併症については説明書を示しながら説明を行い患
者の承諾を得る。患者の理解力が不十分な場合は家族の同席を得るよう病棟看護師に
依頼する。
④ 麻酔方法、起こりうる合併症について十分な説明を行い、理解をえられた後、患者に
同意書への署名を依頼する。説明した内容の記載や麻酔医のサインを確認する。患者
が署名した同意書は病棟で看護師が受け取る。
(2)麻酔
① 患者入室前に麻酔器を始業点検(マニュアルが麻酔器に備えてある)し、担当する
麻酔に応じた薬剤やモニターの準備を行う。
② 麻酔に必要な手技に関して普段から研鑽を積む。準備を怠らない。たとえば小顎、
短頚、開口制限などで挿管困難が予想されれば、順にとるべき手段を予想して気管
支ファイバー、ラリンジアルマスクなど必要物品の用意をしておく。脱落しそうな
歯牙があれば糸をかけ、ケリーなど把持する道具も用意して挿管操作に臨む。困難
な症例の場合にはできるだけ人手を集め、熟練者(麻酔専門医、指導医)の指示に
従う。やり遂げることも大事なことであるが、代わってもらえる人が近くにいる場
合は潔く代わってもらうことが必要な場合もある。
③ 患者入室時に本人であることを再度確認する。
④ 静脈留置針の穿刺に際しては神経損傷の起こしやすい部位を避ける(手関節の橈側
など)
。患者が強い痛みを訴えた場合は、直ちに抜針して穿刺部位を変える。原則と
してエラスターの接続部位にはロック付チューブを用いる。あらかじめ病棟でルー
トキープされている場合も手術室入室後にロック付チューブに交換する。特に腕を
巻き込む必要のある手術ではロック付チューブは必須である。
⑤ 執刀前に術者によるタイムアウトを実施する。麻酔科医は患者のネームバンドを再
度見て、本人に間違いないかを確認する。麻酔術前用紙の術前診断、術側、予定術
式も間違いがないかをチェックする。同時に外回り看護師は、張り出された画像類
が患者本人のものかを確認する。腕を巻き込む場合にはあらかじめネームバンドを
確認しておく。
⑥ 麻酔がかかった患者の体位には特に注意を払い、術後の神経損傷を防ぐ。仰臥位で
の上肢の過伸展、側臥位での肩関節の不良肢位、砕石位での膝下部での神経圧迫の
経験がある。皮下脂肪の少ない患者では皮下の浅部を走行する神経への圧迫障害が
生じやすく、十分な保護により予防する。術中に術者や助手がのりかかることで神
経損傷が生じる可能性があり、協力を促す。手術を容易にすることよりも患者の安
全を優先する。
⑦ モニターの監視を怠らない。同時に視診、聴診、触診など患者から直接得られる情
報に留意する。モニターのアラームを安易に見過ごさない。
⑧ 薬液を看護師に指示するときは、内容に誤りが無いか、麻酔医と看護師が共に確認
する。輸血に関しても同様である。薬液を投与する際、種類、量、投与経路に誤り
が無いよう十分注意を払う。静脈内に投与すべき薬剤を誤って硬膜外チューブから
投与した例が複数回あり特に注意を要す。注射器の色を変えるなどして間違いにく
くすることも必要である。
⑨ 麻酔医が交代するときは患者の状態、手術の状況、用意した薬液などについて正確
な申し送りを行う。
⑩ 緊急事態を想定し、可能なことは普段から準備しておく(たとえば輸血のセット、
昇圧剤のセットなど)
。また、緊急時に必要な業務の手順を把握しておく(たとえば
緊急輸血の申し込みなど)
。緊急時には医師、看護師とも人員の確保に努める。
⑪ 患者の状態が急変した時には術者との情報のやり取りを密にする。患者の安全を守
るために、場合によっては術式の変更や手術の中止も考慮する。
⑫ 麻酔記録を正確に記載する。特に異常発生時には詳細な記録を残す。
⑬ 普段麻酔業務を行わないものが麻酔をかける場合は麻酔器の使用方法、投薬などに
ついて十分注意する。麻酔器の引き出しにあるマニュアルを参考にする。必要があ
れば躊躇せず麻酔医へ連絡して確認する。
⑭ 麻酔終了時には、回復室が無いため、十分な覚醒状態で退室できるよう心がける。
呼吸や意識レベルに問題のあるときは、主治医や病棟への申し送りを正確に行い、
酸素投与や患者監視について必要な指示を行う。呼吸補助が必要なときなど場合に
よっては麻酔医が病棟まで同行する。
⑮ 患者の状態が許す限り、夜間や人手の少ないときの緊急手術は避ける。
⑯ 高度合併症のある患者や大量出血が予想される症例は、原則として手術が時間外(人
手の少ないとき)にかからないように入室時間を調整する。9 時 15 分の入室が望ま
しい。午後入室は極力避けるべきである。
(3)術後回診
術後回診の結果をカルテに残す。麻酔と因果関係のある合併症については、患者に説
明し主治医と相談の上対策を講じる。