読み聞かせに関する考察

大阪信愛女学院短期大学紀要第 49 集(2015)7-13
読み聞かせに関する考察
今福 謙 谷原 舞
要
旨
本研究は,今後の保育者養成におけるよりよい読み聞かせ指導についての課題を探ることを目
的とする.そのため,まず先行研究で読み聞かせの意義と“ねらい”について概観する.そして,
これまでに実習経験を積んできた学生たちが,何のために絵本を読む必要があると考えているの
か,また,どのような視点から絵本を吟味しているのかについて,学生が提出した課題や教材研
究シートをもとに分析した.その結果,学生は子どもに絵本の世界を楽しませるというよりも,
絵本を通じて「想像力」
「言語力」「集中力」といった力を育みたいという気持ちが強いことがわ
かった.また,教材研究においては,「教訓」を重視し,内容理解に偏ることが明らかとなった.
学生にとって意識されていない項目については,読み聞かせ指導の際に重点的に扱っていく必要
があると考える.
キーワード:絵本 読み聞かせ 意義 ねらい
1.研究の目的
は簡単にできてしまうものと捉えられてしまう
子どもにとって幼少期の様々な経験の有無は,
恐れがあるだろう.
生涯にわたり影響し続ける.そのため保育者は
子どもの心をつかむ絵本の読み聞かせを行う
子どもにその発達を踏まえ様々な絵本や紙芝居
ためには,保育者が様々な絵本の中から吟味し
などの児童文化財に出会わせることが重要だと
たものを,入念に下読みをしたうえで実演する
言われている.
ことが大切である.せっかくの実習経験である
本学では,保育者志望の学生たちが一回生か
にもかかわらず,その場限りのような読み聞か
ら二回生までいくつかの実習を経験しているが,
せを行っていたのでは,絵本を通じて子どもの
保育内容の言葉に関してどのような実習経験を
心をつかむという,保育者としての素晴らしい
したか尋ねたところ,大半の学生が,特に絵本
感動体験をすることなく終わってしまうのでは
の読み聞かせを行ったと答えた.どの園でも読
ないだろうか.今一度,絵本の読み聞かせをす
み聞かせは必要とされており,実習生にもその
る意義を学生たちに再考してもらいたいと考え
力が求められていることがわかる.しかし,ど
る.本研究では,これまでに実習経験を積んで
のような過程で読み聞かせを行ったのかという
きた学生たちが,何のために絵本を読む必要が
質問に対しては,保育室にある絵本の中から好
あると考えているのか,また,どのような視点
きなものを一つ選んで,その場で読んだという
から絵本を吟味しているのかについて調査し,
声が多く,しっかりと練習をして行ったという
今後の保育者養成におけるよりよい読み聞かせ
学生はわずかであった.実際に園によっては,
指導へ向けて課題を探る.
絵本の読み聞かせは降園前の空いた時間に行う
というところも少なくない.そのような実態を
2.読み聞かせの意義と”ねらい”の概観
目にした学生たちにとって,絵本の読み聞かせ
2-1.読み聞かせの意義とは
7
絵本の読み聞かせの意義については,保育内
と子どもたち(聞き手)の安定した信頼関係の
容「言葉」に関する様々なテキストの中で記述
上に積み重ねられる共有体験(一体感)である
2)
が見られる.
小寺ほか(2004)では,
「幼稚
こと,②絵本と子どもの生活の連続性が可能と
園教育要領」
(以下「要領」
)と「保育所保育指
なる読み聞かせであることだと考えられている.
針」
(以下「指針」
)での絵本と保育のかかわり
以上のことから,絵本の読み聞かせの意義を
について,詳しく分析されている.その中で,「指
次の5点にまとめる.
針」の領域「言葉」や「表現」での「ねらい」と
「内容」が,以下のように発達段階に沿ってま
1.絵本そのものに親しむ
とめられている.
2.想像力を豊かにする
3.言葉の楽しさ・美しさを感じる
【ねらい】
4.共有体験を通じて感性を磨く
物的環境としての絵本の興味
5.生活と結びつける
→ 絵本そのものの内容への興味・関心
→ 絵本を通して想像力を豊かにする
実際の保育の現場では,これらの意義を念頭
【内容】
に置き,読み聞かせを行わなければならない.
絵本を見て興味をもつ
また、子どもの発達段階と照らし合わせ,適切
→ 言葉の模倣や繰り返しを楽しむ
な絵本を選ぶことも必要だろう.子どもの興
→ 絵本からイメージを広げる
味・関心をよく観察し,目の前の子どもにとっ
→ 絵本の内容から想像することを楽
て何が必要かを深く考えることが大切である.
しむ
では,実際に現場の保育者はどのように絵本
一方,
「要領」では,
「日常生活に必要な言葉
を選んでいるのだろうか.次項で考えていく.
が分かるようになるとともに,絵本や物語など
に親しみ,先生や友達と心を通わせる」と書か
2-2.保育者による読み聞かせの”ねらい”
れている.
前項では,読み聞かせの意義について見てき
以上のことから,
「要領」と「指針」における
たが,実際に読み聞かせをする際には,その絵
絵本を扱う意義としては,
「絵本への親しみ」
「言
本で何を伝えたいか、感じてもらいたいかとい
葉を楽しむ」
「想像力」
「周囲との共感」が挙げ
う“ねらい”は異なってくるだろう.本項では,
られるだろう.
実際に保育者がどのような“ねらい”を持って
1)
大越ほか(2006)では,
「幼稚園で絵本を
読み聞かせをしているのか考える.
3)
読むことのねらいは,絵本に興味をもつように
佐藤ほか(2007)は,5冊の絵本の中から
なる,言葉の美しさに気づく,絵本を通しての
「子どもの想像力をつけること」を考えて絵本
楽しい体験,想像力を育てることなどにある」
を選び,その理由を述べてもらい,保育者の絵
とあり,
「絵本への興味」
「言葉の美しさ」
「楽し
本選択の理由について調査を行っている.その
い体験」
「想像力」に注目されている.
結果,選んだ絵本はほぼ一致していたが,選本
また,4)柴崎ほか(2010)では,幼児期は,
理由は経験年数によって異なることが明らかに
現実と空想の世界を自由に行き来できる時期で
されている.
a)保育経験 1~5 年:
「現実的ではない」から
あると考えられている.よって,絵本等との出
会いを取り入れることは大切であり,皆で聞く
選んだ
読み聞かせによって,感情や感性を豊かなもの
b)6~11 年:幼児の姿を想像して選んだ
にしたり,心を動かす体験がしっかり根付くた
c)12~15 年:絵本内容から選んだ
めの
「養生」
となったりすると述べられている.
d)16~35 年:絵本の活用方法や効果から選
6)
横山(2008)では,保育の場ならではの絵
んだ
a のグループに関しては一般の大学生と同様
本の読み聞かせの意義は,①保育者(読み手)
8
の回答であったと述べられていることから,
・ 読み聞かせの対象年齢,実施日を決める.
経験が未熟な保育者にとって,絵本と子どもた
・
ちを結びつけたり,絵本の幅広い活用方法や効
これまでの実習経験をもとに,読み聞かせ
の意義を考える.
果を見出したりすることは難しいのだろう.
・
しかし,保育者養成の段階で,c グループの
0~6歳児における言語発達の特徴と,各
年齢で「絵本を通じて育みたいこと」を,
ような,絵本の内容を吟味する訓練を行うこと
グループごとに考える.
は可能なのではないだろうか.なお,同研究で
【2回目 読み聞かせのポイントについて】
は読み聞かせの”ねらい”を「想像力」にしぼっ
・
て選ばせていたが,そのほかの”ねらい”も合わ
これまでの実習経験をもとに,読む際の留
意点を確認する.
せた総括的な研究も必要だろう.
6)
(環境作り,発声法,はじめ方,終わり方等)
横山(2008)では,3名の保育者による読
・
0歳児,1歳児の絵本をグループごとに読
み聞かせ場面の観察とインタビューを行い,集
み合い,絵本の”ねらい”を考える.
団での読み聞かせについて調査している.その
【3回目 絵本の教材研究について】
結果,読み聞かせの“ねらい”に対する意見や,
・
7)
「こすずめのぼうけん」を使い,グルー
それぞれの読み聞かせの仕方は保育者によって
プに分かれて教材研究を行う.教材研究シ
異なっていたことがわかった.
ートには,
「何歳児に読むべきか」
,
「この絵
本を通じて伝えたいこと・感じたこと」
・
「読
A 先生(保育年数 30 年)
み聞かせのポイント」を記入.
:集中力や話を聞く態度を育みたい
【4~6回目 読み聞かせ実演】
B 先生(保育年数 29 年)
・ 読み聞かせの発表は,対象年齢ごとに行う.
:友達を思いやる心を育みたい
4回目:1,2歳 5回目:3,4歳
C 先生(保育年数 10 年)
6回目:5,6歳
:絵本の世界そのものを楽しんでほしい
・ 発表日までに,教材研究を行う.
・
以上のように,一人一人に焦点を当てた質的
発表当日,年齢に沿った絵本の読み聞かせ
後,教材研究したことを説明し,視聴者か
研究は見られたが,読み聞かせの“ねらい”に
らの質問を受ける.
関する全体的な傾向を調査した研究は,管見の
・
視聴者は評価・感想を書く.
(良かった点,
限り見当たらなかった.そこで,本研究では学
改善したほうが良い点等)
生が考える読み聞かせの意義や,絵本を選ぶ際
・ 6回目に,読み聞かせに関するビデオ8)
「読
に挙げた“ねらい”を分類し,2-1で挙げた
んであげよう楽しい絵本の世界」を見てメ
読み聞かせの意義が考慮されているのか,分析
モを取り,感想を書く.
を行っていく.考慮されていない項目があれば,
【7~8回目 演習の振り返り】
そこを特に重点的に指導していく必要がある.
・
これまでの読み聞かせを振り返り,自分自
身の良かった点や改善点,他の人の実演を
3.研究方法
見て感じたこと等を書き留めておく.
① 対象 子ども教育学科2回生
② 期間 平成 26 年 10 月~11 月
③
調査方法 授業内での課題,読み聞かせ
4.結果と考察
の評価シート
4-1.学生にとっての読み聞かせの意義
④ 授業形態 演習
1回目の授業では,絵本の読み聞かせの意義
20 人前後×3 クラス
を振りかえることを目的とし,
“保育における絵
⑤ 授業内容 1~8 回の内容を以下に示す.
本とは/何のために絵本を読むのか”について
【1回目 授業の概要・読み聞かせの意義】
自由記述してもらった.表1に,回答の中から
9
特に多く見られたものを示す.
これは,学生の考える読み聞かせの意義が,内
表1を見ると,まず上位三つに「~を身につ
容や言葉など,絵本の中身にとらわれてしまっ
ける」という言葉が見られる.実際に回答の中
ているからではないだろうか.子どもが共有体
でも,このような表現は多く見られた.学生た
験をする中で一体感を感じたり,子ども自身の
ちは,読み聞かせを通して,子どもたちに何か
生活と結び付けられたりできるということは,
能力を身につけさせたいという気持ちが強いこ
読み聞かせの意義のひとつであるということを,
とがわかる.
改めて学生に伝えておく必要があるだろう.
ここで,最初に概観した先行研究における読
み聞かせの意義と表1を比較すると,
「言語力」
4-2.学生にとっての読み聞かせの”ねらい”
「想像力」が重なっている.このことから,学
前項では,実習生の読み聞かせに対する意識
生は,これまでの実習経験や絵本体験から,す
について分析した.では,実際に読み聞かせを
でにこれらの項目が重要であると考えているこ
する際には,どのような”ねらい”を持って,
とがわかる.次に多く挙げられていた項目が,
絵本を選ぶのだろうか.演習授業の中で学生が
3「集中力・話を聞く態度」と 4「内容理解」で
自身の読み聞かせの前に提出した教材研究シー
あるが,これらは小学校以上で行われる国語の
トをもとに調査していく.教材研究シートには
読解授業での経験が影響しているのではないか
「対象年齢」
「題名・作者」
「なぜこの年齢で扱
と考えられる.保育者は「文学としての絵本」
うのか」
「伝えたいこと・感じたこと」
「読み聞
を子どもに提示してしまう傾向があり,正しい
かせのポイント」について記述してもらった.
反応を子どもに期待してしまうとも言われてい
本研究では,その中で「伝えたいこと・感じた
る(5)南 2009)
.時には内容理解も必要になっ
こと」を読み聞かせに対する”ねらい”とし,
てくるが,そこに集中してしまうと,教師の考
それを①教訓,②共感,③楽しむ,④知る,⑤
えの押し付けになり,子どもの想像力を育む機
想像,⑥興味(関心)
,⑦同調,⑧行事や生活習
会を逃してしまう恐れがある.幼児期後半にな
慣,⑨話す,⑩リズム,⑪感性,⑫比較,⑬集
れば,時々少し長い物語を読み,理解を深める
中,⑭言葉,⑮予想の 15 個の項目に分類した.
活動を行ってもよいと思われるが,小学校に入
各分類に対する定義とそれぞれの回答数を表2
るまでは,リラックスした状態で自由に感じら
に示す.
れるような読み聞かせを行うのが望ましい.
表2を見ると,まず,
「①教訓」が読み聞かせ
また,学生の意義の中には2-1で挙げた
「共
をする際の”ねらい”として最も多く挙げられ
有体験」
「生活との結びつき」
「絵本そのものに
ていることがわかる.
「①教訓」の具体的な例と
親しむ」といった言葉がほぼ見当たらなかった.
しては以下の通りである.
表1 絵本の読み聞かせの意義(全 56 人中)
意義
回答数(割合)
1
言語力を身につける/言葉に関心をもたせる
44(78.6%)
2
想像力を身につける
43(76.8%)
3
集中力・話を聞く態度を身につける
35(62.5%)
4
内容理解を深める
13(23.2%)
5
世界の見方を広げる
10(17.9%)
6
次の活動に期待を膨らませる
9 (16.1%)
7
文字等に楽しみながら触れる
8 (14.3%)
10
・ いじわるしても,楽しくないということ
ことが影響しているのではないだろうか.
(対象:2 歳『おばけのムニムニ』 古内ヨ
次に多く見られた「②共感」の例は,以下の
シ作・絵/あかね書房)
通りである.
歯をみがかないと,虫歯になって痛い思い
をするから,歯をみがいてほしい.
・
頑張って取り組むことにより成功できた喜
びを感じる
・
(対象:5 歳『むしばあちゃん』
:苅田澄子
(対象:2歳『ちょっとだけ』 瀧村有子作,
作,おかべ りか 絵/佼成出版社)
鈴木永子絵/福音館書店)
大きな声が出なくても大丈夫.いつか大き
な声が出るようになると伝えたい.
・
でこちゃんの悲しい・嬉しい気持ちに共感
し,楽しむ
・
(対象:6 歳『くまのこうちょうせんせい』
(対象:3歳『でこちゃん』 つちだ のぶこ
作・絵/ PHP 研究所)
こんの ひとみ 作,いもと ようこ 絵/
・ 家族のあたたかさや,楽しさを知る
金の星社)
2-1の読み聞かせの意義と関係するものは,
(対象:5歳『ワニぼうのこいのぼり』 内
「②共感」
「③楽しむ」
「⑤想像」
「⑧行事や生活
田 麟太郎 作,高畠純 絵/文溪堂)
習慣」
「⑭言葉」の項目である.よって,意義と
しては意識してはいないが,実際に読み聞かせ
「共感」というのは,学生自身が絵本を読ん
をする上で絵本を吟味すると,絵本を読んでま
で感じたことを,子どもにも感じてもらい,大
ず何を伝えられるかを考える傾向があることが
切な気持ちに気付かせたいというものや,絵本
わかる.ここでも,特に内容に注目してしまう
の中で普段はできない体験をすることによって,
表2 読み聞かせの”ねらい”
(全 59 人中)
ねらい
定義
回答数(割合)
①教訓
社会的ルール,物事の大切さを学ぶ
47(79.7%)
②共感
感情を体験し,周囲と共有する
37(62.7%)
③楽しむ
物語や絵を楽しむ
13(22.0%)
④知る
知識を得る
12(20.3%)
⑤想像
非現実・未体験の世界を想像する
11(18.6%)
⑥興味(関心)
物事に関心を持つ
9(15.3%)
⑦同調
登場人物に同調する
3 (5.1%)
⑧行事や生活習慣
行事前に導入として扱う
3 (5.1%)
⑨話す
絵本をもとに話す
3 (5.1%)
⑩リズム
言葉のリズムを楽しむ
2 (3.4%)
⑪感性
絵を見て感性を高める
2 (3.4%)
⑫比較
物事を比較する
2 (3.4%)
⑬集中
集中して話を聞く
1 (1.7%)
⑭言葉
言葉に関心を持つ,言葉を身につける
1 (1.7%)
⑮予想
物語の先を予想する
1 (1.7%)
11
そこで感じる気持ちを一緒に味わってほしいと
指導の際にも重点的に指導していきたい.
いうものが多かった.これは,2-1で挙げた
「共有体験」に当たるだろう.このように,子
4-3.年齢別に見た”ねらい”の差
どもの感性を育てたいという気持ちが“ねらい”
4-2では全体的な読み聞かせの”ねらい”
でよく表れていた.この「共感」は,保育者が
について見てきたが,ここでは発達段階の違い
感じたことを子どもと共有することに加えて,
による”ねらい”の差が見られるのかどうか検
集団の中で同じ気持ちを一緒に味わうことも,
討する.まず,各年齢で挙げられていた“ねら
豊かな感性を育むために重要な役割を担ってい
い”の数を表3に示す.
ることを改めて確認しておきたい.
表3 各年齢における“ねらい”の数
最後に,2-1で挙げた読み聞かせの意義,
「絵本そのものに親しむ」「想像力を豊かにす
年齢
る」
「言葉の楽しさ・美しさを感じる」
「共有体
2歳
13
27
験を通じて感性を磨く」
「生活と結びつける」に
3歳
11
22
4歳
12
30
5歳
10
25
6歳
13
42
関して他の項目に着目する.
「想像力」は2割程
度見られたが,
「言葉の楽しさ・美しさ」や「生
活と結びつける」はほとんど見られず,
「絵本そ
のものを親しむ」といった記述も見られなかっ
担当者(人) “ねらい”の数(個)
た.この中でも特に,4-1で学生自身が意義
として挙げていた「想像力」
「言語力」に関して
次に,各年齢でそれぞれの“ねらい”がどの
は,個々の絵本で“ねらい”として定められる
くらい挙げられていたのか,表4に示す.
なお,
ものではなく,どんな絵本でも読み聞かせの際
表の数値は,上段が回答数(個)
,下段が各年齢
に自然と身につく力だと考えられているのでは
の“ねらい”の数(表3参照)に対する割合(%)
ないだろうか.しかし,単純に想像させればよ
を表している.
いというのではなく,どの場面でどのような想
表4を見ると,全体の傾向と同様に,どの年
像を膨らませ,どんな言葉を身につけてほしい
齢においても,
「①教訓」と「②共感」は読み聞
かなど深く考えておかなければ,実際にそれら
かせの“ねらい”として多く挙げられている.
の力を育むことは難しいだろう.
「①教訓」については,3~6歳児で特に重視
このように,
“ねらい”ではなかなか注目され
されているが,これは,ある程度言葉が理解で
にくかった項目に関しては,今後の読み聞かせ
きる発達段階にならなければ,社会的ルールや
表4 年齢別に見た読み聞かせの”ねらい”
2歳
3歳
4歳
5歳
6歳
①
教
訓
②
共
感
③
楽
し
む
④
知
る
⑤
想
像
⑥
興
味
4
14.8
7
31.8
10
33.3
6
24.0
20
47.6
5
18.5
7
31.8
6
19.4
6
24.0
13
31.0
2
7.4
3
13.6
4
12.9
3
12.0
1
2.4
5
18.5
2
7.4
2
9.1
2
6.5
3
12.0
2
4.8
4
14.8
2
9.1
1
3.2
2
8.0
3
9.7
2
8.0
2
4.8
-
⑦
同
調
⑧
行
事
⑨
話
す
⑩
リ
ズ
ム
-
-
1
3.7
-
-
2
8.0
2
2.4
12
⑪
感
性
⑫
集
中
⑬
言
葉
⑭
比
較
⑮
予
想
1
3.7
-
1
3.7
1
3.7
1
3.7
-
-
-
1
4.5
-
-
-
-
2
6.5
1
4.0
2
6.5
-
-
-
-
-
1
3.2
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1
2.4
1
2.4
-
-
1
2.4
-
物事の大切さを理解すること難しいと考えられ
もの言葉を育む大事な読み聞かせ体験を,より
ているからだろう.就学前の6歳になってから
有意義な時間にするため,学生の無意識の部分
は,約半数を占めており,これからより複雑な
に着目して指導を行う等,保育者養成側の配慮
社会に入っていく子どもたちに対して,様々な
が必要である.
ことを伝えておきたいと思う気持ちが現れてい
る.実際に,
「①教訓」を“ねらい”として挙げ
引用文献
1) 大越和孝,安見克夫,髙梨珪子,野上秀子,
斎藤二三子:保育内容「言葉」言葉とふれ
あい,言葉で育つ(2006)
ていた学生の読み聞かせでは,最後に「みんな
も~しないようにしようね」などまとめの話を
する場面も多く見られた.最後に保育者の言葉
2) 小寺玲音,瀧川光治,玉置哲淳:保育実践
でまとめてしまう読み聞かせばかり行ってしま
における絵本の持つ意味に関する考察―幼
うと,せっかく絵本の中で自由に想像を膨らま
稚園教育要領・保育所保育指針および保育
せていた子どもの考えが,保育者の考えに限定
内容「言葉」のテキスト類の比較からみた保
されてしまう懸念がある.
育者の役割―.
反対に,2歳対象の絵本では,
「①教訓」や「②
Educare
第 25 巻
p.
31-45(2004)
共感」以外にも「④知る」や「⑥興味」のよう
3) 佐藤智恵,松井剛太,上村眞生,祝小力,
に,絵本を通じて物事に興味を持たせようとし
趙京玉:保育者の絵本選択の理由と経験年
ていることがわかる.また,3~5歳では「③
数との関連に関する研究.幼年教育研究年
楽しむ」
項目もいくつか見られる.このような,
報
絵本の内容理解にとらわれず,興味関心を引い
第 29 巻 p.59-64(2007)
4) 柴崎正行,秋田喜代美,戸田雅美:保育内
たり,絵本そのものを楽しんだりするような読
容「言葉」
.ミネルヴァ書房 (2010)
み聞かせも,より一層増やしていくよう指導が
5) 南元子:小学校教員・保育者養成校におけ
必要だろう.
る絵本の位置.愛知教育大学
究
5.まとめ
幼児教育研
第 14 号 p. 55-60(2009)
6) 横山真紀子,水野千具沙:保育における集
本稿では,
読み聞かせ指導の向上を図るため,
これまで一般的に考えられている読み聞かせの
団に対する絵本の読み聞かせの意義―5 歳児
意義と“ねらい”について概観したうえで,学
クラスの読み聞かせの場面の観察から―.教
育 実 践 セ ン タ ー 研 究 紀 要 (17) , P.41-51
生の考える意義と“ねらい”を分析した.その
(2008)
結果,意義に関しては,
「共有体験」
「生活への
結びつき」
「絵本そのものに親しむ」ことが,他
7) ルース・エインズワース
の「言語力」
「想像力」と同様に重要だと伝える
イラスト/福音館書店
必要があるとわかった.そして“ねらい”に関
けん』
(1977)
著, 堀内 誠一
『こすずめのぼう
8) 読んであげよう楽しい絵本の世界 幼保・学
しては,
「教訓」等,絵本の内容に偏り過ぎない
校編
よう気をつけなければならない.
今後、教材研究で“ねらい”を考える際に最
紀伊国屋書店(1997)
(受理
も重点的に指導したい項目は,
「想像力」
「言語
力」
「生活への結びつけ」
,そして「絵本そのも
のを親しむ」である.特に,
「絵本そのものを親
しむ」ということは,幼児期の読み聞かせをす
る際に,基本的な考えである.そのためには,
絵本の読み聞かせが義務的なものではなく,楽
しむものであることを再確認し,内容理解から
切り離して考える機会が必要だと考える.子ど
13
平成 27 年 4 月 9 日)
14