NPO

「協働の基礎を考える」①
~市民・自治体職員・議員向け~
関谷
昇(千葉大学)
※本資料は協働関連の講演資料からの抜粋です
※無断転載はご遠慮ください
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目次
1,「協働」論の背景
2,「協働」の考え方
3,「協働」をめぐるディレンマ
4,「協働」の活性化と自治の模索
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1,「協働」論の背景
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①社会構造の転換期
◎尐子高齢社会の本栺化
成長経済社会の終焉
労働人口・社会単位の流動化
相互支援型社会への転換の必要
◎従来型政治・行政構造の限界
中央依存の地方行政の終焉
画一的・管理的合理主義の限界
地方分権と自治体・市民の自立の必要
↓
基礎自治体の充実へ向けて
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②代表制民主主義の再考
◎市民参加を阻害する代表制
利益誘導型・既得権主義の限界
統治能力の限界(政府の失敗論)
地方議会の形骸化(二元代表制の是非)
◎政治・行政改革
市民生活とアジェンダ設定のズレ
説明責任の明確化
行政集中からの脱却と民間・公共部門の拡充
↓
重層的民主主義の確立へ向けて
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③文化行政論の発展系
◎1970年代と2000年代の市民参加
反政治・行政の市民運動(1970年代)
自己実現型の市民活動(2000年代)
市民文化と行政文化の融合
◎市民活動の進展
地域コミュニティの活性化
地域資源の発掘と活かす工夫
地域における異質な要素の尊重
↓
市民の「生活」に即した問題解決へ向けて
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2,「協働」の考え方
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【地方の自立という根本課題】
地域の問題は自治体が解決することが基本
●地域に必要な自治体運営の確立
中央依存型行政からの相対的自立(地方のための行政)
縦割り行政(追認議会)からの脱却及び地域独自の政策形成
地域社会に即した予算配分および事業の優先順位の見直し
●行政組織の縮小と市民自治の確立
行政裁量の縮小(効率化)と「普遍的ルール」の確立
行政主導による意志決定から市民主導による意志決定へ
公共サービスをめぐる「生活者」への配慮
課題解決に支障となることがらの克服
●政策法務の実践
通達行政を継続ではなく、地域政策のための「法解釈」
前例踏襲ではなく、課題解決を目的とした政策づくり
●政策法務と協働との乖離
協働→政策法務→課題解決という行政過程の確立
政策と市民活動を融合させる視点
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【市場化と市民化という流れ】
市場化=効率化・公正化・競争原理
小さな政府、財政再建、規制緩和、民営化、自己責任
市民化=市民主権・市民社会・市民的公共性
社会的連帯、市民活動、市民参加、地域主義、自己決定
↓
協働論の流行
・市場化と市民化とのバランス、市民団体の活性化
・市民と行政との連携あるいは市民間の連携を通じて、従来型
行政体制や事業の見直しを図り、合わせて共助の可能性を探る
【協働とは】
人間の生活領域全般において、個人・法人・団体などの複数の
主体が、共通する事柄の実現のために、各自の役割及び相互の
関係性を尊重しながら、創造的かつ持続的に行う活動の方法
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「協働」の意味
◆原点としての地域住民に即した計画の立案と実施・予算配分・
政策の優先順位・意思決定・事業評価への転換を図る
◆問題を抱える当事者にもっとも身近なところから地域社会が
共有すべき基準・方向性・解決手法を模索する
◆地域住民が問題を知り、共有し、相互理解と協力に向けて一歩
を踏み出しうる多角的な環境・支援を整備する
◆地域資源の循環を自治体の内外に創出していくことを通じて、
地域力とその活性化を育む
◆特定主体に権限や情報が集中することを回避し、多元的な自己
決定をなしうる持続的で小さな「自治」 を目指す
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「協働」の考え方の原点
◇「一人の人間」として見る
・縦割り行政によって分断されている市民生活
・トータルな個人理解(ライフサイクル・置かれた背景や生活
実態)があってはじめて支援が活きる
・多様な生き方を許容できる地域社会
◇領域横断的な社会制度システムの再構築
・福祉・医療・年金・教育・就労・住宅・都市・環境といった
課題は、単独事業で対応しえない
・共助の拡がりと公共領域の拡大は既存事業の成果を上回る
・NPOの増加と既存事業の変革、新領域事業の可能性
◇公的領域の縮小 + 公共的領域の拡大 + 資源循環の活性化
・市民の熱意と働きかけと自立
・当事者の関不による問題の周知化と課題解決の実質化
・市民との応答的関係を通じた行政の自己変革
・情報、権限、予算を市民・地域へ漸次的に移行
・地域資源循環による持続可能社会を創造
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市民・行政・議会の自己変革へ向かう必要
●市民からの働きかけ
↓
行政・議会の自己変革
地域の現状把握・必要とされているものの認識
市民と連携すべき事業の洗い出し
総合的判断に基づく必要な事業への漸次的再編
●行政・議会からの働きかけ/市民相互による働きかけ
↓
市民の自己変革
行政依存からの脱却と自立的活動の模索
問題解決に相応しい自助/共助/公助の判断
市民自治の段階的実践
→協働とは双方が変わっていくための様々な契機であり手段である
地域の公共空間が形成される条件
私的活動
地域社会(市民活動領域)
公共的活動
協働
応答的関係
議会
行政
公的活動
・地域社会の市民が自立的にいかなるものを生み出すことができるか
・行政と議会が地域社会をいかに受けとめ、公共空間に編成できるか
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3,「協働」をめぐるディレンマ
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①地方自立の足踏み
●地方自治体における「自立」意識の希薄さ
・機関委任事務の全廃以降における体制転換の停滞状況
・いまだに続く中央依存と自治体独自の政策事業開発の弱さ
・協働→政策法務→地域の課題解決という行政過程の未整備
↓
自治体が自立しないから自由度拡充が進まないというディレンマ
●協働体制の未構築
・市民の自立が一定の範囲に限られている現状
・課題解決のための行政過程に組み換えるという動きの鈍さ
・行政に依存する市民と現場を見ようとしない職員という悪循環
↓
市民と行政との双方が現状維持に囚われているというディレンマ
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②「市場化」と「市民化」の混在
▼協働体制の基盤を掘り崩している合理主義
・課題解決のための公私分担見直し論になっていない現状
・生活者という視点が分断されている状況
・功利性に即さない市民個性や地域的要素の排除
▼効率性優先の陥穽
・行政のコスト削減が公共政策を矮小化
・採算の合わないものこそ「公」が担うという発想の後退
・職員の過剰負担がモチベーションの低下を誘発
▼ヒエラルキー的集権化からフラット的集権化への変容
・官でも民でも持続し続ける「集権化」
・組織統合や事業削減がもたらす新たな管理統制
・単純化された目標への誘導(課題設定の短絡化)
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③社会や組織における「閉鎖的関係性」
▼思考・行動様式に蔓延るムラ社会の閉鎖的関係性
・農村型から都市型へのコミュニティの権力的再編の歴史
・都市型社会に適合してきたムラ社会(古層)
・(核)家族や(会社)組織に根強く残る排他性
・経済成長の好循環が閉鎖性を抑制・隠蔽
▼閉鎖的関係性と社会の断片化
・自分ないしは自分が属している組織・団体の閉鎖性
・閉鎖性が生み出す固定観念、排除の論理、活動の萎縮
・競争原理や自己責任論が社会の断片化・孤立化を助長
↓
これらが行政による市民管理(囲い込みの発想)を規定して
いる決定的な要因であることを自覚する必要
※ 関谷昇「地域社会における協働の可能性」
(千葉県職員能力開発センター『政策情報ちば 人口減尐社会を考える』、17-22頁、2009年)
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④行政主導の協働という矛盾
●行政による責任転嫁という批判
・コスト削減を主目的にして住民の負担を拡大させる?
・市民の意見を聞いたことにするアリバイづくり?
・協働と委託との混同
●助成金支援に傾斜した協働
・市民活動支援が市民の自立に必ずしも結びついていない現状
・助成金支援が市民と行政との連携につなげられていない現状
・行政体制(事業運営)の見直しを棚上げにする傾向
●「環境の丌在」→「意識の遅れ」という袋小路
・住民が市民へと成熟する場や機会が整っていない現実
(情報共有・地域における討議や意志決定の場の尐なさ)
・参画環境の丌在が市民の関心を押さえ込んでいる悪循環
・住民啓蒙という集権的体質の持続(市民活動の下請化)
・地域で物事を決めて実践していく権限の欠如
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領域区分論の問題性
市民の領域
協働の領域
行政の領域
個人や家族の自主性と判
断に基づいて活動が行わ
れる領域
地域社会における様々な
主体や能力や特性を通じ
て、市民相互の連携を行
う領域
行政の責任と判断に
よって行われる領域
◎領域区分論のみに終始している傾向
・この領域区分は誰がどのように判断していくのか?
・単なる事業委託の域を出ていない現状
・公私の役割分担を行政主導で行うのでは何も変わらない
◎自己変革なくして協働は進展しない
・市民も行政も現状を変えるという姿勢が弱い傾向
・地域の問題解決を第一義的に考える意識の弱さ
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【協働が進展しない悪循環の構造】
個人や団体間の相互排除地域社会の分断
市民相互への働きかけと相互理解の丌足
団体を越えた場で合意形成する機会の丌在
・地域課題への無関心
・政治的無関心
・行政依存と自立の弱さ
・重層的意志決定の未成熟
市民
・支持勢力のみに限られた利
益誘導政治
・縦割り行政による市民
生活の分断
・専門性の下における行
政過程からの市民排除
行政
【閉鎖的な思考・行動様式】
・代表制の下における政治過
程からの市民の排除
議会
・行政主導の協働
・議会を棚上げした協働
市民が必要とする情報提供の丌足
人員削減による職員負担の増加と意識の低下
市民の自立を目的とした支援体制の未整備
全体の意志決定と市民協働の違いの無自覚さ
市民への働きかけと議論喚起の丌足
行政監視の形骸化(癒着)
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4,「協働」の活性化と自治の模索
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【「市民自治」を拓く契機としての「協働」】
市民の行政依存と行政の現状維持が根強く残る現状
市民の相対的自立を拓く過渡期的現象としての「協働」
【断片化した社会を「ひらく」】
◎閉ざされた組織・集団をひらく
◎行政と住民の間にある壁をひらく
◎固定観念をひらく
【地域の諸主体と諸資源を「つなぐ」】
◎地域の諸問題の発見と共有
◎市民と行政、市民団体相互をつなぐ
◎地域資源の発見・流れ・有機的結合・相互補完
・市民と行政の双方における現状認識と課題意識の拡がり
・市民が自己決定する場や機会の積み重ね(行政は側面支援)
・共助を通じた自立の深まりと公私分担見直しの本栺化
↓
市民自治の確立へ
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①現場を通じて発見・実感・共有できる地域課題
【職員が現場に出る】
前例踏襲を自明視するのでなく地域の課題それ自体を捉える姿勢
上位機関の課題設定のみに依存しないで自分で考える姿勢
地域課題を地域の文脈に即して理解する姿勢
【市民と職員および市民間の信頼関係】
当事者とのかかわって声を直接聞いていく
市民が自主的にできることを応答的関係を通じて見出す
様々な立場や状況下にある人々に積極的に働きかける
【地域課題の共有】
当事者の関心を引き出しうる場や機会の設定
地域(地区)の課題と自治体全体の課題の見極め
市民と行政および市民間の対話を通じた問題把握と課題設定
地域サロン・フォーラム・学習機会・現場研修の充実
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②市民が自らの文脈で接点を持ちうる「入り口」
【地域における主体や活動の多様性】
個人的趣味から奉仕活動まで様々な主体や活動が混在する現場
歴史・風土、立場・役割、機能・しくみ、世代・価値観…
単一的な枠組みでは地域における多様な要素を捉えきれない
何が問題なのかを各主体が各々の文脈で共有できることが重要
【棲み分けと連携】
文化の異なる地域・団体の違いを最大限に尊重する姿勢
異質なものが出会う環境と仕掛け(予め結果を想定しない)
様々な履歴・特性・役割を活かしながら組み換える視点
【地域コミュニティの多中心性】
市民と職員との応答的関係の充実(地域・協働担当職員)
単一の包拢的拠点ではなく既存の様々な交流拠点を活用
地域市民の関心・問題・立場・文化に応じた対応窓口の必要
学校、福祉施設、公民館、商店街、企業、サポセン、空き地…
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③諸団体の多機能性とその媒介
【広義のNPO】
NPO法人から地域自治会までを含む非営利(市民)活動団体
自発性・自己統治・自由な発想・機動力・領域横断性・共助
資金難、人材難、意識間栺差、団体間の衝突
【公共的活動としての市民活動】
市民活動は始めから帰結を意図できないからこそ拡大が可能
NPOと地縁組織との(部分的)連携(都市型+農村型の魅力)
まちづくり協議会、市民会議、コミュニティ・ガバナンス
市民主導のまちおこし、コミュニティ・ビジネス
【媒介の多様性】
市民と行政の双方における中間支援組織の充実
諸活動を相互に結びつけることによる課題設定の深化
自治体の枠を超えた活動範域と社会的連帯の創出
多機能性の媒介による市民力の創造的結合は行政能力を上回る
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④市民が自主性を発揮できる環境構築
【情報の共有】
地域のまちづくりに必要な基礎情報の積極的な共有化
分かりやすい情報伝達と交通整理・課題整理の必要
市民活動がもたらしうる可能性を射程に入れた情報である必要
【各行政過程への市民参画】
問題発見・企画立案・事業実施・事業評価の各プロセスへの参画
多様な参加手法の組み合わせ
PC・PI会議・ワークショップ・地域(小学校区)単位での協議
【市民が自ら議論しなければならない場や機会の創出】
市民参加型の計画策定が地域への浸透をもたらすという視点
単一団体(組織)ではなく複数の団体(組織)が
討議を重ねて連携していくことを必要とする事業設定
市民参画事業、市民選択型政策(優先順位)、市民提案型事業
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⑤課題解決あっての団体支援
【助成金型協働の限界】
協働が助成金事業に収斂している傾向
活動資金獲得のための団体設立・活動という論理矛盾
協働体制の構築に進まない現状(市民も職員も変わらない)
【市民活動支援の重層性】
市民活動の裾野を広げる必要/公共的課題に資する活動への支援
国・県・市町村における各公募事業の有機的な組み合わせ
関連する各担当課との連携による課題設定・制度設計・事業実施
【課題解決が第一義的】
地域課題の解決に向けて必要とされることを考えることが重要
地域の課題 → 市民提案を通じた自立支援
→ 既存事業との整合を図った連携
→ 既存事業の見直し(公私分担の組み換え)
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⑥協働・自治を拓く普遍的ルール
【行政裁量から普遍的ルールへ】
行政裁量の広さが市民の自立を阻害している現状
協働・自治を持続可能なものにするための条例
策定にあたっては地域の課題解決を原点に置く必要
【ルールの策定と運用が意識を高める】
市民や職員の成熟丌足ゆえに策定は時期尚早と考えることは誤り
ルール(環境整備)が市民・職員・議員の自立と成熟を引き出す
ルールの策定と運用が閉鎖的関係性を打開していく
【課題解決に使えるルール】
政策法務の一環としての協働条例・自治基本条例の策定
市民参画型の条例づくり
自治体・地域の個性(地域文化)の反映
市民の働きかけを事業運営に接合させるプロセス保障
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⑦まちづくりのストーリー性
【市民力の創造】
計画ありきではなく創造的発展を漸次的に進める手法の必要
参加→学習→参加というスパイラル
偶然性を紡いでいくことが市民の自立を醸成する
【合意形成に必要な工夫】
個々の団体が「見られる」必要(市民の相互評価)
隠すのではなく開くことが相互信頼を得られる
新たな視点から自己の価値観・立場・役割を捉え直す契機
公共的観点から個人や諸団体の活動を鍛える必要
【ストーリーの開放的な創造】
各々の主体が接点を持ちうるストーリーの創造
多様性の解放こそがまちづくりの求心力を創出するという発想
地域の諸資源を多面的に解釈しながら意味づける必要
個別事業の断片化を克服
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⑧自治体間連携
【政策研究会】
職員間の自主研究会のすすめ
市民と職員がともに参加する場や機会の創出
市町村・県・市民団体・大学の相互連携
【市民活動の広域的機能】
自治体単位を超えて展開している市民活動の機動性と柔軟性
市民活動の相互補完の拡充
広域的課題の共有と協働の実践
【政策ネットワーク】
市町村自治体の枠を超えた政策ネットワークの構築
歴史的・文化的・地理的背景が類似した協働圏
市町村での協働例を相互に報告・討議・フィードバック
自治体間におけるモデル開発と検証
県の補完的機能の拡充と広域連携の制度開発の必要