(株) 市場経済研究所 2015 年 6 月 1 日( 月 ) Market Economy Research Institute Ltd. 週刊レポート マーケットα <第 110 号> (株)伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲 原油生産は急減する可能性も 原油の需給は依然引き締まっていない。アメリカの原油生産量が減少していない の が そ の 一 因 で あ る 。ア メ リ カ の 原 油 生 産 量 は 、2000 年 代 後 半 以 降 に 急 増 し て い る 。 2000 年 代 半 ば に 300 基 に 満 た な か っ た ア メ リ カ の 石 油 リ グ( 掘 削 設 備 )の 稼 働 基 数 は 、 原 油 価 格 が 高 騰 し た 2007 年 か ら 08 年 に か け て 増 加 し た 後 、 09 年 前 半 に 08 年 後 半 の 原 油 価 格 急 落 を 受 け て 減 少 、そ の 後 、シ ェ ー ル オ イ ル の 開 発 が 本 格 化 し た 09 年後半以降に急増した。 こ の 動 き を 映 し 、 08 年 に 500 万 BD( 日 量 バ レ ル ) だ っ た 原 油 生 産 量 は 、 09 年 以 降 に 急 増 、 14 年 に は 871 万 BD、 15 年 1~ 3 月 に は 940 万 BD を 超 え 、 ア メ リ カ は サ ウ ジアラビアに次ぐ世界第 2 位の原油生産国になっている(グラフ参照)。 石油リグの稼働半数以下に 原油価格が急落した昨年 8 月以降の動きを見ると、石油リグの稼働基数は、8 月 か ら 10 月 に か け て 増 加 、 10 月 に 1,600 を 超 え た 後 に 原 油 価 格 の 急 落 を 反 映 し て 減 少 に 転 じ 、 15 年 2 月 1,080、 3 月 880、 4 月 760、 5 月 660 と 、 ピ ー ク 時 の 半 数 以 下 に 減 少 し て い る 。原 油 価 格 が 底 入 れ し た 3 月 以 降 も 減 少 に 歯 止 め は か か っ て い な い 。 現 在 の 1 バ レ ル 60 ド ル 台 の 原 油 価 格 で は 、十 分 な 採 算 が 確 保 で き な い 石 油 リ グ が 多 いことを意味している。 稼働リグは生産増やす 一 方 、14 年 8 月 に 883 万 BD だ っ た 原 油 生 産 量 は 、10 月 に 913 万 BD に 増 加 し た が 、 リ グ の 稼 働 基 数 が 減 少 に 転 じ た 11 月 以 降 も 、 11 月 916 万 BD、 12 月 939 万 BD、 15 年 1 月 937 万 BD、2 月 941 万 BD、3 月 953 万 BD と 増 加 傾 向 で 推 移 し て い る 。リ グ の 稼働基数と生産量との間で整合性がないのは、生産量が減衰した生産性の低いリグ から停止し、稼働リグの多くが価格の低下を補うため生産量を増やしているためと 考えられる。 価格は供給に確実に影響 原油開発の生産性は探鉱・開発・生産技術の向上によって年々改善しているが、 設備を更新せずに短期間で向上することはない。一般に価格の変化は、需要にはす ぐに反映されるが、供給には時間をかけることが多い。エネルギーは、必需品のた め、価格の変化が需要に与える影響(価格弾力性)は小さいが、供給には確実に影 響する。 1 資源開発各社の経営計画を確認すると、原油価格の急落以降、新規探鉱・開発関 連の投資は大幅に削減されているが、すでに開発・生産段階に移行している油田・ ガス田の投資額は維持されているケースが多いことが判る。原油生産量は、すぐに 減少することはないものの、今後、減少に向かう可能性があると考えられる。 アメリカの原油生産と輸入量 《執 筆 者 紹 介 》 伊 藤 敏 憲 (いとう としのり) 伊 藤 リサーチ・アンド・アドバイザリー代 表 取 締 役 。 1984 年 東 京 理 科 大 学 卒 。同 年 大 和 証 券 入 社 。同 年 に配 属 された大 和 証 券 経 済 研 究 所 (現 :大 和 総 研 )で、エネルギー産 業 等 の調 査 担 当 、素 材 ・エネルギー産 業 調 査 の統 括 、上 場 企 業 調 査 の 統 括 を歴 任 し、1999 年 退 社 。HSBC 証 券 、UBS 証 券 のシニアアナリストを経 て、2012 年 伊 藤 リ サーチ・アンド・アドバイザリー設 立 。現 在 、経 済 産 業 省 「総 合 資 源 エネルギー調 査 会 総 合 部 会 電 力 システム改 革 専 門 委 員 会 」、「原 油 価 格 研 究 会 」、日 本 証 券 アナリスト協 会 「運 営 委 員 会 」などの委 員 に就 任 中 。<主 な著 書 >「石 油 ・新 時 代 へ提 言 」(燃 料 油 脂 新 聞 社 ) 、「伊 藤 敏 憲 の提 言 」(月 刊 ガソリンスタンド)、「Expert Power」(石 油 ネット)。 【免責事項】 「週刊レポート マーケットα」(以下、本情報と略記)は、株式会社市場経済研究所 が提供する一定の条件の下で執筆者が作成したレポートです。 利用者は、本情報を利用者ご自身でのみご覧いただくものとし、ご自身の判断と責任に おいてご利用ください。本情報は一定の情報を提供するものに過ぎず、特定の銘柄、金融 商 品 、商 品 価 格 な ど に つ い て の 投 資・購 買 に 関 す る 助 言 や 勧 誘 を 目 的 と し た も の で は あ り ま せん。また、市場経済研究所は、投資助言・代理業を一切行っておりません。 利用者は、本情報に関して、第三者への提供や再配信、再配布、独自に加工すること、 複写もしくは加工・印刷したものを第三者に譲渡または使用させることはできません。ま た、本情報のウェブページへのリンクは禁止します。その他、市場経済研究所が適当でな いと判断する行為をした場合には、利用を停止させて頂くことがあります。 本情報の利用にあたり、利用者が故意または過失により、市場経済研究所および当該執 筆者に対して、何らかの損害を与えた場合には、市場経済研究所等は損害賠償請求をする ことがあります。 2
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