(株) 市場経済研究所 2015 年 9 月 24 日( 木 ) Market Economy Research Institute Ltd. 週刊レポート マーケットα <第 126 号> (株)伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲 アメリカの原油生産さらに減少へ 昨年 8 月以降、原油価格が急落した際に材料視されたのは、原油在庫の増加、ア メリカの原油生産の増加、中国の景気悪化観測、アメリカの金融政策の転換をきっ かけにしたドル高、ギリシャ危機などを背景にしたユーロ相場の下落、上海株式市 場の大幅な下落に端を発した世界同時株安・国際商品市況安、経済制裁が解除され て石油市場に復帰するイランの増産観測―などだった。 アメリカの原油生産世界一に その1つ、アメリカの原油生産量が減少に転じた。アメリカの原油生産量は、シ ェ ー ル オ イ ル の 開 発 が 本 格 化 し た 2008 年 以 降 に 急 増 、 2000 年 代 半 ば に 300 基 に 満 た な か っ た ア メ リ カ の 石 油 リ グ 稼 働 基 数 は 、 08 年 後 半 の 原 油 価 格 急 落 を 受 け 、 09 年 前 半 に 減 少 し た 後 、 09 年 後 半 か ら 急 増 し た 。 こ の 結 果 、 08 年 に 500 万 BD( 日 量 バ レ ル ) だ っ た ア メ リ カ の 原 油 生 産 量 は 、 14 年 に 871 万 BD、 15 年 4 月 に は 961 万 BD を 超 え た 。 08 年 か ら 14 年 の 6 年 間 の 世 界 の 原 油 生 産 量 の 伸 び の 約 60% は ア メ リ カ の 増 産 に よ る 。ア メ リ カ は 、14 年 に サ ウ ジ アラビアとロシアを抜いて世界最大の原油生産国になっている。 石油リグ数、採算難で前年同期の4割減 原油価格が急落した昨年 8 月以降の動きをみると、アメリカの石油リグの稼働基 数 は 、 10 月 ま で 増 加 傾 向 で 推 移 し 、 10 月 に 1600 を 超 え た 後 、 原 油 価 格 の 急 落 を 反 映 し て 減 少 に 転 じ 、 14 年 12 月 1540、 15 年 1 月 1380、 15 年 2 月 1080、 3 月 880、 4 月 760、 5 月 660 と 急 減 。 9 月 22 日 現 在 で 640 と 前 年 同 期 の 4 割 程 度 に ま で 減 少 し て い る 。こ れ は 1 バ レ ル 60 ド ル を 下 回 る 油 価 で は 、十 分 な 採 算 が 確 保 で き な い リ グ が多いことを意味している。 整合性取れないリグ数と生産量 た だ 、14 年 8 月 に 883 万 BD だ っ た ア メ リ カ の 原 油 生 産 量 は 、10 月 913 万 BD、11 月 916 万 BD、 12 月 939 万 BD、 15 年 1 月 937 万 BD、 2 月 941 万 BD、 3 月 953 万 BD、 4 月 961 万 BD と 石 油 リ グ の 稼 働 基 数 が 減 少 に 転 じ た 昨 年 末 以 降 も 、 4 月 ま で は 増 加 傾 向 で 推 移 し て い た 。 5 月 に 減 少 に 転 じ 、 6 月 に は 930 万 BD ま で 減 少 し て い る が 、 リグの稼働基数と生産量との間で整合性が取れていない(グラ フ参照)。これは、 生産量が少ない高コストのリグが停止する一方、稼働中のリグでは増産体制が敷か 1 れているためと考えられる。 リグの生産性は、探鉱・開発・生産技術の向上によって年々改善してはいるが、 設備を更新せずに短期間で大きく向上することはない。このまま原油価格が上昇せ ず、新規開発が抑制された状態が続くとさらに減少すると思われる。 グラフ US Crude Oil Field Production and Oil Rig Count Source: DOE/EIA 《執 筆 者 紹 介 》 伊 藤 敏 憲 (いとう としのり) 伊 藤 リサーチ・アンド・アドバイザリー代 表 取 締 役 。 1984 年 東 京 理 科 大 学 卒 。同 年 大 和 証 券 入 社 。同 年 に配 属 された大 和 証 券 経 済 研 究 所 (現 :大 和 総 研 )で、エネルギー産 業 等 の調 査 担 当 、素 材 ・エネルギー産 業 調 査 の統 括 、上 場 企 業 調 査 の 統 括 を歴 任 し、1999 年 退 社 。HSBC 証 券 、UBS 証 券 のシニアアナリストを経 て、2012 年 伊 藤 リ サーチ・アンド・アドバイザリー設 立 。現 在 、経 済 産 業 省 「総 合 資 源 エネルギー調 査 会 総 合 部 会 電 力 システム改 革 専 門 委 員 会 」、「原 油 価 格 研 究 会 」、日 本 証 券 アナリスト協 会 「運 営 委 員 会 」などの委 員 に就 任 中 。<主 な著 書 >「石 油 ・新 時 代 へ提 言 」(燃 料 油 脂 新 聞 社 )、「伊 藤 敏 憲 の提 言 」(月 刊 ガソリンスタンド)、「Expert Power」(石 油 ネット)。 【免責事項】 「週刊レポート マーケットα」(以下、本情報と略記)は、株式会社市場経済研究所 が提供する一定の条件の下で執筆者が作成したレポートです。 利用者は、本情報を利用者ご自身でのみご覧いただくものとし、ご自身の判断と責任に おいてご利用ください。本情報は一定の情報を提供するものに過ぎず、特定の銘柄、金融 商 品 、商 品 価 格 な ど に つ い て の 投 資・購 買 に 関 す る 助 言 や 勧 誘 を 目 的 と し た も の で は あ り ま せん。また、市場経済研究所は、投資助言・代理業を一切行っておりません。 利用者は、本情報に関して、第三者への提供や再配信、再配布、独自に加工すること、 複写もしくは加工・印刷したものを第三者に譲渡または使用させることはできません。ま た、本情報のウェブページへのリンクは禁止します。その他、市場経済研究所が適当でな いと判断する行為をした場合には、利用を停止させて頂くことがあります。 本情報の利用にあたり、利用者が故意または過失により、市場経済研究所および当該執 筆者に対して、何らかの損害を与えた場合には、市場経済研究所等は損害賠償請求をする ことがあります。 2
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