[理解のための着眼点:なぜ、法人税制を改正するのか?] 2014年度 秋学期 金曜5限 財政学 2 単一ではない法人課税の根拠、考え方 経済的な意思決定を行う主体としての個人と企業の違い 個人:効用最大化; 余暇からも効用を得る(就労しないことにも意義) 企業:利潤最大化; 営利を得るために操業、立地・投資・生産の選択 様々な立場の関係者による集合体としての側面 法人税 法人所得課税の影響の裾野の広さ:転嫁と帰着の複雑さ 株主(配当)、経営者・役員(報酬)、従業員(賃金、雇用)、消費者(生産 される財・サービスの価格) 税の実質的な負担者であることの意義 ⇔ 公共サービス受益との関係 第10回 担 当: 石 川 達 哉 国際的に高い日本の法人実効税率 法人所得課税への依存度の高さ:取りやすいところから取る? 地方法人税の高さ:税収の不安定性、税源の地域的偏在 当講義用ホームページはhttp://www1.meijigakuin.ac.jp/~ishikawa 明治学院大学 2014年度 秋学期 8-2.法人税の課税ベース 8-1.法人税の根拠 法人実在説の考え方 ・・・ 「法人は個人とは別の課税主体で独自の担税力 を持つ」 「正常利潤を超えた利潤に対する課税」 1950年のシャウプ勧告以前の法人税制度は法人実在説に基づく 法人擬制説の考え方 ・・・ 「法人は個人株主の集合体」 「法人税は個人所 得税の前取り」 ⇒ 「法人税課税と個人段階での配当課税の調整の必要性」 個人所得課税における配当控除制度:受取配当の10%を税額控除することに より、法人と株主の(二重)負担を調整 (課税総所得が1000万円超の場合、超える部分に関しては5%) 法人間配当に対する受取配当益金不算入制度 課税ベースは共通 法人および法人税制の二面性 しかし、... 2012年度決算における法人税、地方法人税の収入実績 • 法人税:9.8兆円 • 地方法人特別税:1.7兆円、法人事業税:2.4兆円、法人住民税:3.0兆円 明治学院大学 2014年度 秋学期 139 法人税(国税): 基本税率25.5%、中小法人への軽減税率15% 法人住民税(地方税) *:暫定措置として、地方法人特別税(国税)の導入 法人事業税*(地方税) と法人事業税率引下げがセットで行われている 法人税の課税ベース: 各事業年度の法人所得=益金-損金 益金:商品の販売、役務の提供、財産の譲渡などによる収入 損金:売上原価、譲渡原価、工事原価、販売費、一般管理費などの費用 企業会計上の決算利益を調整して税法上の所得を計算 • • 益金不算入(受取配当、資産評価益等) 益金算入(外国税額控除等) 損金不算入(法定償却超過額、限度超の寄付金、交際費等) 損金算入(繰越欠損金、圧縮記帳等) 減価償却制度: 建物・機械装置等の資産の取得価額を使用期間に費用計上 資産種類毎に耐用年数を法定 償却方法は定額法・定率法(建物は定額法のみ) • 「裕福な企業、貧しい企業」という概念は無効 法人に対する所得課税: • 138 明治学院大学 2014年度 秋学期 140 [資料No. 17 法人税率の推移] 各 事 業 年 度 の 所 得 に 対 す る 税 率 普 通 法 人 適用事業年度 基 本 税 率 区分 留保分 所 得 区 分 区分 留保分 配当分 1950.4以降終了 35% - - 1974.5以降終了 1952.1 〃 42% - - 1975.5 〃 地方税収に占める主要税目の構成割合 普 通 法 人 適用事業年度 軽 減 税 率 配当分 [資料 地方税に占める法人所得課税] 各 事 業 年 度 の 所 得 に 対 す る 税 率 基 本 税 率 留保分 配当分 40% 28% 〃 30% 軽 減 税 率 所 得 区 分 年600万円以下(資本金 1億円以下の法人のみ) 年700万円以下(資本金 1億円以下の法人のみ) 年800万円以下(資本金 留保分 配当分 28% 22% 〃 〃 30% 24% 40% - - 1981.4 〃 42% 32% 1955.10 〃 〃 年50万円以下 35% 1984.4 〃 43.3% 33.3% 〃 31% 25% 1957.4 〃 〃 年100万円以下 〃 1987.4 〃 42% 32% 〃 30% 24% 1958.4 〃 38% 年200万円以下 33% 1989.4以降開始 40% 35% 〃 29% 38% 28% 〃 33% 24% 1990.4 〃 37.5% 〃 28% 1964.4 〃 〃 26% 年300万円以下 〃 22% 1998.4 〃 34.5% 〃 28% 1965.4 〃 37% 〃 〃 31% 〃 1999.4 〃 30% 〃 22% 28% 〃 2009.4 〃 30% 〃 18%(協同組合22%) 〃 〃 2012.4 〃 25.5% 〃 15%(協同組合19%) 1966.1以降開始 35% 〃 1970.5以降終了 36.75% 〃 1億円以下の法人のみ) 〃 道府県民税の法人税割(標準税率) : 5.0% 均等割:2万~80万円 市町村民税の法人税割(標準税率) :12.3% 均等割:5万~300万円 法人事業税 外形標準課税 ①所得割:7.2% ②付加価値割:0.48% ③資本割:0.2% 外形標準課税によらない場合 所得金額課税法人:5~9.6% 収入金額課税法人:1.3% 11% 2000 年度 24% 8% 10% 141 (制限税率20.7% について) ・道府県民税: 6.0% ・市町村民税 :14.7% (均等割:6万~360万円) 地方法人特別税・地方法人特別譲与税: 2008年10月以降適用の暫定措置。地域間の税源偏在是正が目的。法人事 業税を減税する一方、当該額を地方法人特別税(国税)として賦課した後、 その全額を地方法人特別譲与税として人口と従業者数により按分する形で 各都道府県へ譲与。法人の税負担と国の収入、都道府県全体の収入は変 わらず、都道府県毎の収入が変わる。 20% 23% 7% 15% 20% 11% 30% 40% 法人住民税 50% 法人事業税 24% 25% 7% 60% 70% 地方消費税 80% 90% 固定資産税 100% その他 142 明治学院大学 2014年度 秋学期 8-4.地方法人課税(2014年10月以降) (暫定的な法人事業税率引き下げ) a) 外形標準課税:所得割(標準税率)2.9% 外形標準によらない場合 b) 所得金額課税法人(標準税率):2.7~5.3% c) 収入金額課税法人(標準税率):0.7% 明治学院大学 2014年度 秋学期 24% 個人住民税 8-3.地方法人課税(2014年9月まで) 法人住民税:(標準税率)17.3% 23% 24% 7% 11% (注)法人事業税は地方法人特別譲与税分を含む。個人住民税は所得割と均等割の合計。法人住民税は法人割と法人均等割の合計。 (資料)総務省「地方財政統計年報」等に基づいて作成 明治学院大学 2014年度 秋学期 2006 年度 0% (注)中小法人等に対する軽減税率は2012.4.1~2015.3.31の時限措置 なお、 平成24年度以降の3年間は、上記とは別に復興特別法人税(基準法人税額の10%)が課される 8% 26% 1961.4 〃 年300万円以下(資本金 32% 地方法人特別譲与税分(内数) 1955.7 〃 1億円以下の法人のみ) 2012 年度 法人住民税:(標準税率)12.9% 道府県民税の法人税割(標準税率) :3.2% 均等割:2万~80万円 市町村民税の法人税割(標準税率) :9.7% 均等割:5万~300万円 法人事業税 外形標準課税 ①所得割:7.2% ②付加価値割:0.48% ③資本割:0.2% 外形標準課税によらない場合 所得金額課税法人:5~9.6% 収入金額課税法人:1.3% (地方法人特別税) a) の所得割額の148% (2.9%×148%) b) の所得割額、c) の 収入割額の81% 143 (制限税率16.3% について) ・道府県民税: 4.2% ・市町村民税 :12.1% (均等割:6万~360万円) (暫定的な法人事業税率引き下げ) a) 外形標準課税:所得割(標準税率)4.3% 外形標準によらない場合 b) 所得金額課税法人(標準税率):3.4~6.7% c) 収入金額課税法人(標準税率):0.9% 地方法人税(国税):4.4% 2014年10月以降適用。法人住民税の引き下げ分に相当する4.4%を国税と して創設し、地方交付税の原資とする。従前の地方法人特別税・地方法人 特別譲与税に代わるもので、法人事業税率を含めて関連する税率が変更 されたが、最終的な法人実効税率は変わらない。 明治学院大学 2014年度 秋学期 (地方法人特別税) a) の所得割額の 67.4%(4.3%×67.4%) b) の所得割額、c) の 収入割額の43.2% 144 [資料No.19 法人所得に係る実効税率の国際比較] [資料No.18 各種税目の課税標準と税率] (a) 法人税 (b) 法人住民税 (b1) 道府県民税法人割 (b2) 市町村民税法人割 (c) 法人事業税* (c1) 付加価値割 (c2) 資本割 (c3) 所得割 (d) 地方法人特別税* 国税/地方税 課税標準 の別 国税 法人所得 実効税率 : 事業税・地方法人特別税が損金算入されることを考慮した総合的な負担[法人税 (25.5%)、地方法人税・法人住民税(法人税の4.4%と12.9%) 、法人事業税所得割(4.3%) 、地方法人 特別税(所得割の67.4%=4.3%×67.4%)]の所得に対する割合 地方税が標準税率の場合:(25.5%+25.5%×(4.4%+12.9%)+4.3%×167.4%)÷(100%+4.3%×167.4%)=34.61% 東京都の場合 :(25.5%×(1+4.4%+16.3%)+4.66%+4.3%×67.4%)÷(100%+4.66%+4.3%×67.4%)=35.64% 税率 法人実効税率 標準税率 制限税率 東京都 の計算対象か 25.5% ○ 法人所得課税の実効税率の国際比較(2013年4月) 地方税 地方税 法人税額 法人税額 地方税 地方税 地方税 国税 付加価値額 資本金等の額 法人所得 基準法人所得割額 3.2% 9.7% 4.2% 12.1% 4.2% 12.1% ○ ○ 0.48% 0.20% 4.3% 0.576% 0.24% 4.66% 67.4% 0.504% 0.21% 4.66% × × ○ ○ (資料)財務省 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htm (*)法人事業税に関して外形標準課税法人 へ適用される内容。所得割は年800万円超の部分に係る税率 明治学院大学 2014年度 秋学期 145 明治学院大学 2014年度 秋学期 8-4.法人税の経済効果 8-5 .法人課税を巡る2000年代のトピックス 生産・投資への影響 : 企業は課税後の利潤を最大化するように行動する ⇒ 生産 活動において資本を使うことの正常な費用が課税ベースから完全に除外されていれば、 投資の必要収益率は法人税課税の影響を受けない ⇒ 控除が完全ではないので、投資 や生産は法人税課税の影響を受ける 資金調達方法と資本コスト : 借入や社債に対する利子払いは課税ベースから控除 されるため、課税分だけ資本コスト(必要収益率)が小さくなり、利潤最大化の条件は課税 がないときと同じになる=課税の影響を受けない。他方、内部留保による資本コストは課 税ベースから控除されないため、課税の影響を受ける 連結納税制度: 2002年度創設。 親会社と100%子会社群の連結所得を課税単位に 企業組織再編税制: 2001年度抜本的改正。組織再編に伴う移転資産や株式譲渡損益に対する課税繰り延べ措置等 研究開発税制: 試験研究費総額の8~10%(中小法人は12%)、上限法人税額の20% (2009、2010年度は上限 30%)の税額控除に加え、試験研究費増加額の5%か、売上高の10%を超える額の試験研究費 の20%のいずれかの税額控除を適用(法人税の10%上限) (法人税税がない場合の利潤とその最大化のための条件) ◇ Π = pQ - wL- rK ⇒ pΔQ/ΔK=r 資本の限界利潤(資本を1単位増やすことによる利潤増)が資本コストに等しい 法人事業税における外形標準課税: 2004年度から適用。対象は資本金1億円超の法人。①所得割7.2%、②付加価値割0.48%、③資 本割0.2%(従前の所得割9.6%のうち3/4 は①に、1/4を外形基準に基づく②③に反映) (*) 課税後利潤の水準は課税に影響される。 しかし、課税後利潤が最大になるように最適水準の投資を行う 際、資金調達コストとの兼ね合いで課税後の利潤率に求められる条件に関しては、課税に影響されない。 欠損法人: 全法人の7割が恒常的に赤字法人(欠損法人)という不自然さ (法人税があり、資本コストが全額損金算入される場合の利潤とその最大化のための条件) ◇ Π =(1-t)(pQ - wL- rK) ⇒ (1-t)pΔQ/ΔK =(1-t)r 課税後資本の限界利潤が課税を反映した資本コスト(必要収益率≒実効金利+資本減耗率)に等しい (1-t)が両辺にあるため、法人税は左辺と右辺の均衡関係には影響しない Π:利潤、t:法人税率、p:生産物価格、Q:生産量、w:1人当たり賃金、L:労働者数 r:資本コスト、K:資本ストック 明治学院大学 2014年度 秋学期 146 減価償却: 2007年度改正によって、償却可能限度額と法定耐用年数経過後の残存価額が廃止され、取得 価額の全額が償却可能に 復興特別法人税: 2012~2013年度の時限的課税。法人税額の10%を付加 147 明治学院大学 2014年度 秋学期 148
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