JWSM, Article No. JWSM2014.PT007

JWSM
The Japanese Webzine of Sportsmedicine
Article No. JWSM2014.PT007
オランダでのフィジオセラピストの仕事 6
外傷性頚部痛症候群(むち打ち症)
平出康彦
Physiotherapists in Holland ─ 6
WAD(Whiplash Associated Disorders)
HIRADE Yasuhiko
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
Medical staff, FC Utrecht Academy
Coaching&Medical staff, J-Dream FC
JWSM2014.PT007
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
サッカークラブ「FC Utrecht Academy」メディカルスタッフ
サッカークラブ「J-Dream FC」コーチング & メディカルスタッフ
要約
今回紹介するのは、外傷性頚部痛症候群(むち打ち症)です。スポーツ選手だけでなく、自動車事
故や外傷などによって、一般の人たちにも起こりうる障害。
その、むち打ち症における診断方法やクリニカルリーズニングの実際を紹介します。
また、評価に欠かせない、頚部の靱帯の機能評価である、神経学的鑑別テストと上位頚椎機械的不
このアーティクルの著作権は著者と編集工房ソシエタスに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。
法で認められた引用については、出典を下記のように記して下さい。
平出康彦:JWSM, Article No. JWSM2014.PT007
その他、このアーティクルに関する著作権についての問い合わせ先は下記にお願いします。
©2014 HIRADE Yasuhiko and Editorial Office Societas. All rights reserved.
Contact to the Author(s)and us [email protected]
JWSM2014.PT007
安定性テストの方法も動画でわかりやすく解説。
オランダでの
フィジオセラピストの仕事⑥
癒するとされていますが、慢性化
形をとります。
してそれ以上の日数を要すること
外傷性頚部痛症候群
(むち打ち症)
もあります。
診断プロセス
授業プロセス
平出康彦
①スクリーニング
ダイレクトアクセスで患者が
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
サッカークラブ「FC Utrecht Academy」メディカルスタッフ
サッカークラブ「J-Dream FC」コーチング & メディカルスタッフ
フィジオセラピストのもとを訪れ
ち打ち)」は、私の学校の授業で
た際は、まずスクリーニングで理
は 8 週間単位のテーマである「筋
学療法の適応かどうかを鑑別しま
骨格系」のうち 2 週間分を用い
す。頚部のレッドフラッグはもち
おける外傷の後遺症としての頚部
て扱われます。正確には 1 週目
ろん、神経学的所見や、機械的な
周辺の愁訴は外傷性頚部痛症候
は頚部について一般的な内容を扱
頚部の不安定性がみられた場合
今回の記事では、オランダ理学
群、通称「むち打ち」と呼ばれま
い、2 週目で外傷性頚部痛につい
は、ドクターに送ることになりま
療法教育における「外傷性頚部痛
す。英語名では「WAD(Whiplash
てより深くフォーカスして扱いま
す。
症候群(むち打ち)」について、現
Associated Disorders)
」と表記さ
す。
ドクターの紹介でフィジオセラ
在 私 が 通 っ て い る Thim van der
れます。
ここで重要になってくる技能
ピストのもとを訪れた場合も、問
Laan 理学療法士養成校での授業
突然の強い衝撃によって、頭部
は、スクリーニング・診断プロセ
診の過程のなかでレッドフラッグ
の進め方やクリニカルリーズニン
が前後の動きを強く強制されるこ
ス(図 1、次頁)内の「神経学的
や神経学的所見・頚部不安定性を
グの大まかな流れをご紹介します。
とが受傷機序とされ、救急外来を
鑑別テスト」と「機械的不安定性
疑わせる兆候・症状がないかどう
受診する患者は世界的にみて年間
テスト」です。これらを用いるこ
かに気を配り、必要があれば評価
300 人/ 10 万人と推測されてい
とで、ドクターから患者が送られ
していきます(図 1)
。
ます。
た後であっても、重篤な病態の疑
また、患者の WAD の程度をカ
症状は受傷直後に表れないこと
いがあるとしてドクター・もしく
テゴリ分けするための指標とし
も多く、大半は 6 カ月以内に治
は他のスペシャリストに紹介する
て、ケベック州特別調査委員会が
はじめに
むち打ちの概要
自動車事故やスポーツ、労働に
─1─
JWSM2014.PT007
今回の「外傷性頚部痛症候群
(む
頚部痛
ドクターからの紹介/ダイレクトアクセス
Red Flags
神経学的所見・鑑別テスト
骨折の可能性
所見
・ごく最近の外傷
・放散痛
・長期のステロイド使用(骨粗しょう症の疑い)
・Laterale verschuifbaarheidテスト
(Transverse ligament stress test)
・筋力消失・感覚消失
神経根に関する問題の可能性
鑑別テスト
・神経学的な消失(筋力など)
・Spurlingテスト
・神経学的な足部の異常
・便通・尿の異常
機械的不安定性テスト
・Sharp purser テスト
・上位頚椎(環軸関節)屈曲テスト
腫瘍の可能性
JWSM2014.PT007
・ULTTテスト
・Compressionテスト
・Distractionテスト
・(頚部回旋テスト)
・ガンの既往
・夜間の痛み
・原因不明の体重減少(5kg以上/月)
・声枯れ・嚥下障害
・姿勢に依存しない疼痛
炎症反応の可能性
3 つのうち 1 つ陽性
・発熱
・体調不良
5 つのうち 3 つ陽性
その他特異的な疾患
・構造的な変形
ドクターへ送る
1 つでも当てはまる
フィジオセラピストによる、さらなる問診・評価・介入に進む
図 1 スクリーニング・診断プロセス
─2─