JWSM, Article No. JWSM2015.PT008

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The Japanese Webzine of Sportsmedicine
Article No. JWSM2015.PT008
オランダでのフィジオセラピストの仕事 7
足関節傷害に対する診断・治療プロセス
および関節モビライゼーション
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
サッカークラブ「FC Utrecht Academy」メディカルスタッフ
サッカークラブ「J-Dream FC」コーチング & メディカルスタッフ
Physiotherapists in Holland ─ 7
The diagnosis and treatment with joint mobilization
for the injury in the ankle joint
HIRADE Yasuhiko
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
Medical staff, FC Utrecht Academy
Coaching&Medical staff, J-Dream FC
JWSM2015.PT008
平出康彦
要約
今回は「足関節」に焦点を当て、とくにスポーツ選手のケガに多い、足関節内反捻挫と内反捻挫後
に発生しやすい機能的不安定性を中心に、オランダ理学療法士協会のガイドラインに沿った診断・治
療プロセスの基本と関節モビライゼーションについて、FC ユトレヒトアカデミーで用いられている
ガイドラインとともに紹介する。
る可動域制限が見られる場合に行われるモビライゼーション」を動画で解説。
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JWSM2015.PT008
また、
「Traction(牽引)/Translation(滑り)による可動域制限の評価」および「関節包の拘縮によ
オランダでの
フィジオセラピストの仕事⑦
足関節傷害に対する
診断・治療プロセス
および関節モビライゼーション
ラインでは、急性の足関節傷害
(足
題が発生したりします。
関節内反捻挫)と機能的不安定性
機能的不安定性に影響を与える
について扱っています。足関節内
要因としては、足関節の器質的不
反捻挫において理学療法が介入を
安定性や固有感覚受容器、筋力の
開始するのが受傷から 0 ~ 6 週、
低下などがあります。
そこから足関節の機能回復にかか
る平均的な期間は 6 ~ 8 週、高
いレベルのスポーツに参加するま
診断プロセス
では最大で 12 週かかるとされて
Thim van der Laan Hogeschool voor Fysiotherapie
サッカークラブ「FC Utrecht Academy」メディカルスタッフ
サッカークラブ「J-Dream FC」コーチング & メディカルスタッフ
います。多くの患者が 12 週以内
患者がダイレクトアクセスやド
に受傷前と同様のレベルに戻ると
クターからの紹介で理学療法士の
されており、最初の 1 ~ 2 週で
もとを訪れた場合、患部が急性期
歩行ができるようにならなければ
か慢性期かで対応が分かれます
初めに
足関節傷害の概容
何らかの回復を遅らせる要因が隠
(図 1、次頁)
。
今回の記事では、オランダ理学
足関節に起こりうる傷害のなか
れている(例:変形性関節症や心
療法教育における「足関節」につ
でも、足関節内反捻挫は最も頻発
理的要因など)とされています。
①スクリーニング
いて、足関節内反捻挫と内反捻挫
する傷害の一つとされています。
機能的な不安定性は、内反捻挫
急性の足関節傷害炎症期の場
後に発生しやすい機能的不安定性
オランダでは一日当たり、一万
後の後遺症として残ることが多
合、まずはスクリーニングを行い
を中心に、オランダ理学療法士協
人に一人、2005 年には年間約 60
く、それによって内反捻挫の再発
ます。
会のガイドラインに沿った診断・
万件が発生しています。さらに、
につながります。また不安定性を
スクリーニングでは大きく分け
治療プロセスの基本と関節モビラ
足関節捻挫は再発率も高く、後遺
伴っている場合、長時間の荷重で
て、患者の来院、患者の要望のま
イゼーション、さらに私が活動し
症である足関節の慢性的な機能的
疼痛や腫脹、関節の可動域制限を
とめ、理学療法の適応かどうかの
ている FC ユトレヒトアカデミー
不安定性は、再発を予防するうえ
引き起こしたりします。
その結果、
判断、患者への今後の対応につい
で用いられているガイドラインも
で重要な傷害だとされています。
跛行や日常生活における行動の回
てのアドバイス、といった4つの
ご紹介します。
オランダ理学療法協会のガイド
避や、仕事やスポーツにおける問
項目があります。
─1─
JWSM2015.PT008
平出康彦
足関節痛
紹介・ダイレクトアクセス
急性(内反捻挫受傷後炎症期)
慢性(足関節外傷の既往あり)
スクリーニング(オタワ足関節ルール /Red Flags / 問診)
骨折 / その他重篤な疾患
様々な所見から判断(図 7 参照)
靭帯損傷
機能的不安定性
距骨化関節不安定性
骨軟骨傷害骨棘形成
足根洞症候群
組織損傷あり
組織損傷なし
軟部組織の
インピンジメントなし
離断性骨軟骨症
ドクターへ紹介
急性の損傷として治療
機能的不安定性を治療
ドクターへ紹介
図 1 診断プロセス
基本的には理学療法士が問診を
るのは「理学療法の適応であるか
ように、2 択の質問を用いて時間
折やその他の重篤な疾患が疑われ
通して判断していくのですが、質
どうか」すなわち「重篤な病気が
をかけずに聞いていきます。
る場合にはドクターのもとへ送り
問の形式はほぼ「はい」か「いい
隠れていないか」を明らかにする
問診で愁訴や受傷機序を確認
ます。
え」
で答えられるものを選びます。
ことだからです。いち早くそれに
し、オタワ足関節ルールや Red
ドクターへ送らない場合には、
スクリーニングで最も重要とされ
気づき、適切な治療を受けられる
Flags(図 2、次頁)を適応し、骨
必要であれば圧迫処置や松葉杖
─2─
JWSM2015.PT008
軟部組織の
インピンジメントあり